1話 少年と少女
―――それで、いいのか。
脳裏に響く声。
誰の声か、なんて、今の自分にはどうでもいいことだった。
もう、首を動かす気力もなかった。
―――お前が、望むのなら。
僕が、望むなら?
…僕が、望むのは。
僕が本当に欲しているものは、富でも地位でも何でもない。
ただ、平和が欲しかった。
「リリム?どこか行くの?」
今日は日差しが強い。
木々の隙間から、暖かな日差しが差し込んでいる。いい洗濯日和だ。
母に川に行ってくる、と言うとわかったわ、と微笑みかけてくれて、優しく見送ってくれた。
村外れの川に一直線に走るさまを見ていた村の子供たちは、私のことを"流石脳筋"といって笑っていた。
振り向きざまに睨んでも、全くひるまない。
本当に悪ガキ達だ。
しゃあしゃあと流れる川の音が近くなるにつれて、私の気分もどんどんと高まっていく。
今日は、十年に一度の再臨祭と呼ばれるお祭りの日で、夜になると皆で革に集まり各自家で作ってきた灯篭を流す。
灯篭に願い事を書いて流すと、必ずその願いは叶うとも言われていた。
「…あれ?…人…?」
川辺に、誰かが倒れていた。
辺りには赤い液体が飛び散っていて―――
「って…大変…!」
直ぐに駆け寄り、ポケットからハンカチを取り出す。
昔、祖母に教えてもらった応急処置だ。
「…どうしよう」
少女が悩んでいると、少年の瞼が、わずかに動いた。
よかった、という言葉を発しようとした瞬間、私の首にかかっていたペンダントが光を放ち始め――
あたりは真っ白になった。