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アベルは手の中の剣を見つめた。
聖剣。
王都の首席鍛冶師の傑作。
伝説では魔神の体を断ち切ることができる神兵。
今、刃に米粒ほどの欠けがある。
ついさっき。スライムを斬ったときだ。
普通の、低レベルの、新人冒険者でも踏み潰せるスライム。
彼は手を上げ、指の腹でその欠けを軽く撫でた。縁は粗く、何かに腐食されたようだった。
違う。
欠けだけじゃない。
剣全体に細かい錆斑がある。
昨日まではピカピカだった。
彼はよく覚えている。
昨夜、装備をチェックしたばかりだ。剣は人影が映るほど滑らかで、一点の欠陥もなかった。
彼はもう一度よく見た。錆斑は表面ではなく、剣の内部から滲み出ているようだった。爪で軽くこすると、錆の一片が剥がれ、その下にはさらに深い錆色が現れた。
彼の指が止まった。この剣は彼と三年を共にしてきた。三年でどれほどの魔物を斬ってきたか?飛竜の鱗、石巨人の岩殻、ダンジョンに潜む棘だらけの魔獣——一度も傷を残さなかった。今、スライムに欠けさせられた。
「アベル!」
リリナの叫び声が彼を現実に引き戻した。
彼女は口を押さえ、目を見開いて彼を見ていた。
「あなたの手……」
アベルは下を向いた。
左手の甲に、赤く腫れた部分があった。
スライムの酸液が飛び散った場所。
皮膚は焼かれたように、水ぶくれができ、中央からは血が滲んでいた。
「大丈夫だ。」彼は眉をひそめ、手を背中に回した。「ちょっとした傷だ。」
リリナはよろめきながら走ってきた。
「わ、私がすぐに治療するから!」
彼女の手は震えながら、彼の手の甲に当てられた。
金色の光が輝いた。
聖光治癒。
彼女が最も得意とする魔法。
伝説では瀕死の者を蘇らせる神術。
光は強かった。
まぶしいほどに。
そして——
痛い。
骨までしみるような痛み。
アベルは手を引っ込め、押し殺した痛みの声を漏らした。
傷は癒えなかった。
むしろ、より赤くなった。
より高く腫れ上がった。
血と膿が混ざり、手首から流れ落ちた。
彼はその手を見つめ、頭が真っ白になった。
聖光治癒の温度は熱かった。彼は以前気づかなかった。あるいは、気づいていたが、正常だと思っていた。神術だから、多少の熱さは当然だと。
しかし今の熱さ……手の甲の皮膚が溶けていくように感じた。火の上で焼かれているようだった。水ぶくれは光の照射でさらに膨らみ、中の液体が沸騰していた。皮膚が裂ける音さえ聞こえた、かすかに、シーッと、フライパンで何かを焼いているような。
「どういうことだ?」彼は自分の手を見つめ、声を詰まらせた。
リリナの顔が一瞬で青ざめた。
「わ、私にはわからない……」彼女の目が赤くなった、「こ、このスライムがおかしいんだ!その酸液にはきっと呪いがかかってる!絶対に私の問題じゃない!」
アベルは何も言わなかった。
彼はただその傷を見つめていた。
頭の中に突然一つの光景がよぎった。
以前。
魔獣に咬まれた時。
アリスは清潔な布を、冷たい水に浸し、そっと傷口に当ててくれた。
そしてひんやりとした感触。
気持ちいいほどのひんやりさ。
薄荷飴を口に含んだ時のような感じ。
痛みは少しずつ消えていった。
傷は次の日にはかさぶたになった。
きれいに。
腫れることもない。
化膿することもない。
一度もなかった。
彼は一度、ダンジョンで毒サソリに足を刺されたことがあった。毒が回って、足全体が腫れ上がった。アリスは彼を地面に押さえつけ、小刀で傷口を切り開き、黒い膿を絞り出した。それから砕いた薬草を塗った。それらの薬草は彼女が道中で摘んだもので、きれいに洗われ、細かく砕かれ、傷口に塗るとひんやりとした。
翌朝目覚めると、腫れは引いていた。傷跡さえ残らなかった。彼は当時、彼女の大げさな反応を笑った。「ただのサソリに刺されただけだろ」そう言った。
アリスは彼を無視し、残りの薬草を包んで、彼のリュックに押し込んだ。「次にあったら、自分で塗れ」彼女は言った。彼はその薬草の包みを長い間持っていた。その後、いつなくしたのかわからなくなった。
「行こう。」彼は手を振り、それらの考えを頭から振り払った。「先に進むぞ。」
リリナは唇を噛み、涙がぽろぽろと落ちた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「大丈夫だ。」アベルは振り返り、彼女に背を向けた。「君のせいじゃない。」
隊列は先へと進んでいった。
道はぬかるんでいた。
昨晩雨が降った。
水たまりが泥と混ざり、踏むたびにぐちゃぐちゃと音を立てた。
アベルはゆっくりと歩いた。
鎧が重い。
今までこんなに重かったことはない。
一歩進むごとに、肩がさらに沈み込んでいく。
彼は立ち止まり、肩を動かしてみた。
左肩の装甲と体の間に、何かが挟まっていた。
ごろごろする。
彼は手を伸ばして触ってみた。
装甲の裏地が裂けていた。
金属の縁が直接肌に当たっている。
一歩進むごとに、こすれる。
もう皮膚が擦り切れていた。
湿っている。
出血しているようだ。
彼は指を差し込み、その金属を少し広げようとした。指先が裏地に触れたとき、彼は固まった。裏地の布が硬くなっていた。
触ると干からびた獣皮のようで、粗く、硬く、少し脆かった。彼が軽く引っ張ると、布全体が幾つかに砕けた。下の金属層が露出した。
金属も錆びた。錆だらけで、端が捲れ上がり、まるで開いた刃のようだ。皮が磨り減るのも当然だ。彼はそれらの布切れをじっと見つめ、突然思い出した。この鎧は王都の鍛冶職人が自ら打造したものだった。
材料はミスリルと精金の合金で、裏地は氷霜竜の鱗の下の柔らかい皮。100年は壊れないと言われていた。彼は3年着た。今では布が崩れ、金属は錆びた。たった3年で。
アベルは深く息を吸った。
進み続けろ。
背後から短気な魔法使いの罵声が聞こえた。
「ちくしょう!」
魔法使いはびっこを引きながら歩き、一歩ごとに歯を食いしばった。
「このクソ靴はどうなってるんだ?! 」
彼は立ち止まり、木の幹に寄りかかって靴を脱いだ。
靴底はまだ無事だった。
だが中底は鉄板のように硬くなっていた。
かかとはもう血まみれに擦り切れていた。
「ドラゴン革の靴だぞ!」魔法使いは靴を地面に叩きつけようと怒り狂った、「当時は賞金の3ヶ月分もしたんだ!3年間履いても何ともなかったのに、どうして今日は半日歩いただけでこうなった?! 」
アベルは振り返った。
隊列の全員が立ち止まっていた。
一人一人の顔には疲労と焦燥が満ちていた。
隊列の弓使いは地面に座り込み、荒い息をしていた。
「私も……」彼女は籠手を外し、手首にできた赤く腫れた締め跡を見せた、「防具が急にきつくなった。手が痺れるほど締め付けられてる。」
盾戦士は盾を木の幹に立てかけ、肩を動かした。
「盾のベルトがなぜか切れた。今は手で持つしかない」彼はアベルを見て、「隊長、俺たち、何かの呪いにかかってるんじゃないか?」
呪い。
アベルは自分の剣を見つめた。
剣身に広がる錆斑を見つめた。
米粒ほどの欠け目を見つめた。
彼は口を開き、何か言おうとした。だが喉が渇いて、声が出ない。周りを見回した。
みんなが彼を見ていた。答えを待っている。彼は勇者だ。勇者は何が起きているか知っているはずだ。勇者は解決策を持っているはずだ。
だが彼には何もわからなかった。剣が錆びたこと、鎧が壊れたこと、リリナの治癒術で傷が余計に痛んだことだけがわかっていた。こんなことは今まで一度もなかった。いや……ふと思い出した、以前にも似たようなことがあった。
でもあの時は、アリスがいつもうまくやってくれた。装備が壊れれば、彼女が直した。傷が痛めば、彼女が処置した。彼はそんなことを気にする必要はなかった。ただ剣を振ればよかった。
「……わからない」彼は自分がそう言うのを聞いた。
声はかすれていた。
錆びた鉄の扉のようだった。
魔法使いはぶつぶつ文句を言いながらブーツを履き直し、履きながらヒースと息を吸った。
「今日は本当に最悪だ!」
リリナは小声で言った。「じゃあ……一度街に戻って休まない?」
「戻る?」魔法使いは彼女を睨みつけた、「往復でどれだけ時間を無駄にするかわかってるのか?」
「でも……」
「でもなんてことはない!」魔法使いは彼女を遮り、「こんな小さなトラブルにも耐えられないで、どうして冒険者になれるんだ?」
リリナは唇を噛んで、黙り込んだ。
涙がまた落ちた。
アベルは目を逸らした。
「進め。」彼は言った。「日が暮れる前に次のキャンプに着かなければ。」
隊列は再び動き出した。
しかし、雰囲気は重かった。
誰も話さなかった。
足音だけが響いた。
そして時折、抑えつけられた痛みの声が聞こえた。
アベルが先頭を歩いた。
彼は体がとても重くなったと感じた。
鎧だけではない。
何か他のものも。
彼は突然、振り返って見たいと思った。
来た道を。
あの町の方向を。
しかし、彼はそうしなかった。
なぜなら、彼は勇者だからだ。
勇者は後悔しない。
勇者には後悔が必要ない。
手の甲の傷がまた痛んだ。
何かが齧っているようだった。
彼は錆びた剣の柄を握りしめた。
先へ進み続ける。
少し歩くと、彼は背後から鈍い音がするのを聞いた。振り返ると、盾戦士が転んでいた。盾が地面に落ち、泥水が跳ね上がった。盾戦士は泥の中に座り込み、足首を押さえて、顔が真っ青になっていた。
「捻挫した」彼は歯を食いしばって言った。アベルは近寄り、彼を引き起こそうとした。
手が盾戦士の腕に触れた瞬間、鎧の金属の縁が彼の手のひらを切った。
また一つの傷。深くはないが、血はすぐに流れ出した。彼は手を離し、掌の切り傷を見つめた。
血の粒が一つずつ湧き出し、すぐに一本の線になった。彼は昔、パーティーで誰かが怪我をすると、アリスがいつも最初に駆けつけたことを思い出した。
彼女は傷を調べ、重症度を判断し、包帯を巻くか薬を使うかを決めた。
彼女の動作は速く、てきぱきとしており、決して慌てることはなかった。
彼は当時、これらは些細なことだと思っていた。今になって、誰もこれらの些細なことをしてくれないことに気づいた。




