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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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490 素人のおままごと

 居眠りをしている間に何をされてしまったのか、タルトはニヤニヤ笑うだけで何も教えてくれない。もちろん、邪教徒どもは何もしていないの一点張りだ。誰ひとり真実を語ろうとしないなんて、こんな嘘と邪教に満ちた世界は滅びてしまえばいいと思う。


 わからないことは気にしても仕方がないと気を取り直し、今日は講座のないお休みの日なので狩猟に出かける。園芸サークルが収穫作業で忙しいためヘルネストもサソリゴーレムも使えないけど、オオカミにお腹いっぱい食べさせる約束でアンドレーアがロリボーデさんを連れてきた。2メートル近い身長の巨大5歳児にまで成長した【ジャイアント侯爵】は、どこぞの農奴なんかより100倍頼りになる。実にありがたい。


 生き物から採れる魔法薬材料を回収するためには解体の知識が必須ということで、ドクロワルさんと魔性レディにイモクセイさんも参加だ。獲物を教材に使う代わりにとドクロ先生がタレコミに使うタレを用意してくれた。ロゥツルペターンまで長旅をしてきたクマネストとバナナンテは疲れを抜くために休ませ、僕は久しぶりに黒スケを引っ張り出す。ドクロワルさんはイリーガルピッチで、魔性レディは地上でなら人を乗せられるくらいまで成長したコウテイグリフォンのフルールだ。ロリボーデさんが体重500キロはあるモリバイソンをそのまま運べそうな大型荷車を曳いてきたので、アンドレーアとイモクセイさんは御者台に座らせておく。


「また、お前かっ」


 猟師の人たちが使う山小屋に到着してみると、まだまだ猟期には早いというのにおっちゃんたちがたむろしている。そして、狩猟は上流階級の嗜みと宣うど素人集団、猟犬部門の連中が、ふがいない飼い主のせいで充分な獲物にありつけないかわいそうな猟犬たちを連れてきていた。僕が弓を担いでいるのを確認すると、また狩場を荒らしにきやがったなどと言いがかりをつけてくる。


「はいはい、同じ飼育サークルなんだから仲良くするのね~」


 騎乗部門とペット部門、猟犬部門に新設されたコケトリス部門も、すべて飼育サークルの一部門である。ペット部門のロリボーデさんが仲間なんだから邪険にするなと説得したものの、猟犬部門の連中は妙に排他的で納得しない。僕にはまったく心当たりがないのだけれど、どうしてか目の敵にされているようだ。


「お前らが予算をガバガバ持ってくから、こっちは備品の整備にすら苦労してんだよっ」

「あんたらがアキマヘン代表の口車に乗せられたせいだと思うけど……」

「アンドレーア、事情を知ってるの?」


 なにかと思ったら、サークル予算の分捕りあいで負けた恨みらしい。オオカミの世話を覚えるため、なし崩し的にペット部門へ参加していたアンドレーアだけど、いつの間にか予算会議へ顔を出すまでになっていた模様。アキマヘン嬢に言い負かされてガッツリ予算を持っていかれたのだと裏事情を教えてくれた。さすが思いつきチャレンジ芸人、ここぞという場面ではしっかり決めてくれる。


「お前がっ、お前なんかがいるからっ」

「なんで僕のせいなの?」

「あんたに比べれば素人のおままごとだって言われて、獲物は充分確保できるって豪語しちゃったもんだから、猟犬のエサ代として計上していた分をゴッソリ削られたのよ」

「マジか……」


 それならどうしてアキマヘン嬢でなく僕を目の敵にするのか尋ねてみたところ、ど素人が狩猟のマネ事をしているだけと評され、自分たちだって手に余るほどの獲物を狩ってこれると反論したら、待ってましたとばかりにそれならエサを購入する必要はないと予算の一番大きい部分を削られてしまったそうな。


「ロゥリング族は獲物を狩って食べないと生きていけない狩猟民族だよ。そんなのと比べてどうすんのさ?」

「知らないわよ。こっちだって台所事情は苦しいんだから、手心を加える余裕なんてないわ。言ったからには実行してもらうしかないじゃない」


 飼い犬の食事を減らさせるなんて人の心はないのかと問い質したものの、ペット部門だって裕福ではないのだから退くわけにはいかないとアンドレーアは開き直った。言われてみれば、生き物を扱っているのはどこも同じこと。飼育サークルなのだから当然だ。結果的に猟犬たちがしわ寄せを受けることになってしまったらしい。よくよく観察してみると、なんだか以前より痩せ細っているような気もする。


「なるほどねぇ。じゃあ、僕たちは違うエリアを使うから、先に選んでいいよ」

「俺たちの方が先に来てたんだから当然だろっ」


 周辺の猟場はいくつかのエリアに区分されている。同じエリアに複数のグループがいると誤射などの危険性があるので、ひとつのエリアに入れるのは1グループだけだ。どのエリアをどこのグループが使っているのかは、この山小屋で管理されている。まだ本格的な猟期を迎えていないので猟場はガラガラ。好きに選んでくれと先を譲ったら、猟犬部門のど素人どもは当然の権利だと南側にある日当たりのよいエリアを選択した。


 僕たちは西側にあるエリアを使うことにし、大型荷車は山小屋に置いてタレの詰まった樽だけ担いで猟場へ向かう。力自慢の【ジャイアント侯爵】は重量が40キロ近くある樽を軽々と担いで汗ひとつかかない。もう本当に人族なのか疑わしく思えてくる。


「覚悟してはいたけど、子連ればっかりだね……」

「赤ちゃんを連れているメスに手を出してはいけないのですよ」


 猟場に到着して魔力を頼りに獲物を物色するものの、今年産まれたと思われる幼獣が一緒だ。赤ちゃんから母親を奪うのは許さないと3歳児がイーッを連発する。僕も狩るつもりはない。親を殺すのは幼獣を殺すのも同然で、それをくり返しているといずれ獲物がいなくなってしまう。そのため、子育て中の獲物には手出し禁止というルールがあるのだ。


「これは幸先がいいね。【月の女神】様がご利益をくださったかな?」


 しばらく獲物を探していたところ、運よく独身のメス鹿を見つけることができた。出産には莫大なエネルギーが費やされるので、子供を産んだメスは脂がすっかり落ちて美味しくなくなってしまうのだけど、こいつは体つきがふっくらしている。上手いこと受胎できなかったのか、今年は出産しなかったのだろう。時期を考えれば大アタリと言って差し支えない。


「あんたと比べられるなんて、猟犬部門の連中が憐れに思えてきたわ……」

「こんな見通しの悪い森の中で居場所を正確につかまれてるなんて、相手にとっては悪夢でしかないわね」


 水を飲みに沢へ下りてきたところをサクッと射貫けば、ザリガニを釣るみたいに大物を仕留めやがってとアンドレーアが顔をしかめさせていた。木々が葉を落としていない今の時期、藪の向こうにクマが潜んでいても人族では気づけないのに、ロゥリング族には百メートル以上離れたところから捕捉されているなんて不公平が過ぎると魔性レディも呆れたようにため息を吐き出す。グリフォンにオオカミどもまで同感なのか、賛同するように鼻を鳴らしやがった。ご主人様に甘やかされて、人喰い魔獣のプライドをすっかり失ってしまったようだ。


 このシカはアタリなのでタレコミにすることに決め、さっそく魔性レディが魔術で心臓を動かし血を抜いてタレを仕込む。獲物は沢に沈めて冷やし、その間にドクロ先生が取り出した腹わたをバラして臓器の説明をしてくれた。アンドレーアやイモクセイさんは少しばかり顔色を青褪めさせていたものの、素材の目利きができない薬師はインチキ問屋からカモにされると耳にして覚悟を決めた模様。むっちゃ嫌そうな表情を浮かべながらホカホカの腹わたをいじくり回している。


「干した形で売られていますので、持ち帰って加工してみましょう。実際に使用する際には挽いて粉末にしますけど、流通段階で粉末にされているものは絶対に信用しちゃダメです」


 いくつかの臓器は持ち帰って干すそうだ。肝臓らしき臓器をドクロワルさんが皮袋に詰めている。作業を眺めている最中、少し沢を登ったあたりに獲物らしき魔力を感知したので確認に向かったところ、体重が100キロを超えていそうな大イノシシがいた。メスだけど幼獣は連れていない。体つきから察するに繁殖年齢を過ぎたのだろう。オオカミたちにちょうどいい獲物なのでありがたく仕留めさせていただく。


「イノシシを仕留めたから、獲物を持って移動しよう」

「もう? そんなザリガニみたいに次から次へと獲ってくんじゃないわよ」


 みんなのところへ戻ってイノシシを仕留めたと伝えたところ、なんてせっかちな野郎だとアンドレーアに呆れられた。腹わたを抜いたシカを【ジャイアント侯爵】に担いでもらい、倒れているイノシシのもとへ移動する。こちらはオオカミとグリフォンに食べさせるのでタレコミは行わず血と腹わたを抜く。早く食べさせてくれとグリフォンが突っついてきて、オオカミたちが鼻先をこすりつけてくるものの、他の獣が寄ってくると面倒なのでここではダメだ。獲物はこれで充分だろうと判断し山小屋まで引き揚げることにした。


 猟期になれば猟師のおっちゃんたちの拠点となる山小屋には、獲物を解体したり皮を剥いだりするための作業場がある。イノシシを半身の枝肉にして与えれば、食いしん坊どもは大喜びして尻尾をフリフリしながら喰らいついた。前脚で押さえた肉からでっかい嘴で肉を千切り取って呑み込むコウテイグリフォンの獰猛な姿に、山小屋の管理をしていたおっちゃんがビビリまくっている。


「獲れたばかりの大イノシシをポンと半分くれるなんて、伯爵は太っ腹なのね~」

「ふとっぱら……」


 今日はお腹いっぱい食べさせてあげられるとロリボーデさんは大喜びだ。気前が良いという意味の言葉にドクロワルさんが反応しているので、迂闊な発言は控えていただきたい。グリフォンとオオカミ2頭がムシャムシャと食事を続け、枝肉があばら骨の突き出した死骸のようになってきたころ、猟犬部門の連中も引き揚げてきた。収獲はヤマドリと野ウサギが1羽ずつに、タヌキとイタチを1頭ずつだそうな。


「タヌキにイタチって、どうすんのソレ?」

「うっさいなっ。毛皮には使い道もあるだろっ」


 タヌキとかイタチは腐った動物の死骸なんかも口にしているため、肉は臭くて食べられたものではない。サルマタに比べれば多少はマシといったレベルだ。そんなハズレをどうするつもりだと問い質したところ、猟犬部門のひとりが毛皮には価値があると言い張った。間違ってはいないものの、それはたくさん集めてなめし処理する場合の話。こんなちょっぴりでは採算割れするに決まっている。


「ナニアレ? お前、なにを狩ってきたの?」

「繁殖年齢を過ぎたメスのイノシシだよ。オオカミにはご馳走だからね」


 グリフォンとオオカミが枝肉をガツガツやっているのに気づいたひとりが、アレはなんだと尋ねてきた。今はイノシシが美味しい季節ではないから僕たちにとっては硬い赤身肉でしかないけど、肉食魔獣にしてみれば栄養満点なご馳走なのだと説明してあげる。猟犬たちが仲間に入りたそうに様子をうかがっていたものの、もちろん食べ物を譲ってくれるような食いしん坊どもではない。こんな時ばかり人喰い魔獣の迫力を見せつけて不埒物を追っ払う。


「はぁ、あのクマが仕留められていればなぁ……」


 猟犬部門の連中はクマと出遭っていた模様。しかも急所を外しやがったらしく、怒って向かってきてくれれば罠にハメて仕留められたのにと聞き捨てならないことを口にする。


「まさか、クマを手負いにしたまま逃がしたの? この猟場を使うのは僕たちだけじゃないんだよ」

「それはわかってるけど、罠のないところまで追いかけるのは危険すぎるだろ」


 ロープを使った罠で絡めとって魔導砲で仕留めるつもりだったのに、向かってこず逃げていった。深追いするのは危険なので諦めたと言い訳する猟犬部門のアホタレ。手負いのクマが潜んでいることを知らない猟師のおっちゃんが襲われたらどうするつもりなのだろう。それでなくとも怪我を負った獣というのは他の個体に縄張りを奪われたり、獲物が上手く仕留められなくなったという理由で食べ物が手に入りやすい人里近くまで下りてくるから危険なのだ。クマに手を出すなら確実に仕留めろとパンチくれてやりたい。


「だいたい、狩猟に魔導砲って正気なの。獲物をバラバラに吹っ飛ばしてどうすんのさ?」

「クマなんて下手な魔物よりよっぽど危険じゃないか」

「なら、手を出さないのが正解だね。そんなザマだから素人のおままごとなんて言われるんだよ」

「なんだとっ」


 遠征の目的は魔物を間引くことだから倒せばそれで達成だけど、狩猟は獲物を利用できなければ意味がない。内臓を傷つけたり、毛皮を穴だらけにしたら、それだけですべてが台無しになる。しょせん、こいつらは脳筋ズの同類。アキマヘン嬢の例えは正鵠を射ていたようだ。


「アンドレーア、残っているイノシシの枝肉を猟犬たちにやっておいて。僕は確かめておきたいことがあるんで、ちょっと見回りに行ってくるから……」

「下僕。わたくしも一緒に行くのですよ」


 他人の尻拭いなんて面倒だけど、魔導院の生徒がクマを手負いにしたまま放置して被害が出たなんてことになったらリアリィ先生の仕事が増えてしまうし、お前はなにをしていたとプロセルピーネ先生から問い詰められることは確実だ。知ってしまった以上、対処しておくしかないだろう。ど素人にこき使われているかわいそうな猟犬たちに食べ物を与えるよう指示して黒スケを引っ張り出せば、自分も連れて行けとタルトが鞍によじ登ってきた。弓が引けないという理由で断ったら、弓を使うつもりであることがバレてしまうので、仕方なく鞍の上に引っ張り上げてやる。


 ちょっとひと回りしてくるだけだからと告げて山小屋を発ち、猟犬部門の連中が使っていたエリアに向かう。おおよその場所とクマが逃げた方向は聞き出しておいたのでロゥリングレーダーを頼りに捜索すれば、怒りをムンムンと発しながらもじっとして動かない魔力が見つかった。その隣から不安に怯える小さな魔力を感じる。なるほど、タルトが一緒にきたがった理由はこいつのようだ。


「子育て中の母熊だったのか。あんのど素人どもが……」


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― 新着の感想 ―
[一言] 状況を知ってしまったら動かざるを得ない案件とはいえ、 アーレイ君も貧乏クジばかり引きますな
[一言] 現実の熊も執念深いのでそれに輪を掛けて子育て中の熊に手を出すのは普通に死刑案件である(北海道の熊の事件の例を見るに)
[一言] 大丈夫ですよモロリーヌ、邪教的なサバトはそこでにやにやしている君のご主人様が絶対に許さないからね。 それにしても母熊が傷ついた子熊はどうなってしまうんだろう…3歳児が哀しむ結末にならないとい…
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