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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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523 余興は終わって

 今年のゴーレム三輪車レースはクニーケさんの優勝で幕を閉じた。種明かしをされてムスッとしていたゲイマル君たちに、どうして誰ひとり直噴型に手を出さなかったのかと問い質したところ、小型化したバーナーや可動式の排気ノズルといった特徴的な部分の加工難易度が高く、とても再現できないからだそうな。そもそも出力を段階的に切り替えられるようにしたのはクセーラさんの趣味でしかない。バーナーひとつでオンオフしかない魔導推進器でも事足りたのではないかと告げたところ、簡略化する発想がなかったのか揃いも揃って愕然とした表情を浮かべていた。彼らには工夫が足りないと思う。


 教養課程の競技が終わると、引き続き専門課程の生徒による競技が行われる。昨年のダブルダウンチャンピオンであるヘルネストだけど、今年は予選で【ヴァイオレンス公爵】とあたるハメになり早々にドクロ診療所へ運び込まれてきた。優勝したのは今年卒業予定の雪だるま先輩だ。決勝戦では雪煙で視界を奪った後、根性カウンターを狙うムジヒダネさんの足元に木球をばら撒き、これを踏んづけさせてワンダウンを先取。その後は時間切れまで牽制を続け判定勝ちをもぎ取った。実にあの先輩らしい勝ち方といえる。


「審判が悪いのよ。審判が……」


 ムジヒダネさんはもちろん不満タラタラで、審判の魔性レディが相手の時間稼ぎを許したからだと唇を尖らせていた。もっとも、牽制とはいえ攻撃を仕掛けていたのは雪だるま先輩の方だから、消極的姿勢での反則を取られるとすればカウンター狙いでまったく動かなかったムジヒダネさんの方だろう。先輩の思惑はともかく、審判としては選手の行動から判断するしかないのだから、これは仕方がない。雪だるま先輩の作戦勝ちだ。


「決着をつける時がきたのですっ」


 ダブルダウンの決勝が行われた後は、お昼の使い魔レスリングを挟んでゴーレムバトルの決勝トーナメントが予定されている。タルトはもちろん、発芽の精霊もベコーンたんもやる気マンマンだ。参加が認められない蜜の精霊とワルキューは毎度のことながら項垂れている。


「さぁ、皆さん。精一杯、応援いたしますわよっ」

「あわわ……なんでこんな格好を……」


 そして、こんな季節だというのにチアリーディングの格好をしている3人組がいた。首席、アンドレーア、イモクセイさんによるクマドンナ応援隊の皆さんだ。かわいい、かわいい小熊ちゃんが参加すると知って、首席が半ば無理やり組織したのである。バカでかい横断幕まで用意する力の入れようには呆れるしかない。ノースリーブにミニスカートといういでたちにエロいボーイたちの視線は釘付けだ。


「先輩たちを見てると頭が痛くなってくる。使い魔レスリングで盛り上がるなんて……」


 参加選手と応援隊が集まっているところにきたマジスカ君が、この学年は正気じゃないと顔をしかめている。評価点もほとんどつかない余興に成績上位10名のうち4名がエントリーして、学年首席がガチで応援しているという状況が理解できないそうだ。競技会とそれに続く品評会や研究発表は今年の成績を決める最後の大舞台。それをお祭り気分で楽しんでる連中なんて僕たちだけだという。わざわざそんなことを言いに来たのかとは言わない。彼の目的ははっきりしている。


「まぁまぁ、ゆっくり太ももを楽しんでいきなよ。締まったのと細いのとちょっと緩いの、マジスカ君はどれがお好みかな?」

「あんたは真面目になることがないのかっ?」


 ヘイボーイ、太ももを鑑賞しにきたんだなと特等席を譲ってあげようとしたものの、ムッツリなマジスカ君は素直に認めず顔を真っ赤にして否定した。思春期を迎えた男子が女の子の身体に興味を惹かれるのは生き物として当然のこと。それは子孫を残すためにある種族の生存本能なのだから、隠しても仕方がないと思う。


「どうして先輩の学年は上位陣がこぞって使い魔レスリングにエントリーしたがるんだ?」

「そんなの、精霊や使い魔が喜ぶからに決まってるじゃないか」


 ゴーレムバトルでクセーラさんに借りを返してやりたかったのにと表情に悔しさを滲ませるマジスカ君。残念ながら、彼女はもう使い魔レスリング部の一員だ。卒業まで退部は許可されない。


「そのことに評価点を度外視するだけの価値があると?」

「考え方が逆だよ。そこに価値を見出せる相手だから精霊が契約に応じてくれたのさ」


 精霊が楽しんでるからという理由では納得いかないのか、契約者に何ひとつメリットがないではないかとマジスカ君が食い下がってきたので、メリットの有無なんて打算を放り捨てて一緒に楽しんでくれる相手だからベコーンたんが契約してくれたのだと伝えておく。精霊と契約していたり、こっそり契約を迫られたりしている生徒はみんなそうだ。どこか理屈よりも感情や理想を優先する一面を持っている。それがロゥリング族を太らせることや、思い立ったが吉日と無計画チャレンジに向かうのは問題だけど……


「それに、クセーラさんはエントリーできない方がいいんだ。結果はやる前からわかってる」

「どうしてそんなことが言える?」

「君も遠征実習でオムツ01を運用してるサソリを目にしただろ。あれ、競技規定にある参加要件をクリアしてるから。他の生徒が束になっても蹂躙されるだけだから」

「…………マジすか?」


 エントリーを許したら躊躇いなくサソリゴーレムで出場してくるぞと教えてやったところ、なんだそれはとマジスカ君は目を丸くした。あんなのが参加要件を満たしているなんて予想していなかったのだろう。あれのゴーレム核に使われているのはジラントから採れた魔力結晶。遠征実習で手に入ったブサオークの魔力結晶で手に負える相手ではないぞと伝えてやったら、ムッツリボーイはすっかり意欲を失って僕の譲った特等席に座り込んだ。まぁいいだろうと、一緒に太もも鑑賞を楽しむことにする。


「さあっ、今こそ封じられたクマの力を開放する時でございますわっ」


 使い魔レスリングに参加する使い魔たちが魔術で固められた砂のステージへと集まっていく。タルトに連れられてクマドンナがステージへ上がり、やる気MAXな首席と、契約者であるイモクセイさんと、なんだかやけくそ気味なアンドレーアがファイトだがんばれと声援を飛ばす。発芽の精霊とベコーンたんもステージ上へ姿を現し、いてこましたれ~とクセーラさんが拳を天に突き上げた。


 テテテン、テテテンと演奏サークルに皆さんによる緊張感の感じられない曲が流れだすと共に、砂のステージが端から徐々に崩れ始める。戦いのゴングだ。最後までステージに踏ん張ろうとおしくらまんじゅうが始まり、今年はさっそくベコーンたんが精霊の力を発動させた。昨年のように足元の砂まで押しのけるようなウッカリはくり返さない。


 だけど、誰も近寄れないためか使い魔たちはベコーンたんをのけ者にしておしくらまんじゅうを続けた。ボッチに耐えられなくなった寂しがり屋のうり坊が、精霊の力を抑えてライバルたちの塊に突撃していく。身体が小さいというハンデもなんのそのエイエイと奮闘したものの、最後は発芽の精霊のお尻に吹っ飛ばされてステージの外へ転がり落ちる。


「ああっ、ベコーンたぁぁぁ――――んっ」


 ギャースと叫び声を上げながらクセーラさんが頭を抱えるものの、もともと精霊たちは勝ちたいんじゃなくて遊びたくてやっているのだ。仲間外れにされるくらいならという気持ちはわからなくもない。楽しいなら、それもアリだろう。


 その後、タルトが落っことされ、オバネアリクイが落っことされ、最後にクマドンナと発芽の精霊が残る。もちろん、偶然などではない。僕の目にはクスリナが、まだゴチャゴチャしているうちに強敵から順番に始末しているように見えた。きっちり作戦を立ててくるあたりは次席にそっくりだ。後ろ足で立ち上がったクマドンナがガオーと全力で威嚇するも通じず、ヒョイと抱き上げられてステージの外へ放り出されてしまう。両手の人差し指を頭上へと突き上げて、イッチバーンと勝利をアピールする発芽の精霊。とってもはしたない。


「残念だったね~。でも、ベコーンたんが楽しんでくれたならそれでいいよ~」

「まだ興奮が収まってないみたい。よっぽど楽しかったのかしら」


 戻ってきた使い魔を抱き上げて、ヨシヨシと慰めるクセーラさんとイモクセイさん。まだ暴れ足りないのか、クマドンナは両脚をバタバタさせてご主人様になにかを訴えていた。どうにか落ち着かせようと応援隊の3人娘が首筋やお腹をコショコショしてなだめにかかる。スカートの下はブルマーなので下着は見えないものの、短めの裾から伸びる後姿の太ももにマジスカ君の目は釘付けだ。


「つい夢中になって【萌え出づる生命】にしてやられたのです」


 優勝は逃したもののタルトは満足した様子で、抱っこしろと僕の膝の上に這い上がってくる。発芽の精霊に狙われていることには気づいていたものの、それでも目の前のお楽しみを優先したということなのだろう。実に3歳児らしい判断だと感心するしかない。


「さて、お次はゴーレムバトルだ。せめて優勝くらいしてもらわないと、クセーラさんに借りを返すなんてのも強がりにしか聞こえないよ」

「……はっ? ふっ、太ももに見入ってなんていないぞっ」

「誰もそんなこと言ってないって……」


 お昼の余興である使い魔レスリングが終われば、午後に予定されているゴーレムバトルの決勝トーナメントが始まる。今年はブサオークの魔力結晶が出回った関係で強敵盛りだくさんなはず。デカい口叩く前に実績を挙げてみせるよう告げたところ、ロクに聞いていなかったのかマジスカ君は見当違いな言い訳を始めた。お姉さんたちの太ももがよっぽど気になっていたとみえる。


「ロミーオさんだって昨年のままじゃないよ。勝算はあるんだろうね?」

「もちろんだ。多少の改良は見越して設計してある」


 昨年優勝した鉄イノシシに勝てる見込みあんのかと問い質したところ、そのつもりでゴーレムを設計したとマジスカ君は自信マンマンに答えた。これまで一度でも勝てたためしがないにもかかわらず、上級生を相手に真っ向から叩き伏せにくる姿勢には感心する。ゲイマル君たちにも見習ってもらいたい。


 ゴーレムバトルに出場するマジスカ君が、そろそろ集合する時間だと席を立つ。クマドンナにご褒美のおやつを食べさせている太ももを名残惜しそうにチラチラ眺めながら出場者控室へ向かっていった。僕たちはここでランチだ。使い魔レスリングのステージとして利用された砂を、騎士課程の生徒たちがせっせと片付けているのを横目にクルミ入り揚げあんパンをいただく。楽しく遊んだ後にいっぱい食べたせいか、タルトとベコーンたんにクマドンナがウトウトし始めた。そのままお昼寝させてしまう。契約者の膝の上で丸くなって寝息を立てるうり坊と小熊はとてもかわいらしく、ふてぶてしい顔でよだれを垂らしているのは3歳児だけだ。


「今年は東部派の勝ち星が多いね。南部派はロミーオさんが最後の希望かな」

「魔導院祭での主役を譲って差し上げたのですから、次は引き立て役になっていただく番でございましょう」


 目に入れても痛くない小熊ちゃんがグッスリ寝入ってしまい手持ち無沙汰になった首席が隣に腰を下ろしてきた。魔導院祭では南部派のステージを盛り上げてやったのだから、今回は脇役に回ってもらうと微笑む首席。ゴーレムバトルの決勝トーナメント出場者は8名で、南部派はロミーオさんひとりだけだ。残りは東部派が3名、西部派が2名、そして北部派がマジスカ君とダエコさんのふたりとなっている。ロミーオさんの連覇を許すつもりはこれっぽっちもないらしい。


「ドクロ診療所が忙しくて、ゴーレムバトルの予選は見れてないんだ。どんな感じだった?」

「ロミーオさんのイノシシ型を模倣した生徒が多い印象でございましたわね。昨年の決勝戦を見て、重装甲での力比べになれば獣型が有利と考える生徒が多かったのでしょう」


 今年はダブルダウンで【ヴァイオレンス公爵】が大暴れしたもんだから、僕もドクロ先生も大忙し。ゴーレムバトルの予選は終わってから結果を確認しただけだ。どんな展開になっていたのか首席に尋ねてみたところ、正面に重装甲を施した獣型ゴーレムに大砲ゴーレムが駆逐されたという答えが返ってきた。ちなみにマジスカ君は8本脚のバシリスク型ゴーレムで、力比べになった時の踏ん張る力が圧倒的であったという。


「どれほどの力も、足が滑ったらそれまでだからね。ちゃんと勝ち筋を考えてるじゃないか」


 力比べになればパワーのある方が勝つは間違いで、先に足を滑らせた方が負けるというのが正確なところだと思う。床との摩擦係数が同じと考えた場合、有効に作用させられる力の上限は接地面積の広さで決まるからだ。踏ん張りきれる上限を超えた力で相手を押しても、足が滑って自分が押し戻されるだけ。足元がヌルヌルの場所で槍を突き立てようとしたヘルネストがすっ転げて泥だらけになったのと同じ理屈である。


 マジスカ君は昨年の決勝戦をしっかり分析していたのだろう。ロミーオさんの鉄イノシシと力比べになっても勝てる算段をつけてきた。やはり、ゲイマル君とはひと味もふた味も違う。だけど、僕が気になったのは首席があえて口にしなかったもうひとりの北部派生徒の方だ。


「それで、ダエコさんはどうなのさ?」

「サプライズはあった方がよろしいのでしょう。せっかくの楽しみを取り上げるほど、私は意地悪でございませんのよ」


 ダエコさんにまったく触れられていないことを見落とす僕ではない。なにか隠しているなと問い詰めてみたものの、サプライズは大好きなのだろうと首席はいっさいの情報開示を拒否しやがった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あんなガツガツしてた子がこんな異性に戸惑うくらいに性長してるなんていいなぁ
[一言] ふとも…チアの衣装いいよねぇ
[一言] あのコスいコピー商品つくるだけだったダエコさんもこんな黒い秘密兵器級の扱いされるなんてなぁ…皆成長してる!
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