11 3歳児の涙
夕食が自分の分しか用意されていないと打ち明けたところ、タルトがいいから連れていけと言うのでふたりを伴って食堂のある1階へと降りる。
食堂に入ると食事中だった腹っぺらしの欠食児童どもが食事の手を止めて僕たち、というか主にシルヒメさんを凝視してきた。薄着の女の子の姿絵などを後生大事にベッドの下に隠しているようなボーイたちには、おっぱいの大きな美人生シルキーは目に毒だったろうか。寮内だからとだらしない格好をしていた子が顔を赤らめてモゾモゾしている。
「こっちだ。モロニダス」
授業のない時期で一時的に帰省してまだ戻ってない生徒もいるせいか、食堂はそれほど混み合ってはいない。夕食のおかずを載せたトレーを受け取って、先に来ていたヘルネストが確保しておいてくれた6人掛けのテーブルに着く。
パンとライスとお茶は各自で自由に取ってきていいのでお茶をシルヒメさんにお願いして、僕は自分の分のご飯をよそいに行く。アーカン王国で作られているお米は、長細くてパサパサしたやつじゃなくって、日本のお米みたいに丸くてモチッとしたやつだ。ありがたや、ありがたや……
ご飯を盛って席に戻ると、タルトがピンク色をした足が8本あるトカゲを膝の上に抱っこして遊んでいた。体長がタルトの身長と同じくらいあるトカゲなので乗っかられているようにも見える。こいつはヘルネストの使い魔だ。
「珍しいね。サクラヒメ連れてきてたんだ」
「ああ、チミッ子の相手にちょうどいいかと思ってな」
「珍しい色のバシリスクなのです」
タルトが遊んでいるトカゲはヒメバシリスクというバシリスクの一種だ。体つきも小さいので他のバシリスク種と違って人を襲ったりしない。自身が受けた毒物に対して耐性を身に付ける能力があり、頭の上に生えている冠状の角はそれまでに耐性を得た毒物に対する解毒剤や中和剤の材料になる。
雑食性で何でも食べるけど、毒草、毒キノコ、毒虫、毒蛇、毒魚など、強い毒性を持つものほど好んで食べる習性があるため、採取した植物やキノコの毒を見分けたり、食事に入れられた毒を判別したりと何かと有用だ。
ヘルネストがサクラヒメと名付けたこのヒメバシリスクはムジヒダネさんからの婚約の贈り物で――死にやがれ――ピンクの地に黄色い菱形の模様が入るピンクダイヤモンドと呼ばれる非常に珍しい体色の個体だそうだ。贈られた時はただのピンク一色だったのだけど、最近になって黄色の菱形模様が出てきたらしい。
売れば結構なお値段が付くのだけど、ヘルネストは婚約の贈り物を売り払われた【ヴァイオレンス公爵】の報復が怖ろしいので手放す気はないと言っている。
タルトが夕食のメニューのうち果物だけよこすように要求してきたので、イチゴとミカンを渡してあげたらサクラヒメと一緒に食べ始めた。サクラヒメに食べさせるのであればとヘルネストも果物をくれたけど、それはシルヒメさんに食べてもらうことにする。
タルトは蜜の精霊がいればもっと美味しく食べられるのにと不満を漏らしながら、どこからともなく取り出した怪しい液体をイチゴに垂らしてサクラヒメに与えていた。ヒメバシリスクが舌を伸ばしてもっともっとと催促してるってことは……それ猛毒じゃないの?
「精霊を2体も連れ歩くなんて……。Cクラスで目立つ奴は叩かれるってわかってんだろうな?」
「なにそれ? Aクラスの女の子たちにはもう知られちゃってるよ」
「Aクラスはいいんだ、あいつらは自分の成績を上げることを考えてるからな。タチが悪いのはBクラスだ。順位を下げたくないって考えの奴が多いから、上に行きそうな奴を潰そうとするんだよ。お前に抜かれると知って、アンドレーアが黙っていられるわけないだろ」
「マジ……?」
ヘルネストに言われて、僕と同じ僅かに紫を帯びたように見える艶のある黒髪に勝気そうな顔立をしたBクラスの女子生徒が頭に浮かぶ。アンドレーア・アーレイ。僕の父親の実家であるアーレイ子爵家のご令嬢。つまり僕の従姉にあたる。
自分は本家の嫡子、僕のことは分家の子だと言い張って何かと僕を子分扱いしようとするけど、子分がピンチになっても助けてくれたことはなく、後からノコノコ現れて「分家の者がお騒がせしました」などと親分風を吹かす面の皮の厚い困った娘だ。
この国の身分制度では、爵位を持つ本人だけが貴族と呼ばれる。そして、貴族によって自らに仕える者として士族録という国が管理する名簿に登録された者が士族と呼ばれる。ここまでが上流階級として特権が認められる人たちで、貴族の子であっても登録してもらえなければ身分は平民のままだ。
登録している士族の人数に応じた税金が掛かるから、余分な士族を登録してくれる貴族は少ない。そのため、生まれた家で登録してもらえなかった者が他の貴族に仕えることで士族となるのは決して珍しいことじゃない。
僕の父親もアーレイ子爵の士族であったことはなく、学習院の卒業と同時に外務大臣であるホルニウス侯爵に仕える士族として外交官の職に就いた。父が爵位を頂戴したのも侯爵様の後押しあってのことだと聞いている。そのため、父アーレイ準爵はホルニウス侯爵ゆかりの貴族であって、アーレイ子爵家に連なる者とは考えられていない。
僕が東部派と見做されず紅薔薇寮へ入ることが許されたのもそのためだ。
父を放逐しておきながら、今更僕を分家と言い出すなんて、アーレイ子爵家では娘に一体どういう教育をしているのだろう。親の顔が見てみた……くはないな。アーレイ子爵領に足を踏み入れるなら暗殺される覚悟で行けと父から言われてるし……
「あ~……正直、そこまで考えてなかったよ。テヘッ」
「テヘッじゃねぇ。これから1年間はCクラスなんだ。来年、Aクラスにでも上がらん限り、嫌がらせが続くと覚悟しておいた方がいいぞ」
ヘルネストは呆れたような口調だけど、これでも僕に忠告してくれているのだろう。これまでBクラスだったから知らなかったけど、Cクラスで成績が上向きな生徒は当て擦りを言われたり、先生からの連絡事項を伝えられなかったりと様々な嫌がらせを受けていたらしい。
酷いことに先生に提出する課題を取り上げられそうになった生徒までいて、さすがに勘弁ならんとCクラスの他の生徒たちが武力介入して阻止したそうだ。BクラスとCクラスの生徒たちの間で乱闘騒ぎがあったという話は僕も何度か耳にしていたけど、これが真相か……
だとすれば、他の生徒たちなんて言ってるけど、率先して武力介入を行ったのはヘルネストだろう。その手の騒ぎの中心にいるのはたいていこの男なのだから。
喧嘩っ早い奴だと思っていたけど、喧嘩した理由を漏らしたのは初めてか。いつも、「ムカついた」だの「気に入らねぇ」としか答えないから。水臭い奴だと思うけど、「教えてくれればいいのに」とは口が裂けても言えないな。小さくて弱っちい僕では荒事のお役には立てないからね。
気が重くなってしまった食事を終えて部屋に引き上げることにする。ヘルネストはサクラヒメを抱き上げながらタルトにエサ(毒)をくれたお礼を言って、気になったのか何の毒なのか尋ねていたけど、「ヒュドラ毒」と教えられて顔を引きつらせていた。
ヒュドラは頭が9つある巨大な毒竜で、この王国で最後に確認されたのは200年以上も昔。本物ならとんでもなく希少な毒物だ。そして、それを口にしたサクラヒメの角も……
サクラヒメがヒュドラ毒を口にしたことは決して口外しないよう念押しされ、僕の部屋の前でヘルネストと別れる。誰にも言わないよ。僕だってタルトがヒュドラ毒を所持しているなんて知られたくない。特にあの【魔薬王】には……
ベッドにちょこんと腰かけて寛いでいるタルトにどこにヒュドラ毒なんて隠し持っていたのか聞いてみた。しまう時はローブの袖口に入れていたように見えたけど、タルトのローブは和服みたいな袂は作られておらず袖口がぱっくりと開いている。
『収納』の術式を刻んだ魔導器かと思ったけど、あれは少なくとも中に納める物一つひとつよりかは大きいはずだから、タルトが隠し持てるようなサイズじゃない。
もしかして、今の魔導技術では再現できない古い遺跡から稀に出土するという秘宝だろうか。そんなお宝を持っているなんて知られたらヒュドラ毒どころの騒ぎでは済まないよ。貴族ですら目も眩むような財産なんだから。
「古代の秘宝とかじゃないだろうね。そんな物持ってるって知られたら狙われるよ」
「心配には及ばないのです。これは【思い出のがらくた箱】というわたくしの神と……能力で、たとえ神々であってもわたくしから取り上げることなどできはしないのです」
なんと、タルト自身の能力によるもので、『収納』の術式とはそもそもの原理が異なり、『収納』の魔導器にある欠点――術式が壊れた時に収納していた物は失われて二度と戻らない――がないことに加えて、納める物の大きさも量もほぼ無制限だという。コイツはとんだチート3歳児だった。
「いたずらに秘密の隠し場所は付き物なのです」
もう見るのも嫌になってきた本日何度目かわからないタルトのドヤ顔だ。たしかに、精霊なのだから何某かの能力はあって然るべきだし、何かを隠してしまうというのはいたずらの精霊らしい能力かもしれない。
だけど、あまり人には知られたくない。失せ物のたびに疑われては煩わしいことこの上ないし、ヘルネストの話からするとアンドレーアあたりが嬉々として僕を犯人にでっち上げようとしそうだ。
ただ、何もできない精霊なんているわけないのだから、タルトの能力のことを問われるのも時間の問題だ。何かしらの言い訳は用意しておいた方がいい。魔法陣を書き換えてしまう能力は……ちょっと強力すぎる気がするな。どんな魔導器に刻まれた魔法陣も好きに書き換えてしまえるとしたら充分にチート級だ。
「タルトはどんな魔法陣も好きに書き換えてしまえるの? 契約の魔法陣にしたみたいに」
「ちょろいのです」
「簡単に言ってくれるね……。それがどれほどインチキな能力か理解してるの?」
「わたくしと同格の存在であれば誰だってできるのです。こんなものインチキでも何でもないのです」
無自覚か……。つまんない言い掛かりつけんなって顔しやがって。コイツは存在自体が掟破りな3歳児だ。タルトと同格ってどんな精霊だろう?
蜜の精霊にもシルヒメさんにも【真紅の茨】に対してもタルトは偉そうな態度を崩すことがなかったし、精霊たちもそれを当たり前のことのように受け入れていた。この王国の守護精霊とされている水の大精霊ヴィヴィアナ様とかと同格だとでも言うのだろうか。それはとんでもない大問題になるよ。
ヴィヴィアナ様は600年ほど前にアーカン王国を建国した王様と契約していて、その王様が亡くなってからも盟約によってこの国を守護してくれている強力な精霊だ。この国の人々はヴィヴィアナ様をそれこそ神様みたいにお祀りしている。
この魔導院はヴィヴィアナ様がいらっしゃるとされるヴィヴィアナ湖の湖畔に建てられているし、魔導院の南に拡がるモウヴィヴィアーナの街はそれこそヴィヴィアナ様信仰一色の街だ。落っこちてきた同格の精霊と契約しましたなんて、タイガースファンのど真ん中でジャイアンツを応援するくらいアウェイ感がハンパない。
「ヴィヴィアナ様と同格なんて言わないよね? 喧嘩したりしないよね?」
「どうしてわたくしがヴィヴィアナと喧嘩するなんて思うのですか? そのようなことはあり得ないのです」
タルトは呆れたような口振りだけど、とりあえず否定してくれたのでホッとした。アーカン王国は絶対王政と言えるほど王様の権力は強くなく、土地を治める領主もそれなりの発言力を持っている。
それで戦国時代になってしまわないのは、ヴィヴィアナ様との盟約というカードを建国王の末裔である王様が握っているからだ。ヴィヴィアナ様に喧嘩を売ることは、この国の支配体制に喧嘩を売ることを意味する。僕にはそんな暴挙に及ぶ気はまったくない。
「ヴィヴィアナごとき喧嘩なんてしなくても命令すれば済むではありませんか」
「やめてよっ! そんな答え聞きたくなかったよっ!」
モウヤダこの俺様3歳児! どんだけ自分が偉いと思ってるの? ヴィヴィアナ様をパシリ扱いとか、僕をこの国にいられなくする気なの?
タルトにヴィヴィアナ様を敵に回すことの危険性を滔々と説明する。そんな、面倒臭そうな顔しないでわかっておくれよ。僕は国家転覆を企む悪のテロリストになる気はこれっぽっちもないんだ。
「つまり、ヴィヴィアナをとっちめて下僕を王様に据えれば、人々はわたくしをお祀りするようになるのですね?」
「なんでそうなるのっ? この国を滅ぼすつもりなのっ?」
「人々を根絶やしにするわけではないのですから、滅ぼすなんて大袈裟なのです。それより、下僕は王様になれるのですよ。嬉しくはないのですか?」
「僕に王様業なんて無理だよっ! 胃に穴が開いて死んじゃうよっ!」
生徒会役員はおろか学級委員の経験すらない僕に何をやらせる気なんだ。人をまとめるっていうのは大変なんだ。野球部のキャプテンを任された前世の友人もさんざん苦労していた。僕は人に命令するのがどうにも苦手なので、とてもじゃないけど王様なんて務まらない。
「王様なんてふんぞり返っていれば良いのです。お尻は擦り切れるかもしれませんが、胃袋に穴など開かないのです」
「王様が仕事しなかったら国はどうなるのさっ!」
「仕事なんて働くのが好きな者に任せておけば良いのです。下僕はわたくしをお祀りするように命令するだけなのです」
「自分勝手すぎるよっ! お祀りされれば、国がどうなってもいいのっ?」
それが精霊にとってどんな意味があるのかは知らないけど、タルトは自分がお祀りされることしか考えていない。精霊に人族の社会は理解できないのかもしれないけど、その過程や結果、この国に暮らす人々への影響なんてはなから眼中にないのだろう。
何でこんな3歳児がヴィヴィアナ様より偉そうなんだ。権力を持たせるべきじゃない相手ってのがいるだろう?
「……下僕は……そんなに王様になりたくないのですか?」
「僕はゴブリンなんだろ? 人族がゴブリンの支配なんて受け入れるものかよっ」
「…………わたくしは……わだぐじは……」
あれ……? なんだかタルトが目をウルウルさせているぞ。怒ったのか?
「わだぐじの位が高ぐっで……おうざまにしてあげれば……げぼぐもよろごんでくれると……」
えっ……? ちょっ……泣いてるの? 僕が喜ぶ?
「おばえたちはいづも……えらぐなりだがるから……だがら……」
……そうか。タルトは2千年以上も昔の事件さえ知っていたんだ。人族と会うのも初めてじゃないはず。そして、タルトの能力を知った奴らがこの子に望んだことなんて考えるまでもなく察しがつく。
王様もしょせん社会の歯車のひとつ。責任だけが重いクソ役職と考えるのは僕に日本人の部分があるからで、この世界に生まれた人が一国一城の主を夢見るのは少しもおかしいことじゃない。魔導院にくるような子ならなおさらだ。だから、一番偉い王様にすれば僕が喜ぶと思ったのか……
「げぼぐが……ぜいれいどけいやぐして……びっぐりさせたいっで……おうざまになれば……」
タルトの言葉に思わず唇を噛む。自分のことしか考えていなかったのは僕の方か。タルトは僕の欲求を正確に見抜いて、そしてそれに応えようとしただけだ。
僕は確かに皆を驚かせるような精霊と契約して、僕を「ゴブリン」とバカにした奴らを見返してやりたいと望んでいた。王様になってそんな奴らを僕の前に跪かせれば、その望みはこれ以上ない形で果たされることになる。
タルトは僕が想像すらしなかったやり方で、僕の願いを叶えようとしてくれていたのに……それを僕は……
「ぞんなに嫌がるなんで……おぼっていながったから……」
「ごめん……君は僕の想いに気付いていたんだね……」
号泣を始めたタルトの隣に腰かけてヨシヨシと慰めてあげる。僕を喜ばせようとしてくれた子供の気持ちに気が付かないまま、それを自分勝手な我儘だと拒絶してしまうなんて……
それは他でもない僕自身の願いから生まれたことだったにもかかわらず……
――自分はただ喜んでもらいたかっただけなのに……
そんな誰にぶつけることもできない、誰からも理解してもらえないやるせない気持ちは痛いほどよくわかるんだ。田西宿実も幾度となくそんな失敗を繰り返してきたから。
大切な人を傷つけてしまったという後悔と、ここに自分の居場所なんてないという孤独感。僕の身勝手ゆえに、そんな感情を押し付けられて泣いているタルトの涙は見ているのが辛いほど重くて、堪らず僕はタルトを胸に抱き寄せた。
「タルトの気持ちは嬉しいんだ……。ただ、僕に玉座は……きっと大きすぎて似合わないよ……」
僕にしがみつくようにして泣いていたタルトが落ち着いてきた頃合いを見計らって声をかける。傲岸不遜で暴虐無人な3歳児だと思っていたタルトは、実は誰よりも僕の望むところを理解してそれを叶えようとした、ちょっとサービス精神が旺盛な優しい子だった。これ以上、僕のせいで泣かせておくわけにはいかない。
「王様が嫌なら……どうすれば下僕は……喜んでくれるのですか?」
「一緒にいてくれればそれでいいんだ……。僕にはタルトが契約してくれただけで充分だよ……。それ以上の望みは、自分の手で叶えてみせるから……」
まだ、顔を伏せてグスグスと鼻を鳴らしているタルトが落ち着けるように、背中を優しく叩きながらゆっくりと答える。
精霊と契約しているというのはそれだけで大きなステイタスなんだ。それ以上は望まない。タルトにそれ以上を望めば、きっと僕の方が付いていけなくなって自滅する。【真紅の茨】の言い残した、「いつの日か後悔する」とはそういう意味なんじゃないかと思えた。
そうなれば再びタルトを悲しませてしまうだろう。僕のためにこの子が涙を流すのは今日で最後だ……
「下僕がそう望むなら……わたくしは時の許す限り……下僕と一緒にいるのです……」
タルトはそう言うと泣き疲れたのかそのまま寝入ってしまった。僕の着ているシャツをがっちりと掴んでいるので動くことも出来ない。シルヒメさんがタルトを上手に持ち上げて布団をめくってくれた。どうやら、そのまま寝てしまえと言いたいらしい。
起こしてしまわないようにタルトを抱っこした状態で体を回し、タルトの体をベッドへと横たえさせ布団を掛ける。よく気が付くメイド精霊のシルヒメさんがタルトの口元に涎掛けを敷いてくれた。僕のパンツだったけど……
シルヒメさんは説明しなくても部屋の魔導器の使い方がわかっているようで、手を一振りしただけで灯りの魔導器が明るさを落とし、わずかな灯りだけを残して部屋が暗くなる。彼女自身は椅子に座って休むつもりみたいだ。なんだか悪い気もするけど、今日だけ我慢してもらって、明日にでもベッドの代わりになるものを用意しよう。
布団に入ると急速に眠気が襲ってくる。タルトが湯たんぽみたいに温かくて気持ちいいせいだ。うん。タルトはこのまま湯たんぽでいてくれれば充分だ。もう湯たんぽ精霊ってことでいい気がしてきたよ…………




