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イレーネの行方

 鳥人部隊は完全に壊滅し、ホークとロータスは無慈悲に全員にトドメを刺して回る。

 ファルやパリエスも手伝うとは言ったが、ファルは休ませ、パリエスはエリアノーラと共に戦死者の浄化に努めさせる。

 生存者もパリエスの魔術で直接浄化し、アンデッド化できない「物体」に変えることができるのはわかっていたが、パリエス自身の眷属も鳥人族なのだ。重ねてしまう部分もあるだろう。

 覆面で自己暗示しているとはいえ、パリエスの精神的耐久力は著しく低い。必要もなしに彼女を追い詰めるような要因は作りたくない。

 呻き、恨み、命乞いをする半死人を始末するのはホークだって気分のいいことではない。しかしそれくらいはやるのが悪党を自認する男の務めだと思っている。


 最後に比較的軽症で済んだ鳥人に短剣を突き付け、ホークは質問する。

「おい。テメェら、まさかこれだけじゃねえだろう。連れてきた切り札がどっかに取られてまごついてやがったな?」

「……くっ」

「そいつは何だ? ウチの蝙蝠女にかまうことになってアテが外れたのは見当がついてる。答えたらテメェは見逃してやる。俺らに無様にやられたことをラーガスの野郎に伝えるためにな」

「……ククク。どうせ、お前たちはすぐにロドニー様とベラス様にやられる……だいぶあの女魔族に手間取っているようだが、魔王様の創造体二人を相手に、並みの魔族がもつはずがない……」

「余計な御託はいらねぇってんだよ。そのクチバシ跡形もなく叩き壊すぞ」

「ぐ……っ……ロドニー様は鳥人をベースにした創造体だ。その飛行速度は姿より音が遅れてくると言われるほど……半端な騎士では姿を見ることすらできん。ベラス様は身の丈15フィート、巨人族以上のパワーと我ら同様の飛行速度、そして生体魔法機関による無尽蔵の魔毒の息が武器。あの二人が……いれば、お前らになど」

「そうかよ。で、そいつらはどっちに行った」

「……わ、わからん。本当にわからんのだ。この闇にロドニー様の速さでは目で追おうにも追いきれん」

「使えねえクソ鳥だ。もういい。行け」

 ホークは鳥人を蹴りつけて追い払う。

 武器は取り上げたし、反撃をしようものなら隣でロータスの構えた魔剣がすぐに閃くことになる。

 鳥人は悔しそうにこちらを睨みながらもフラフラと飛び去って行く。

「チョロの聴覚に頼るしかねえな。あるいはパリエスの蛇か」

「そう遠くには行っていないと思いたいが、何せ空を飛ぶ魔族と創造体だ。本気で飛ばれたらどこまで移動しているか見当もつかん」

「イレーネが俺たちを守るために突っかけたってんなら、それこそ遠くへ遠くへ、って誘導してるかもしれねえ。創造体が遠ざけられればあとは雑兵だ。回復役のパリエスもエリアノーラもいる。俺たちがむざむざやられる目はねえ」

「一体ならばイレーネ殿なら片付けているやもしれんが、二体だと気がかりだ。創造体も色々いるが、先だってのマルザスのように厄介な奴が相手となれば、いかな魔族と言えど危険だ」

「あのマルザスだってそもそもは通りすがりの遊撃戦力だぞ。今回はラーガス肝煎りのとっておきだ。あれ以上ってのも有り得る」

「……うむ」

 ホークとロータスは鳥人が夜空に小さくなるのを確認して、パリエスたちのもとへ戻る。


 パリエスとエリアノーラはホークたちが首を切り落としたものでない(ファルが焼いたりチョロが蹴り潰したりしたもの)鳥人たちをアンデッド化しないように手早く葬り、レミリスはファルと一緒にせっせと燃える廃屋から荷物を運び出していた。

「個人の熱を遮る魔法みたいなもんがあるのか」

「多少時間をかければ、この程度の火災なら無視できる程度の保護はできます」

 パリエスが浄化をしながら教えてくれる。

「っていうか、先に消火したらどうなんだ?」

「既に屋根も吹き飛ばしてしまいましたし、いずれにせよここで泊まることはできません。今さら消火しても価値はないですし」

「荷物に火ィつけないためにも消した方がよさそうなもんだが……」

「この規模の火を消すためには、このあたり一帯を凍らせるほどの凍気か池一杯分の水を当てるしかないのですよ。余計に荷物が危険でしょう」

「……もっとこう、火だけ都合よくフワッと消すわけにいかねえの?」

「私はそんな術は研究していません。……思い通りの魔術を作るには何十年も研究がいるのです」

 ホークが思うほどには、魔族の魔法はなんでもアリではないらしい。1000年も生きているなら何でも出来そうに思えるのだが。


「……それで、どうもイレーネは飛べる創造体を二体も引き受けてどっかに行っちまったみたいなんだ」

「チョロも、それ見てた。でも、寝たふりしてて、方角まではわからない、って」

「今は? 何か聴覚とか嗅覚とかに引っかかったりしないか?」

「無理」

 レミリスはきっぱりと言う。ちょっとは頑張ってみてくれても、と思うが、執着しても仕方がない。

「パリエス。蛇は」

「ホークさん。私は怪人マスクド・ディアマンテ」

「いや、悪かったからもう怪人マスクドは省略しようぜ。ディアマンテ、蛇はイレーネの行先わからねえか」

「音などの戦いの痕跡から、軌道だけならある程度は掴めるのですが」

「ちょっと地図で示してくれるか」

「ホーク様……地図は、こんな状態に」

 ファルがおずおずと差し出したベルマーダ地図は、半分が焼け落ちてしまっていた。

 ホークは舌打ちする。これが今回の鳥人たちのもたらした一番の痛手かもしれない。正確な地図は貴重なのだ。

 パリエスは諦めて、指で方角を大雑把に示す。

「こちらから、こう……螺旋を描くように遠くへ戦場を移しているようです。でも、遠くへ行きすぎて、私と蛇の交感範囲を超えてしまっていて」

「無理せず撒いてくれてるならいいが。とにかく、追ってみよう。どちらにしてもイレーネがいないなら昨日までと同じ戦法で魔王軍を叩くのは無理だ。戦略もクソもない」

「ええ……」

「そう簡単にやられる御仁ではないとは思いたいが……」

「ホーク。手伝って。食べ物」

「お、おう」

 レミリスに急かされて、一度屋内に運んだ食料袋をゴンドラに積み直すのを手伝う。

 重要物資は小さな道具袋に入れてあるが、食料だけはそれに入れると急に腐ったり干からびたりしてしまうので大袋に入れるしかなく、休息地点では積み下ろすことになる。

 おかげでせっかく調達した食料は火災の被害が直撃してしまい、引き続き持って行けるものは半分に目減りしてしまったが、それで済んだのもイレーネのおかげ、と安堵することにする。

 もしかしたら誰かが殺されてしまうかもしれなかったのだ。食料はまた買えばいい。


       ◇◇◇


「ディアマンテ! 蛇からの情報はどうだ!」

 チョロに乗って出発し、夜明けまで飛んだ。

 パリエスはホークの声に対し、大きく手でバツを作って応える。

「こんなに飛んでまだ見つからねえのか」

「上手く撒いたのかもしれんな。足を止めずに飛び切れば、少なくとも時間稼ぎという目的は果たせる」

「だといいんだが……」

「待って。向こう」

 レミリスがゴンドラの中で使役術を使いながら指差す。

 ホークには何も変わったものがあるように見えなかったが、チョロには何か見えたようだった。

「行く」

「お、おい……ったく。ディアマンテ、チョロについてきてくれ!」

 ホークの大声に尻尾でくるりと〇を作るパリエス。

「……マルも手でいいだろうに」

 呟くとエリアノーラが手を立てて耳打ちしてくる。

「お喋りが出来なくて寂しいんだと思いますよ、パ……ディアマンテ様」

「とことん心が小動物だな、あのカミサマは……」

 とはいえ、お喋りができるゴンドラに乗せるわけにはいかない。イレーネと違って下半身の蛇部分が大きすぎるので、パリエスを乗せるとそれだけでゴンドラが満杯になってしまう。

「ホーク」

 レミリスが呼ぶ。

 彼女の指差す先を見ると、森の一角がなぎ倒され、不自然にぽっかり空いていた。

 そして、魔毒と思われる紫色に染まった地面と、倒れ伏した一体の巨大な怪物が見える。

「あれは……」

「降りる」

「離れて降りろよ!? 魔毒がイレーネの仕業だとしたらとんでもねえ濃度のはずだ」

「ん」

 降下する。


 怪物は魔毒を正面から食らって悶死していた。

 パリエスが自らに魔毒防護をした上で引き起こし、その姿を改めて明らかにする。

「……ドバルほどじゃねえけど、でけえな」

「この創造体が鳥人とともに我々に向かって来たら……さすがに無損害とはいかなさそうだな」

「高度な魔術抵抗力があるようです。近づいて高威力の魔剣で決めるか、あるいはメイさんの拳で叩く必要があったと思いますが……」

「飛んでるからそう簡単にはいかねえ、か。で、こっちの飛行手段で強引に近づいたら……生体魔法機関の魔毒でドボッとやられた、ってとこか」

「おそらくは」

 体格からしてさっきの鳥人が言っていた奴の後者だろう。

 生体魔法機関はあらかじめ魔力の循環経路に高度な魔法構造を作っておくことで、息をするように強力な魔法現象を発動するものだ。ドラゴンには生まれつき備わっているといい、それゆえにドラゴンが古代の生体兵器と噂される理由でもある。

 そんな魔毒に抵抗力がありそうな創造体を、あえて魔毒で仕留めているあたりに、イレーネの魔毒使いとしての矜持が見え隠れする。

「ここでなんとか片方を落として……もう片方と戦いながらどこかに行った、ってことでしょうか」

 ファルが周囲を見回しながら言う。現場は小高い位置にあり、周囲の地形もよく見渡せたが、その行き先は全く見えない。

「蛇が……散った毒でやられています。この創造体、あえて蛇によく効く毒を生成していたのでしょうか……私の手の内もある程度、向こうに推測されてしまっているようですね」

 パリエスが周辺の木陰で死んでいたニジマキヘビを拾い上げ、悲しげに言った。

「死んだ蛇からは情報が引き出せないのか」

「ええ。こちらが交感できる範囲に入る前に殺されてしまっては、何もわかりません」

「……ディアマンテ対策としてのこいつ。ということは、イレーネの相手を想定したもう一人は……説明ではそんなに大したことなさそうだったが」

「イレーネ殿と相性が悪い可能性は高いな。……それに、ここで一度足を止めて交戦したのでは、ここまでの勢いのままの飛行経路で足取りを追うのは無理がある。……これ以上は追えない」

「そう、だな」

 ホークは創造体を蹴りつけ、そして空を見て、宣言する。

「……あいつが戻ってくるのを待っていたらガイラム爺さんの援護が滞る、俺たちはこのまま、戦法を変えて戦おう。……それもきっと、あいつの望みだ」

 ホークに「脇役のつもりのままでいるな」と言って、去ったイレーネ。

 手がかりもなく彼女を探し回ることが、今のホークたちの正解ではない。

 またどこかでひょっこり会えると信じて、ホークは、彼女に功績を自慢してやるために。

「ラーガスめ。……こっちからも刺しに行ってやるさ」

 大胆な戦いを決断する。

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