魔竜と赤ん坊
強烈な一撃だった。
魔竜は死を覚悟した。
目の前の戦士は
魔竜を、じっと見つめている。
自分の身体が崩れていくのを感じながら
魔竜の脳に
走馬灯が浮かんだ。
逃げ惑う人々
魔竜の吐いた炎で焼け焦げる人の山。
崩れる城。
ある小さな民家の中に
両親の死体と共に
一人の赤ん坊を見つけた。
何の気まぐれか。
魔竜は赤ん坊を森の住処に連れ帰った。
他の動物や人間達のように
その子を育てた。
たった独りの生き残り。
魔竜は自分を
赤ん坊に重ねていたのかも知れない。
森を守るため。
自分が生きるため。
大義名分は幾らでも付けられるが
殺しや破壊を楽しんだことは
決して否定出来ない。
魔竜は成長していく子どもを見つめながら
その子が自分を殺す未来を予感した。
それも良いと思った。
魔竜は
成長した子どもが泣き、
自分を呼ぶ声を無視して
小さくて平和な村に
置き去りにした。
数カ月後
子どもが村の人々と
笑いながら
幸せそうに暮らすのを見て
村の近くを訪れることを止めた。
数年後、
勝手に自分を主人に祭り上げた魔物達の一部が
あの村を襲ったことを知った。
再び訪れた村は
崩れ、廃墟となり
生きた人間はいなかった。
それから数年後、
魔物を倒す
ある戦士の噂が
聞こえてきた。
噂を聞いた時、
魔竜には自然に
あの子だと分かった。
戦士を殺したと語る魔物は
何度か現れたが
その都度、
その魔物を倒し
戦士は生存を
世に知らしめた。
魔物達は次々と世を去り
戦士は段々と
魔竜の森の住処に近付いて来た。
そしてある日
戦士は
魔竜を殺しに現れた。
2度戦い、
戦士は深い傷を負い、
退却した。
わざと逃がした。
3度目に現れ
戦い
そして今
魔竜は
戦士の強烈な一撃で
致命傷を負った。
森は燃えていた。
魔竜は
戦士を見つめながら
自分の頭の鱗を引っ張って遊ぶ
笑顔の多い赤ん坊の姿を思い出した。
その魔竜の目を見て
戦士は
はっと息を飲み
何かを確かめるように
再度、魔竜を見つめた。
その目を眩ませるかのように
魔竜は自分の身体に火を吐いた。
魔竜は自らの火に包まれて
塵となった。
その遠い記憶と共に。
森も消え、
痕跡は無くなった。
戦士はその塵を見つめ
森を見つめて
必死に何かを思い出そうとしたが
思い出せず
諦め
塵の一部を袋に仕舞い
自分の家へ
帰って行った。
遠く消え去った日。
少し成長した赤ん坊は
魔竜の顔に抱きついて眠った。
魔竜はそれを、くすぐったそうにしながら
一緒に眠った。
森の中、
眠る一匹と一人を
心地良い風が撫でていた。
まるで
永遠にこんな日が
続くかのようだった。




