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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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516 わき腹の肥える秋

 魔導院祭が終われば、間を置かずに秋のヴィヴィアナ様祭りが始まる。今年もホンマニ宗家で行われている祭祀に招待されたものの、祭祀ならもうやってやったとタルトが言い張ったことで僕は参加を見送ることとなった。よそ様の精霊を祀っている暇があるならご主人様にご馳走を食べさせろと暴れる3歳児をなだめるため、仕方なく手元にある材料でお菓子を作ってやる。今回は寒天の代わりに純粋プルプル成分を使用した栗羊羹だ。


「むむっ、とろけるようなロリヴァの中からやっつけがいのある栗が出てきたのですっ」


 今日は風もなくお日様にあたっていればポカポカ暖かい。離れのウッドデッキでお茶をいただくことにして、シルヒメさんに昨晩仕込んでおいた栗羊羹ロリヴァを用意してもらう。包丁でひと口サイズに切り分け食べさせてやったところ、タルトはウキャーと喜びの声をあげてキックの鬼と化した。半狂乱になったサルマタのごとく、短い脚の届く範囲内にあるものを手当たり次第にゲシゲシ蹴りつける。どの道、暴れなければ気が済まないらしい。


「下僕はデキる下僕だと信じていたのです」


 甘いお菓子で上機嫌になったタルトが調子のよいことをぬかす。とりあえず褒めておけば、次もまたご馳走にありつけると目論んでいるに違いない。もっとだ、もっと寄越せと僕の膝の上からお尻で跳ね上がろうとする3歳児に栗羊羹ロリヴァを食べさせていたところ、新たな食いしん坊が匂いを嗅ぎつけてきやがった。クマネストの奴がグルグルと喉を鳴らしながら鼻先をこすりつけてくる。材料が煮小豆を蜜で甘くした餡と栗だから、クマが寄ってくるのも仕方のないことだろう。


「お前、そうやっておねだりしかしないからシモベンジャーのリーダーになれないんだぞ」


 餌用の桶に栗ヴァを盛って出し、下僕戦隊のリーダーは3歳児司令官を食べさせてやらないとダメなのだと言い聞かせたものの、ツカイマゴールドはガツガツとご馳走を貪るばかりで耳を貸そうともしない。司令官に似たのか、すっかり意地汚くなりやがった。こいつにはマスコット枠がお似合いだ。


「下僕、今日はご機嫌な陽気なのです。ゆっくりお昼寝を楽しむのですよ」


 おやつを平らげたタルトが、まだお昼前だというのに昼寝するぞとしがみついてくる。まぁ、これまでステージの準備で忙しかったから、今日くらいゆっくりするのも悪くない。クマネストを仰向けに寝そべらせ3歳児を抱っこして寄りかかれば、思ったより疲れが溜まっていたのかすぐにまぶたが重くなってきた。


「……ふたりともあどけない……でかわいいですね……」

「……まったくもう伯爵は寝坊助なんだからっ」


 気がつけば、周囲にざわざわとした魔力を感じた。もしや、寝ている間に人さらいにかどわかされたのかと思って目を開けてみれば、いつの間にかコテージに人が増えていたようだ。ドクロワルさんとクセーラさんの他、首席と次席にロミーオさんとイモクセイさん。アンドレーアに脳筋ズの姿まである。


「今日はみんな派閥の人たちとお祭りに行ったんじゃなかったの?」

「お昼も過ぎたから戻ってきたんだよっ。いつまで寝てるつもりなのっ」


 どうやらグッスリおやすみしてしまったようで、とっくにお昼を過ぎているそうだ。ランチをいただいて戻ってきてみれば、僕たちがいい気分で寝こけていたという。タルトとクマネストも目を覚ましたようでモゾモゾ動き出した。


「派閥のない伯爵が寂しくて泣きべそかいてるんじゃないかと思って来てあげたのに、タルちゃんと気持ちよさそうにお昼寝してるなんてっ」


 メソメソいじけている僕を眺めにきたのに、呑気にグースカ寝ていやがったと悔しがるクセーラさん。ここには3歳児の他にも食いしん坊が揃っていて、際限なくおねだりをくり返してくるのだ。寂しがっている暇なんてありはしない。


「それで、お土産はないの?」

「おっ、お土産は乙女の笑顔だよっ」


 わざわざ来てやったと言うからには手土産のひとつくらいあるのだろうなと尋ねてみたものの、けしからんことに手ぶらだった。お土産は笑顔などと、たった今思いついたような言い訳を口にする。


「マイフレンド、よかったら肉を食わせてくれ」

「よくねぇよ。お土産がないだけじゃなくて、肉をせびりにきたの?」

「ひとりだけあんな美味い肉を毎日食ってるなんて、お前ズルくないか?」


 そして、やっぱり手ぶらなヘルネストが臆面もなく肉を要求してきやがる。この間提供したシカモモ肉が殊の外美味だったらしい。僕だけ高級肉食べ放題なんて不公平が過ぎると意味不明な言いがかりをつけてきた。肥育していない野生のシカが高級肉だなんて、普段どんな肉を食べているのだろう。


「騎士課程の寮って、どんだけ安い肉使ってんの?」

「高級かどうかはともかく、臭みがなくしっかり味もあって美味しかったわよ。街のお肉屋さんに出回っている家畜の肉よりは間違いなく上ね」


 牛馬のごとく喰らうから乳の出が悪くなった乳牛とか、毛を刈り取った後の羊みたいな本来は食肉用途でない家畜の肉を使われてんじゃないかと言ってやったものの、一般に流通している肉より上等だったとイモクセイさんに反論されてしまう。あれが高級肉でないと言えるのはドングリで育てた豚や、運動量まで管理して育てた牛の肉ばかり食べているお貴族様だけだそうな。


「マイフレンド、お前には肉を食べさせてもらえない奴の気持ちがわからないのか?」

「わかるはずないだろ。肉が喰えなきゃ今ごろ生きてないんだから……」


 肉を満足に食べさせてもらえない奴の気持ちを察しろと無理難題をふっかけてくるヘルネスト。残念ながら、その気持ちを実感したことのあるロゥリング族は例外なくイグドラシルへ還ってしまったことだろう。人族こそ穀物で飢えをしのげない種族の気持ちを考えろとパンチくれてやりたい。やはり、新たなウカツ叩き棒を用意するべきだろうか。


「まっ、協力してくれたメンバーも満足してくれたし感謝してるわ。ソンターク先輩まで、こんなご褒美があるならまたやってもいいなんて言ってたわよ」


 最初は難色を示していた3人組も、終わってみれば満足していたとロミーオさんが教えてくれた。ご馳走が用意されてるなら先に言えなんて調子のいいことをぬかしていたそうな。ファミリーに楯突いた連中にくらわせてやるのなんて鉛玉で充分なのだけど、今回だけは特別サービスってことにしておいてやろう。


「肉なんて贅沢は言わないから、骨をくれないかしら。できればグラマーデルの分も……」

「骨だってダシを取るのに使うんだから肉と変わんないよ」


 アンドレーアは骨をおねだりに来た模様。ここに来れば骨がもらえるとオオカミが覚えたようで、散歩の途中でも僕のコテージに向かおうとするそうだ。すっかり甘えん坊に育てられた人喰いのオオカミ魔獣が骨をくれくれと湿った鼻先をこすりつけてきた。今がチャンスと考えたのか、ティコアの奴までなんかくれとしがみついてくる始末だ。仕方がないので、骨付きのあばら肉を取ってきてくれるようブンザイモンさんにお願いする。


「アーレイ君は精霊や使い魔にばっかり甘いんですから、もっとお友だちにも優しくしないと人嫌いに見えちゃいますよ」


 ヨッコイショ……と僕を抱っこしたドクロワルさんが、自分たちにも優しくありなさいとちっちゃい子をあやすように僕の身体を振り回す。人嫌いなんてことはない。僕はおっぱいには優しいし、いつだっておっぱいに優しくされたいと願っている。どうやら、わからせなければいけない時がきたようだ。


「肉はないけど、お茶菓子が用意してあるんだ」

「餡の中に栗が入ったロリヴァを下僕が作ったのです。とっても甘くて美味しいのですよ」

「はうっ……」


 栗羊羹ロリヴァをご馳走しようぢゃないかと口にすれば、また甘いお菓子かと僕を抱っこしていたドクロお姉さんが固まった。どうするべきか迷っている女子たちが互いの出方をうかがいあうなか、タルトの説明を耳にしたベコーンたんとクマドンナがギュピィーンと瞳を輝かせる。蜜の精霊が僕の頭にドッキングを強行してきて、発芽の精霊が寄り添うように腕を絡めてきた。首席とカリューア姉妹にイモクセイさんはすでに陥落したも同然。残りの女子たちにも残らずわき腹活性化剤を投与してやろう。


「ままっ、またお姉さんを太らせようとっ」

「ステージまで体形を維持できたんだから、ちょっと自分にご褒美をあげても大丈夫だよ」


 クックック……人の心とは弱いものだ。我慢しなくてもいいという言い訳をこちらで用意してやるだけで、容易に誘惑から逃れられなくなる。思ったとおり、これまで節制できてたんだから少しくらいならすぐに戻せるなどと、普段の彼女からは到底考えられないような甘い見通しをロミーオさんが語り始めた。ここまで人の心を理解している僕が人嫌いなんてあり得ないだろう。


「肉でなければ気に入らないってなら無理に食べなくってもいいんだよ」

「いただくわ。どうせ訓練ですぐに絞られるもの……」


 肉が目的だった脳筋ズに無理強いはしないけどと尋ねたところ、ウエストの心配は無用だとムジヒダネさんは相変わらずぺったんこな胸を逸らしてふんぞり返った。わき腹だけでなく、おっぱいに回すはずの栄養まで訓練で消費してしまっているのではなかろうか。節操のないヘルネストは食べ物ならなんでもござれとニコニコ笑っている。


「では、お茶は私の方でご用意いたしますわ」

「ああっ、首席っ?」


 話は決まったなと、腹をくくった首席がメイドさんにお茶の用意を指示する。すでにロミーオ城とアンドレーア要塞も陥落していて、残るはドクロ砦のみ。頑なに堪えようとするドクロワルさんだったけど、見た目とはうらはらに甘いお菓子が大好きなワルキューに手を引っ張られてしまった。内通者によって城門を開けられてしまったドクロ砦に抵抗する術は残されておらず、なだれ込んだ誘惑が鉄の意思を侵食していく。


「アーレイ君、明日から山にこもって修行しましょうね」


 そして結局、ドクロワルさんは栗羊羹ロリヴァを4回おかわりした。






 ヴィヴィアナ様祭りの期間中は猟師のおっちゃんたちも祭りにくり出しているから猟場が空いているということで、ドクロワルさんとダイエットを兼ねた狩猟に出かける。実際に獲物を捌けるまたとない機会を逃すなとプロセルピーネ先生から申し渡されたアンドレーアとイモクセイさんも強制参加だ。ドクロ先生の指導を受け、ふたりともプルプル震えながらイノシシのお腹を掻っ捌いていた。お手伝いはロリボーデさんと魔性レディ。僕の狩猟についていけば新鮮な獲物のお裾分けに預れると食いしん坊どもが学習しやがったようで、使役者よりも使い魔の方がはしゃいでいた。


 空いていたので猟場を2エリア分使わせてもらった結果、シカを1頭とイノシシを4頭仕留めることに成功。もちろん、全部メスだ。一番でっかいイノシシは歳を取り過ぎていて美味しくなさそうだったので、タレコミせずグリフォンとオオカミの分にする。獲物は大きければよいってものではなく、ほどよい体格のものが一番美味しい。


 獲物を荷車に積み込んで魔導院へ戻る途中、前方に道行くサソリゴーレムの姿を発見した。脳筋ズの他、ヒッポグリフにコケトリス2羽を従えている。どうやら、ダイエットを兼ねた栗拾いの帰りらしい。コケトリスのうち1羽は全身真っ黒な雄鶏だから、首席とロミーオさんにつき合わされたダエコさんといったところだろう。


「きったねぇぞ。ひとりだけイノシシ狩りに行ってるなんてっ」

「ファル姉、私たちに黙って抜け駆けしたの?」

「イノシシ狩りじゃなくて、ドクロ研究室の解体実習よ。我が同行するのは当然でしょう」


 後方にいる僕たちに気がついたようで、クセーラさんがサソリゴーレムを停止させて追いつくのを待ってくれる。合流した途端、ロリボーデさんの曳く荷車に積まれた獲物を見てヘルネストとムジヒダネさんが裏切り者めと非難の声を上げた。プロセルピーネ先生に言いつけられて生き物の解体を指導していただけ。治療士でも薬師でもないふたりを誘う理由はひとつもないと、悔しがる脳筋ズに魔性レディが容赦のない高笑いを浴びせかける。


「なぁ、マイフレンド。せめて肉だけでも……」

「タダでくれてやる肉はない」


 ヘルネストが肉をせびってきたものの、さすがにタダで渡していては際限なくたかられるだけだ。西部派の生徒に乞食のようなマネをされたくないのか、次席もまなじりを吊り上げてこっちを睨みつけている。肉が欲しければ対価を払っていただくしかない。


「次席、ドングリはいっぱいとれた?」

「栗もクルミも……たくさん採れたわ……ヴィヴィアナ様のおかげね……」


 結果は聞くまでもないのだけれど、そっちの収穫はいかがかと次席に尋ねてみる。湖に宿った精霊をお祀りしているおかげでこの国は水が豊富なことに加えて水害がなく、大地の恵みがどっちゃりなのだ。山のドングリもよく実っていて、労働者が怠けていない限り充分な収穫が得られたはず。思ったとおり、大量の収穫があったという。


「ヘルネストの取り分はあるの?」

「農奴にくれてやる分はない……と言いたいところだけど……山分けという約束よ……」


 西部派の生徒だけならともかく、首席やロミーオさんがいるから分配であろうことは容易に予想がついた。ヘルネストにもいちおう取り分があるらしい。僕の狙いを察したのか、タルトとクマネストの奴が期待に瞳を輝かせてこっちの様子をうかがっている。


「こっちには木の実が大好物な大喰らいがいるんだ。交換なら応じてやってもいい」

「いいぞっ。全部くれてやるから肉を喰わしてくれっ」


 取引成立だ。また栗やクルミが手に入ると知った3歳児が跨っているクマネストの頭をペチペチ叩いて喜んでいる。ドングリで肉が手に入るならとムジヒダネさんも交換に加わってきた。これでいい。全員が欲しいものを手に入れられて大満足だ。


「またっ、また甘いお菓子でお姉さんを太らせるつもりですねっ」

「お菓子の材料がどんどん手に入るというのも考えものでございますわね……」


 誰もが満足してくれたと思ったら、ドクロワルさんと首席のふたりがプーと頬を膨らましていた。手に入った栗やクルミの栄養分が最終的にどこにくっつくのか、すでに察しているのだろう。これではいくらダイエットしてもきりがないと嘆いている。


「本人が節制すればいい話だと思うんだけど……」

「そういうのを机上の空論って言うんですよっ」


 食べ過ぎないように我慢すればよいと至極当たり前のことをアドバイスしてみたものの、それで痩せられるなら誰も苦労はしないとドクロワルさんはドワーフの大きなお尻をイリーガルピッチの鞍にドシドシ叩きつけた。


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― 新着の感想 ―
[一言] イリーガルピッチに被害が……。
[一言] わからせ回でした 身体の欲求には抗えないんだよ!
[一言] 悪魔的…悪魔的誘惑…! まぁちょっとお肉付けさせてもその代償にドクロ塾のハードコース行きって思えば…妥当な代償なんですかね。
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