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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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505 やっぱり厳しいピーネちゃん

「Fuuuu――――♪」


 ステージの練習が本格化し、本日は教養課程の室内運動場を借りてグループでのダンスレッスンだ。本番のステージにあわせて仕切られた運動場の中を、半裸の男たちが声を揃えて駆け回っている。今は練習ということでオムツは穿いていない。爽やかさの欠片も感じさせないネチョッとした汗をきらめかせる野郎どもが穿いているのは――


「ううっ、キモッ……」


 ――ブルマーだった。魔導院指定の体操服は男女共にブルマーだからまったく不自然ではない。連中も当たり前のように穿きこなしているものの、ブルマーは女子が穿くものという田西宿実が持っていた固定観念に囚われている僕にとっては地獄の光景だ。オムツならステージ衣装と割り切ってしまえるのだけど、どうしてか認めたら負けのような気がして僕は心の整理をつけることができずにいた。いかなる理屈も魂が拒むのである。


「遊んでないで、あんたも練習しなさい。本番でトチったら実験体にするわよ」


 いつまでも野郎どもを眺めてんなとお叱りの声を飛ばしてきたのは神様からいただいたステージ衣装に身を包んだピーネちゃんだ。ドクロワルさんと魔性レディに全身が映る姿見を持たせて、どの角度からどう見えるのかチェックしている。ステップを踏んだ時のスカートの広がり具合まで確認する念の入れようには、さすが永遠のセンター様と舌を巻かざるを得ない。その計算し尽くされたあざとい仕種は、スルーシーさんやロライーズさんがバックダンサーに追いやられてしまうのも納得の愛くるしさを誇っていた。


「さっ、次はモロリーヌちゃんの番ですよ」


 今度は僕だと姿見を構えてニコニコしているドクロお姉さんとニヤニヤしている魔性レディに前後から挟まれる。とりあえずシーナ様が考えてくれた「栄冠は君に輝く」の振り付けをしてみたものの、我ながらいまいち決まってない。そもそもがオムツ丸出し衣装でするダンスだからだと思う。


「この振り付けは水着で踊るためのものだと思うのよね?」


 もちろんピーネちゃんも例の沐浴施設で水着ライブをやった経験があるのだろう。このボディラインを強調するようなダンスはフリルたっぷりのステージ衣装でやるもんじゃないと首を傾げている。そんな似合うはずのない振り付けでも、現役ロゥリング娘が霞むほどに魅せてくるのがこのアラフォーアイドルの恐ろしいところだ。神様がドハマリしてしまうのも仕方のないことなのかもしれない。


「水着というかオムツ用の振り付けなので……」

「あんた、自分の妹になにやらせてんのよ」


 元々は丈を詰めたノースリーブのブラウスにオムツ丸出しで踊るのだと説明したところ、実の妹を変質者にするつもりかと伯母さんに呆れられてしまった。


「ポロリは僕よりスタイルがいいですからね。身長も魔導院の新入生と同じくらいあります」

「なるほどねぇ。他がマネできない部分を売りにするのはよい判断と言えるわ」


 もっとも、ライバルの候補生が揃って量産型の清純派アイドルだったので方向性の違いを打ち出したのだと説明したところ、他がマネしても勝てない部分にフィーチャーさせるのは悪くないと納得してくれた。どいつもこいつも似たようなのばっかしとピーネちゃん自身も感じていたそうで、神殿にいる連中の頭もちょっとは柔らかくなったかとニヤニヤ笑みを浮かべている。


「なら、ちっとばかし振り付けを変えるわよ」


 この振り付けは衣装にそぐわないとアドリブを加えてピーネちゃんが通しで踊ってみせる。ぶっつけなのに一発で決めてくるところはさすがと言う他ない。


「こんなもんかしらね。じゃ、あんたやってみなさい」

「そんなの憶えてるわけないじゃないですか」

「は? あんたいったいなに見てたのよ?」


 1回見たのだから完コピくらいできて当然とぬかすピーネちゃん。クセーラさんといい、プッピーといい、どうして自分の方が異常なのだという自覚を持てないのだろう。ドクロワルさんはよくこんな師匠についていけるものだと心から感心する。


「ったく、手間のかかる姪ね。ゆっくりやったげるから、同じように動いて憶えなさい」


 僕はむしろ手間のかからない方だと思うのだけど、プロセルピーネ基準では出来の悪い生徒に分類されるようだ。一緒にやって早く憶えるようにと、ドクロワルさんと魔性レディが隣で踊るピーネちゃんの姿が映るよう姿見の位置を調整してくれた。フンフンと鼻歌でリズムをとりながら踊るピーネちゃんのマネをして、ちょっと間違えただけで罵声を浴びせられるレッスンをくり返す。なんだか、ロゥリング娘の養成所にいるポロリより厳しい地獄の特訓を受けさせられているような気がしてならない。


「あんたはもうロゥリング娘なんだから、候補生より厳しい目で見られるに決まってるでしょ」

「オゥ……」


 厳しすぎやしないかと抗議するものの、正式メンバーのレッスンが候補生より甘いわけないだろうと一蹴された。理屈の上では確かにそのとおりなのだけど、なんだかとっても釈然としない。そうなんだけどそうじゃないと、テンパった時のクセーラさんみたいな言い訳が口をついて出そうになる。


「あんたのせいで始まった企画なんだから泣き言は聞かないわよ。覚悟しなさいっ」

「モロリーヌちゃん。王都にファンクラブができるようがんばりましょうね」


 魔導院祭で祭祀をするハメになったのは、ドルオタ神に魂を売り渡した僕がステージ衣装なんて持ち帰ってきたせい。そもそもの元凶が泣き言を漏らすなと、ピーネちゃんは一切妥協しない構えだ。オムツフリーナちゃんに負けないよう、ここで名前を売って王都にファンクラブを設立するのだとドクロプロデューサーも無意味に対抗心を燃やす。


「最終目標はコートヴィヴィアーナに専用の劇場を構えて定期公演です。一緒に夢をつかみましょうっ」


 格式の高いホテルに専用の劇場を持つのだと、甲子園大会優勝や日本武道館でのコンサートが霞むレベルの目標を掲げるドクロP。志が高いのは悪いことでないけれど、もうちょっと現実的なラインを見極めていただけないだろうか。さぁ栄光に向かって駆け抜けるのだと、僕は終わりの見えないドクロ塾レッスンを受けさせられるハメになった。






「下僕、お昼寝ならちゃんとベッドでするのです」

「突っつくんじゃないよ……」


 厳しいレッスンで体力を使い果たし、僕はひんやりとした床に転がった。こんなところで寝るなと3歳児が光る棒の魔導器でオムツに包まれたお尻をつついてくる。運動場では野郎どもに代わってブルマー姿の女子たちが練習しているものの、もう太ももを堪能する気力すら湧いてこない。


「ダメですよ。衣装にしわが寄っちゃうじゃないですか」


 ステージ衣装で床をゴロゴロするなとドクロワルさんが僕を抱き上げる。そのまま壁際にあるベンチに寝かせて膝枕してくれた。ご褒美があるならドクロ塾も悪くない。ドクロ山の頂が手の届くところにあるのに、腕を持ち上げることすらできないのが残念だ。


「なにだらしない恰好してんのよ」

「プロセルピーネ先生のダンスレッスンを受けたんだ。アンドレーアもどう?」

「遠慮しとくわ……」


 ぐで~と疲れた体を休めていたところ、演奏室でレッスンしていたはずのアンドレーアがやってきた。干からびたカエルの死骸みたいだと眉をひそませる。従姉殿もいかがかと勧めてみたものの、プッピーの指導と耳にして想像がついた模様。むっちゃ嫌そうな顔でお断りされてしまった。


「演奏のレッスンはどうしたのさ?」

「演奏室の使用時間が切れちゃったのよ。あそこは演奏サークルも使うから」


 演奏室の方は借りていた時間が過ぎてしまったようだ。運動場の入り口に目を向ければ、首席たち楽団の皆さんもゾロゾロ戻ってきた。僕の姿を見つけて、なんか伸びてる奴がいるぞと寄ってくる。


「首席、演奏の方はどう?」

「難易度はそれほど高くありませんから経験者なら問題ありませんわね。木琴のふたりも演奏するだけなら充分だと思いますわ」


 誰でも弾けるようあまり技巧を要しない曲にしておいたせいか、演奏を習い始めたばかりの初心者にちょうどいい練習曲というのが首席の印象だそうな。元から楽器を扱えるメンバーは楽勝。ドヤリンガーさんとクニーケさんは初心者だけど、木琴は正しい音板を叩けさえすればいいので演奏自体は問題ない。ただ、指揮者がいないので他の楽器にあわせてリズムをとる練習がもう少し必要とのことだった。木魚連打が得意なドヤリンガーさんは、演奏中にどんどんテンポを上げていく癖があるという。


「演奏室の木琴はいつでも使えるわけではございませんから、普段から練習できる楽器があるとよろしいのですけど……」

「練習用のおもちゃを作ろうか。リズムを覚えさせるだけなら、そんなに難しくないと思う」


 田西宿実の記憶にあるリズムゲームを思い出す。演奏じゃないので音階はいらない。木魚にタイミングを指示する仕掛けをつけて、一定の間隔でポクポクさせるようなので充分だろう。タイミングを計る歯車機構はクセーラさんにお願いすればなんとかなりそうだ。


「新しいおもちゃならわたくしに寄越すのです」

「練習用なんだから、遊んで楽しいおもちゃじゃないって……」


 おもちゃと耳にしてタルトが自分に寄越せとブーブー文句を言い始めたので、遊ぶためのものではないと告げておく。とりあえず祝詞として通じるか確認するため、ひとりずつ演奏してもらうことにした。首席、メルエラ、ドヤリンガーさんが主旋律を、コワルダー指揮官、サクソフォーンの男子生徒、クニーケさんが副旋律の担当で、楽器がふたつあれば「ヴィヴィアナ様ブラヴォー」を奏でられるようにしてある。


「これならちゃんと通じるのです」


 木琴はないので、バイオリン、チェロ、シャルマール、サクソフォーンの順で演奏してもらったところ、ヴィヴィアナ様にはちゃんと伝わると3歳児が太鼓判を押してくれた。これでひと安心だ。どれどれとロミーオ演出総監督が確認にきたので合奏もしてもらう。


「演奏の方は目途がついたわっ。あんたらも気合入れなさいっ」


 メインのロゥリングシスターズとオムツフリーナちゃんに魔導楽器のドクロワルさんとアンドレーアに関しては、すでにステージを経験しているので心配していない。懸念すべきはお前たちだと演出総監督がバックダンサーの皆さんに発破をかける。さすがに男女あわせて24名ともなると、息を合わせるのが難しいのだろう。スケベ野郎どもが女子の太ももに気を取られているせいかもしれない。幾人か姿勢が前かがみになっているようだ。


「伯爵ぅ~、ボチ~オ~、いる~?」

「演出様とお呼びっ!」


 ダンサーの皆さんが練習を続けているところに、メイドゴーレム2体を引きつれたクセーラさんがやってくる。ステージで使うために改造を施してもらっていたのだけど、作業が終わったのだろう。ボッチ言うなとロミーオさんが声を荒げる。


「もう完成したの? ずいぶん早いわね」

「何度も作ってきたものだし、余ってるパーツも流用できたからねっ。クセーラさんの手にかかれば、これくらい朝飯前だよっ」


 ステージで使用するのはSH型とSV型が1台ずつに、SH型の頭部がひとつだ。完成するのが早過ぎる。本当にオーダーどおり仕上がっているのかとロミーオさんが疑いの目を向けたものの、もう目をつぶっていてもできるような作業だったとクセーラさんは自信マンマンでふんぞり返った。まぁ、そうだろう。改造はSH型の関節のいくつかを磁力関節に換装すること。クセーラさんにしてみれば、新しいゴーレム腕を作るたびにくり返してきた作業にすぎない。


 それではさっそくオープニングのリハーサルをやってみようということになり、ドクロワルさんと僕も駆り出されることになった。疲れ切った身体に鞭を打って立ち上がる。予行してみたところ、やっぱりバックダンサーの動きが揃わないものの、メイドゴーレムは期待どおりに動作してくれた。うっし、うっしと演出総監督様はご満悦だ。


「っしゃあ、王都でもそうそうお目にかかれない舞台にしてやるわよっ。パナシャ、ダエコ、衣装の方も急いでちょうだいっ」

「任せてください」

「ダイアナエリザベスコーネリアですっ。何度言ったらわかるんですかっ」


 すっかりハイになったロミーオさんが衣装係を兼任しているドクロワルさんとダエコさんに急ぐよう指示を出す。身体を動かさないと気が済まないのか、頬を紅潮させながらクネクネと怪しげなタコ踊りを始めた。興奮を抑えられないのは仕方がないにしても、スカートの奥に水色がチラチラするのを気にしないのは乙女としていかがかと思う。


「ふおぉぉぉ――――っ。漲ってきたぁぁぁ――――っ!」


 やったるで~いと拳を天に突き上げるロミーオさん。もしかしてクレクレに憑りつかれてしまったのではと不安に思いタルトに確認してみたものの、精霊の仕業でなくこれが彼女の本性なのだという答えが返ってきた。


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[一言] 巡り巡った因果によってレッスンの質を求められる立場になる。 こういう時使う3歳児格言はクソビッチの正義でよかったですっけ…?
[気になる点] 磁力関節は確か二人だけの秘密なやつでしたよね。そろそろ表に出すんでしょうか? 義手としてはそれなりの魔力が前提になってしまうけど、ヒト型ゴーレムのパーツとしてはなかなかのような気がしま…
[一言] 『コンサートをやり遂げたと思ったら、タイムリープしてピンクの綿毛が入り混じったヒヨコの精霊に転生してた』 新しい小説のネタにできそう
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