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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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524 逆襲のダエコ

 ゴーレムバトルの決勝トーナメントが始まった。昨年の優勝者であり、南部派最後の希望であるロミーオさんは気合入りまくりだ。今年は鉄イノシシの背中にクワガタムシの角みたいなクローが追加されている。どうやら、横に移動していなそうとする相手を捕まえておくためのものらしい。後ろ脚にもシリンダー内でエアバーストを炸裂させピストンを押し出す突進アシスト機構が装備されて、相手を正面に捕らえて力任せに押し切るという戦法をより鮮明に打ち出してきた印象を受ける。


 マジスカ君は首席の情報どおり脚が8本あるバシリスク型だけど、本物のバシリスクに比べて妙に頭がでっかい。正面からの砲撃に対して胴体部分が残らず隠れるようにという理由はわかるものの、デカくてごっつい頭部のせいで僕には8本脚のワニに見える。そしてダエコさんは――


「あれって……もしかしてコケトリス?」

「ええ、他の生徒とはひと味違った試合を見せてくださいますわよ」


 ――なんと、時代に逆行しているとしか思えない2足歩行のコケトリス型ゴーレムだった。間違いなく運動性を重視した軽量級だろう。大砲ゴーレムや重装甲ゴーレムを相手に、いったいどうやって勝ち抜いてきたのかとっても気になる。首席はまるで自分のことのように自慢気な顔で鼻を鳴らすばかりで、なにも教えてくれない。


「それじゃ、せいぜい楽しませてもらうとするよ。ダエコさんは1回戦の第4試合か……」


 決勝トーナメント1回戦は第1試合にマジスカ君、第3試合にロミーオさんで、ダエコさんは一番最後だ。互いに勝ち上がれば準決勝で昨年優勝を争ったふたりによる因縁の対決が実現する。


 まずはマジスカ君のお手並み拝見といこう。相手は頭部の代わりに盾のような装甲を装備した四つ脚のゴーレムだ。盾の表面にどことなくユーモラスな羊の顔が描かれているので、ヒツジ型ゴーレムなのかもしれない。どちらも重装甲で砲撃を防ぎながら前に出て相手をリングの外へ押しだすというスタイルだから、試合展開はもちろん力比べになる。ガッチリと頭を突き合わせた2体のゴーレムが互いに負けるものかと踏ん張り始めた。


「なるほど、自信があるわけだ……」


 軍配は8本脚でどっしりと腰を据えているマジスカ君に上がった。押しても押してもビクともしない置物みたいな相手に勢いをつけて突進するつもりかヒツジが後退したものの、その隙を逃さず距離を詰めリング際に追い詰めていくバシリスク。堪らずヒツジが横に回り込もうとしたものの、重装甲でクッソ重くなっているゴーレムに機敏な動きができるはずもない。身体の側面を晒したところで胴体に体当たりをくらい転がされてしまった。どうにか起き上がろうとするものの、その度にどつき倒されて体勢を立て直すことも許されず、最後はリングの外へ落っことされる。


「よく8本脚のゴーレムなんて使いこなせるもんだね。クセーラさんみたいに脳みそが蟲ってわけでもないんでしょ」

「蟲とか言うんじゃないよっ」


 マジスカ君のゴーレムは大きく頭部、前の胴体、後ろの胴体、尻尾の4つに分かれていて、前後の胴体部に脚が4本ずつ取り付けられている。ムカデやサソリほどではないものの、人体とはまったく操作感覚が異なるはずだ。よく頭がこんがらがってしまわないものだと感心したところ、乙女に向かって蟲とはなんだとクセーラさんが目を剥いて威嚇してきた。彼女が人とは異なる構造を持ったゴーレムを自在に操れるのは脳みそがそれに適応して発達してしまったからであり、訓練の賜物だなんて絶対に認めない。いかなる努力も苦労も凌駕する才能の持ち主なんて蟲で充分だと思う。


「マジスカ君の決勝進出はほぼ確定かな……」


 続く1回戦第2試合はウシ型ゴーレム同士の対決となった。この試合の勝者が準決勝でマジスカ君と争うことになる。ガッチガチに重装甲で固めた野牛タイプと、背中に大砲を乗っけて装甲と火力のバランスを重視した畜牛タイプだったけど、勝利を収めたのはパワーでゴリ押すことに特化した野牛タイプだ。第1試合のヒツジ型と同じ運命をたどることが予想される。


 第3試合はディフェンディングチャンピオンであるロミーオさんの出番とあって、後がない南部派の生徒たちが懸命に応援している。応援団長はオムツに羽飾りを背負ったソンターク元参謀長のようだ。オムツダンサー仲間である第3護衛部隊の元指揮官殿の姿が見えないのは、ダブルダウンの試合で【ヴァイオレンス公爵】にプロセルピーネ治療室送りにされてしまったからだろう。ムジヒダネは一度受けた仇を決して忘れない。


 対戦相手は西部派の生徒らしく、カリューア姉妹が揃ってマケロ、マケチマエとロミーオさんに向かって念を送っている。ゴーレムは鎧竜をモデルにしたと思われるドレイク型だ。試合開始と同時に両者とも真っ直ぐ突っ込んで正面からぶつかり合った。脆弱な側面を相手に向けるのは下策なので、こうなるのは当然の流れだ。互いに1歩も引かず、リングの中央でガッチリと組み合う。


「互角だと思ったら大間違いよっ。アクセルチャアァァァ――――ジッ!」


 膠着状態に陥ったと思われたのも束の間、すっかりエキサイトしているロミーオさんが、いちいち必殺技の名を叫ばなければ気の済まないバトル漫画の主人公の如き雄叫びを上げた。どうやら、後ろ脚に装備された突進アシスト機構を使ったようだ。下から突き上げるような牙の一撃をくらって、堪らずドレイク型が上半身を仰け反らせる。


「むぉらったぁぁぁっ。ジャイアントクランプッ!」


 ロミーオさんのノリノリな叫びと共に鉄イノシシの背中に折りたたまれていたクローが横に大きく開き、左右からガッチリとドレイク型を挟み込む。前脚が浮いた状態で捕らえられたドレイク型が懸命にもがくも、つま先で床をひっかくのが精一杯だ。後ろ脚でしか踏ん張れないのでは、もう鉄イノシシのパワーに対抗し得ない模様。そのままゴリゴリと押し切られリングの外へ落っことされた。大相撲なら決まり手は寄り切りだろうか。まさに横綱相撲といった試合内容には、もう素直に感心するしかない。


「ああやって使うものだったんだ。よく考えたもんだねぇ」

「あんなゴーレムッ、私のゴーレムなら軽く撥ね飛ばしてやれるのにっ」


 もちろん相手の横移動を封じるためにも使えるのだろうけど、不利な体勢のまま固定させるような使い方をしてくるとは予想していなかった。こりゃビックリと驚いている横では、応援していた西部派の生徒を負かされたクセーラさんがサソリゴーレムならあの程度のゴーレムは敵じゃないのにとプンプンしている。軽トラでラジコンカーを踏み潰すのはもう競技とは言えないから自重していただけないだろうか。


「さて、ダエコさんはどうかな? クセーラさんも知らないんだっけ?」

「公爵が暴れた責任を取れって、男爵の診療所を手伝わせたのは伯爵でしょっ」


 だんまりを決め込む首席が教えてくれるわけないのでクセーラさんに尋ねてみたものの、誰のせいだと思っていると逆に怒られてしまう。ムジヒダネさんが次々と患者を量産するせいで手が足りないのだとドクロ診療所を手伝わせたから、僕が知らないことを知っているはずないのだ。すっかり忘れていた。


「お相手はクマ型でございますわね。どちらを応援すればよろしいことやら……」

「クマの頭はあんなにデカくない。トロールだと思えばいいよ」

「余計、迷ってしまうではございませんかっ」


 ダエコさんの対戦相手はクマ型ゴーレムのようだ。実家の領紋にもなっているモミジグマが大好きな首席は、どっちにも負けてもらいたくないのだと身を悶えさせている。クマの頭部はわりとスリムなのだけど、正面装甲を兼ねているためかゴーレムの頭はパンダ並みにデカい。クマ型じゃなくてトロール型だと伝えたところ、ゴーレムがトロールの赤ちゃんに見えてきたと首席は両手を震わせ始めた。前の冬に僕の実家でかわいがっていた赤ちゃんトロールを思い出してしまったご様子。元気に育っているだろうかと悩まし気なため息を吐き出す。


「ダエコさんの方は……あの足取りとステップのリズムは機嫌がいい時の黒スケだね。やる気マンマンってとこかな……」

「よく見分けがつくものね……モロリーヌの観察眼も……相当なものだわ……」


 サイズのせいで実物大のニワトリにしか見えないゴーレムが足取りも軽やかにリングへ上がってきた。ダエコさんのコケトリス型だ。首と胴体に尾羽は黒く塗装されているのだけど、角のように尖ったトサカと翼の部分は無塗装で鈍い銀色をしている。あの歩き方は上機嫌な時の黒スケだと口にしたところ、それが判別できる奴はどこかおかしいと次席に呆れられてしまった。慣れの問題だと思う。


「トロールの赤ちゃんがバラバラにされるところなんて見ていられませんわ。終わったら教えてくださいまし……」

「なにそれ……こわっ」


 いったいどういう戦い方をするのか、猟奇殺トロールの現場なんて見たくないと首席が目を覆う。それはつまり、ダエコさんの勝利を確信していることの裏返しだ。軽いコケトリス型で重装甲ゴーレムをリングアウトさせるのは至難の業だから、勝つためには相手を行動不能にするしかないという理屈はわかる。だけど、その方法はさっぱりわからない。


 互いのゴーレムが指定された位置で向き合ったことを確認し、審判のデリケッツ先生が試合開始の合図を出す。相手を捕えようと真っ直ぐ突っ込んでくるクマ型。一方、ダエコさんのコケトリス型は軽量級らしい俊敏な動きで横に走った。


「思ったより素早いね」

「全然遅いよっ。あんなのっ」

「歩幅がまったく違うのだから……農事用ゴーレムと……比べるものではないわ……」


 距離を取ったままクマ型の横へ回り込んでいくコケトリス型ゴーレム。けっこう速いのではないかと感想を口にしたものの、サソリゴーレムの方が速いとクセーラさんは言い張った。スケールを無視して単純に速度だけで比べるなとお姉さんにたしなめられる。


 クマ型は装甲の厚い頭部に重量が集中しているためか、素早い方向転換が苦手なようだ。頭突きをかまそうというのか、頭を低く下げた姿勢でコケトリス型がわき腹へと突っ込んでいく。


 ――ギャギィィィ……


 次の瞬間、なんか金属を無理やりこすり合わせたような音が鳴り響いた。ぶつかり合った時の音とは明らかに違う。一撃離脱戦法のようで、コケトリス型がすぐに距離を取る。さっきまでと違って尖ったトサカの部分が妙に長い。と思ったら、すぐに引っ込んで元の長さに戻った。


「あのゴーレム、まさか首から上が丸ごと杭打ち機構なの?」

「そのとおりでございます。関節部分にガンガン打ち込んで、相手をバラバラにするのでございます」


 コケトリス型ゴーレムの正体は、シリンダー内で炸裂させたエアバーストの圧力で杭を打ち出す、田西宿実の世界でパイルバンカーなどと呼ばれていたおバカ……もとい、ロマン兵器に脚を生やしたものだった。軽さを生かして相手の側面へ回り込み、装甲の取り付けられない関節部分を狙って破壊していくのだそうな。おそろしやとプルプル震える首席。なるほど、手足を引きちぎられる赤ちゃんトロールなんて、そんなの僕だって見たくない。


 最初の一撃で左後ろ脚の関節に歪みが発生してしまったらしく、クマ型ゴーレムの動きは目に見えて鈍っている。動くたびにキィィィ……という金属をこすり合わせる音が、まるでゴーレムの悲鳴のように響いていた。もちろん、それで手を緩めるダエコさんではない。ここぞとばかりにガッツン、ガッツンと杭をぶち込んでいく。容赦なく関節をぶっ壊していく様は、さながら【ヴァイオレンス公爵】のようだ。とうとう、クマ型は左右の後ろ脚が動かない状態にされてしまった。コケトリス型が悠々と試合開始位置へ戻っていく。


「先生、仕切り直しを申し立てます」

「申し立てを認める。両者、開始位置へ戻るようにっ」


 審判のデリケッツ先生に向かって仕切り直させてくれとダエコさんが要求した。これはリングアウトに並ぶ勝敗のつき方のひとつで、選手から申し立てがあり試合が膠着状態に陥っていると審判が認めた場合、いったん試合を中断してゴーレムを開始位置へ戻すよう指示される。指示されてから規定時間内に指定された位置へつけなければ、試合続行不能と看做されるルールだ。今回のように相手はもう手も足も出ないけど、リングの外へ押し出すには骨が折れるといった状況で使われることが多い。


「試合続行不能と看做し、ダエコ・パクリスギの勝利とするっ」

「ダイアナエリザベスコーネリアですっ。先生までっ」


 もはやこれまでと相手の生徒は諦めた模様。ゴーレムを戻そうとせず規定時間が経過するのを黙って待ち、デリケッツ先生がダエコさんの勝利を宣言する。これで準決勝第2試合はロミーオさんとダエコさんが再び相まみえることとなった。コケトリス型は素早いけど、鉄イノシシには左右に広がって相手を捕まえるジャイアントクランプがある。さすがに今回は結果が予想できない。


「クセーラさんはどっちが勝つと予想する?」

「ダエコだよっ」

「ずいぶん自信があるね。なにか根拠があるの?」

「勘だよっ。ロミーオは手の内を明かしたけど、ダエコはまだなにか隠してる気がするっ」


 クセーラ解説員に話を振ってみたところ、自信マンマンでダエコさんだと言い切った。理由は乙女の勘で、あのコケトリス型はまだ奥の手を見せていないとふんぞり返る。まったく、本能で生きていられる人間が羨ましい。


 次に行われたのは準決勝第1試合。マジスカ君のバシリスク型とウシ型野牛タイプの対戦だったけど、これは僕が予想していたとおりの結果となった。抜群の安定性を誇るバシリスク型を押し出そうとしても、その力がそのまま自分に跳ね返ってくるだけだ。パワー自慢の野牛タイプはなすすべもなくヒツジ型と同じ末路をたどり、まずはマジスカ君が決勝進出を決める。


「さぁ、パクリスギさんっ。決勝戦は同派閥対決とまいりますわよっ」


 ダエコさんが勝ち上がれば北部派による優勝、準優勝の独占が確定するとあって、首席の応援に熱が入ってきた。僕の目の前でミニスカートの裾をヒラヒラさせながら、南部派をやっつけろと発破をかける。僕に寄りかかってお昼寝している3歳児がいなければ、太ももにしがみついているところだ。


「悪いけど、私のイノリーヌちゃんはどん臭いクマのようにはいかないわよ」


 準決勝第2試合となりロミーオさんが鉄イノシシを開始位置につける。側面に回り込まれることを警戒しているのか、すでに背中のジャイアントクランプを横に大きく展開していた。あれに捕まったが最後、コケトリス型が抜け出すことは不可能だろう。どうにか回避してパイルバンカーをぶち込むしかない。


「勝ち目がないと思ったら試合になんて出ませんよ」


 昨年の覇者が相手でもダエコさんは一歩も引かない構えだ。クセーラ解説員の予言どおり奥の手を隠しているのか、勝算ありと見込んだからこそ試合に臨んでいるのだと涼しい顔でグルグル瓶底メガネをかけ直す。自分の勝利を確信しているのか、魔力からも不安は伝わってこない。コケトリス型が開始位置についたことを確認し、審判のデリケッツ先生が試合開始の合図を出した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 八本足ってことは弱点が多いってことだ まあ一本二本なくて影響は少ないともいえるけど
[一言] ロミーオ将軍のゴーレムは前回のアップデート機、ダエコさんのは新型 ダエコさんがどこまでロミーオ機の進化を読んでいたかですね、これは……
[一言] ダエコさんが残虐超人みたいな発想でゴーレムを作るなんて…いいね!
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