05
さて。
朝食を食べて、身だしなみをきちんとした私は家を出る。
目指すはお隣の豪邸――響生の家だ。
乙女ゲームにありがちな設定ではあるが、響生は世界有数の大財閥の跡継ぎである。
次期総帥様である。
そんな響生の家、小鳥遊の本邸はでかい。
まず、門から家が見えない。
これは比喩ではなく本当。
歩くと玄関まで10分ほどかかる。
でも門には私専用の自転車がおいてあるのでそれに乗れば楽だ。
響生は車に送らせるというものの私一人のためにそれはどうか……。
門から玄関までは道の脇にたくさんの樹木が植えてある。
桜の木もあるのでこの時期はとても綺麗。
だから、時間に余裕のあるときは歩くことが多い。
今日もちょっと余裕があったので歩く。
歩いているとたまに庭師さんたちに出会う。
実はこの庭師さん、14人もいる。
それだけ小鳥遊の敷地が大きいってことなんだけど。
「おや、莉都様。おはようございます」
上を見上げながら歩いていると声をかけられた。
そっちを向くと庭師さんの中で一番の古株鈴木さんがいた。
どうやら剪定作業をしているらしい。
鈴木さんは私が小さい頃からいる庭師さんだ。
というより響生のお父さんが子どもの頃からいるとか聞いたことがある。
見た目は50代後半くらいなのにこの人一体いくつなんだろう。
「おはようございます、鈴木さん」
「今日もいい天気ですねえ。坊ちゃんはまだ眠っていらっしゃるようですよ」
「響生はなかなか起きないですからね」
思わず苦笑しながら言うと鈴木さんはカラカラと笑った。
「今日から坊ちゃんも高校生。時が経つのは早いですなあ。ほんのこの前までご当主様がよちよち歩きをしていらっしゃった気がしますのに」
…………鈴木さん、それ本気で言ってます?
そんなこんなでようやく玄関に到着。
この時点でまだ6:30。
いつもどおり豪奢なドアを開け、メイドさんたちに挨拶をし、響生の部屋を目指す。
と、途中で凛ちゃんに会った。
「お姉さま!!」
猛スピードで飛びついてくるのはやめてほしいと何度言えば……。
まあ、可愛いからよしとする。
凛ちゃんは響生の妹で今日から小学6年生。
ふわふわした腰ほどまである黒髪に大きな瞳の美少女だ。
そして、生粋のお嬢様でブラコン。
原作だと主人公と響生の仲をことごとく引き裂こうとする。
響生ルートが鬼畜だと言われる所以だ。
そんな凛ちゃんになぜか私は好かれている。
「凛ちゃん。おはよう」
笑いかけるとただでさえ可愛らしい顔がもっと可愛くなった。
「お兄さま、今日もぐっすりお休みですわ。先ほどメイドが起こしに行ったようですけれど、まったく起きる気配がなかったとか」
やれやれといったように首を横に振る。
なんで響生はこうも寝汚いのか。
凛ちゃんに別れを告げ、響生の部屋のドアをノックする。
やっぱり返事はない。
ので勝手にドアを開け、部屋に入る。