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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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507 衣装は出来上がって……

 講堂の使用枠が確保できたので、魔導院祭初日の夕方枠ですと王都にいるクゲナンデス先輩へお手紙をしたためる。そんなに急いで報せる必要はないのではないかとアキマヘン嬢が報告を遅らせようとしてきたものの、もちろん無視だ。情報は鮮度が命なのだと言い含めておく。


 お手紙と一緒に送ろうとポゥエン先生に推薦文をお願いしたところ、シルキーをひとり占めしている輩に手を貸すのは御免こうむると断られてしまった。そうくることは予想がついていたので、試作したダンサーの衣装を着てダエコさんからお願いしてもらう。本人は色仕掛けに難色を示していたものの、雪だるま先輩では圧倒的におっぱいが足りない。これもファミリーのためとどうにか納得してもらい、首尾よくポゥエン準爵の推薦文を手に入れることに成功した。あとは迅速かつ確実に届けてくれる相手にお願いするだけだ。


「アキマヘン家の伝達網を使って、この封書を王城まで届けてください。アキマヘン嬢が差し止めようとするかもしれませんけど、無視していただいて構いません」

「私にお嬢様の意向に逆らえと言われるのですか?」


 アキマヘン嬢がイナホリプルで馬場へ出ている隙に、アキマヘン公爵家からご令嬢の付き人として派遣されている女性に手紙と推薦状を収めた封書を渡して取次ぎをお願いする。受け取った情報を途中で失くしましたなんてことになったら処罰されかねないので、彼女なら確実に王城まで届けてくれるだろう。アキマヘン嬢の差し止め請求は無視していいと伝えたところ、主の意向には逆らえないと付き人の女性は眉をひそめた。


「あなたの雇い主は誰ですか? アキマヘン嬢の個人的な使用人じゃありませんよね?」

「……つまり、陛下がこの情報を待ち望んでおられると?」


 アキマヘン嬢の付き人をしていても、この女性の雇い主はアキマヘン公爵。この国の王様である。最優先すべき相手は誰なのか思い出してもらう。


「あて先はオムツフリーナちゃん公式ファンクラブの事務局長としておきました」

「なるほど、お断りできるものではなさそうですね。承りました」


 公爵家に雇われてご令嬢につけられた女性が鈍いはずもなく、あて先を耳にしただけでオムツフリーナちゃんの最新情報を王女殿下にお届けするものと察したようだ。重要文書扱いで至急送達すると封書を受け取ってくれた。


「衣装合わせするわよ~。女子のダンサーは集まってちょうだ~い」


 クゲナンデス先輩への義理を果たしたところで、衣装合わせをするからバックダンサーの女子は水着で集合だとロミーオ演出総監督よりお呼びがかかった。座敷部屋で水着に着替えて、ヒヨコ育成室でフィッティングだそうな。モロリーヌは学籍上も女の子とされているのでお邪魔しても構わないだろうと座敷部屋へ向かったところ、入口は捕り物道具を構えた女子生徒に見張られていた。足元に鼻から血を流した【皇帝】が転がされている。


 命の危険を感じたので座敷部屋は諦めフィッティング中のヒヨコ育成室へ足を運べば、ちょうど雪だるま先輩が腰回りの調整をしているところだった。女子の衣装は水着の上から上半身にベスト、下半身にロングパレオのようなスカートを着けて、両手首にシュシュみたいな装飾を巻き付けたもの。ベストとスカートはオレンジ色に黄色や赤の差し色が入った温かみを感じる色合いで、ひと言で表すならアロハといった印象だ。


「白水着ですか。エロいですね」

「白じゃなくて薄い水色よっ。スカートをめくるんじゃないっ」


 ベストとスカートの間からコンニチワしている水着は、先輩が契約している雪だるまとお揃いの白だった。スカートの内側がどうなっているのか確認しようとしたものの、見るんじゃないと額をペチペチ叩かれ阻止される。


「次の人が待っているんですから邪魔しないでください」

「下僕、こっちにきて抱っこするのです」


 水着を着ているのだから恥ずかしがることもないだろう。ケチケチすんなと睨み合っていたところ、サイズを調整していたドクロワルさんから作業を中断させるなとお叱りを受ける。精霊の相手をしているよう申し付けられたので、空いているクッションに腰かけタルトを膝の上に抱えてやれば、先輩の雪だるまと手乗り死神のワルキューが寄ってきた。契約者が忙しくしているので遊び相手が欲しいらしい。


 3歳児の頭の上に雪だるまを乗っけて、さらにその上にワルキューを座らせ3段重ねでのバランスを取らせる。もちろん上手くいかずバラバラに崩れるのだけど、ワルキューは宙に浮かべるので雪だるまだけ受け止めてやればいい。だんだん維持できる時間が長くなってきたところで、フィッティングを終えた女子たちが集まってきた。


「精霊たちが楽しそうにしてるわ」

「ドクロワルの骸骨も外見のわりに仕種がかわいらしいのよね」

「ひとり占めを許しておくべきではないと思うの……」


 かわいい精霊をひとり占めすんなと、ブーブーいちゃもんをつけてくる女の子たち。僕を取り囲んで、ユラユラと3歳児の頭の上でバランスをとる雪だるまを応援し始めた。女子のダンサーは身長を重視して選ばれたから上級生のおねいさんが多い。目の前に迫る胸元へついつい手を伸ばしたくなる。


「あらら、落っこちちゃったわ。直してあげるわね」


 バランスを崩してタルトの頭から転げ落ちた雪だるまをおねいさんのひとりがキャッチして、再び3歳児の頭の上にセットしてくれる。アンドレーア級の山肌を吹き下ろす風が、しっとりと潤いを含んだニヨイを運んできて辛抱堪らん。もうペロリンチョしてしまいたい。


「フィッティングを済ませた人は集まって~」


 謹んで頂戴いたしますとチュウしようとした矢先に、衣装を確認するとロミーオ演出総監督が集合をかけてきやがった。もはや勘弁ならぬ。おっぱいの恨みはおっぱいでしか晴らせないということを思い知らせてやるしかないようだ。


「ちょっと頭が寂しいでしょうか。首から下と比べてアンバランスな感じがします」

「ゴージャスにいくならティアラなんだけど、踊ってる最中に落っことすと危ないのよね。本職のダンサーじゃないんだし……」


 ダンサーの女子を並べたり、その場でクルリと回ってもらい衣装の出来栄えを厳しい目でチェックするロミーオさん。演出総監督がいまいち浮かない表情をしていることに気がついたようで、頭に飾りがないから寂しいのではないかと衣装担当のドクロワルさんが感想を口にする。やっぱりロミーオさんも同じように感じていたものの、プロのダンサーでない女子生徒に脱落しやすい頭飾りは厳しいと考えていたようだ。いいアイデアはないものかと頭を悩ませている。


「衣装に合わせた色のでっかいリボンをつけたらどうかな?」

「ソ・レ・ダッ!」


 夜会服を着た時に髪を結いあげるのがオシャレとされているため、魔導院の女子生徒は揃って髪を伸ばしている。今はそのまま流している子もいるけど、激しいダンスを踊るにはまとめなければならないだろう。ならば答えはひとつ。女児の大好きなクソデカリボンしかない。髪を結んだ上から目立たない紐でしっかり縛り付けておけば落ちることもないと伝えたところ、ロミーオ演出総監督は突然その場で立ったままクルクル身体をスピンさせ、最後に僕を指差すポーズでズビシッと回転を止めた。


「布は余ってますから、リボンならいくらでも作れます」

「それでいきましょう。頭からはみ出るくらいのでっかいヤツをお願いするわっ」


 スカートを裁断した際に出た切れっ端を再利用できるから製作に支障はないとドクロ衣装担当が請け負ってくれた。3人寄れば【知の女神】様の知恵とはよく言ったもんだとロミーオさんが小躍りして喜んでいる。演出総監督にヘソを曲げられたら面倒なので、他人のアイデアを採用しただけではないかとは口にしないでおく。


「いや~、どうしてこう次々とナイスなアイデアが集まってくるのかしら。これも演出家の人徳ってやつ~?」


 すっかりハイになっているロミーオさん。モテすぎて困っちゃうなどと口にしながら、水の中を泳ぐイボナマコのように身体をクネらせる。ダンサーの皆さんもヤレヤレと呆れ顔だけど、誰もツッコまないあたり人徳が備わっているというのも嘘ではないのかもしれない。きっとクレクレもそんなロミーオさんの人柄に惹かれたのだと告げてやろうかと思ったものの、僕を抱き上げたドクロワルさんに無言のまま人差し指で口元を押さえられた。黙っていろということらしい。


 まぁ、いいだろう。しょうもないツッコミをするより、今はドクロ山を堪能することが最優先だ。モロリーヌちゃんもきっちり仕上げてあげますねというドクロお姉さんの言葉は聞こえなかったことにして、僕はぷよぷよおっぱいの感触に全神経を集中させることにした。






「ヒィィィバァァァ――――ッ!」


 女子の衣装が出来上がれば、当然お次は野郎どもの衣装である。今日は講堂を借りきっての現地練習。オムツにコケトリスの羽を使った羽飾りという変態的な格好をした半裸の漢どもが、タルトの要望による野太いかけ声を響かせながらステージ上を所狭しと踊り狂う。かつて首席がつけていた背負子に抜け落ちた羽を取り付けた羽飾りを、僕の知らない間にロミーオさんが採用しやがったのだ。野郎に羽飾りはキモ過ぎると全力で抗議したものの、これがアートだと演出総監督は譲らなかった。どうして誰も援護してくれないのか、僕にはまったく理解できない。


「あれが芸術的とか、みんな正気なの?」

「肉体美は普通に芸術でございましょう?」


 本気であんなのをアートと認識してやがんのかとバイオリンの弦を調整している首席を問い詰めてみたものの、肉体美が芸術でなくて何なのだと逆に尋ね返された。なお、演奏担当は全員正装ということで彼女はクリーム色の夜会服を身にまとっている。


「僕が言ってるのはあの悪趣味な羽飾りなんだけど……」

「羽飾りのどこが悪趣味でございますの? ロゥリング族だって使っているとプロセルピーネ先生もおっしゃっていましたわよ」


 肉体美だけならともかく、野郎が羽飾りなんて邪教徒の発想ではないかと伝えたものの、コケトリスの羽を利用した羽飾りは本場のロゥリング娘も使っているという話だったはず。いったい何を問題視しているのかと目を丸くされてしまう。首席の言うとおり羽飾りをつけたロゥリング娘は珍しくなく、オーディションでオムツレディーと競い合った候補生の中にも幾人かいた。だけど、女性しかいないロゥリング娘が比較対象として適切とは思えない。それともブルマーと同じく、この世界では羽飾りも男女共通の装飾なのだろうか。


「どうだい? イリーガルピッチみたいでカッコイイと思うんだけど?」

「キモイ。こっち来んな」


 ぽっちゃりした色白の身体に輝くような純白のオムツと黒い羽根飾りを身に着けた【皇帝】が、レッスンを終えてステージから下りてきた。内股気味の立ちポーズをとって、常識の違いを受け入れられずにいる僕に感想を求めてくる。胴体が白く、尾羽だけが黒いイリーガルピッチをイメージしたチョイスだそうな。そんなこと尋ねられても、僕にはただの変態エロオヤジにしか見えない。


「キモイって、マイフレンドだって女装じゃないか?」

「モロリーヌは人目を忍ぶための変装だ。女装と一緒にすんな」


 今日は衣装を着けての練習なので、僕はもちろん神様からいただいたステージ衣装を着てメイクもばっちり施されている。黒いオムツに黒い羽根飾りで黒鳥っぽいイメージのヘルネストが、女装してる奴が偉そうなこと言うなと非難してきやがった。これはすべて組織の目をごまかすための変装だ。断じて女装ではないと釘を刺しておく。


「全然、動きが揃ってないじゃない。ちゃんと練習してるの?」


 は~どっこいしょとオムツ野郎どもが休憩に入ろうとしたものの、お前ら練習をサボっていたなとロミーオさんがまなじりを吊り上げてすっ飛んできた。オムツダンサーズの演技に甘いところがあるのは事実だ。学芸会のお遊戯なら悪くはないと思うけど、これでお金をいただくのは気が引けるといったところ。妥協することを知らない鬼の演出総監督様が納得してくれるはずがない。


「そうか? そこそこ揃ってると思うんだが……」

「そこそこでいいわけないでしょ。寸分たがわずきっちり揃えてちょうだい」

「マジか……」


 ヘルネストの奴は教養課程のCクラスだったころからまったく成長していない模様。このくらい目をつぶってもいいだろうと、ロミーオさんの要求水準をまったく考慮しないまま勝手に妥協していた。その「このくらい」を許さないのがAクラスなのだ。「そこそこ」とか「まあまあ」といった、どこか達していない部分を含んだ言葉は演出総監督の前では禁句。ひと言でも耳に入ろうものなら、「これ以上ないくらい最高」と胸を張れるまでリテイクの嵐が吹き荒れるに決まっている。


「あんたらの自己評価はアテにならないわっ。本番まで男子のレッスンは私が監督するから覚悟しておきなさいっ」


 お前らの自主練に任せてはおけないから直々に監督すると言い放つ演出総監督。欠片ほどの妥協も見逃すつもりはないようだ。気を抜いている奴は【ヴァイオレンス公爵】に四肢をへし折らせると言い渡され、オムツ野郎どもが恐怖に震え上がる。オムツに羽飾りをつけた半裸の漢どもが互いに寄り添ってプルプル震えている姿は、もう正視に耐えられないほどキモい。


「あんたもよ。ロゥリング娘として祭祀をする以上、完璧にこなしてもらうわ……」

「モロリーヌちゃん。今日もレッスンをがんばりましょうね」


 自分に厳しくできないなら、誰かに見張ってもらうしかない。それも止む無しかとオムツダンサーズを見守っていた僕の背後から声がかけられる。わかっていたのだ。メインを張る僕がバックダンサーより温いはずないってことくらい……


 覚悟を決めてふり返れば、僕とお揃いのステージ衣装に身を包んだ鬼より厳しいアラフォーアイドル様と魔導楽器を抱えたドクロ塾長が、さぁ地獄のレッスンを始めようと待ち構えていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 既に演習の時の公演でプッピーと共に貢物を稼いだモロリーヌだ 覚悟が違う
[一言] 紐ビキニを装着した皇帝って既出でしたっけ 男女でファッション差異がないなら褒め称えられる可能性もあるな
感想一覧
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