第五話 狂気
その日、コトネはカフェでくつろいでいた。
お気に入りのコーヒーを飲みながら、
スズリの驚愕した顔を思い出しいい気分だった。
さて、どうやってあの忌々しい姉を苦しめようか?
そんなことを考えながら一人でカフェの奥の席に座っていた。
天気は雨こそ降っていないものの、雲が厚く覆っていた。
時間は午後3時ごろである。
カフェには少しずつ客が増えてくる時間帯だ。
そんなときコトネの隣の席に女子大生らしき4人グループがやってきた。
今時の女子大生という感じで特に珍しくも無い。
コトネは特に気にしなかった。
だが時間が経つにつれてコトネの胸には嫌悪感が募ってきた。
その女子大生グループの一人が原因だ。
見た目は姉であるスズリとは全然違うが雰囲気が似ている。
明るくて元気で人から好かれるような・・・。
実際にそのグループの中心的存在のようだ。
コトネにはわかっていた。
姉やこの女子大生のような一見明るく誰とでも親しくしそうなタイプは
心のそこでは無意識にコトネのようなタイプを見下していることを。
そしてコトネのようなタイプを踏みにじり傷つけることでその地位が成り立っていることを。
(・・・忌々しい)
コトネは心の中でつぶやいた。
4時半くらいになっただろうか。
その女子大生のグループはどうやらこれから帰ろうとしているようだ。
荷物を持ち、店を出て行くそのグループの後をひっそりとコトネはつけていった。
しばらく歩いて交差点に差し掛かり、例の女子大生は他の3人と別れた。
どうやら家の方向が違うようだ。
コトネはその女子大生の後をつけていく。
人通りの少ない路地に出たところでコトネが声をかけた。
「おいっ、あんた」
その女子大生は怪訝な顔をして振り向いた。
「何か用でっぅ」
言い終わる前にコトネは強烈な突きをその女子大生の腹部へ放った。
横隔膜に衝撃が走り声を出すこともできずに地面に倒れ悶絶した。
それを楽しそうなようすでコトネは見下ろしていた。
「ふふふ。お楽しみの時間ですよ」
コトネはその女子大生の顔を踏みつけて地面にこすり付ける。
「・・・くぅぅ、」
みぞおちを殴られまだ声が出せないその女子大生は呻いていた。
そんなことはおかまいなしにコトネはその行為を続けた。
その女子大生の顔にはみるみる擦り傷ができて血が流れ始めていった。
「・・・た・・たす・けて・・」
「助けて欲しいの?どうしようかしら・・・。
では私の言うことを聞きなさい」
「・・・・はい」
その女子大生は踏みつけられたまま力なく答えた。
「では右手の人差し指を左手で握りなさい」
「・・・こうですか?」
「そうしたらその指を折りなさい」
「ヒッ・・」
その女子大生は無茶な命令に声さえも出なかった。
「ふふふ、言うことが聞けないのね?」
コトネはその体勢から飛び上がりその女子大生の胸へ両足で踏みつけた。
「げはああああ」
うめき声とともに骨の折れる音が響いた。
肋骨が5~6本は折れただろうか?
それが肺に突き刺さりその女子大生は呼吸困難に陥った。
肺に穴が開き、いくら空気を吸っても呼吸ができないのである。
顔を涙と鼻水とヨダレででちゃでちゃにしながら叫んだ。
「折ります。折りますから許してください」
そしてポキリという音が響いた。
コトネは口元を歪めながら言った。
「中指」
「はっ・・はい」
そしてまたポキリと言う音と悲鳴が響く。
そのとき辺りが騒がしくなってきた。
どうやら付近の住民が悲鳴を不審に思って見に来ようとしているようだ。
その気配を感じ取ったコトネは舌打ちをした。
(いいところなのに)
仕方なくこの場は引くことにした。
「じゃあご褒美を上げる」
そう言ってコトネはその女子大生の喉を踏みつけた。
なんともいえない鈍い音が響き、痙攣を始めた。
そして振り返ることもせずにコトネは走って逃げ始めた。
(ふふふ、姉さん、あなたのせいでこの子は死んだのよ。)
こみ上げてくる笑いを抑えながらコトネは街の闇に消えていった。