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純白の勾玉と漆黒の花嫁【改稿版】  作者: 篠宮 美依
第3章 守るべき者
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その1

「結局、あの父は優しくなんてなかった」

 母のことは愛していても、娘のことなどどうでもよかったのかもしれない。少なくとも、娘を大切に思うのであれば、男鹿に参戦を命じたりはしないはずである。

けれど麗花は、首を振って鈴の手をやさしく握り、諭すように言った。

「姫様が大切だからこそ、男鹿様をお呼びになられたのではないでしょうか」

 麗花は鈴の暗い顔を見て、励ますようにそう言った。

 まるで父の考えがすべて分かるかのように、麗花は自分のことのように言っている。男鹿もその意見には異論がないようで、鈴に優しい笑みを向けている。

「大切だからこそ?」

 大切であれば手放さなかったのではないのか――鈴は思わずそう反論しようとして、けれど麗花の表情を見てそれを押しとどめた。

「大切だからこそ、姫様を取り戻そうとお考えなのでは、と思いまして。戦争時は混乱が多いと聞きます。その混乱に乗じて、敵かあるいはそれに準ずる者たちが、男鹿様を……処分してくれれば娘を救える。そう、お考えになられたのかもしれません」

 男鹿が側にいるにもかかわらず、麗花はその言葉を、――口を濁しながらも言った。

 しかし男鹿は、麗花を責めようとせず、それに乗じるようにして鈴に話しかけてくる。

「全ては城につけばわかるだろう。心配することはない。僕らはそんな簡単に死ぬことはないんだ。だから、今回の要請は断らなかった。断ることだって容易かったけれどね」

 男鹿も、そして麗花も、鈴に優しく微笑みかけている。

 なぜあの父が信用できるのだろう。幼いころに母親を亡くし、父親の愛情は知らない鈴には2人の考えがよく理解できなかった。

 けれど、もし父が自分のことを大切にしようとしてくれているのなら、それ以上の幸せはないだろう。 否、本当は知っている。生贄の話をしにわざわざ別荘 まで訪 れたことも、自分に頭を下げたことも、そう考えれば納得がいくのである。けれど鈴は真実を納得できずにいた。母が亡くなるときの言葉が、どうしても頭を離 れないでいるのだ。ずっと父の名をうわ言のように繰り返し、そのまま命を落とした母の姿を忘れられないでいる。

「姫様。姫様が思っているほど、人間という生き物は情がない生き物ではありませんわ。それはわたくしたちが一番よくわかっていることなのです」

 麗花はその美しい顔に、どこか寂しげな笑みを浮かべていた。

 そんな麗花を見ている男鹿の顔が、複雑そうに見えたのは気のせいではないのだろう。

2014/08/27

誤字脱字訂正しました。

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