第二話 後悔
スズリは疲れた顔で警察署から出てきた。
第一発見者として事情を聞かれていたのである。
ただ、胸の中にある疑惑は話すことができないでいた。
(首を折り、そして捻りあげて折れた骨を脊髄に突き刺すあの技・・・)
「はぁ」
深くため息をついた。
その技はまぎれもなくスズリの流派の技である。
それと知っているということは、例の事件の犯人は
同門の身内であることを意味していた。
そして一人の人物のことを思い浮かべていた。
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スズリには血の繋がっていない妹がいた。
名前はコトネという。
とある事情で遠い親戚から養子として迎えたのだ。
スズリの父は二人とも愛情を持って育てた。
そして二人ともに武術を教えた。
だが次第にこの姉妹には溝ができ始める。
明るくて誰からも好かれるタイプのスズリ
暗くてあまり人から好かれないコトネ
次第にコトネは深い劣等感を抱くようになっていく。
なぜ自分は好かれないのか?
実の娘ではないという劣等感も合わさり
次第にコトネは精神を蝕まれていった。
それをみたスズリはコトネのためにパーティに連れ出したり
友人を紹介したり働きかけた。
だがそれは全て裏目に出て、深く傷つけられたと感じた
コトネは家を飛び出して消息不明になっていた。
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・・・・・。
(もし、この犯人がコトネだとするなら・・・。
あの時にコトネの気持ちも考えずに無理に押し付けたせいで
傷つけてしまった。それが原因でおかしくなったのなら・・・。
責任は私にある・・・)
胸を締め付けるような後悔にスズリは襲われていた。
どうしてもっとコトネのことを考えることができなかったのだろう、と。
そして同時に疑問も浮かぶ。
(もしコトネが犯人だとするなら、何が目的なのだろう?)
いくつもの疑問と後悔の念が頭の中でぐるぐると巡る。
家まで帰る足取りも重い。
そしてあまりの精神の疲労により気分が悪くなっていった。
家までが凄まじく遠く感じる。
よたよたとおぼつかない足取りで歩くうちに
胃から熱いものがこみ上げてきた。
「げぼぉ、げほっげほっ」
塀に手を付き激しく胃の内容物を吐き出した。
吐くものがなくなっても嘔吐の発作はなかなか収まらない。
「はぁはぁはぁ・・・」
涙目になりなんとか呼吸を整える。
そんな状態だったので接近してきた人影にまったく気がつかなかった。
塀に手を付いて寄りかかりながら呼吸を整えていたスズリのわき腹に、
後ろから強烈な蹴りが放たれた。
「うぐぅ」
鈍い音とくぐもった嗚咽がひびく。
痛みにもだえながらもスズリは蹴りを撃った人物の方へ振り返った。
そこには悪魔のような冷たい目をしたコトネが立っていた・・・。