3話
「あら、玲何してるの?」
帰宅後すぐにタンスを漁っている私の姿を見かけた母は少し不思議そうな声で私に訪ねてきた。
それもそのはず、私が今漁っている棚は中学の時半分いやいやながらも使っていた「部活専用」の棚なのだから。
私の家は何度も言う通りスポーツ一家。こういった設備というか、部活に関してとなると結構な優遇が働く。その一つとして、この「部活専用棚」と言われるウェアなど「だけ」が詰まっている棚などが存在する。
「いや、明日体験入部行くからウェア探そうと思って……」
「あら、やる気になったの?」
自然の口元が緩んでいるぞ母上よ。どんだけ心待ちにしてたんだよ私なんかのスポーツ姿。
この家族で唯一の運動音痴の末っ子のダメダメな姿を見て、一体何が面白いんだか。
「ううん、今日帰り道に友達に頼まれちゃって。どうせ体験だけだしと思ってね」
「ふぅん。でもその割には楽しそうな顔してるけど?」
「これは……」
そう。正直な話、体験入部の話を聞いた時心のどこかで凄くワクワクしていた自分がいた。
またバスケができる、その喜びが心のどこかで疼いていたのだ。
それにまだ本入部ってわけじゃない。やめようと思えばどこまでだって歯止めが利く世界だ。それなら好きなことをするのに楽しみじゃないわけがない。
まだ、「嫌い」になりきれてない自分がどこかにいるから、そんなことを思えるのかもしれない。
「まぁ前向きに考えなさいよ?噂だけど、顧問の先生すごく優しいって聞くからね」
「そうなの?まぁ凄くきれいな先生ではあるけども……」
そう。うちの高校のバスケ部の顧問の先生は私の学年の担任でもある。私の担任ではないが。
元村かずみ先生。既婚しているがその綺麗な姿は入学前でもかなり印象的だった。
長い髪に謙虚な姿勢、笑顔の絶えない先生で男子からは絶大な人気を誇っている先生だ。
「噂程度だけどね。でもあの時のこと思い出してみなさいよ」
「あの時……」
そう。私は入学前の説明会の時に元村先生に声を掛けられていた。
先生は事前に入学してくる生徒の部活を調べ上げていたらしく、その中でも「女子バスケットボール部」だった人全員に「春休みの体験入部、来てみませんか?」と声をかけていたらしい。
無論私もその一人で、行くかすごく迷ったがあの時は結局怖くて行くことができないまま入学したという、そういうわけだった。
「一回だまされたと思って、本気でやってみたら?」
母の言葉が凄く重くのしかかる。
諦めかけていた出来事が、もう一度やってみようと思えるなんて、思わなかったけれど。
「……うん。そうするよ」
やってみなくちゃわからない。
私の「あのこと」も許してくれる人が、いるかもしれないから。
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「み、神影玲です……大空中学から来ました。中学では一応センターやってました。よ、よろしくお願いします……」
正直、滅茶苦茶に緊張してる。
ひさしぶりのウェアは少し小さく感じて、バスケ部だった泰輔兄からウェアを借りた。男子のにしては小さいのか、今の私にはちょうど良くて動きやすい格好だ。
『まってましたセンタああああああああああああああ』
私の自己紹介が終わると、先輩や大塚さんは歓喜の声を挙げて私の手を掴むと次々と「よろしくね!!」とめっちゃ寄られた。
人見知りな私にとってはものすごく恐ろしい光景だったのだが、不思議と安心できるこの光景は何とも言い難いアットホームな感じで安心することができた。
「よ、よろしくお願いします……」
おずおずと挨拶をすると、早速練習が始まった。
私の他にも1人、体験入部の人が来ていてその人とも挨拶を交わした。
「和泉香苗です……」
彼女は大塚さんよりも少し背の高い、ポジション的にフォアードと言ったところだろう。
私と同じで口数が少ないところをみると、人見知りなのはまず間違いないだろう。
「こ、こちらこそ……」
ぎこちない挨拶が終わると、早速練習が始まった。
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「つっかれたぁ……」
練習は思った以上にハードだった。
でもその中でも先輩方はとても楽しそうにバスケをしていたし、途中の休憩では漫才のようなことをしていて、私を含めた1年生全員の緊張感を和らげてくれていた。
あれが自然にできていると思うと、本当に凄いと思う。
「あれ?和泉さんがいないけど……」
体験入部の人が着替える更衣室にはさっきまで一緒に帰って来た和泉さんの姿がない。着替えもそのままだし、まだ帰ってはいないようだけど……
『キタあああああああああああああああああああ』
「!?」
そんなことを思っていると、突然廊下から歓喜というか悲鳴というか奇声と言うか……何とも言えない声が響き渡った。
間違いない、その声の主はさっきまで一緒にいた和泉さんの声だ。
「何が来たんだ……!?」
好奇心というかなんというか、気になって仕方なかったのでさっさと着替えを済ませると、携帯を片手にフルフルと肩を震わせている和泉さんの姿があった。
「繋がった…繋がったああああああああ」
高らかに携帯を掲げるその姿は何かをゲットした勇者のように誇らしげな顔をしていた。
その携帯の画面からは―――――――
『animake』
の画面が表示されているのを、私は見逃さなかった。
そしてさっきまでは全く見せなかった笑顔をこっちに向けると、お互い目があった。
「「・・・・・・・・」」
気まずい、超気まずい。
あの様子だと、多分隠していたことなんだろうと思う。それを私に見られてしまったという表情で見つめる彼女は、手と共に固まっていた。
しかし、私は―――――
「仲間だああああああああああああああああ」
ここに同士がいたという感動で、満ち溢れていた。
どうもどうも、友達にそそのかされて二日連続投稿ですよ←
どうも森野です。
今回は一人の少女との笑撃的な出会い方をちょっと書いてみましたw
ホントにこんなだったんですよ、うんww
リアルのモデルは、ものすごくバスケうまいんですけども、これがあるがゆえにみんなから「玉にきず」扱いを受けてるww
度たび「○○はバスケだけやってればいいのに―」という会話をするくらいw
そんな彼女との出会い。それを書いてみました。
では次はいつになるのやら、失礼いたします(`・ω・´)