513 大盛況で幕は下り
セクシー路線へと舵を切ったオムツレディーに比べて、王道路線のロゥリングシスターズはダイナミックで動きの激しい振り付けとなっている。バックダンサーが体格で勝る人族ということもあり、これでもかってくらい自己主張しなければ目立たなくなってしまうためだ。とにかく動きを大きく見せることを意識しながら、甲子園のスタンドで歌唱してもバッチリ似合う自慢の歌詞を歌い上げていく。
ふと客席に視線をやれば、ちびっ子たちの先頭でフルアーマーゴレームたんがノリノリで光る魔導器を振り回していた。まるで、どっかのドルオタ神みたいだ。本当にタコ踊りしかできない3歳児が動かしているのか疑問に思えてくる。
オープニングの「栄冠は君に輝く」が終わったところで、センターをオムツフリーナちゃんと交代する。今回は室内ということもあって空を飛んだりといったパフォーマンスはないのだけど、待ちにまったアイドル様のご登場に客席は大興奮だ。身体を包み込むように畳まれていたエンジェルウイングが大きく広げられると、ちびっ子たちは案内のあった留意事項をすっかり忘れて手にしたおもちゃのエンジェライザーを腕の届く限り高く振りあげた。マナーがなってないと、後でクゲナンデス添乗員に苦情を申し入れておこう。
「いい感じだわっ。このまま最後までトチるんじゃないわよっ」
観客席の反応にロミーオ演出総監督もよっしゃよっしゃと大興奮だ。次の出番を待ってスタンバイしているダンサーひとりひとりに気合を入れて回っている。
「クレネーダー。総司令官はもっとどっしり構えていてくれ。そうでないと皆が不安がる」
とうとう見かねたのか、あまりプレッシャーをかけんなとコワルダー先輩がロミーオさんをたしなめた。責任者はふんぞり返っているくらいでちょうどいいのだと、空いている椅子に腰かけさせる。偉そうに腕と脚を組んでいる方がひとつくらいミスしてもフォローしてくれそうで安心できるのだと告げられ、ズビシッと右足を高々と突き上げるロミーオさん。見せつけるようにゆっくり下ろして足を組む。とってもはしたない。
ステージの流れはオープニングの後にオムツフリーナちゃんが続けて2曲、再び交代してロゥリングシスターズが2曲披露し、その後がお待ちかね「澄みわたる湖に想いを込めて」となり、そのままグランフィナーレへなだれ込む予定となっている。首席たち楽団の出番はヴィヴィアナ様の祝詞から。ひとつ前の僕たちが歌っている間にステージの照明を一部落とし、暗がりができたところで配置につく算段だ。その間、ロゥリングシスターズは派手な動きで客席の注意を引き付けなければならない。体力のないロゥリング族にそんな仕事をさせるなんて、これはもう種族虐待ではなかろうか。
「そろそろ2回目の交代ね。楽団も楽器の準備はできてる?」
オムツフリーナちゃんの2曲目が終わりに近づいてきたところで、我慢できなくなったのかロミーオ演出総監督が椅子から立ち上がった。陣頭指揮を執らなければ気が済まない性格なのだろう。総司令官より前線指揮官に向いていそうだ。
「もちろんでございます。今すぐと言われても大丈夫ですわよ」
「任せてくれ。ダンサーの連中に笑われないよう、きっちり役目は果たしてみせる」
いつでもオーケーだと自信たっぷりに返すのは首席とコワルダー先輩だ。何が起こってもきっちりフォローしてみせるという雰囲気をまとっているから、メルエラやクニーケさんも安心して自分の演奏に集中できるだろう。
「必要な時はリードするから、あんたは自分の心配だけしてなさい」
そして、誰よりも堂々と構えているのは往年の年齢詐称アイドル。アラフォーとなった今でもロゥリング娘の筆頭とされているピーネちゃんだった。年の功を感じさせる落ち着き払った態度で、黙って俺について来いと舞台袖の待機位置へつく。さすがは永遠のセンター様と、もう感心するより他はない。
拍手と歓声を浴びながらオムツフリーナちゃんが引き揚げてきて、バックダンサーたちも左右に分かれて舞台袖へと引っ込んでいく。すぐに待機していた交代のダンサーがステージへと飛び出していき、ドクロワルさんとアンドレーアがイントロの部分を奏で始めた。ピーネちゃん、僕の順で曲に歩調を合わせながらステージの真ん中へ進む。さすがにオムツフリーナちゃんには及ばないものの、ロゥリングシスターズのファンもちゃんといるようだ。ちびっ子たちも先頭で応援指導しているゴレームたんに合わせてエンジェライザーを振ってくれる。
最初の1曲目でドルオタ神に向けた祝詞「好き好きドルオータ様」は演奏済みなので、すでに神様ノルマは果たし終えた。後はおまけミッションなので気楽にやらせていただこう。心に余裕ができるとアドリブを入れられるタイミングも見えてくる。ターンの途中でちびっ子たちに手を振りながら笑顔をサービスだ。【皇帝】みたいな奴に勘違いされると困るので投げキッスは自重しておく。
ロゥリングシスターズとしては最後になる曲でステージの照明がスポットライトだけに絞られた。背後でセッティングを始めた楽団の動きをロゥリングレーダーに感じながら、精一杯のダンスで観客の視線を引き付ける。曲が終わりに近づいてきたところで、首席たちの魔力が定位置について動かなくなった。演奏準備は整ったと判断していいだろう。僕たちの曲が終わったところで、スポットライトを含めたステージ上を照らす照明がすべて落とされる。暗がりの中でオムツフリーナちゃんにバトンタッチすれば、徐々に照明が明るさを増していき首席のバイオリンがゆったりとした音色を奏で始めた。
「ふぅ……ようやくひと息つけます」
「この楽器、長く演奏していると重く感じてくるのよね」
「お疲れさまって言いたいところだけど、まだグランドフィナーレが残ってるんだから気を抜かないでちょうだい」
オープニングから出ずっぱりだったドクロワルさんとアンドレーアが、ようやく休憩だと舞台袖に引き揚げてきた。この後、グランドフィナーレでまた出番があるのだからダラケ過ぎるなとロミーオ演出総監督の厳しい声がかけられる。
「クックック……見なさい。あの観衆を……。王都での話題はいただきだわ」
冬は社交の季節。話題の中心が僕たちのステージになることは間違いなしだとロミーオさんは喜びに身体をくねらせている。観客席に視線を向ければ、ちびっ子だけでなくたくさんの人たちがオムツフリーナちゃんの歌に合わせるようにゆっくりと光る魔導器を揺らしていた。まるで田西宿実の世界に戻ってアイドルライブを見ているみたいだ。この冬の間に、彼らがせっせと評判を広めてくれることだろう。
「さぁ、フィナーレよっ。最後までバッチリ締めてきなさいっ」
オムツフリーナちゃんが「澄みわたる湖に想いを込めて」を歌い終えたところで、演出総監督が最後の指示を出す。客席の方は大盛り上がりだ。このままの勢いでグランドフィナーレへなだれ込めと尻を叩かれ、まずドクロワルさんとアンドレーアが魔導楽器を演奏しながら再びステージへ進み出ていった。バックダンサーの女子たちがふたりに続く。
グランドフィナーレは出演者全員が演奏に合わせて位置を入れ替えながら順番にご挨拶していくという構成だ。まずは衣装の華やかな女の子ダンサー12名がステージの一番手前にズラリと並び、観客の皆さんへ手を振りながら笑顔をお返しした後、左右の手でスカートを軽く摘まみ上げながらいっせいに軽く腰を落とす挨拶を披露した。次いで、背後にいた半裸に羽飾りという変態的な格好のオムツダンサー12名が入れ替わるように前に出る。ヒィィィヴァァァ……のかけ声と共に戦隊ヒーローのようにビシッとポーズを決めるオムツ野郎たち。ちびっ子たちには大うけのようだ。
オムツダンサーズの後は魔導楽器のドクロワルさんとアンドレーア。胸に構えた楽器を演奏しながらペコリと客席に向かって頭を下げる。その次は首席たち普通の楽器を演奏していた楽団だ。さすがに演奏しながらは無理なので、弓やバチといった誰が何を奏でていたのかわかるものを手に最前列に進み出て、女子は女の子ダンサーと同じカーテシーを、男子は右手をお腹にあてて腰を折るお辞儀を客席に返す。
ダンサーの皆さんと楽団が終わったら僕たち……ではなく、メイドゴーレムの出番である。互いに向き合って手を重ね、ワルツのようなステップを披露するメイドリアンSH3型とSV4型。もちろん、クセーラさんひとりのコントロールによるものだ。よくもまぁ、頭がこんがらがらないものだと呆れるしかない。
そして僕たちロゥリングシスターズの順番となった。ロゥリング族にはカーテシーのような作法はないので、アイドルらしく両手をひらひらさせながらスマイルをプレゼントだ。最後はもちろんオムツフリーナちゃん。僕とピーネちゃんが左右に分かれ、空いたスペースに真ん中から堂々とコスプレエンジェルが進み出てくる。大きく広げた翼を見せつけるかのようにクルーリとゆっくりターンし、最後に両手を胸元で重ね合わせ翼を低く伏せさせながらチョコンと腰を落とす。
客席に礼を返したオムツフリーナちゃんがステージの中ほどまで下がってきたところで、一番手前にある幕が下がり始める。幕が下りきるまでの間、応援ありがと~と手を振ってちびっ子たちに愛想を振りまいておく。
完全に幕が下がりきったその時、盛大な拍手が客席から響いてきた。
「よくやったわ、みんな。ご褒美にモロリーヌがご馳走してくれるわよっ」
「勝手な約束しないでくれる」
ステージを終えて楽屋に引き揚げてきたものの、ロミーオ演出総監督はまだ興奮冷めやらぬご様子。僕から褒美を取らせようと無責任なことを言い放つ。
「マイフレンド、ご褒美はなしなのか?」
「なんで僕から巻き上げようとするわけ?」
なんかくれ、できれば肉を……と半裸のステージ衣装のままヘルネストが迫ってきやがった。キモイから近づくなと掃除用具の中にあったハタキでつついて遠ざけておく。騎士課程の腹っぺらしどもを満足させられるだけの食材なんてコテージにはない。迂闊なことを約束すれば保存してある肉も果物も残らず喰い尽くされ、3歳児様がお怒りになること間違いなしだ。
「明日は特に予定もありませんから、談話スペースに軽食を用意しておきましょう。手の空いた時間に来ていただければ食べられるようにしておきます」
「では、私の方で焼き菓子を差し入れいたしますわ」
釣ったザリガニにくれてやる餌はないのだとお断りしたら、代わりにアキマヘン嬢が軽い食事を用意しておくと言ってくれる。首席は焼き菓子の差し入れだそうな。そして、どうしてか全員の視線が僕に注がれた。
「なに、その目は? 僕は公爵家や侯爵家のご令嬢と違って貧乏なんだよ。っていうかアンドレーアまで一緒になって、それでも本家の嫡子なの」
「コテージに使用人連れて暮らしてるあんたのどこが貧乏なのよ?」
「マイフレンド。この国ではバナナが食べられるヤツのことを貧乏とは言わないんだ」
僕にたかる気マンマンな連中の中にアーレイ子爵家の嫡子様までいらっしゃった。本家がそれでいいのかと問い質してやったものの、寮に入ってる自分よりコテージ住まいの僕の方が生活の質は上だと言い張る。バナナが食べられる貧乏人なんていねぇと、ヘルネストも僕の懐が火の車であることを頑なに認めようとしない。
「私が口にするのもなんですが、先輩より暮らし向きの好い生徒は皆無かと……」
「教師と治療士に庭師まで揃えているなんて、どこの王侯貴族でございますの?」
自分もコテージで使用人にお世話される身だけれど、僕より何不自由ない暮らしをしているのはホンマニ家の館に住んでいる学長先生とリアリィ先生くらいだとアキマヘン嬢が口にする。家庭教師はともかく治療士に庭師まで連れているのはお前くらいのもんだと、首席まで僕が王様暮らしをしていると言い出しやがった。邪教徒の連中は勝手に住み着いているだけなのに、どうしてか僕専属の教員と庭師ってことになっているようだ。
「伯爵のところはいろいろおかしいんだよっ。毎日、毎日、ご馳走ばっかり食べてっ」
「美味しいものを食べさせないとタルトが満足してくれないんですけど……」
「そうやってすぐ精霊のせいにするんじゃないよっ!」
相変わらず勘違いの激しいクセーラさんは、僕が毎日バナナをいただいていると信じて疑わないご様子。お前以上に贅沢な食生活を送ってる奴なんていねぇとドシドシ足を踏み鳴らす。ご馳走ばっかし食べたがるのはタルトだと事実を説明しても、精霊を言い訳に使うなと聞く耳を持たない。
「どうせあんたが唆してやらせたんでしょ。豆くらいご馳走してやんなさいよ」
「先生は豆よりも肉を食べてください」
そして、今回の企画が神様の指示を遂行するものであったことに気づいているプロセルピーネ先生が、口車に乗っかってくれた連中に豆くらい振舞ってやれと言ってきた。たかり屋どもがそうだ、そうだと声を上げ、ロゥリング族は豆よりも肉を食べるようドクロワルさんがメッと師匠をたしなめる。
「タレコミしたシカのモモんところがまだ残ってたはずだから、それでいい?」
プッピーに言われたとおり、僕のやりたいことにつき合わせたのは紛れもない事実である。お礼のひとつくらいあっても悪くはないだろう。前にタレコミしたシカの後ろ脚が丸々残っていたことを思い出し、シカモモ肉を提供することにした。僕は3歳児をフルーツパーラーに連れていかなければならないので調理まで手が回らないのだけど、そこは調理サークルのイモクセイさんが引き受けてくれるそうだ。
「マイフレンド。やっぱりお前は最高だぜっ」
ヒィィィヴァァァ……と肉に飢えたケダモノたちが雄叫びを上げて踊り狂う。たんぱく質が足りてないのは野郎だけではなかったようで、ヒャッハー肉だと雪だるま先輩とドヤリンガーさんがハイタッチを交わしている。よっぽど嬉しかったのか半裸にオムツと羽飾りをつけたままのヘルネストが僕を抱き上げようとしたので、その格好で近づくなとハタキでぶっ叩いておいた。




