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勇者、死す

「おい聞いたか? もうすぐこの村をレヴァリア王国の勇者一行が通るらしい」

「おお、ついにレヴァリアの勇者ジェイナスも動いたのか! これで第七魔王の奴も終わりだな!」

「今代の魔王にはクラトスとピピンが滅ぼされたからのう。田舎じゃったが、ピピンなどは良い酒の産地じゃったのに」

「でもレヴァリアってあの小さい国だろう? 軍事大国のロムガルドなんかと比べたら大したことないんじゃないのかい」

「あんな野蛮なだけの連中とレヴァリアのジェイナスを一緒にしちゃいけねえよ。ロムガルドには『魔剣』を作る技術もあるし使う勇者も多いが、さしずめジェイナスが鋼なら、連中は鉛ってくらいのもんだ。雑魚には強いかもしれねえが、数だけいくらいたって本当に強い相手にはかなわねえ」

「ジェイナスって人はそんなに強いのかい」

「齢は二十と四、その手に持つは王家に伝わる古の最上級魔剣『デイブレイカー』、武芸大会では近隣五か国の騎士団長含めた猛者を相手に負けなし、一人でドラゴンを倒したことは七度。どんな敵も恐れることはなく、それでいて女子供を大切にする好漢だってぇ話だ」

「ひぇえ……。いるんだねえ、特別な人間ってのは」


 …………。


「お、来た来た。見ろよ、あれだぜ。なんというか雰囲気が違うねえ」

「あの先頭のハンサムがジェイナスだろ。あとのは何だ、荷物持ちの小姓か?」

「馬鹿言え。二人目は見てわかるだろ、神官だ。いくら勇者といえど一人旅で魔王は追えねえ。魔法に長けた奴がついていないとな」

「えれえ美人じゃねえか。もしかして勇者のコレか?」

「滅多なことは言うんじゃねえよ。……まぁ噂はあるがな。レヴァリアでも1、2を争う治癒魔術の使い手リュノ。手足がすっ飛んだって四半刻もありゃ元通り。他国からも引く手あまたの才媛だってよ」

「詳しいな。じゃあ、あとの二人も知ってるんだな」

「リュノの後ろにいるのは拳士メイ。まだ13歳だが、レヴァリアの獣人族に伝わる格闘奥義を極めたっていう武闘家だよ。あんな子供みたいなナリだが、大の男が武器を持って囲んでも、てんで相手にならないらしい」

「すげぇな。なんでレヴァリアが小国なのか不思議なメンツだ。……で、最後のあれはなんだ。あの若いチンピラみたいなのは」

「……悪い、そいつだけは噂の一つも聞いたことねえんだ」

「なんだよ、得意になって解説しといて」

「仕方ねえだろ、よその国のことなんだからよぅ」

「まあまあ……それこそ荷物持ちの小姓だろ? なんにせよジェイナス御一行様、万歳だ。第七魔王なんかスパッとやっつけちまってほしいね」

「そんな小さい声で言って何になる。ほら俺たちも出て行って手を振ろうぜ」

「ジェイナス! 勇者ジェイナス万歳!」

「ジェイナス! ジェイナス! ジェイナス!」


       ◇◇◇


「村々を通るたびに……ジェイナスへの声援は凄いものがありますね」

「まあな。でもお前を有り難がってる信仰深い人たちも多いじゃないか、リュノ」

「私の為したことによるものではなく、それは主神パリエス様と我が教会の功績によるものです。私は代理として」

「面倒な話はいいじゃないか。お前も俺も期待されている。それに応えようって話だろ?」

「えーっ、あたしはどうなんです」

「ハハハ、メイはさすがに侮られてるとこはあるよな。全く、素手じゃ俺でもかなわないのに」

「それは勇者様は剣士だから当たり前ですよう」

「ああ、まぁそうだな。でもそれだけ強いっていうのは世間で勇者を名乗ってる連中にも滅多にいるもんじゃない。今はまだまだおばちゃんたちにアメもらう程度の知名度かもしれないが、魔王討伐が終わって人間同士で腕自慢し合えるような時代になったら……きっとお前は歴史に残る英雄って呼ばれるさ」

「えへへへ」


「……くだらねぇ」

「おっ、なんだホーク。お前、今日も誰からも声援貰えなくて拗ねたのか」

「違ぇよ。むしろ知られてたらコトだ。本当はアンタたちにくっついて歩くのすら勘弁して貰いたいね。こちとら『盗賊』なんだから」

「今は、だろ? 魔王討伐が済めば正義の大盗賊だ」

「矛盾してんだろ。そんな馬鹿みてえな二つ名はいらねえよ。褒賞さえもらえたらいい。知らねえ奴にキャーキャー言わせるのなんて興味ないんだ。王家にもアンタらにも、俺のことを言いふらすのはやめてもらう」

「魔王討伐なんて百年に一度あるかないかの栄誉だ。その褒美があれば、盗賊なんてやめても一生遊んで釣りがくるぞ。目立とうが何しようが気にすることはない」

「その話を何度もする気はねぇよ。俺はお前らのペットになったつもりはないし、なるつもりもない」

「やれやれ。頑固な坊主だ」

「……しかし、王家はなぜ盗賊を同行させることにこだわったのでしょう」

「昔から王家に伝わる魔王討伐の言い伝えによるそうだが。ま、俺やメイみたいな、敵をぶっ飛ばすだけの奴と……リュノみたいな堅物だけじゃ、足りない場面もありそうなのは確かだ」

「あたしは敵をぶっ飛ばすだけじゃありませんよう」

「ははは、悪い悪い。でも戦うとなったら、俺たちの仕事はそれだろ? だがホークは違う」

「それはジェイナスが甘いだけではないかと……彼もしっかり戦わせるべきでは」

「それなら多少腕が劣っても、騎士の一人も連れてきた方がよかったって話になる。ホークにはきっと、ホークの役割があるんじゃないか」

「過剰な期待はしてくれるなよ。俺だって王家に余計な指示はされてないぜ」

「ま、俺もわからない、ホークもわからない……そんな予想外の場面はないことを祈るがな」


       ◇◇◇


「この程度か勇者ジェイナスとやら! 魔王様のお出ましを願うまでもないな!」

「くっ……言わせて、おけばっ……!」

「ジェイナス! 引いてください! いくらあなたでも『デイブレイカー』なしでこの数は……!」

「逃がすと思うか、パリエスの神官。お前も勇者もここで死ぬのだ」

「きゃああっ……あ、がはっ……!!」

「リュノ! リュノーッ!!」

「次はお前だ、ジェイナス!」

「舐めるなよ……この俺を! 俺たちをっ……!」


 …………。


 大陸暦858年5月10日。

 勇者ジェイナスと神官リュノは、この日、魔王の眷属バストンの部隊によって奮戦虚しく殺害された。

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