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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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502 おっぱいを知らない男たち

「先生たちは完全に包囲されています。おとなしく投降してください」

「近寄るなぁぁぁ。爆発させるぞぉぉぉ――――っ!」


 クセーラさんに案内されゴーレム研究会が立てこもった倉庫に到着した時、そこはすでにハイジャック事件でも起きたかのような騒ぎとなっていた。組み立てなどを行う作業場と一体になった平屋一戸建てタイプの倉庫を魔性レディやワーナビー先生の指示を受けた騎士課程の生徒が取り囲み、責任者であるリアリィ先生が武器を捨てて投降するよう呼びかけている。倉庫の窓から顔を出して近づいたら人質を爆発させるぞと叫んでいるのは、もちろん【自爆王】ことポゥエン先生だ。


「…………戻ろうか」

「伯爵っ。放っておくつもりなのっ?」


 こんな大騒ぎにまで発展してしまっていては、もはや収拾のつけようがない。関わりあいになるのは避け、学校側が事態を収束させるのを待つのが得策だ。法的権限を有する治安維持組織が動いているのならヒーローの出る幕じゃないとクセーラさんを説得していたところ、なぜかこちらを振り向いたリアリィ先生と目が合ってしまった。こっちへ来いと手招きされる。


「アーレイ君、事情を説明してください」

「なんで僕に聞くんです?」

「いつもいつも問題行動を起こすあなたですが、常にアーレイ君なりの理由があってのことと承知しています。あなたがここに来たということは、つまりそういうことなのでしょう?」


 事件の渦中にいることが多いものの、自分とは無関係な問題に首を突っ込んでいきたがる性質ではない。どうしてそうなるのだと湖に投げ込んでやりたくなるものの、いつだって必要なことだったのだと頑なに自分の考えを曲げなかった。その僕が現場に姿を現したということは、そうする必要性を感じての行動に決まっている。単なる野次馬であるはずがないと、一方的に決めつけるリアリィ先生。事件の背景に心当たりがあるのだろう。正直に白状しろとおっぱいを迫らせてきた。


「全部クセーラさんが悪いんです」

「ないよっ。その説明はないよっ」


 ここにいるクソビッチが孤独な老人を犯行へ駆り立てたのだと正直に話したところ、どうして筋道を立てて説明しないのだとクセーラさんがまなじりを吊り上げた。乙女を悪者に仕立て上げるのは性格が歪みまくった小心者のすることだとドスドス足を踏み鳴らす。


「わかりました。殲め……いえ、鎮圧に手を貸してください」

「ギョイッサー」

「わかっちゃうのっ? なにがわかったっていうのっ?」


 事情がわかっているなら協力するようにとリアリィ先生から言い渡される。おっぱいからの依頼を断るなんてあり得ないので、もちろんオッケーだ。あんな説明でなにがわかったのだとクセーラさんが騒ぎ立てる。


「クセーラさん。汚い大人は事情なんてどうだっていいんだ。重要なのは――」

「なにっ? なんなのっ?」


 いつもは妙に勘が冴えているクセーラさんだけど、今回に限っては状況が呑み込めていないようだ。特別に教えてあげよう。


「――責任を問われるのは誰かってことだけさっ」

「待ってっ。それ、私っ? 私じゃないよねっ?」


 追求する相手さえはっきりしていれば、罪なんてどうとでもでっち上げられる。それが人族社会ってもんだと告げたところ、もしや責められるのは自分なのかとそもそもの原因を作ったクソビッチがしがみついてきた。他に誰がいるというのだろう。なにを言っても気休めにしかならないし、美しくないとタルトが不機嫌になるから嘘は吐けない。彼女にかけてあげられる言葉が、僕にはもう残っていなかった。


「なんで黙ってるのっ? 伯爵っ。なにか言ってよっ」


 なんと告げていいかわからず困っている僕に、なんでもいいからとクセーラさんが発言を求めてくる。僕が約束してあげられるのはひとつだけだ。


「安心していいよ。なにがあっても、僕たちずっと友だちだから……」

「違うよっ。私が聞きたいのはそんな言葉じゃないよっ」


 困っている乙女を見捨てるなんて人の道に反していると、つかんだ肩をガクガク揺すぶってくるクセーラさん。そんなこと言われてもどうしようもない。僕はなんでも願いをかなえてくれるネコ型ロボットではないのだ。できることにも限界がある。


「事情聴取より、今はポゥエン先生たちを取り押さえる方が先決というだけです」


 遊んでないでさっさと手伝えとリアリィ先生に叱られてしまった。先生は近づいたら爆発させると脅してくる爆弾魔が出たという通報を受けてすっ飛んできたそうな。いったい何事かと思ったら、動機も要求もはっきりしないままポゥエン先生たちが倉庫に立てこもっているという意味不明な状況で対処に困っていたという。


「立てこもり犯はポゥエン先生とゴッツモーリ君を始めとする生徒5名です。近づいたらゴーレムを爆発させると脅すばかりで、今のところ要求らしきものはありません」


 何も知らない生徒が近づくと危険なので、とりあえず周囲を包囲して立ち入り禁止にしたらしい。倉庫を取り囲んでいる騎士課程の生徒はそのために駆り出されたようだ。魔性レディの近くには脳筋ズの姿も見える。


「どうにかしてゴーレムを取り上げることができれば、後は力尽くで取り押さえてしまえるのですけど……」


 爆発物を所持されていては部隊を突入させることもできない。今のところ被害は出ていないものの、いつまでも包囲を続けては生徒の学習に差し障りがあるとリアリィ先生がため息を漏らす。ゴーレムを取り上げるのは簡単だ。チラリと隣にいる3歳児の様子をうかがう。


「その顔はバナナと引き換えにしようと企んでいる顔だね」

「察しのよいげぼきゅはきりゃいでないのれす」


 いつもクセーラさんにお仕置きする時しているように、ゴーレムのコントロールをタルトに奪わせてしまえばことは済む。それがわかっているのか、クソ3歳児は期待に瞳を輝かせニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。さてはバナナを要求するつもりだなと、プニプニのほっぺを両側からつまんで引き延ばしてやる。どうやら、図星だったようだ。


「バナナを渡せばタルトがゴーレムを奪ってくれますけど……」

「1体につき1本で勘弁してあげるのです」

「今の時期にバナナなんてあるはずないでしょう」


 園芸サークル自慢のバナナが生るのはもう少し先になる。黄色いあんちくしょうがあれば万事解決だと告げたものの、先生のところにもバナナのストックはないそうだ。ないおっぱいは振れないとリアリィ先生が豊満なおっぱいをプルプル揺らす。


「じゃあ、どうにかしてゴーレムから引き離すしかありませんね」

「お腹が空けば出てくるのです」

「彼らが音を上げるまで、騎士課程の生徒たちを拘束し続けるわけにもいきません」


 タルトは手を貸してくれそうにない。腹が減れば諦めると食いしん坊が言うものの、包囲に生徒を動員している関係上、先生は根比べを避けたいようだ。僕としても、さっさとメイドゴーレムを確保して終わりにしたい。


「では、挑発に乗って飛び出してきたところを取り押さえましょう」

「ムジヒダネさんと違って、簡単に乗ってくれる相手ではありませんよ」

「大丈夫です。彼らの理性を失わせるものが、ここにはありますからね」


 魔性レディとワーナビー先生に作戦を説明し、倉庫の窓からでは死角になって見えないところに捕縛部隊を配置してもらう。いざという時に備えてクセーラさんに投網弾を準備させ、逃げ足が遅いという理由でリアリィ先生に抱っこしていただく。この状況を作ってくれたテロリストどもに感謝だ。


「貴様っ。羨ま……けしからんことをしておって、なんのつもりだっ?」


 ガッチリとリアリィ山脈にしがみついてゴーレム研究会の倉庫に近づくと、窓から顔を出したポゥエン先生がなに羨ましいことしてやがると額に青筋を浮かべた。ゴッツモーリ先輩たちゴレ研の生徒も、神聖なる学び舎で不謹慎だと非難の声をあげる。この人たちは己がなにを求めているのか忘れてしまったのだろうか。


「偽乳を求める異端の者どもよ。悔い改めなさい。おっぱいは嘆いておられます」

「ふざけるなっ。本物を欲したら、それこそ性犯罪者として捕らえられてしまうではないかっ。我々をだますつもりかっ」


 偽物を敬うなど本物に対する冒とくである。今すぐ考えを改めるよう説いたものの、本物には手が出せないので代用品で我慢するしかないのだと、作り物のおっぱいをありがたがる異端者どもは頑なにメイドゴーレムの引き渡しを拒んだ。この反応は予想どおりなので驚くにはあたらない。


「同意のうえであれば、なんの問題もありません。毎日、メイドとシルキーに挟まれておやすみするのも、一緒にお風呂に入ることも合法です」

「なんだとっ? まさか貴様っ?」


 僕は毎日シルヒメさんやブンザイモンさんと同衾して、釜焚き係でない方と入浴しているけど罪に問われたことなんて一度もない。ブタさんと3歳児の相手をしなければならないせいで美味しい思いができたことなんてないのだけれど、わざわざ教えてやる筋合いはないだろう。そもそも同意が得られていないことを前提に考える方がおかしいのだと指摘してやれば、ポゥエン先生を始めとする立てこもり犯は顔を真っ赤にしてブルブル震え始めた。


「だいたい、偽乳を手に入れたところでどう検品するんです? おっぱいの感触を確かめるためには、本物に触れてみるしかないんですよ」


 ここで一気に畳みかける。百聞はひと揉みにしかず。妄想でしかおっぱいを知らないおっぱい弱者は本物と比べることができないから、偽乳がオーダーどおりに仕上がっているか確認する術を持たない。確かめることすらできない偽物を本物そっくりだと思い込んで満足できる輩は、自分の思い描いた妄想おっぱいでも自作してやがれと告げたところ、おっぱいを知らない男たちは言葉にならない怨嗟の声を上げた。あと、ひと押しだ。ここぞとばかりにリアリィ山脈へ顔をうずめてみせる。


「本物、さいっこぅ……」

「どちくしょおぉぉぉ――――っ。そこを動くなぁぁぁ――――っ!」

「しねぇぇぇ――――っ!」


 やはりおっぱいは本物に限るねと微笑みかけてやれば、期待したとおり異端者どもは見境がぶっ飛ぶほどエキサイトしてくれた。怒りの咆哮を上げながら、ひとり残らず僕に向かって突進してくる。打合せどおりリアリィ先生が素早く後退し、代わりに進み出たクセーラさんが投網弾を放つ。網に絡まって身動きの取れなくなったポゥエン先生たちを、魔性レディ率いる捕縛部隊が取り押さえにかかった。


「はなせぇぇぇ――――っ。ワシらがいったい何をしたというのだっ?」

「爆弾魔がなに言ってるんですか……」


 とっ捕まったポゥエン先生があらん限りの声で無罪を主張する。メイドゴーレムは元々ゴーレム研究会のものだし、近づこうとする生徒たちを威嚇していただけで被害らしい被害はないのだけど、それでも爆弾魔は爆弾魔だ。これから反省室でひとりひとり事情聴取を行うから連れていけとリアリィ先生が命じ、偽乳を求めた異端の者どもは引っ立てられていった。この隙に僕とクセーラさんはメイドゴーレムの確保だ。


「なになに、メイドリアンSH3型……」


 倉庫に保管されていたメイドゴーレムは3体。いずれも今は王国軍に所属しているタクミナル技術仕官が基本構造を設計したというメイドリアン型なのだけど、SH3とかSV4といった枝番がついている。なんだかめっちゃ細かいなと思ったけど、ゴーレムの外見からSHがシルヒメさん、SVがシルビアさんをモデルとしたものであることが判明した。とりあえずおっぱいの感触を確かめてみたところ、綿が仕込んであるのか表面は柔らかいものの、奥に硬いものを感じる。千歩譲ってもおっぱいと呼べるシロモノではない。


「伯爵。どこ触ってるの……」

「異端者どもがどうして偽乳なんて欲しがったのかと思って確認していただけだよ」


 なるほど、これなら偽乳でも欲しくなるかとメイドゴーレムの胸元をまさぐっていたところ、今すぐその手を離せと後頭部に強化型エアバーストの砲口を突き付けられた。お人形さんを相手にわいせつ行為を働く不健全なロゥリング族は死刑だそうな。


「クセーラさんだって全裸ゴーレムでひとり遊びしてたじゃないか」

「ゴレームたんはモグラなんだからっ。服を着てなくて当たり前なんだよっ」


 全裸のゴーレムを抱きしめておやすみしていたのはどこのどいつだと思い出させてやったものの、不健全な連中とは用途が違うのだとクソビッチは言い張る。作り物の小動物で心を満たすのも偽乳に慰めを求めるのも、似たような心情ではなかろうか。


「まったく、どうしてせっかくのゴーレムなのにヒトと同じ形に拘るんだろうねっ」

「自分と身体構造がまったく異なる生き物の動きを再現できるのはクセーラさんだけだって……」


 人体と変わらないゴーレムなんて面白みに欠けると鼻息を荒げるクセーラさんには、サソリみたいな脚の本数からして違うゴーレムを扱える方が特殊なのだと告げておく。次席ですら行動プリセット機能を使わなければまともに動かせないのだ。普通の生徒には四足歩行の哺乳動物を模したゴーレムが限界だろう。


「とりあえず、無事にメイドゴーレムが手に入ったねっ。すぐに運び出しちゃおうっ」


 ゴレ研の連中が釈放される前にいただいていくぞとメイドゴーレムを立ち上がらせるクセーラさん。当たり前のように3体のゴーレムをまとめて制御するとかやめてほしい。これはもう自分のものだと、サソリゴーレムの整備にも使っている園芸サークルの鍛冶作業場へ向けて意気揚々と引き揚げていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 本人の認識はともかく、アーレイ君は他者から見ればおっぱい長者ですからね
[一言] モロリーヌも前世では触れられなかった側なのに…やはりロゥリング族になって人の心を失ってしまったのか…!
[一言] ポウェン先生はそういうお店にいけばいいんじゃないかな クセーラさんはチート持ちなのに他の凡人達と同じ目線だから残念なだけで、ドクロポチャ先生に挑戦できるくらいのポテンシャルありますよね
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