5話
大塚さんたちより早く体育館に付くと、少し見慣れない顔が3人ほどあった。
背の高さもバラバラで、友達で体験でも来ているのだろうか。全体的に小さいイメージがある。
「あっ、玲ちゃんやっほー!」
いつまで経っても慣れない名前を呼ばれる。条件反射で私の方はブルッと震えてしまう。
しかし呼んでいるのは先輩だ。しかも2つ上の先輩ともなれば文句のつけようもない。したがってこのように慣れない名前をしばらくの間聞かされ続けることになる。
「ど、どうも……」
どうにか返事をすると「元気ないなぁ!もっと元気に!!」と思いきり肩を叩かれた。
こんなに元気なのはキャプテンでセンターのセリさん。「セリ」というのはコートネームで、それぞれ元村先生の生徒への願いが込められている。本名はまだ会ったばかりなのでまだちゃんと覚えきれていないが、コートネームはだいぶ覚えてきた。
「全く、セリはいつもそうやって後輩のこと困らすんだから……」
反応に困っていると、後ろからやれやれとやってきたのは部長のミルさん。ポジションはガードで女バスのお母さん的存在である。ものすごく大らかな人で、このアットホームな空気を出しているのも、この先輩のおかげかもしれない。
「いいじゃんミル!セリだって後輩のこと可愛がってるんだよ!」
いつの間にかひょっこり現れたのはセリさんの相方(?)でもあるキョウさん。ポジションはフォアードで、女バス一声を出している先輩。この人がいるとものすごくチーム全体が明るくなって、私たち後輩からしてもこの人の存在はとても大きいものだと思う。
「そうだよミル!キョウはわかってくれてるじゃん!」
「あんたら二人でそんなこと言われても玲困ってるじゃない!もう少し後輩のこと考えてあげなさいって!」
「はぁ~い」
ミルさんの言う通りに渋々ながら頷くセリさんたち。この人たちをみているとどうしてか、心がとても温かくなる。我が家でも似たような光景は目にするのに、どうしてこの人たちとだとこんなに心が安らいであったまるのだろう。
私が未だにここの体験入部を、バスケ部を、バスケを止めきれない最大の理由でもある。
それが判ったらきっと、私はバスケを続けるか続けないかを決めることができるだろう、と勝手に思っている。
「あ、あの……」
「ん?」
「あそこにいるのって、1年生ですか?」
このまま何も言わずに準備をするのもあれなので、ちょうど聞きたかったことをセリさんに投げかけてみようと、さっきから気になっていた3人組の方に目を向けた。
あちら側の人たちは私の目線に気が付いていないのか、お構いなしに談笑を続けている。これはある意味好都合だったのかもしれない。もし目線が気付かれていたら、お互い少し気まずい空気が走ったに違いない。
「うん、そうだよー!一番左の由希は今日から本入部で、あそこの二人は今日はじめてきたんだけど、マネージャー希望なんだって!」
その問いにキラキラと目を輝かせて答えてきてくれるセリさん。部員が増えたことがとてもうれしいんだろう。顔にばっちり書いてある。
それにしても、マネージャー志望……か。
(どんな人だろう……)
心のどこかで興味を抱くと同時に「あっ、夏鈴来たから今日も練習始めよう!」とセリさんにせかされ、そのまま和泉さんと二人で女バスの輪の中に入って行った。
「さぁて、今日は真理を含めて、二人も入部してくれました!さらには、マネージャー志望ってことで新たに二人も体験入部に来てくれたし、香苗や玲も来てくれたし!今日は万々歳です!
同じ一年生の中でもわからない人もいるだろうし、一応みんな自己紹介してもらおうかな!」
全員が輪になると、キャプテンとしてセリさんが自己紹介を促してきた。みんなニコニコと私たちを見つめてくれていて、ここの空気は本当に穏やかなんだなぁと何度も思わされる。
「んじゃまず由希から!」
セリさんに由希と呼ばれた女子は少しびっくりしたような顔をしながら自己紹介を始める。
「今日から部員の5組、工藤由希です!ポジションは一応フォアードで、先輩たちの足を引っ張らないように頑張ります!!」
「由希はディフェンスすごくうまいからなぁ。怖い怖い」
「セリも負けちゃダメなんだからねー?」
「わかってるって!ハハハ!!」
工藤由希さん、身長は和泉さんよりも少し低いくらい。大塚さんと同じくらいだ。茶色の髪の毛は染めているのか、地毛なのか、それとも体育館の光が反射しているからなのかよくわからない。ただ少し痛んでいる毛先は普段あまり気にならない私ですらも目に入ってきた。
5組と言っていたから、どうやら和泉さんと同じクラスらしい。和泉さんに目線を向けてみると、自分の周りに工藤さんがいたか考えているようだった。
「んじゃ次!」
「マネージャー志望の4組司波陽香です!中学はバスケやってましたが、マネージャーやりたいと思ってます!」
元気に自己紹介をするのはマネージャー志望の司波陽香さん。身長は長谷部さんよりも低く、今まで会ってきた同い年の中でもトップクラスで小さい。ポジションはガードなんだろうが、ドリブルとかされたら私なんかはとてもじゃないけどついていけそうにない気がする。
「よろしくね陽香!その隣は…?」
「私も陽香と同じでマネージャー志望の同じく4組佐々木薫です!中学ではセンターでした!今日はよろしくお願いします!」
「センターならプレイヤーでも!!」
先輩と同じことを思った私がどこかにいたが、佐々木さんは確かに他の女バスよりは身長がある。私よりも少し小さいくらい。長い黒髪が凄く印象的で、大人しいイメージが強い。バスケをしたらどうなるんだろうと、少し気になった。
「んじゃ次はあきらたち!」
「あ、3組の神影玲です。一応センターやってます」
「5組の和泉香苗です。フォアードです。よろしく……」
「3組の大塚夏鈴です!ポジションは香苗と同じくフォアード!!よろしくね!」
「今日から入部します、長谷部真理です!ガードです、よろしくね!」
「それじゃあ自己紹介も終わったし、早速マネージャーさんはお仕事について教えるね!それじゃあ二人はこっち来てね!夏鈴たちはみんなと練習始めてていいから!」
セリさんの声とともに今日の部活が始まった。
暖かい春の風が、体育館の中を吹き抜けた、そんな気がした。
どうも、森野です!
今日は一気に登場人物増えちゃった(汗)しょうがないです、話し進めるのに必要なんですよ、先輩がた←
そしてこのあとのはなしになるからいわないけど、正直ここで数人一気に出さないと話し続かない←
というわけで今回は読む人も大変だったと思うけど、最後まで見てくれてありがとうございました!
では、今日はこの辺で!!