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僕の名前を当ててみてよ

作者: 遥(はるか)奏汰(かなた)
掲載日:2026/08/28

夕暮れ時、帰り道を急ぐ少女の前に現れたのは、言葉を話す一匹の蛙だった。

気味が悪いと思いつつも、どこか憎めないその言葉に足を止めた少女は、近づいてくる不気味な地鳴りの音に気づく。

これは、村を守る水の神「かわず様」と、生意気な少女が紡ぐ、一瞬の奇跡と災厄の物語。

『僕の名前を当ててみてよ』

 目の前に立ちはだかる蛙(かえる)の妖怪が偉そうに口を開いた。

「こいつ、日本語を喋(社べ)れるようね」

 あたしは独り言のようにそう呟いた。

 遠くで地鳴りのように、ひゅーどん、ひゅーどんという音がずっと響いている。

「名前って?知る訳ないでしょ。有名でもない妖怪の名前なんて」

あたしは少し怒った。耳鳴りのような音が近づいてきているようで怖かったのだ。早くこの場を立ち去った方がいいのだろうか━━?

 でもせっかく妖怪に出逢えたのだから、もう少し会話とスリルとを愉しみたくもあった。

もう夕暮れ時で、辺りは闇に包まれつつあった。また道草食うとお母さんから怒られてしまうかもしれない。しかし蛙は、引き下がってはくれなかった。

『神様の名前を知らないんだったら ここは通さんど』

 私は暑さもあって イライラとしてきた。━━は強行突破してしまうのがお利口というものか?

まあ待ちなよ」

 思考を断ち切るように、蛙はぬるりと手をかざした。

「わしは蛙の姿をした水の神。この村の旱魃かんばつを救った『かわず様』じゃ」

 唐突な告白に、あたしは毒気を抜かれて足を止めた。ひゅーどん、という不気味な音がまた一つ近づく。

「……かわず様? なら、なんでそんなに焦ってるの?」

「あの音が聞こえんか。日照りの末の、でかい土石流じゃ。神の力だけでは、少女一人守れん」

 蛙は誇り高き目を細め、道端の小さな祠ひこらを指さした。

「わしの祠へ入れ。小さく見えるが、中はお前の家より広いはずじゃ」

 あたしが半信半疑で身を投げ入れると同時に、頭上で凄まじい地鳴りが轟いた。闇と泥の嵐が、祠の外を通り過ぎていく。

 狭い空間の中で息を潜めながら、あたしは呟いた。

「助けてくれたんだ。ありがとう、かわず様」

 隣に並んだ蛙は、誇らしげに小さく胸を張った。

「名前を覚えてくれたなら、それで十分じゃ」


     【了】


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

「僕の名前を当ててみてよ」という少し生意気な問いかけから始まった二人の物語、いかがでしたでしょうか。

不気味な地鳴りと夕闇が迫る緊張感の中、どこか憎めない「かわず様」と少女の短いけれど奇跡のような交流を描きました。名前を知り、呼ぶことの温かさを少しでも感じていただけたなら嬉しいです。

作品を温かく見守り、お付き合いくださった読者の皆様に心から感謝申し上げます。

また次の物語でお会いしましょう!

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