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道案内の少女  作者: 小睦 博
第15章 ロゥリング族の都へ

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473 メンドリの復活

 大急ぎでタレを用意してもらった翌日、僕たちは美味しそうな獲物を求めて凶暴な魔獣の跋扈する森を進んでいた。同行するのはマルダーのおっさんとシアちゃんの他、ロゥリング族が4名とタレの詰まった樽を担いだドワーフのふたり。行く手を阻む邪魔者は鏃に魔力結晶を仕込んだグレネード矢でことごとく爆殺だ。獲物を狩るたびに補充できるので、パチンコ玉クラスの魔力結晶は消耗品でしかないらしい。日向ぼっこをしているところに問答無用でグレネード4連発をくらったジラントは、かわいそうに頭がなくなってしまった。


「シカラバだ。私が仕留めよう」


 水場になっている沢の近くで、バナナンテたちが脱穀して食べていた植物の実をモグモグしている獲物を発見。角と背中にある斑点のせいでシカに見えるのだけど、実は馬と近縁な魔獣だそうな。マルダーのおっちゃんが任せろと弓に矢をつがえ、しからば御免と後頭部を一発で射貫いてみせた。動かなくなった獲物に近づいてみれば、なるほど蹄が割れていない。こいつは馬の仲間である。


 まだ若いオスという話なものの、体重なら300キロはあるだろう。モウヴィヴィアーナの辺りでこの大きさのシカといったら充分大物なのだけど、馬だと知った途端に貧弱な坊やとしか思えなくなってしまった。心の作用というやつが不思議でならない。


「タッレコッミ、タッレコッミ……」

「踊ってないで、脚を動かしてください」


 マルダーのおっさんから薄口でタレコミするよう依頼された。首の太い動脈に血液排出用の注射針を、静脈にタレを吸い上げる針を刺して心臓を動かす。ヒャハーとシアちゃんが小躍りしていたので、細い血管に血が残らないよう獲物の脚を屈伸させるように言いつける。遊んでいるだけの役立たずがご馳走にありつけると思ったら大間違いだ。


 シカラバをタレコミしている間に、手の空いているロゥリング族がイノシシを狩ってくる。脂の乗っていない時期にもかかわらず体重が100キロを超えていそうなメスだ。保存食にするから濃口でタレコミするよう頼まれた。おっさんの集落には魔力同調を使える者がいないので、タレコミした肉は他の集落からのお裾分けでしか手に入らないらしい。どいつも、こいつも、すっかり浮かれあがってやがる。


「モリバイソンの肉も残ってるし、今晩は食べ放題だな。君たちも仲間を連れて来るといい」

「さっすが旦那。太っ腹でいらっしゃる」


 塩漬けや燻製にするのがもったいない部位は傷んでしまわないうちに放出しようと、マルダーのおっさんがドワーフたちを肉の宴に誘う。彼らは山脈を抜けるトンネルを管理しているドワーフで、いろいろ力仕事を請け負ってくれているそうだ。極上の肉がより取り見取りなんてロゥリング族最高。略してロリ最高と、イケナイ方面に勘違いされそうな台詞を口走りながらドワーフどもが喜びのタコ踊りを披露した。お巡りさんを呼んだ方がいいかもしんない。


 イノシシのタレコミを済ませて腹わたを抜いたら獲物を運んで集落へ戻るおっさんたちと別れ、しばらくメンドリと森の中を駆けまわってから帰ることにする。慣れない連中につき合わされていたので、こいつにはリハビリが必要だ。僕ひとりでも大丈夫と伝えたものの、危ないから一緒にくるとシアちゃんが強硬に言い張った。逃げるだけならクソビッチのおならで充分だというのに、グレネード矢の詰まった矢筒を抱えている。


「それじゃ、久しぶりだろうから最初はゆっくりいこうか」


 まずはウォーミングアップからだ。ジョギングするようなテンポでメンドリを駆けさせる。僕がなにをさせようとしているのか、そもそも理解できていない持ち替え派の雄鶏よりはるかにマシなものの、黒スケやイリーガルピッチに比べるとやっぱり反応が鈍い。合図を出してからほんの一瞬だけ、なにか迷っているような間が入る。考えていることがかみ合わない乗り手に、それでもどうにか合わせようと苦労してきたのだろう。焦らなくていいからと、ひとつひとつの指示を確認するように合図を出してやれば、だんだんと動きが鋭くなってきた。


「いいぞ。まともに扱いきれなかった連中に、本当のお前を見せつけてやろうぢゃないか」


 どこか乗り手の反応をうかがっているような素振りを見せていたメンドリだけど、跨っているのが僕ならばそんな気遣いは無用。むしろパフォーマンスを落とす要因でしかないと、ようやく飲み込んでくれたらしい。こちらの様子をうかがうことをやめ、前だけを向いて駆けることに集中し始めた。ロリオカンが仕上げただけあって、本気になったメンドリはイリーガルピッチに劣らない。ブランクがあるにもかかわらず、僕の思い描いたとおりに森の中を駆け抜けていく。


「待って~。待ちなさ~い」


 風となって木々の間を吹き抜けていくような爽快感に、ついついスピードを上げ過ぎてしまったようだ。まだ3歳で訓練中の雌鶏がついてこれるはずもなく、ジリジリと離されていくことに焦りを覚えたのかシアちゃんが止まるように告げてきた。待てと言われて待つアホゥなんているわけない。


「止まって~。止まらないと撃つわよ~」


 僕にスピードを落とすつもりがないと見て、とうとうシアちゃんがグレネード矢を取り出した。止まらなければ撃つぞと、まるでポリスメンのような台詞を叫びながら弓に矢をつがえる。僕たちがそんなものに当たると思ったら大間違いだ。


「もうっ、本当に当たっちゃっても知らないわよっ」


 シアちゃんの弓に魔力が収束していく。僕の弓と同じく、普段は軽く引けて魔法陣を発動させると強弓になるタイプだろう。悪いけど、ロゥリング感覚で攻撃タイミングを察知できることはクッコロちゃんと戦った経験上わかっているのだ。相手が攻撃動作へと移った瞬間、右足でひとつ合図を出してやれば、間髪を入れずメンドリが右側の翼だけを開いた。


「そんなっ?」


 フラッピングスピンで急激に進行方向を変えるメンドリ。僕たちの頭上を飛び越えて前方で爆発する予定だったグレネード矢は、まったく見当違いの方向へと飛んでいって罪のない1本の樹に着弾した。葉っぱに隠れて休んでいたデッサイスフィールがビックリして飛び去っていく。魔法陣が発動する直前、もう照準を修正する間のないタイミングで回避すればまず当たることはない。狙いが正確なだけに、まぐれ当たりなんてあり得ないのだ。今の僕を狙うなら、絨毯爆撃のような逃げ場のない攻撃に巻き込むのが正解である。


「ふはははっ。どこを狙っているのかねっ」


 かつての姿を取り戻したメンドリは、もう僕の思うがままに動いてくれる。細かい進路変更をくり返してチョロチョロと木々の間を縫うように進めば、シアちゃんはまともに狙いを定めることさえできない。そして、弓で狙うことに気を取られて指示が疎かになった分、コケトリスの脚は鈍るに決まっていた。僕との差はどんどん広がり、遮蔽物が多すぎて弓では狙えないほどの距離が開いてしまう。


「やぁだぁぁぁ――――っ。おいでがないでよぉぉぉ――――っ!」


 少々ぶっちぎり過ぎてしまったようだ。シアちゃんから泣きが入ったので、手綱を引いて追いついてくるのを待つ。僕たちのところまできた時、ずいぶんと追い立てられたのかシアちゃんの雌鶏は力なく項垂れていた。とりあえず休ませようと、近くにある沢まで移動して水を飲ませてあげる。


「この子、なんなのっ? あの鋭い動きはなにっ?」

「あれが本来のこいつだよ。ジュニア競技用って言われてるけど、それはチャンピオンを目指して訓練された雄鶏には敵わないって意味でね」


 シニア級でも通用するのではないか。どこがジュニア級の練習用だとシアちゃんがまなじりを吊り上げて僕を問い詰めてくる。世の中には一番でなければ全部三流という、要求水準の狂った連中がいるのだ。第3者がデカい口を叩いているだけなら聞き流しておけばいいものの、ロリオカンやプッピーはそれを実践した挙句、周囲にまで同じレベルを求めてくるからタチが悪い。


 優勝を競い合うようなトップ層の雄鶏に比べたら見劣りする。このメンドリを仕込んだ奴は、それをジュニア競技用と表現するような狂人なのだと説明したところ、そんなの詐称もいいところだとシアちゃんはふくれっ面になった。僕も心からそう思う。


「こいつはトップクラスの競技者が出荷しても大丈夫と判断する程度には仕上げられてる。訓練中の若鶏が追いつける相手じゃないんだから、無理させちゃダメだよ」


 シアちゃんの雌鶏はもちろん彼女が訓練しているのだけど、最初からひとりで訓練を受け持ったのは初めてだそうな。ロリオカンのメンドリに追いつけないのは当たり前だから、努力や根性でどうにかさせようと追い立ててはいけないと言い聞かせておく。水場近くにバナナンテたちが脱穀して食べていた植物が実をつけていたので刈り取り、平たい石の上でゴリゴリして殻を割る。出てきた薄黄色の実を集めて「ご苦労さん」とシアちゃんの雌鶏に食べさせてあげたところ、その様子を眺めていたメンドリが僕を突っついてきやがった。


「お前、卑しい性格までイリーガルピッチに似なくていいんだぞ……」


 どうして自分にご褒美がないのかと憤慨するメンドリ。体力を使い果たしてしまった若鶏に食べ物を譲るくらいの気遣いはないのだろうか。姉妹揃って意地汚いことこの上ない。仕方がないのでシアちゃんにも手伝ってもらい、脱穀した実をメンドリにも食べさせてやる。


「この子、すっごくあなたに懐いているのね。こんなわがままな姿、初めて見たわ……」


 食べ物をくれとおねだりするメンドリの様子に、ずっと聞き分けのいい雌鶏だと思っていたのに、実は遠慮していただけなのかとシアちゃんがため息をつく。それはつまり、わがままを言うほど気を許していなかったということだ。自分を乗りこなせない連中から使えない奴と評価され、長いこと肩身の狭い思いをしてきたのだから、それは仕方のないことだと思う。


「じゃあ、競技会で見せつけてやろうか。誰ひとり、お前を乗りこなせていなかったんだってね」


 こいつは僕がまだ実家にいたころ世話をしていたメンドリの一羽だ。イリーガルピッチの姉妹だけで5羽もいたので、その中のどいつかまでは判別できないけど、家族も同然の大切なコケトリスであることに違いはない。不当な低評価を受けているなら、この手で覆してくれよう。見る目のない連中に思い知らせてやるぞと声をかければ、メンドリもその気になってくれた模様。グーグーとやる気に満ちたうなり声を上げた。


 若鶏が元気を取り戻すのを待って集落へ戻る。到着すると、すでに広場ではバーベキューパーティーの支度が始められていた。タルトの奴はと言えば、ヒヨコたちとお昼寝の真っ最中だったようだ。母鶏が帰ってきたことに気づいたヒヨコたちが駆け寄ってきて、3歳児も目を覚ます。


「ヒヨコがとられてしまったのです」

「母親なんだから当たり前でしょ」


 むぅむぅ目をこすりながら、ヒヨコがあっちへ行ってしまったと僕に不満を漏らすタルト。クマネストがご主人様の頬をペロペロして慰めてくれる。クッコロちゃんも今日は3歳児につき合ってヒヨコたちの相手をしてくれていたようだ。かわいいヒヨコがいなくなってしまった。この落とし前をどうつけてくれるのかと、頬を膨らませてブーブー言いがかりをつけてくる。


「今日は美味しいお肉が食べ放題なんだ」

「ナラバヨシ」

「全然よくないのです。わたくしは甘いお菓子が食べたいのです」


 今夜は肉の宴だと告げたところ、クッコロちゃんはあっさり機嫌を直してくれた。一方、タルトは逆に不機嫌になって、お菓子を食べさせろと僕のお尻に3歳児流星拳を叩き込んでくる。そこは幼衣オムツでガッチリガードされているので痛くもかゆくもない。


「今朝、雌鶏の一羽が卵を産んだの。今はヒヨコを孵す時期じゃないから卵焼きにするわ」

「甘くしゅるのですっ。わたくしは甘~い卵焼きが食べたいのでしゅっ」


 お菓子を作ろうにも材料がない。どう諦めさせようか考えていたところ、シアちゃんが助け舟を出してくれた。コケトリスが卵を産んだのだけど、無精卵を排出しただけで抱卵はしないだろうから食べてしまおうと考えているそうだ。卵焼きと耳にしたタルトが蜜を入れて甘くしろと図々しくリクエストする。これから仕込むということだったので、お手伝いを申し出て一緒に作ることにした。






 この集落はできてからまだ数年しか経っていないため、子供まで含めても40名そこそこしかいないらしい。そこに20名ほどのドワーフが加わって、魔導院での焼き肉大会よりこじんまりとした宴が始まった。タレコミ肉は好評なようでなによりだ。


「いつだって美味しいものを作る下僕はよい下僕なのです」


 砂糖とハチミツに削ったチーズも入れて甘くしたふわとろオムレツを食べさせてやれば、3歳児はすっかりご機嫌になって脚をパタパタ暴れさせる。なお、タルトにオムレツを焼いていたらクッコロちゃんにおねだりされ、次いでシアちゃんにもせがまれ、さらに調理場にいた女性陣にまで要求されたので、都合15人前のオムレツを焼かされるハメになった。しばらくはフライパンを持ちたくない。


「弓の扱いに長けてタレコミもできるうえに料理までこなすなんて、あんたみたいのがいると知っていればあの人のところなんかに嫁がなかったものを……」

「お母さんっ。なんてこと言うのっ」


 台所を仕切っていた女性はマルダーのおっさんの3番目の奥さんで、シアちゃんの母親であるらしい。狩りもタレコミもできるなんて最高ではないか。もういっそ娘と言わず自分をもらってくれと、タレコミ肉をモシャモシャしながら口にしていた。この母にして、この娘ありといったところだろうか。おっさんに嫁いだのは何年前のことだ。歳を考えろとシアちゃんがまなじりを吊り上げてテーブルをバシバシ叩く。なお、外見はどちらも7歳児で違わない。双子のようによく似ている。


「じゃあ、さっさと仕込まれちゃいなさい。孕んじまえばこっちのもんよ」

「怖ろしいことを娘に勧めないでください……」


 できちゃったらもう結婚するしかないと、とんでもないことをさらっと言い放つシアちゃんのお母さん。唆されたシアちゃんの目にギュピィーンと赤い光が灯った。肉食種族の女性は、揃って肉食系女子のようだ。


「下僕はヘタレですから、ど~せなんにもできないのです」

「ガーン……」

「失礼なこと言うんじゃないよっ」


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― 新着の感想 ―
[一言] 無責任に手を出さない理由はヘタレなのもあるけど、自分の知らない所で死んでしまったなんてトラウマってレベルじゃ無いんだろうなぁ(前世の死因の所為で親が子の死に目に会えない事を考えると)
[一言] ロリっ娘じゃなきゃヤリまくりにきまってるじゃないですか!ほんとだよ!
[一言] モロニダス君はドクロ山の女神に操を立ててるから(震え声
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