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「なんだ、やる気だな」




 晩餐会は、日を置いただけに盛大なものでした。

 海鮮を中心とした豪華な食事の後には、王城のホールで夜会です。一夜にお目見えを片付けてしまえるので、毎夜宴に呼びつけられるよりは合理的ですが――参加者が多いので、人の名前と顔を覚えるのは一苦労です。

 まあ今回の名目は休暇であり、一応のところあまり仕事ではないので、そこまで気を張る必要もありません。――具体的に言うと、各人の名前と地位と影響を持つ部署を把握し、諸問題を探って状況を把握する必要性があまりありません。

 ついやってしまいそうではありますが。職業病ですね。


 エスコートに手を貸し、ギーは今更のように言いました。


「そういえば、ドレスじゃないのか」

「気づくのが遅いですよ。……戦闘服ですからね。こちらの立場もはっきりしますし」

「なんだ、やる気だな」

「まあそれなりに」


 面白くなってきたのは確かです。敵は手ごわいほどやりがいがありますから、正直ガルグリッド卿の横槍は渡りに船。彼には不本意なことでしょうが、やる気に火がついてしまったのだから仕方ありません。

 ただし、本当に結婚する気は毛頭ないので、やりすぎないのも大事です。


 いろいろと制約があるのは仕事と同じ。その中で望む結果を引き出すために策を練るのもいつもと同じです。

 馴染んだ高揚感に口角を持ち上げ、私は傍らの王子殿下に告げました。


「とりあえず仲良くは見せるつもりなので、適当に話を合わせてください。あと、ほいほい持ち上げるのは禁止です」

「手っ取り早いだろう。お前は足が遅い」

「人のやる気を削ぎたいんですか。帰りますよ今すぐ!」

「わかった。謝るから怒るな」


 ホールに入ると、一角から険のある視線が飛んできました。

 ソファでお茶を飲んでいるドレス姿のご令嬢がた。その中心にフィフィナ姫の姿を見つけ、私はにっこりとギーを見上げました。


「では、ちょっと行って来ます」

「俺は行かなくていいのか?」

「婚約者を演じるわけじゃありませんからね。四六時中一緒にいるのは不自然ですし面倒です。まあ任せてください」

「近くで観戦したい気もする」

「遠慮してください。あなたといると疲れるんですよ……」

「なんだ、軟弱だな。体力をつけろ」

「むしろ減りが早いのは気力だと思います」


 こんな会話だとは思いにも寄らないのでしょう。ご令嬢がたのとげとげしい視線とひそひそ話をうかがいつつ、私はにこやかそのものにギーの手を放しました。


「そろそろ始めますか。あとで合流しましょう」

「ああ。よろしく頼む」

「……待った。頭を叩くのも禁止です」


 不穏な動きを見せた右手に先手を取ると、ギーはぴたりと止まって、整った顔に渋面を作りました。

 こうやって改まった場で改まった姿を眺めると、ちゃんとした王子様に見えなくもないのですが。濃紺の盛装がよく似合います。

 着飾っても装いに負けていないのは、ちょっと羨ましいかもしれません。普段のざっくりした本質を知っているだけに。


 手持ち無沙汰にこめかみを掻いていたギーは、ふと、面白いことを思いついたように私を見下ろしました。


 ――嫌な予感がします。


 何ですかと口に出す前に、彼は似合わない優雅な所作で私の手を掬い取りました。

 止める間もなく手袋越しにさっと口付け、にやりと私を見上げます。


「……では、星下(せいか)。健闘を祈る」


 王子様らしい行動になぜか猛烈な拒否感を覚え、私は手を振り払いたくなるのを必死に堪えました。

 いけません、毒されてきた気がします。王子が王子らしいことをしただけで、何故こんなに動揺してしまうのか。あまりにも不毛です。


 ますます険悪な雰囲気になってきたご令嬢がたに目を向け、私はため息を飲み込んで笑いかけました。

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