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プロローグ

もう決めたんだ。

私は、もうやらないって。


認めてもらえないことをするなんて、そんなのするだけで無駄なんだ。

そんな無駄なことをするくらいなら、しない方がずっとずっと、自分のため。



「部員募集中!」



入学式、入って来たばかりの高校生活を出迎えてくれるのは、後輩を自分たちの部活に入れようと必死に呼びこんでいる先輩たち。

教室を出れば先輩が廊下にいて、一歩外に出れば勧誘の嵐。

運動神経のよさそうな子は明らかに運動系の部活の先輩に片っ端から声をかけられ。

ちょっと内気そうな子には優しそうに話しかける文化部の先輩。


そんな風に数々の同級生が話しかけられる中、私は一人黙りこくって教室に座り込んでいた。

神影玲みかげあきら。私の名前は出席番号的にも窓側に位置していて、桜の舞う春の空を先輩たちの喧騒をBGMにボーっと見続けていた。

一歩も外に出なかったら先輩からも話しかけられることはないはず。ホームルームもとっくの昔に終わってるわけだし、この騒ぎが一段落したら一人で帰ろうと思う。

高校に上がって、昔の友達もいるわけじゃないし。そんな仲のよい友達なんて、「そもそも」いないわけだから。一人で帰ったところで、誰かに迷惑な話じゃないだろう。


「なかなか止まないなぁ……」


ホームルームも終わってそろそろ1時間は経つと言うのに、全くもって喧騒が止む気配が見えない。むしろどんどんとざわめきが大きくなっていた。


「……早く帰りたいなぁ……」


普通に教室を出て先輩の話もあんまり聞かないで帰れば、とも思ったがそうもいかないわけが私の教室のすぐ近くでは起こっていた。



「バスケ部!初心者でもいいんで入ってみませんか―!?」



バスケットボール部。

身長、スピード、テクニック、体力、気力、信頼、チームプレイ。

様々な要素が必要とされるボールスポーツの一つ。

特にチームメイトとの信頼の築き方は他のスポーツ以上にしっかりしないと、簡単に点数なんて取れやしない。

信頼度の低いチームは、個人でテクニックを持っていたとしてもすぐに予選敗退が目に見えているようなスポーツ。

だからそう、このスポーツは「嫌い」だった。



いや、前までは違った。むしろ、「好き」だった。

やるのも見ているのも、全部が全部、大好きで仕方がなかったスポーツだ。

出来ることならしたい、思いっきり体を動かして楽しみながらバスケをしたい。


だけど。



「……はぁ」



またさらに大きなため息が私の口からこぼれ落ちる。

バスケットボール。今はもう私にとってそれは、ただの「苦行」にしか過ぎない。



あんな思いをするくらいなら、いっそしない方が自分だって傷つかない。

問題の中に自分がいることで、全く関係のないのにひとくくりにされるなら自分が進んでやらなければいいだけの話。



だから、私はもういいんだ。



「あんな思い、もうたくさんだ」



いつまで経っても止みそうにない喧騒に諦めて、私は自ら席を立って教室から出ることを試みる。

まだ大勢の先輩方が色んなところで勧誘をやめようとしない。


その中にはもちろん、さきほど声を人一倍に張り上げて勧誘をしていたバスケットボール部の姿もあった。

実にわかりやすい、ユニフォームを着けてバスケットボールまで持っているんだもの、あれをみてバスケットボール部以外と判断する方が難しいくらいだ。



「あっ!!」


「げっ!」



あまりにも目立つその格好にしばらくみとれていたら先輩の一人が私と目を合わせてきた、否、目が合ってしまった。

そんなつもりなかった、ただ純粋に、バスケットボール部かぁと思っていてみていただけだったんだ。



「ねぇねぇ、背すごく大きいね!!」


「うぐ……」



痛いところをつかれたなぁ。先輩だからなんも言えないけど。

自分自身のコンプレックス、身長についていきなり問われたのだから。苦笑を必死に作ってごまかそうと試みる。


「そ、そんなことないですよ……」


「いやいや、そんなことあるよ!」


実際そんなことあるから困っている。そしてそれを自覚しているから困っていると言うのに。

私の身長は170センチと女子高生の平均身長を大きく超えている。むしろ高校生男子の平均値くらいにまでいっているかもしれない。

この身長のせいで散った恋は数知れず、身長が大きいだけで何かと引き合いに出されてバカにされることもしばしば。

極めつけは同級生の勝手な思い込みやらなんやらで、「女子は小さい方がいいんだから、お前なんて――――」と何度も言われたものだ。


それを聞き続けていた私は、本当に自分のこの身長を、嫌っていた。

そこに出会ったのがバスケットボール。

最初はすごくうれしかった。だけど今は―――――



「わ、私今日この後用事あるんで――――」


「あっ、ちょっと!!」



先輩の止める声も聞かないフリ。聞いていたらまたやりたくなってしまいそうになるから。

あの「女子の渦巻き」にのみ込まれてしまうから。








自ら傷つく道なんて、もう二度と行きたくないから。

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