表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・金

前回の桃太郎に続いて、この書き物もオーソドックスな内容と仕上がりました。


 起


 昔、足柄山あしがらやまに金太郎という少年が、故郷を京都にもつ母親と一緒に暮らしていました。金太郎は、筋骨隆々な躰に大きな丸の中に大きく「金」と書かれた赤い菱形の布を前後に身に着けて、垂れた眼差しと少し歪んだ厚めの唇が大変チャームな少年でした。幼い頃に父親を亡くした金太郎は、母の手ひとつで根気良く育てられて、たわわに実る筋肉をまとった文武両道な丈夫となりました。

 金太郎は幼いときからひぐまとともに山で自家製の機器を使って鍛錬を積み重ね、ときには拳闘を、ときには相撲を、そしてまた或るときには野戦術で遊んでときを過ごしてゆきました。この金太郎は、拳闘で勝利をおさめるごとに何かと「エイドリアーーン」と渋い羽座間ヴォイスにて雄叫びをあげていました。



 更に時は過ぎて。

 身の丈六尺ほどの立派に成長した金太郎が、足柄峠にさしかかった源頼光みなもとのよりみつという武将と運命の出会いをして、羆とともに家来となりました。

 それから、金太郎は父親の姓を合わせて坂田金時さかたのきんときと改名したのです。そして、源頼光を筆頭に、坂田金時加えた武将「頼光四天王」を従えた特殊部隊が結成です。


 筋さえ通りゃ金次第でなんでもやってのける命知らず。不可能を可能にし、みやこあやかしを粉砕する、俺達特攻野郎Rチーム!

「俺はリーダーの源頼光。通称ライコウ。奇襲戦法と変装の名人。俺のような天才策略家でなければ、百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん!」

「俺は。渡辺綱わたなべのつな。通称フェイスマン。頼光四天王の筆頭を務めている。自慢のルックスに女はみんなイチコロさ。ハッタリかまして、ブラジャーからミサイルまで、何でもそろえてみせるぜ」

「坂田金時、通称金太郎。(まさかり)の名手だ。朝廷の人間でもぶんなぐってみせらあ! でも、飛行機だけは勘弁な!」

「よぉ、お待ちどう! 俺様こそひぐま。通称クロクマ。パイロットとしての腕は天下一品! 奇人? 動物? だから何?」

「俺は卜部季武うらべのすえたけ。道中に産女うぶめに声をかけられるなりに、その子供を預かっちまった事があるんだ」

碓井貞光うすいさだみつ。以前、帰郷した際に暴れていた大蛇を仕留めたあとに、十一面観音菩薩に導かれて作った社に、その頭を収めているのさ」

 俺達は、道理の通らぬ魑魅魍魎ちみもうりょうに敢えて挑戦する、頼りになる神出鬼没の、「特攻野郎Rチーム」! 助けを借りたい時は、いつでも言ってくれ!


 そして金太郎は源頼光と四天王の仲間たちとともに、丹波国で悪行三昧をはたらいている不届き者、酒呑童子の退治に向かったのでした。




 承


 そして、捕らえられていました。


 源頼光ともども皆。

 褌一枚にされて縄で緊縛です。

 亀の甲羅を象っていました。

 キッコウ縛りというものです。

 羆に至るまで実に丁寧に。

 動けば必ず縄が食い込みます。

 いちおう皆は人質あつかいです。

 特攻野郎たちは皆揃って、酒呑童子が徒党を組んでいるなどとは聞いていませんでした。てっきり単独による不埒な悪行三昧だと思い込んだまま、意気揚々と真正面から鬼のすみかに踏み込んでいったその矢先に、複数体の鬼どもから背後から押さえつけられてしまったのです。

 特攻野郎Rチームの不覚でした。

 油断大敵火がボーボーです。

 酒呑童子共のすみかは、なんと、御殿を思わせるほどに朱と漆とで塗られた立派な建物でした。そしてその中央に、四角くて白いジャングルが堂々とそびえ立っています。副首領の茨木童子をはじめに、四天王の熊童子、虎熊童子、星熊童子、金熊童子で主な部分を構成してありました。

 その副首領こと茨木童子が、不思議そうに尋ねてゆく。しかもこの茨木童子、実に“けしからん程に”妖艶な女でした。黒髪でしたが、どちらかと云うと北欧系民族の顔立ちとスタイルです。

ぬしら、組んでいったいどれくらいか。このような多勢に無勢な場所に、少数で真正面から入ろうとするとは。もう少し考えてから行動をとるべきではないのかえ」

「はい、ごもっとも」

 と、神妙な面もちで頼光が。

 同じように北欧民族な彫りの深い風貌を持った酒呑童子から、切り出してきました。実に渋い、若本ヴォイスです。

「この俺が、この国では酒呑童子と呼ばれているが、まことの名はイワン・シュテン・ドラコと云う。ここから生きて還りたければ、誰の命によって乗り込んできたのか吐いてもらおうか」

「断る」

 坂田金時、即答です。

 刹那、ピシャリと鞭の一打。

「おう!」

 突如躰じゅうに走った電撃に、金太郎は大きく痙攣をしてしまいました。この無情な一打を放ったのは、“けしからん”なくらいの妖艶さを持つ美しき鬼女、茨木童子でした。その鬼女が、美貌をまさに鬼のごとく変えていきます。

ぬしゃ、今おかれとる状況が解っとるとや。丸腰のくせしくさっていきんな。この、筋肉豚共が!!」

 Rチームへ向けて強烈な言葉と一打を放っていきました。まずは金太郎から、二打目を喰らいます。

「いえっす!」

 それから、源頼光、渡辺綱、みたび坂田金時、羆、卜部季武、碓井貞光と茨木童子は罵りと鞭を順に浴びせてきました。

「骨無しが」

「おういぇ!」

「貧弱野郎」

「あうっ!!」

「筋肉豚が」

「えっどりあ!」

「無能熊」

「まいがっ!」

「役立たず」

「えっくせれんっつ!」

「糞禿」

「おお、かみんっ!」


 パラー、ラー!!

 パラー、ラー!!

 フラーイ! フラーイ!




 転


 背中鞭打ち。

 張り付け。

 前面鞭打ち。

 蝋燭垂らし。

 羽根くすぐり。

 往復ビンタ。

 三角木馬。

 これらの数々の拷問を、実に“けしからん程”妖艶な茨木童子が直に、特攻野郎Rチームへとあたえていったのです。それなりの頭数がいる特攻野郎たちを皆相手にしながらも、茨木童子はひとつも息を切らしていませんでした。疲労の顔さえもうかがえません。酒呑童子を含む仲間内から鉄仮面と揶揄されている彼女ですが、金太郎たちへと拷問をくわえてゆく時は、珍しいほどに侮蔑の笑みを浮かべていました。さすがは鬼です。まさにクイーン。鬼女王様おにじょおうさまです。

 しかし、拷問を受けてゆくも、特攻野郎の面々は頑なに口を閉じていました。これには、茨木童子も少々呆れた顔を見せています。

「主ら、そんなにまで頑張ってなんの見返りがあるというのじゃ」

「解らんき」と羆。

「はあ?」

 たちまち目を見開いた茨木童子。

「主ゃ糞畜生のくせしくさって、解る解らんの前にけだもんのテメェが言葉喋んな! けものくせぇんじゃ!!」

「まいがっ!」

 亀甲縛り姿で三角木馬に跨がったまま、背中に鞭打ちされて、羆は大きく痙攣させていきます。

「羆!」

 金太郎の呼ぶ声もむなしく、羆は、茨木童子の繰り出してゆく無情な鞭打ちを背中に受けていきました。それから、御殿に空気の弾ける音をしばらく響かせていったのちに、最後の一撃を受けた瞬間、顔が天を仰ぐほどに躰を大きく反らせた羆。その天を仰いでいたさいちゅうに、視界と脳内とを駆け巡ってゆく無数のプラズマを見ながら、富士山の頂まで一気に跳躍をしかのごとき恍惚を味わった羆でした。

 まさに絶頂体験です。

 垂直に天高く昇ってゆく気持ち。

 あらゆる物理の法則を無視します。

 大気圏を突き抜け。

 太陽系銀河系を瞬く間に通過し。

 宇宙の中心部まで到達。

 ABCD、E(良い)気持ち。

 羆の視た、薔薇色の世界です。

 薔薇色の大空に瞬く煌めき。

 大地は一面の薔薇のお花畑。

 羆の雄叫びです。

「えっくせれーーーんっっつ」

「羆あああぁぁーーー!!」

 金太郎の叫びとともに、羆はとうとう躰を折ってうなだれてしまいました。別世界を体験してきたその顔には、微笑みを浮かべているではありませんか。


 フラーイ! フラーイ!

 パラー、ラ!!




 結


「うおおお! 羆あああぁぁ!!」

 金太郎は雄叫びと同時に、緊縛してあった縄を引きちぎってしまいました。怒りとともに四方八方へと弾け飛ぶ縄。烏帽子を脱ぎ捨てて、解いて肩にかかるその頭髪は、細かい天然パーマでした。そして、赤い紐を頭に巻いて歪んだ唇から白い歯を剥き出して、腹をくくります。

 褌の前に手を突っ込んだと思ったら、吃驚仰天。引き抜いたその手元には、弓が握られていました。そして、褌の後ろから矢を取り出して構えていきます。標的を定めて放ったそのときに、射られた熊童子は爆発して肉体を四散させてしまいました。羆を殺されてしまったと思い込んだ坂田金時こと金太郎は、頭の天辺から爪先まで怒りに溢れています。

 鶏冠に来たぜ。という状態です。

「テメェら、許さねえ! 俺が法だ!!」

 もうひとつ矢を放った瞬間に、虎熊童子も爆発しました。残された四天王の星熊童子と金熊童子は、ともにうろたえていきます。

「鬼に道義は要らねえ!」

 弓矢を放り投げたと思ったら、再び褌の前から、今度はやや長めで大きいいしゆみを取り出して構えていきます。その弩の横からは、これまた横に連なった多数の矢がありました。またの名をボウガンとも呼びます。その黒くて長めなボウガンの引き金を引いた刹那に、次々と矢が連射されていきました。これは、引きっぱなしの状態の弩の本体が自動的に矢を充填していき、放ってゆくといった仕組みになっています。そんな金太郎は唸りをあげながら、無情なほどに弩から矢を放っていきました。


 その姿は、まさに超弩級。


 すると、数々の矢を躰じゅうに受けた星熊童子と金熊童子と、そして茨木童子も巻き込んで、床に伏して絶命してしまいました。

 残るのは、酒呑童子ただ一体のみ。

おとこどうしのタイマンだ。武器は要らねえ。拳ひとつで勝負だ!!」

「受けて立った」

 そのような熱い応答を交わしたふたりは、中央の四角いジャングルにへと飛び移ったのちに、それぞれ身構えてゆきます。そして、何処からともなくゴングが鳴った、その刹那。金太郎の褌の後ろから投げつけられた物から、酒呑童子の首は撥ね飛ばされてしまい、倒れ込んでしまいました。金太郎の褌から放たれたその物とは、大変に立派なまさかりでした。大きく横に振りかぶられた鉞が、ブーメランのように回転しなから、的を正確に得て、その鬼の首を撥ね飛ばしてしまったのです。

「鬼に道義は要らねえ!!」

 と、金太郎は再び吐き捨てました。


 そうして。残りの特攻野郎Rチームを亀甲縛りと三角木馬とから解放させて、友の羆を薔薇色世界から引き戻したのちに、金太郎たちは、地下室に拉致監禁のうえに薬漬けにされていた貴族の若い娘たちを助けだして、酒呑童子の御殿をあとにしました。

 若い娘のひとりふたりは絶望的だったものの、あとの多数の娘たちには助かる見込みがあったので、源頼光と坂田金時を含む頼光四天王ともに皆は、無事に朝廷からの役目を果たしたのでした。


 めでたし。

 めでたし。



 フラーイ! フラーイ!

 パラー、ラ!!




 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・金』完結




最後まで、このような書き物をお読みしていただき、ありがとうございました。

機会があれば、再びお目見えすると思います。ので、それまでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ