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道案内の少女  作者: 小睦 博
第16章 誰もが成長する季節

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489 卒業に向けて考えること

 秋学期が始まって数日が経つと、なにやら学年トップの連中が挙動不審になり始めた。講義の終わった教室の隅で首席とカリューア姉妹にロミーオさんとイモクセイさんまで加わって、ヒソヒソ話でもしているかのように頭を突き合わせてウンウン唸っている。


「みんな揃って便秘にでもなったかな?」

「あんたのせいだってへカテリーナが青筋浮かべてたわ」

「なんで僕のせいで便秘に?」

「誰も便秘だなんて言ってないでしょ」


 離れた場所からヤレヤレと様子を眺めていたアンドレーアに尋ねてみたところ、ドクロワルさんが卒業までの研究スケジュールを明かしたせいだという。最終学年の秋学期にまた注目を集めそうな研究発表を予定していると知って、このまま手をこまねいていては存在感を示せないまま埋もれてしまうと焦っているそうな。


「あんたがモリバイソンの胆石なんて希少素材を採ってくるからよ。それをドクロワルが1年以上かけて研究を仕上げるって言うもんだから……」


 最終学年の研究発表をどうするか。今から本腰を入れて考えておかなければドクロ博士に太刀打ちできなくなると、学年上位陣が揃って頭を悩ませているらしい。特に昨年の攪拌術式が普及型ドクロ式プラントに正式採用された首席と、プロセルピーネ先生の下で一緒に薬学を学んでいるイモクセイさんはアシスタント扱いされてしまう可能性が高いそうだ。ちなみにアンドレーアはもうアシスタント研究員になることを引き受けていて、実験なんかのお手伝いをさせてもらう予定だという。


「なにその低い志は?」

「仕方ないでしょ。調合の指導だって、ほとんどドクロワルにしてもらってんのよ」


 イモクセイさんとアンドレーアは工師課程でも魔法薬調合を専攻しているのだけれど、実際の指導者はドクロワルさんでプッピーは見ているだけなことが多いそうだ。敵わないことが明白であるなら、お手伝いして経験を積む方が得ではないかとアンドレーアがふんぞり返る。呆れるほどに低い志であるものの、向上心まで捨ててない分、父親のアーレイ子爵よりはマシと認めざるを得ない。


「ふ~ん……それで、これは君がやらせてんの?」

「そんなわけないでしょ。あんたのオムツに齧りつくなんて死んでもお断りだわ」


 それはそうとして、どうしてかアンドレーアのオオカミがオムツに包まれた僕のお尻を執拗にガブガブ甘噛みしてきていた。いったい何のつもりだと使役しているご主人様に尋ねてみたものの、アンドレーアが命令してやらせているわけではないそうだ。


「骨を欲しがっているのです」

「骨くらい買ってあげなよ」

「思った以上に手に入りずらいのよね」


 首筋をモフモフして楽しんでいた3歳児が、ガリガリ齧るための骨をおねだりしているのだと教えてくれる。家畜の骨くらい簡単に手に入るだろうと僕は考えていたのだけれど、アンドレーアによればそうでもないらしい。街の住民が利用する肉の小売店は部位ごとに切り分けられた肉をブロック単位で仕入れていて、基本的に骨は入荷しないそうだ。卸売業者なら骨も手に入るものの、小口の注文は受け付けてもらえないので、お店でたまたまスペアリブを見つけた時に買ってあげるくらいしかないという。


「じゃあ、また獲物を狩ってくるから培養素を抽出してよ」

「そんなんでいいなら引き受けるけど、あんた気軽に言うわね」

「アレがないとタルトが正気を保てなくなるんだ」

「下僕はよくわかっているのです」


 ロリヴァはプルプル成分さえあればその時期に採れる果物でいろんな味を楽しめるから、際限なく舌を肥えさせていく食いしん坊を満足させるのに最適なのだ。抽出作業はドクロ式プラントを扱う練習にちょうどいいと利害が一致し、骨だけでなく肉にもありつけると察したオオカミが僕に圧し掛かってきた。まだドクロワルさんには及ばないものの、すでに体重は僕を超えているので押し倒されてしまう。野生では人喰いなはずのオオカミだけど、使役者が甘やかすせいですっかり甘えん坊に育った模様。ご馳走クレクレと頬をペロペロ舐めてくる。


「おもぉぉぉ……。アンドレーア、こいつをどか――さなくていいや……」


 助けてくれと従姉殿の足へ手を伸ばす。その先に遠征実習で少し引き締まったものの、まだまだプヨッとしたいい感じの太ももが見えた。スカートに隠された暗がりの奥はシークレットゾーンだけど、ドワーフの洞窟で鍛えられたモロニダスアイの暗視力をもってすれば見通すことなど容易い。クワワッ……と目を見開いてターゲットを凝視すれば、そこに見えたのはかわいらしい三角形をした布ではなく…………ブタさんだった。


「穿いてないっ? アンドレーア、穿いてないのっ?」

「なななっ?」


 ブタさんはタルトによって仕掛けられた直視できてはいけないものを隠してしまう術式だ。それが現れたということは……答えはひとつしかない。


「大変だよっ。アンドレーアが色仕掛けで伯爵を誘惑してるよっ」

「アンドレーアさん。ここは教室でございますのよ。場所柄というものをわきまえて……」

「違いますっ。ちゃんと穿いてますっ」


 僕の声にまず反応したのはクセーラさんだった。あいつ、穿いてないスカートの中を見せつけてやがるぞとアンドレーアを指さし、パブリックな場所とプライベートスペースの区別もつかんのかと首席がまなじりを吊り上げる。ちゃんと穿いていると慌ててスカートをめくりあげるアンドレーア。そこにさっきいたはずのブタさんはおらず、ちゃんと縞々のおパンツ様が鎮座していらっしゃった。


「プププ……こんな簡単ないたずらに引っかかるなんて、下僕もまだまだなのです」

「騙したねっ。僕を騙したねっ!」


 そんなバナナと縞々から目を離せない僕の隣で、あっさり引っかかりやがったと3歳児が笑い転げていた。ブタさんはタルトが魔術で見せているものなので、その気になれば自由に出現させられる。その向こうに見たことのない世界が広がっているというピュアな思い込みを利用して、穿いていないと勘違いさせる卑劣な罠だ。


「あんだっ。こっそりのぞいてたわねっ」

「ぎょえぇぇぇ…………」


 おのれタルトと窓から放り捨ててやろうと思ったものの、スカートの中をのぞかれていたと察したアンドレーアにとっ捕まって首を締め上げられる。不用心なのが悪いと考えるのは僕だけだろうか。男の子の好奇心を刺激する自覚なき誘惑こそ罪だと思う。


「まったく、アーレイ家の方々は人騒がせでございますわね」


 どこまでもはた迷惑な連中だと首席が嘆息し、僕のせいでアーレイ家に問題があるように思われてしまったではないかとエキサイトしたアンドレーアがさらにギュウギュウ締め上げてきた。首席が口にした人騒がせなアーレイ家の筆頭はアーレイ子爵に違いないのだけど、自分のパパがクーデターに加担したくなるレベルでペドロリアン家から目の敵にされていることをご存じないようだ。


「パンツをチラチラさせているくらいなら、さっさと孕んでしまうのです」

「ほぎゃあぁぁぁ――――っ!」


 このままではくびり殺されてしまう。助けを求めようとしたところ、いつの間にかアンドレーアの背後に回り込んだタルトがガバリとスカートをめくりあげた。グワシと秘密の縞々に手をかけられた従姉殿が、鼓膜が破裂するのではないかと思えるほどものスゴイ金切り声を上げる。


「生き物はみんな赤ちゃんが産めるようになったら繁殖を始めるというのに、どうしてお前たちはいつまでもグズグズしているのですか? 赤ちゃんが嫌いなのですか?」

「やっ、やめっ? ひっぱらないでっ!」


 もう身体は充分に成長したのだから、今すぐ身ごもってしまえと縞々をグイグイ力任せに引っ張るタルト。性的に成熟したら繁殖に取りかかるのが当たり前という理屈のようだ。ほとんどの生物は実際そのとおりなのだから、精霊にしてみれば人族の方が異常に感じられるのかもしれない。僕を放り出したアンドレーアが縞々を両手で押さえて必死に抵抗するものの、なにをやってもセクハラにならない3歳児は容赦なくはぎ取りにかかる。首席を始めとする女子たちは、次の標的にされることをおそれて遠巻きに眺めているだけだ。


「ほら、コテージに戻るよ。シルヒメさんが揚げあんパンを用意してくれてるはずだからね」

「ペッ……ビッチにかまっている暇なんてないのです」


 アンドレーアがマジ泣きになってきたので、仕方なく食いしん坊にランチがまだであることを思い出させてやる。構成棟のカフェで提供されている具なし揚げパンでは満足しなくなってしまったため、手間だけど都度シルヒメさんに作ってもらっているのだ。早く食べに戻ろうと勧めれば、思ったとおり縞々から手を放してくれた。


「あんたっ。自分の精霊なんだからちゃんと見張ってなさいよっ」

「僕は下僕だから、ご主人様には逆らえないんだ」

「嘘だよっ。伯爵は立場が弱いことを言い訳にしてるだけだよっ」


 荒ぶる3歳児を恐れて机の向こうに回り込んだアンドレーアが、恩知らずにも僕の監督責任を追及してきやがった。タルトはご主人様なうえに教員でもある。僕にはそのような義務はおろか権限すらないと否定したところ、下僕という立場を利用して責任から逃れていると今度はクセーラさんが言いがかりをつけてきた。これほど単純な主従関係を理解できないなんて、やはりクソビッチに理屈は通用しないようだ。


「ビッチなんて放っておいて揚げたパンをいただくのです。グズな下僕は嫌いなのですよ」

「ギョイッサーッ」


 タルトはもう揚げあんパンのことしか頭にない模様。ハリー、ハリーと僕の腕を引っ張ってくる。このとおり、僕にはイエスと答えることしか許されていないのだと告げて教室を後にすれば、ご馳走に期待した精霊たちがゾロゾロついてきてしまった。






 夜になって夕食を済ませた後は久しぶりにベリノーチ先生とのコスプレ補修だ。本日は魔導院の女子制服を指定させていただいた。ムチムチ女教師の制服姿はなんとも言えない趣があって素晴らしい。ちなみに、僕はおなじみとなったモロリーヌの格好である。


「最初の言語を研究発表にですか? テーマは悪くないと思いますけど、そもそもモロリーヌさんはその言語をどうしたいと考えているのですか?」


 格好を指定できる約束なので、いつもの鉄仮面は外してもらっている。最初の言語に対する教員の注目度がどのようなものか尋ねてみたところ、先生は可愛らしい童顔を傾げて逆に問い返してきた。


「どうとは……」

「自分だけの秘密にしておきたいのか、広く普及させたいと考えているのかということです。秘密にするというのなら、神々の言語もただの秘匿術式と変わりません」


 最初の言語を自分だけのものにするなら、数多くある秘匿術式のひとつにすぎなくなる。仕組みや構造を公開して誰でも研究可能にすることもできるけど、そうなれば僕に残るのは名誉だけとなるだろう。少なくとも直接的な利益をもたらしてはくれなくなると予想を口にするベリノーチ先生。研究に取りかかる前に、まずは僕自身のスタンスをはっきりさせておくべきだそうな。


「それから、はっきり言っておきます。アーレイ君がどちらを選ぼうとも、長い時間が過ぎれば結局は同じ結果になるでしょう。人族の発展とか、次世代に知識を遺すなんて義務感に囚われることはありません。自分にとってどちらが望ましいかで選んでください」


 そして、こうしなきゃいけないとか、こうするべきなんて考えは全部捨てて、僕自身の利益を優先するよう指示してきた。僕だけの秘密にすればそれは秘匿術式となり、知識を受け継ぐ子孫が絶えたときに最初の言語は再び地上から失われる。だけど、公開すれば違う結果になるかと言えばそうでもない。僕の後継者を自称する連中に己の権威を確立するための道具とされ、西方系の魔術語であったのと同じことがくり返される。【大賢人】様の残した魔術語が廃れてしまったように、やっぱり人族のもとから失われてしまうだろう。だから、未来のことは未来の連中に任せて、己の都合で判断すればよいのだと先生は肩をすくめてみせた。


「クックック……仮面ビッチもなかなかに思慮深いではありませんか」

「マスターを甘く見ないでいただきたい」


 先生の未来予想を耳にして、マッチョなガタイに顔だけは美人のお姉さんというゲイ霊に肩車してもらっていた3歳児がわかっているではないかとニヤニヤ笑う。タルトに【真紅の茨】もやっぱり同じ考えのようだ。いずれ忘れ去られてしまうもの。それを動かしがたい大前提としているように感じられる。


「今すぐ決める必要はありません。ゆっくり考えるといいですよ」


 焦ったところでよい考えは浮かんでこない。しばらく時間を置いてから決めた方がよいとベリノーチ先生が僕を膝の上に抱き上げて、ヨチヨチとほっぺをナデナデしてくれた。柔らかいおっぱいの温もりが伝わってくるけど、これは僕が居眠りをした隙にけしからんポーズを取らせてデッサンしようという邪教徒の卑劣な罠だ。僕は騙されない。そんな手に引っかかって堪るものかと気合を入れなおし、せっかくなのでボリューム満点なおっぱいとプヨッとしたボディの感触を堪能させていただく。


 気がつけばいつの間にか真夜中になっていて、僕はいつもの寝室にタルトと一緒に寝かされていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] アンドレーアは現実が見えてるタイプなのに、(父親の感情を除けば)自分の婚姻相手に一番適してる相手の事となると感情的になりますねぇ
[一言] アンドレーアは痴女だから履いてない可能性はあった
[一言] また寝かしつけられた感じですね…そういう体質なんだろうか?
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