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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

獣が呼ぶ その夜まで

作者: みなとすん

初投稿です

結構残酷成分満載だと思いますので注意してください。

「うぇーん、うぇーん」

霧の濃い森の中、迷子の少女の鳴き声が響く

この森は"魔物が生息する危険地帯"

幼い少女の鳴き声は、獲物の位置を知らせる危険な行動以外何物でもないが、幼い少女が鳴き声を自ら抑えられないのは無理もない事。

そんなさなか、ふと少女の肩を掴む小さくて、大きな手

「シア、もう大丈夫だよ」

「うわぁああああーん!おにいちゃああああああん!」

少女は見知った存在に力いっぱい抱き着く

「よしよし、結構探したんだぞシア?こんな遠くまで一人でよく頑張ったね。でもあんまり大きな声出すとおばけがやってくるから ほら、ゆっくり息を吸ってー?吐いてー…どう?泣くの我慢できる?」

少女は少年の胸元でこくりとうなずくと、少年はあやすように少女を抱きかかえ背中をぽんぽんと叩く。

「よし、それじゃお化けが来る前に帰ろうか」




「…嫌…戻り…たく…ない……」



ここはとある山中にある国境を跨ぐ小さな村

王都ではないも、両国の主要都市から馬車でおおよそ1週間は要する辺境の地

山の麓に位置するこの村は、両国間唯一の中継地で、温泉が湧く宿場とあってそれなりに栄えていたが今は昔

とある出来事を切っ掛けに両国間に緊張が走り、この数年で村を訪れる外部の人が激減した為、宿場も閑古鳥が鳴く状態だった。


…今日、この地に災厄が降りかかる…


この地で育っておおよそ26年、3年前に行方不明となった幼馴染の夫の帰りを待つセシリアはこの村で日々、温泉宿に併設された食堂でウェイトレスをする普通の女性だ。

食堂とは言うものの、その実態は酒場という方が正しいか、村の外から来た人すべてがここを訪れると言っても過言ではない情報の場でもある。

彼女の夫は冒険者だった。

この地に生まれた子供たちは皆外の世界を大きな夢を見る。

彼も例外ではなかった。

一時は最年少C級冒険者として、村の新たな英雄とまで持てはやされていたが、現実はそう甘くないという事実をその命を以て証明してしまったと言える。

遺体の帰らない死亡連絡…冒険者という職業において特段珍しくもない話である。


彼女の働く食堂は人が少なくなったとはいえ、外部の人達が必ず立ち寄るこの村で最も賑やかな場所だ。

この場に冒険者が立ち寄ればたちまち村の子供たちの間で広まり、彼らの冒険譚を聞くのがこの村の子供たちの大きな楽しみでもある。

子供たちの羨望の眼差しを受け、更に店からお酒のサービスがあれば、彼らは意気揚々と自分の冒険譚を語ってくれる。

その中で何度か、彼女の夫の名前が出てくることがあった。

昔話とは言え、夫の生きた証を他の誰かの口から語られると彼女はいまでも夫は生きているとそう思えるような気がして、どんな姿になってでもいい…彼の身に着けていたものだけでも良いから帰ってきて欲しいと、セシリアはずっと旦那の帰りを待っていた。


その日の夕暮れ、同僚と交代でその日の仕事を終えたセシリアは帰路につき、村の門の前を通りかかった所で突然見張り台の鐘がけたたましく響いた。

突然の鐘の音に、周囲に緊張が走る。

辺境の地ではあるが周囲に脅威となる様な魔物の目撃例はなく、鐘の音が鳴る様な事態は少なくとも彼女の中では初めての事である。


「オークの群れだー!門を閉めろーっ!」


見張り台からの連絡に皆一様に青ざめる。

すると先ほどまで見張り台に居た人が墜落してきた。

喉元を槍が貫通している。

体は小刻みに震えているが間違いなく死んでいるであろう。

すると閉ざされた門がドォーン!ドォーン!という轟音と共に軋みをあげた。

(え!?もうそこまで来てるって言うの!?)

見張り達はすかさず門の前に集結し、混乱の中で必死に思いつく限りの物を門に積み上げていた。

付近にある人間が持てるサイズの岩、夜の門を照らす松明用の牧、ほとんどない水害対策用に用意された土嚢を門の前に配置し補強を図るも、この様な状況をまったく想定していなかった所為か、無意味な対応で右往左往している。

彼女の心の叫びから程なくして、門は固く閉ざされたまま倒壊し、門の周辺に固まっていた見張り達はこの倒壊に巻き込れ下敷きとなった。

倒壊した門の奥から、2m以上の大きさのオークの群れが村になだれ込んできた。その数おおよそ33体。


オークとは、ほとんどの陸上生物との交配が可能な事で有名な魔物だ。

中でも人間と交配したオークが、そこまで多くはなくとも現在のオーク種の中でも最も繁栄している種であり、この種は人間に似た技術と社会性を持つ傾向が多く、片言ではあるが人語を扱う個体も確認されている。

人間と交配する毎に知力や狡猾さが増し、生来の生命力の強さや凶暴さもあり、この種は発見され次第周辺国の冒険者協会が討伐チームを結成して積極的に討伐し、20体以上確認されたなら災害対応として軍が動くことになるレベルである。

単体であっても安全に討伐するには、所謂一人前と称されるC級冒険者が、それぞれの役割を以て最低でも4人パーティーで臨む程の脅威。それが突如として群れを成し、この辺境の村に襲来したのだ。

今すぐに最も近い都市からオークの群れに対抗できる戦力がこの村を目指したとわかったとしても、村人達にとっては希望にも慰めにもならないだろう。


この村で戦えるような人材は、みな両国どちらかで冒険者登録をし、そのままその地に定住するのがほとんど。

小さい頃から酒場を訪れる冒険者達の冒険譚に耳を傾けてきた若い人は、所謂成人の儀を経て大人と認められる15歳になると、みんな外の世界へ飛び出すのだ。

この村から最も近い都市までに脅威となる生物は小鬼くらいの物で、その小鬼も1年に目撃される数は1回あるかないか。

冒険者を目指す若者にとって、いくら安全とはいえ親元を離れ数日をかけて都会を目指すこの遠い道のりは、それだけでも大層な冒険になるのだ。

その後所帯を持ち、数人は拠点を村に構えたとしても当人はそこに留まらず、出稼ぎの様に外へ飛び出し、不定期に帰ってくる。

職業の通り冒険者らしい事ではあるが、ここに拠点を構える人達は皆"この村は最も安全な地"と認識しているのだ。

その為、この集落は過疎化の一途を辿っており、村に残っているのは湯治や長閑な世界で余生を過ごしにきた老人と女子供がほとんど、戦力と呼べる人が居るとすれば、それは"たまたまその地を訪れている冒険者"くらいものもであろう…。

間の悪いことに、今この村に戦闘の心得のあるものはいない。


門が破壊されるとそこはすぐにこの世の地獄と化した。

物の数秒で門付近にいた人たちはその形を留めない程の肉塊と化した。

地面が血の海に変わる。

叫び声をあげながら逃げる人々遠目で見れば、オークはゆっくり人間を追いかける様に見えるが、その巨体ゆえに歩幅が大きく人間の足で逃げるには非常に厳しい。

捕まった女性はその場で連れ去られたり犯され、男性は子供であろうと容赦なく殺されてしまう。


セシリアは恐怖に支配されながらも、生きるためにその場から必死で逃げた。

そして行き着いた先が自分の家である。

この家は元々旦那の生家で、子供の頃ここでよく隠れんぼをしていた。

その為隠れるならこの場所と無意識に刷り込まれている場所がある。

暖炉の下に隠された秘密の倉庫、倉庫として使ったことがないため、体を丸めなければならないが成人女性が一人すっぽり入る空間がある。

そこに入り、セシリアは息を殺してこの災厄が去るのを待つ事にした。


倉庫の中からでも、外の音が漏れ聞こえる。

そのほとんどが女性や子供の声だ。

子供に至ってはその場で泣いているようだった。

ほどなくして地鳴りにもにた足音が近づき、ひと際大きな鳴き声を上げた後、静かになる。

血の滴る音だろうか…不気味な水滴音がはっきりと聞こえる。

セシリアは口を押え涙を流しながらただひたすらオークが通り過ぎるのを待った。

しかし…

ガチャ

とても静かに、しかしはっきりと玄関の扉が開く音が聞こえた。

どす、どす、と大きな足音と床の軋む音がはっきり聞こえる。

スンスン…

(匂いを嗅いでる…)

明確に、ここに彼女がいるのを理解している。

体の震えが止まらないが、ただただ口を押え、息を殺して、この時が過ぎ去るのを願う

すると足音が目前で止まった。

セシリアは最悪の想像をする。

そして

…ギィィィ‥‥

「あ…あぁ…」

無情にも隠し扉は開けられ、オークと目が合ってしまった。

オークがセシリアの顔に手を伸ばすと、彼女の緊張は限界に達し意識を手放した。

気絶した彼女を肩に担ぐと、そのまま巣への帰路に立った。



【セシリア視点】


「うう…ん…」

私は意識を取り戻す。

ぼんやりとした思考の中、私は意識を失う直前までの記憶を呼び起こす

(…ここは?…うぅ…体が痛い)

ここはきっとオークの住処なんだろう、どこかの洞窟の様だ。

私は藁が敷き詰められた家畜の寝床の様なところで寝かされていたみたいだ。

ところどころに松明が設置されており、今私がいる範囲で暗くて見えない場所はない。

ただ、その明かりは私の恐怖を明確に呼び起こす。

思わず叫びそうになるのを必死に堪え、眼前にいる後ろ姿のオークの姿を捉える。

赤黒い肌にボサボサ橙色の頭髪から突き出た尖った耳、上半身裸の巨体、座ってはいるがそれでも私の身長よりは高いだろう。

見分けがつくわけではないが、私を攫ったオークなのだろう。

あの出来事がただの悪夢であれば…と思うも目の前にある現実が重くのしかかる。

そっと、再び気を失ったフリをしようとした時、部屋の前からかすかに人の声聞こえた気がした。

意識を集中させ耳を澄ませて良く聴いてみればそれは女性の泣き叫ぶ様な声だった。

複数人はいる。

(ああ…なんてことなの…)

想像に難くない、村から連れ去られた女性達がオークの繁殖のための道具にされているのだろう。

叫び声の中には子供の様な高い声も聞こえる。

戦利品を前に祝宴でも開いているのだろうか、オーク達と思われる唸り声の様な低く濁った音が、聞き覚えのある童謡の様なリズムで響いてくる。

そんなオークの群れに連れ去られて、私は自身の末路を想像した。

(どうして…こんな目に会うの…)

深い絶望と同時に涙が頬を伝う。

すると入口にいるオークが私の方を振り返った。

「ひっ…」

一瞬だけど目が合ってしまった…どうしよう…怖い…

私は気絶したフリをしたまま、その場をやり過ごそうとしたが、私の意識があることに気づいたオークはゆっくりと私に近づいてくる。

そして目の前に…おそらく目を開ければそこに顔があるのがはっきりとわかる距離、オークの息が私の顔に当たる

(ダメ、震えが止まらない…)

目の前にいるのに息を殺して、ただ時が過ぎるのを震えながらまっていると、すぐにオークの気配が遠のくのを感じた。

(…助かった?いえ、助かってない)

あのオークは何もしてこなかったがここはオークたちの巣、私が使われるのも時間の問題…

そしてオークの気配が室内から消えた時、先ほどよりもはっきりと聞こえる様になった洞窟内に響く女性たちの叫び声に私は耳を塞ぎ、蹲って再び泣いた。


ひとしきり泣いた後、すべてを諦めた私は室内の壁にもたれ、放心しながら出入口の方を見ていた。

すると先ほどのオークが帰ってきた。

すべてを諦めたつもりでも恐怖で思わず体が跳ね上がり、両手で自分の肩を抱きながらじっとオークの姿を見据えた。

するとオークは私から少し離れた室内の中心に何かを置いた後、またどこかへ行ってしまった。

オークが置いて行った物…よく見るとそれは果物や木の実、人間が食べられる食料であることがわかった。

(これは…)

一瞬どういう事かわからなかったが、すぐに最悪の想像に行き着く。

私はここで飼われるんだ、きっと死ぬまでオークに利用されるのだろう…。

こういう人間の知識っぽいものが垣間見えると現状の地獄が更に深く見えるだろう。

オークは人間の雌を簡単に死なせるつもりはないのだ。

部屋の外から聞こえる叫び声も、徐々に艶のある嬌声に変わっているような気がする。

彼女たちも諦めたり壊れたりしたのかもしれない。

私は…

その時、入り口から2体のオークがやってきた。

目の前には隆起した性器をむき出しにして何をしにやって来たのか嫌でもわかる。

下卑た笑い声をあげながら私はオークに頭を捕まれ引きずられる。

「いや!痛い!や、やめて!」

諦めてはいてもやはり恐怖には抗えずとっさに抵抗するものの、頭を掴む手の首を掴んでみれば、それは私の胴囲よりも明らかに太い。

(こんな…ここまで大きいだなんて…大人と子供の差なんてものじゃない…どうあがいても無理よ)

泣き叫びながらも意味のない抵抗を試みるが、突然私の体はオークと一緒に大きく吹き飛ばされた。

私を掴んでいたオークは壁に激突し、私はオークに捕まれていたため、かろうじてオークの体がクッションの様な働きをしたおかげか衝撃は凄まじかったが幸い怪我はしなかった。

私がさっきまでいた位置には最初にみたオークが凄まじい形相でこちらを睨んでいた。

その視線を真に受けた私は思わず体が跳ね、恐怖のあまり失禁してしまう。

すると二匹のオークは更に興奮しだしたが、殴ったオークは更に怒り2匹のオークを殴りつける。

鈍い音と血しぶきが飛び、私は恐怖で頭を抑えながら影に隠れると、オークたちは殴り合いながらも何か話しているようだった。

「メス…ツカウ…」「イイ…ニオイ…」

元々想像していた最悪の事態、片言とは言え何が言いたいのか深く考える必要もない。

雌として使われる。

しかもその行為自体の愉悦を味わいたいというような雰囲気を2体は醸し出している。

しかし、入り口にいたオークの言っている事は理解ができなかった。

「…オデノ…」

一言、その一言で2匹のオークは互いに顔を合わせ、何か話たあとすぐに部屋から出ていってしまった。

そして部屋に取り残された私と、今も凄まじい形相で佇むオーク。

表情はそのまま、ゆっくり近づいてくるオークに対し、私はさっきの殴り合いを間近で見たせいか恐怖で体がまったくいう事を聞かない

「い、いや…やめ…」

声にならない声を必死に出してオークの手が私の頭を掴んだ時、私は再び意識を失った。


遠い昔の記憶

霧の深い森で迷子になっている私を見つけてくれたお兄ちゃん…

私の旦那さん

泣きじゃくる私を抱き上げ、一緒に息を整えながら私を落ち着かせてくれる

「よし、それじゃお化けが来る前に帰ろうか」

おんぶではなく、抱き着いた私を正面から抱えてくれて、毎回決まって私の背中をぽんぽんと2回優しく撫でてくれた

この時だけじゃない、

お兄ちゃんから恋人になった時も…

恋人から旦那さんになった時も…

私に何かあると決まって

気付いたら私の正面にいて

私を抱きしめて落ち着かせてくれた

大人になるとあやす言葉はなくなっていったけど…

この幸せはずっと続くものだと思ってた…


オークの巣に連れ去られてどれくらいの日にちが経っただろう?

1週間も経ってないような気もすれば、1か月は過ぎたような気さえする。

私は相変わらずオークに手を付けられてはいなかった。

それでも私を犯そうとするオークはかなり居たと思うけどみんな"彼"が阻止していた。

目の前での凄惨な殴り合いは今でも怖いけど、殴り合いの後に"彼"が私を抱きかかえて子供をあやすような行動をしている気がする。

最初は、広間にいる人たちとは別に私みたいな部屋で管理されている人が居て、きっと誰かが死んだりすると使われるのだろうと思っていたけど、最近は私を守ってくれている様な気さえしていた。

そう思う事で少し心が軽くなる気がするから…あり得ないと思うけどそういう思いが今私の片隅に確かに存在している。

あれだけ恐怖していた相手なのに、優しくされているような気がして、どこか絆されている私はきっともう普通ではないんだと思う。

自分からオークに近づくのはさすがに怖いけど…"彼"なら多分大丈夫な気がするから最近は摑まれそうになっても怖がらず、抵抗しないよう心掛けてる。


そんな私にさらなる災難が降りかかる…


突然洞窟内で凄まじい咆哮をあげるオークたち。

すると洞窟全体が小刻みに揺れ異様な緊張が走る。

しばらくするとオーク達が争い始める。

ただ、この群れとは別の群れの様で、肌の色がこの巣のオークと違い深い緑色の肌をしていた。

頭髪はなく大きな顎に牙がむき出しで、ここにいるオーク達とは明らかに違う種の様な気がする。

巣のオーク達は武器を手に取り応戦していた。


襲ってきた敵の狙いはここに連れ去られた女性の様だった。

あまりの怒号と衝撃に私は部屋の隅で身を隠していたが悪い想像というのは得てして実現してしまうもの、

乱戦を搔い潜ったと思われる3体の襲撃者が私のいる部屋に足を踏み入れてきた。

私は、いつも寝床として用意されていたあの藁の中に隠れたけど、襲撃者達は迷うことなく私の前に来る。

(匂い…なのね…)

彼に見つかったあの時と同じ…

ここではなぜか守られているけど…他の場所だときっとそんな都合の良いことなんて起きない

…それに…

以前襲われたとき、無意識に抵抗した際に掴んだ手首を思い出し、人間とオークではどうしようもない体格差を実感している。

抵抗したって…

悪い思考に囚われている間にも藁が強引に取り除かれ、襲撃者が私の姿を認識したその瞬間、興奮しだしたのが分かった。

「ひっ、い、いやーーっ!」

何度も、どれだけ諦めたと思っていても、やはり恐怖を目の前にすると自分の意思とは裏腹に悲鳴をあげてしまう。

私の目の前に来た襲撃者が私の足を掴んで引きずりだしたその瞬間、

グシャッ

と鈍い音と共に私の顔に生温い渋きが飛び散る、血だ。

「グァラアアアアアアアアア」

"彼"が助けに来てくれた。

その安堵もつかの間、頭から胸まで真っ二つに裂けた襲撃者の死体が横たわる。

久方ぶりに見る、生々しい生物の死体、あまりにも凄惨な状況を目の当たりにし、悲鳴にならない悲鳴をあげて私は意識を手放した。


【第三者視点:彼】


当たりを強烈な血の匂いが漂う…残った襲撃者達は殺された仲間には目もくれずずっと気絶したセシリアをじっと見ていた。

気絶と同時に失禁した為かその匂いに興奮した様子で、下卑た笑い声が室内に薄く響く。

そんな笑い声をかき消すよな彼の怒号

彼は、次にセシリアに一番近かった敵に斧を振り下ろしにかかったが、さすがに彼の存在に気づいたもう1体が飛び掛かる彼に突進を浴びせた。

飛び掛かった勢いのまま軌道を逸らされた彼は壁にたたきつけられたが、すかさず跳ね返って狙いを定めた敵へと襲い掛かる。

彼に狙われたオークはモリで彼の攻撃を受けとめるが、それでも彼よりも気絶したアリシアの方に気を取られている。

その様子に彼は更に怒り、渾身の力で斧を振り下ろそうとするも、もう背後に回ったもう一体が彼の背中を目掛け、大きな斧を振り下ろした。

ズシャ!

彼は斧の攻撃をまともに受け、斧が背中の肉を斬り血飛沫が舞った。

明らかな致命傷。

しかし彼は怯むことなく次の瞬間狙った敵を、モリごと真っ二つに叩き斬った。

背中に刺さった斧は、どういうわけか致命傷を与えた筈の当人が抜こうとしても全く抜けず、斧を持った手を離さないまま足が宙に浮き、振り向きざまに彼の拳が最後の敵の腹部を貫いた。

そのまま吹き飛ばした敵に跨ると、顔面目掛けて何度も拳を叩きつけた。

何度も…何度も…頭蓋骨の骨が砕けて顔が晴れ上がり、原型を留めない程に執拗に潰した。

客観的に見ても間違いなく絶命しているが、彼は殴り倒した敵が大人しくなったのを確認した後、そっとセシリアの下に寄り、彼女を抱きかかえた後、ゆっくりと藁を敷き詰めなおした寝床へと運んだ。

そしてまだオーク同士の争いが続く中、彼は部屋に侵入してきた敵の死体に更に拳を振り下ろした。


【セシリア視点】


夢の中

(ああ…これは夢なのね)

ふわふわとどこか気持ちよくも懐かしい感覚が全身を包む。

「どうせ夢なら、せめてあなたに会いたいわ…」

「私…つらいよ…助けて…お兄ちゃん…」

「ぐすっ…置いてかないでぇー…シアも行きたい…」

気が付けば私の体はずっと昔の幼かった頃の形をしていたすると淡い光が強くなり全身を包み込む

「ああ…」

この感覚…あなたなのね…また会えて嬉しい

「覚めたくないよ…もう疲れちゃった…ずっとここに居たい」

(ごめんね、もう大丈夫…大丈夫だよシア…)

こんな都合のいい夢見られるなんて…このまま永遠に眠り続けてしまいたい


どれくらい気を失っていたのだろう…私はゆっくりと意識を覚醒させた。

内容は思い出せないけどとてもいい夢を見た気がする。

とても懐かしくて…暖かくて…

覚醒はしてるけど現実を受け入れたくなかった私はずっと目を閉じたままだったけどその時の涙を止めることはできなかった。


意識がハッキリしてくると直ぐ、鼻を衝く血の臭いに気づく

私が寝ていた藁の下にまで広がる血の海、その先、部屋の中央に彼が襲撃者に跨って見降ろしていた。

視線の先に…頭はない。

ぶよぶよになった…恐らく顔だった何かから、小さな噴水の様に血が噴出している。

両脇にも、胸まで裂けた首のない死体と、真っ二つに割かれた上で首のない死体。

そして死体を見下ろす彼からは近寄りがたい凄まじい怒気を感じる。


…気づくと私は彼の傍に向かって歩み、興奮状態の彼に手を伸ばしていた。

今、自分が何故彼の元に向かっているのか本当にわからない。

恐怖心は今も私の体を支配している。

今の彼に近づけば、その凶暴性が私に向いて殺されるかもしれない。

あの日、倉庫に隠れた時からよくする最悪の想像…

連れ去られてから幾度もなく想像し、その通りになってしまうような場面が沢山あったけどいつも彼が守ってくれた。

でも今はその彼によって殺される最悪の想像をしているのに…自分の行動が信じられない程、私は震える事なく彼の傍に向かう。

どこかで…もう死んでしまってもいい…って思っている自分がいるのかも知れない

彼の荒い息がはっきりと聞こえる距離…そこで私は彼の手に向けて自らの手を伸ばす。

物凄く緩やかな時の流れの中、私は顔を上げて彼の横顔を見つめたまま、ついに私の指先が彼の手に触れた。

………

私が彼に触れた瞬間、彼はゆっくり私の方に顔を向けた。

その顔はまだ憤怒に駆られ本来であれば直視するのも躊躇う程の恐ろしい形相、

初めてここで襲われそうになった時に助けてくれた彼の表情のまま。

彼の荒い息だけがこの空間にだけ響く。

そのまま長い時間の様な一瞬の時間の様な…どれくらい見つめていたのかわからないけど、彼が先に動いた。

私の視線を避け、荒い息を整えるとその場に座り込んでしまった。

すると背中に突き刺さっていた斧が外れ、血が止めどなく溢れてくる。

(…いっいけない!)

私は、いつも彼が持ってきてくれた食糧の中から、傷の手当に使える多肉植物を見つけるとすぐさま彼の傷の手当を試みたけど、彼は傷口に伸ばした私の手をそっと掴むとそのままゆっくり私を抱え上げ、まるで手当を拒否する様に彼の正面で降ろされた。

「ど…どうして?ひどい怪我をしているじゃない…すぐに手当てをしないと…」

思わず彼に訴えかける。

自分から彼に語り掛けるのはこれが初めて。

私は視線でも訴えかけるように彼を見つめたが、その視線を受けた彼は顔を背ける。

私は涙を流しながら再度、彼に傷の手当を試みるも、また彼に捕まれ、また向き合う位置に戻ると、まるで今私がしようとしてる事を止めなさいと訴える様な憐れむような視線を向けている気がする。

「どうして…私は何もしちゃいけないの…?ねぇ…?私って…なん…なの?…教えてよ……」

彼が私を憐れむような目で見たと感じた瞬間、何故だかわからないけど涙が溢れる。

情けなくて?悲しくて?わからなくて?…そう、わからない。

今私がどうして泣いてるのかもわからない。

血の海の上で、私は血まみれになるのも厭わず、その場に蹲り声を上げて泣いた。


一頻り泣いた後、気分が重いまま俯いて彼の方をずっと見ていた。

すぐ上を向けば彼が私を見ているのがわかるけど、顔を見たくない。

なんとなく、私は今拗ねているのだろう。

自覚はあるけど制御できない。

血の海の地面で蹲っていたせいで私の両腕は血まみれで、ところどころ血が凝固している。

髪の毛も血まみれだ。

それに対する嫌悪感は…何故だか湧かない。

その異常さを自覚してるのに何も感じない私は本当に壊れてしまったかも知れない…。

何が原因で…?わからない…どうでもいい…

彼と向かい合ってはいるものの、どことなく気まずい時間が流れる。

洞窟内を静寂が支配する。

そういえば私が襲われて気絶した時はここが襲撃にあった筈だけど、もう終わったのかしら?

私の思考あっちにいったりこっちに戻ったりと忙しなく動く。

彼の存在を無視して。

すると急に体を浮遊感が襲う

彼が私を掴み上げた。

掴み上げたといっても、手でわっかを作り私がその中にすっぽりと入って、脇部分が引っかかって持ち上げられてる感じだ。

恐怖心はわかない…あるのは不機嫌な気持ちだけ。

彼はそのまま私を膝の上に乗せると、私の顔を覗き込むように顔を倒してきた。

私はその顔を見られない…というよりは見せない様に、彼の膝の上に座らされつつもツンと無視する。

ついさっきまでの緊張感が嘘のような時間が流れる中、不意に彼が私を抱き寄せた。

これは彼が私を宥める時にやってると思う仕草だ。

ぽんぽんと背中を2回優しく叩いて姿勢を彼に靠れさせかける。

(そんな事しても無駄だもん)

心の中で固い決意をしたのにその決意は彼の言葉で一瞬にして消えた。


「…シアァ…ダイジョウ…ダイ…」


(‥‥は…え?…え?)


急に意識が覚醒した。

彼が私の名前を呼んだ。

それも子供の頃からあの人に呼ばれた名前を…

「う…うそよ…そんなはずない!……でも…」

思わず両手で彼の頬を掴み、その顔をまじまじと見る。

そこにあるのは…2mを越す赤黒い巨体、橙色の頭髪にとがった耳、近くでみれば人間のそれとは思えない筋肉質な体。

彼を彷彿とさせる要素はおろか、そもそも人間と認識できる要素が何一つない。

だからそんな筈ない。

でも私はその考えに大きな希望を見出してしまった。

だから今まで彼が私を守っていたのかわかった気がした。

今までここで流した涙とは違う涙が溢れる。

振り返れば思い当たる節が色々と思いついてしまう。

まずは村を襲撃された日の事だ。

彼と初めて逢った場所。

私は倉庫に隠れていたけど。

あの時の事を思い出すと不思議な事があった。

まずは彼が家の扉を開けた事だ。

門を壊して雪崩れ込んできたオーク達がわざわざ丁寧に扉を開けるだろうか?

きっとなんらかの原因でオークにされてしまった人間と考えれば…普通のオークだったらきっと家は壊していた筈。

そして何の迷いもなく秘密の倉庫を開けた事。

彼は匂いでここに人が居るのを確信してたかも知れないけど最初からあの倉庫の存在を知っていたに違いない。

きっとあの襲撃の中私を守る為に私たちの家に駆けつけてくれたんだわ。

そして巣の中では幾度も私を守ってくれた。

私を慰めてくれるあの仕草、今のもそう、絶対にあの人のもの。

そうに違いない、きっとそうだったのよ。

「"あなた"教えて"あなた"なのよね…?お願い…もしそうなら…ちゃんと教えて!お願いよ!」

溢れる涙を抑えきれず涙目のまま彼の顔を見つめ、必死にあの人を呼びかける。

あの人は死んでいなかった。

だって今目の前にいるんだもの。

お願いちゃんと答えて

彼の首に手を回し、力いっぱい抱きしめて問いかけた。

教えて"あなた"なのでしょ?

彼はいつもの様に私の背中をぽんぽんと優しく撫でると再び言葉を紡ぐ

「…シアァ…ダイジョウ…ダイ…」

彼の顔…人間の感覚で見れば正直なところその表情から感情を読み取ることはできない…無機質な固い表情。

「お願い!答えて…あなたの名前…あなたの名前を教えてよ!私の言っている事ちゃんとわかっているんでしょ?…ねぇお願い…」

説明はできないけど…私は、私の魂とも言うべき部分が彼の事を間違いなくあの人だと確信している。

そして彼は"ちゃんと言葉を話している"。

外観は人間のそれではないけど…だから彼の口からちゃんと聞きたい。

聞き出したい。

私の確信を彼の言葉から更に強固なものにしたい…

「…シアァ…ダイジョウ…」

「……」

「……」

「……」


「……」


「……」


「……」


「……」


「…違う…違うのね…」


暗闇が私の心を覆う。

彼の言葉は、ただ私を慰める延長線上にある、何故だかわからないけど理解してしまった。

どうして私の名前を紡いだのかわからない…もしかしたら"シア"というのが名前であることすら理解していないのかもしれない。

"シア、大丈夫だよ"

確かにそう言ってくれたのに、何故だかその言葉自体をあやす為の言葉として使っている様な気がする。

ここに連れられてから、よくしてしまう最悪の想像…

彼と見つめあった時間…私の事を"落ち着いた"と見た彼は、部屋に転がる敵の死体を部屋の前に乱暴に放り捨てると、いつもの様に私を掴み、背中をぽんぽんと叩いた後、背を向けて部屋の入口の前で見張りをする様に座り込んだ。

その一連の流れ…。

さっきまで、今までのは"思いやり"による行動だったのだと思っていたのに…実際には"ただの作業"の様だ。

(どうして…あんなバケモノをあの人だと思ってしまったんだろう…)

「…あは…あははは‥はは…」

必死に呼びかけた自分の姿を思い出すと、とても滑稽で笑えてしまう。

(…………疲れた)



【第三者視点:巣】


オークの巣であるこの洞窟は入り口が幅が約14メートル、高さが約3メートルの大きさで、大体その大きさを維持したまま奥行きがおおよそ62メートルある天然の洞窟。

ところどころに支柱の役割を担う様に天然の石柱が不規則に天井を支えるような形で立っており、おおよそ40メートルの位置に鍋の様な巨釜が配置されている。

ここが広間である。

セシリアの聞いた女性達の叫び声はここから漏れていたものだ。

その広間とされる位置から、不規則に横穴が掘られており食糧庫や武器庫、寝所等の様々の用途の為に、後からオーク達が施工した"個室"が無数にあった。

個室の入口の両脇には規則正しく松明が置かれ、広間から室内が確認できる構造となっている。

セシリアは洞窟の最奥にある部屋の一室に囚われていた。

彼女が囚われている部屋は他の個室とは違い、個室の入口からくの字に曲がって入る構造になっており、広間から室内様子は確認できない。

この部屋だけは入り口の両脇の他、曲がり角と室内にも松明が設置されている。

彼はセシリアの世話をする時以外、常にこの部屋の曲がり角に座って広間を見ていた。


敵の襲撃を退けた後、この洞窟内も凄惨な状況が広がっていた。

かろうじて敵味方が区別できる無数の死体、そしてそれ以上の数の暴動に巻き込まれた女性達の死体だ。

セシリア以外の女性たちはみな広間でオークの繁殖に使われていた為、連れ去られた一部の女性を除き、ここに残っていた女性達はみな絶命していた。

その体はすべて欠損している。

敵に連れ去られそうになった女性を無理矢理捕まえたのだろう…上半身しかない者、脚の付け根から下部と首が無い者、右胸から首のない者…車輪刑にでも処されたかの様な惨たらしい亡骸である。

この巣のオーク達も満足に動けるのは彼以外おらず、群れ全体のおおよそ1/3が暴動の中で死んだ。


…人間たちにとってはとても好都合な状況である。


カラカラ…と小さな石が天井から落ちてきて彼に当たる。

彼は石が落ちてきた天井をじっと見上げた。

広間の惨状、暴動により洞窟内の石柱が粉砕された事によって見渡せる様になっていた。

カラカラ…とまた小さな石が落ちてくる。

彼はしばらく天井を見つめた後、部屋の奥で放心したセシリアを徐に抱え上げ巣から抜け出した。

遠くない先でこの洞窟は崩れ落ち、負傷したオーク達も皆埋もれ死ぬ事となる。



【第三者視点:拠点】


オークが村を襲ってからおおよそ3週間後、廃村となった村には、緊急クエストを受けた冒険者達が拠点を築き、周辺を調査していた。

実力が伴わなくとも、この村周辺の地理に詳しい村出身の冒険者もかなりの数が参加していた。

この緊急クエストには6つのパーティーと11人のソロ冒険者が参加している。

国境を挟む二国間の冒険者協会から集まった合計だ。

ソロ冒険者は7人がこの村の出身。

すべてのパーティーにも1-2人、村の出身者が参加している。

彼らは皆顔馴染みだ。

緊急クエストの内容を見た彼らは戸惑いながらも、久々の再会を喜び、それぞれ村への道中思い出話に花を咲かせていた。

あの村が魔物の襲撃に遭うなんて…そんな筈ない。

きっとどこかの依頼と内容が混ざってしまったんだろう。

そんな風に考えていた。


村の惨状を確認した彼らのうち数人は、他の冒険者が無理矢理気絶させるほど叫び、慟哭した。

近くにオークの群れが居る可能性があるのに自ら居場所を示してしまうような自殺行為である。

気絶させられた村の冒険者達は目覚めると、その瞳に怨嗟の感情を宿し静かに故郷と家族を滅ぼした者達へ復讐を誓う…実力が伴わないなどと、泣き言なんて言わない。

もはや自身は死んだ。

だが、ただでは死なない。

必ず息の根を止めてやる。

その決意からにじみ出る殺気が他の冒険者を緊張させる。

その状況を見かねたベテランの冒険者が目的を見失うなと叱責した。

納得しなくても良い。

ただこの村をこんな姿にした奴らに必ず鉄槌を下す為にも、最低でも奴らの拠点を突き止めなければならない事。

それには村の出身者であるお前たちの協力が必要な事。

この村はもっとも安全な地と思っていた様だが、この様な惨状は珍しい事ではない事。

これから先、今の様な状況に会う後輩達を見ることもある事、その時、どのような言葉をかけるのか。

言い方は悪いが経験してしまえばその答えが見つけられる事。

内容は理解できるが…納得できるかは別の話である。


重苦しい空気が漂いながら調査が始まるも、驚くほど何も見つからなかった。

どれだけ探しても襲撃者の拠点と呼べるような場所はおろか、襲撃者の存在する痕跡も、足跡も、何一つ見つからない。

周辺の地理を示した地図は、調査済みの印で埋め尽くされている。

まさかもう拠点が移動しているのか?

村の跡地からそれぞれの所属する国の協会へ、伝書鳩等、それぞれの方法で緊密に連絡を取り合う。

都市側でも警戒、調査されているものの、襲撃者達の姿を確認した報告はない。


調査を開始しておおよそ半月後、ついに冒険者は襲撃者の姿を確認した。

報告された情報を元に、拠点は2つのパーティーで襲撃者と対峙する事となる。

襲撃者は2体のオーク。

深い緑色の肌をした巨体の持ち主で、大きな顎に剝き出しの牙。

このオークは肩に3人の女性を抱えていた。

女性には着衣はなく、ボロボロの見た目は暴行の生々しさを語る。

このオークを発見したのは村出身のソロの冒険者。

彼はオークを発見するなり頭に血が上り、背後からゆっくり近づき攻撃を仕掛けようとしたが、女性の姿を確認した後冷静になり、拠点に報告しに来たのだ。

彼の行動は人間としてとても正しいといえよう。

刺し違えてでも殺すつもりだったのに自分の命よりも、他人の命を優先した行動。

理性で動く人間らしい行動。

その行動が、この襲撃者を討伐し、誘拐された女性を救う結果となった。

救助された女性の体には暴行の後が生々しく、その無数の痣は凄惨な状況を雄弁に語る。


救助された女性が喋れるまでに回復すると、彼女は村が襲われた状況、巣に連れ去られた事、巣の中での出来事を詳細に語る。

その内容を聞いた者で、特に村出身の者は絶句し、耐えられずに耳を塞いだ。

彼女の証言で巣がこの周辺にあるのは間違いないが、ここで新たな問題が出てくる。

冒険者達が討伐したのは緑色のオークだったのに対し、彼女の証言によるとオークは赤い肌をしているそうだ。

群れが2つもある可能性…しかも赤いオークは20体以上居たと言う証言。

それが本当なのであれば、今この拠点にいるメンバーだけで対処するのは不可能。

被害を最小限に抑える為にも、なんとしても拠点を発見し、こちらから攻撃を仕掛けられる状況を作らなければならない。

調査済みで埋め尽くされた地図を見ながら、自分たちは一体何を見落としているのか、思考を巡らせる冒険者達の沈黙を割る新たな報告。

またオークが発見された。

それも赤いオークだという。

今女性が証言した群れのオークなのだろう。

報告によれば、村から南西に4㎞程はなれた森林の中で突然霧が濃くなり、気づくと目の前をオークが横切ったのだという。

数は1体

拠点からたった4kmしか離れていない場所に群れのオークが行動する圏内に居たという事実に驚愕する。

何故見つからないのか…?

もしかすると今しがた報告にあった霧に何か鍵があるのか?

冒険者達が協議した結果、前回オークを討伐した2パーティーが再び討伐へ向かう事となった。

現地へ到着するパーティーと発見したソロ。

霧は晴れており、木々が生い茂っているとは言え、空気は澄んでおり木々の合間を縫ってかなり奥まで澄んだ視界が広がる。

注意深く森の中を進むと、突然ゴゴーンと大きな音が響いた。

皆一斉に音の方角がする方向へ進む。

すると森を抜け小さな岩山の麓から大きな土煙が上がっているのが見えた。

山が一部崩れたのだろう…ここでオークを発見した冒険者がソロで状況を確認する事となった。

パーティーは引き続き赤いオークの探索に戻る。

この時、パーティーに参加していた村出身の冒険者は違和感を覚えていた。

(…こんなところに山なんてあったかな…?)


森に戻ろうとしたパーティーは次の瞬間、全員が一斉に息を飲んだ。

赤いオークを発見したのだ。

森の中だと顔が木々に隠れるほどの巨体、その巨体に見合う程の大きな足音、気づかない方がおかしいと思える程の出で立ち。

いつ現れたのかもわからないとても不気味な現象が起こっている。

しかし同時に、彼らにとって幸運な状況でもあった。

発見時に既にオークの背後を取っているという状況であり、その背中は深い傷を負ったばかりの様で血が滴っていた。

あのオークはどこに向かっているのか、もしかしたら傷をいやす為に巣に戻る途中なのでは?

この状況は討伐するよりも尾行して拠点を突き止めるべきなのでは?

思考を巡らせているとささやき声で一人が言う。

この森の中で攻撃を仕掛け思いっきり攪乱させるのはどうかなと、提案した彼はレンジャータイプで隠密や弓術に長ける。

自分の弓ではあのオークを倒すことはできない。

しかし見えない場所からの攻撃を仕掛け続けて相手の精神に攻撃をしかける。

もしかしたら急いで巣に逃げ帰るんじゃないだろうか?

安易な考えだが、シンプルかつ単体の敵ならば効果はあるだろう。

そう判断した彼らは、遠距離による攻撃に長けるメンバーは静かに森の中へと消えた。



【第三者視点:彼】


巣を後にした彼はその腕に、虚ろな目で放心するセシリアを抱いたまま、水場を目指していた。

血まみれで汚れたセシリアに水を見せてあげればきっと喜んで元通りになると思っていたからだ。

人間を安心させるあの言葉は彼女に効果てきめんだった。

彼女の方から自分に触れてきた事実を思い出しながら、彼女に一歩近づけた満足感と、次はどんな反応を見せてくれるのか彼はセシリアが喜んでくれる姿を想像しながらふと、そろそろ崩れるであろう元住処だった洞窟の方に向き直る。

すると次の瞬間、轟音と共に洞窟のあった山の麓から土煙が舞った。

あの場所は彼女の嫌がる血がそこかしこに飛び散ってるので彼女の為にも離れた方がいいだろうと思っていたが如何せん切っ掛けがなかった。

人間の雌を連れて外に出れば仲間たちが黙っていないだろう。

オークにとって他種族の雌は基本的に共有財産なのである。

コミュニティ内でオーク同士が揉めた場合、野生動物の世界もそうだが力の強い方が他者をねじ伏せて我を通す。

オークにとって力とは全てであり、オークにとっての正義でもある。

また、この殴合いは命まで取らない物の、オーク達の重要なコミュニケーションツールでもある。

声やジェスチャー等よりもよっぽどお互いを理解する方法なのだ。

また力が全てと言いつつも力が強いから群れのボスだとか、そのような上下関係はオーク達にはない。

コミュニティ内で揉め事があれば"その場の殴り合い"で、"その場で力の強い方"の意思に従う。

これは日常茶飯事であり、その様な殴り合いを繰り返すうちにオーク達は強靭な肉体を持つのである。

そんな彼らも共有財産である雌を持ちだすと目の色が変わる。

オーク達にとっての繁殖行為は最も優先させるべき事、単純に群れを大きくするだけで他の脅威が薄れるからだ。

故に、群れ全体が強くなる為の"ツール"である雌を外へ持ち出せば、本能で動く他の仲間全員を相手しなければならない可能性がある。

流石に全員となれば自分も重症を負い、彼女は他のオーク達の物にされてしまう。

それだけは嫌だった。

しかし、今回のよそ者の襲撃で血まみれとなった住処、動けない仲間たち、そして暴動の末に近いうちにこの洞窟は倒壊すると悟った彼は、仲間を見捨ててセシリアだけを連れ出した。

彼が何故彼女を守り、彼女だけ特別扱いするのか…誰にもわからない。


森に中腹程、このペースであと半時間ほどの進めば彼が嗅覚で見つけた水場に辿りつく。

彼が進めば、顔に掛かる木々の枝や葉、地面に落ちた破を踏み潰す音、騒がしい音が静かな森に響くが何も気にしなかった。

故に彼の周りに忍び寄る静かな影にも気づかない。

木々をかき分けて空の見える小さいが開けた場所に出た。

腕にふと腕に抱いた彼女を見ると、自分の顔にぶつかった葉が取れたのか、彼女の血でべた付いた髪や服に木の葉が付着していた。

それを取り除いた瞬間、空から突き刺すものが降り注ぐ。

それは、彼女に付着した葉を落とすと同時に彼女の左肩、と腹部、そして左胸に2本の矢が刺さった。



【セシリア視点】


「…っ!」

突然の痛みで意識が現実に戻る。

痛みの元を見ると私の体に4本の矢が刺さってる。

しかしその光景を認識した途端、体の痛みが引いた。

代わりに強い寒気と眠気が襲う。

震えながら寒さをしのぐ様に自分の肩を抱き体を丸める。

すると矢が私の体の更に奥へ食い込む。

痛みはない。

ただただ凍える様に寒い。

寒くて…眠い。

ふとここで自分がどこにいるのか視線だけでまわりを見る

洞窟ではない、どこか森の様だった。

そう…多分森だと思う。

私の視界のほとんどは"バケモノ"の顔で埋め尽くされていた。

その背後から零れる陽の光がとてもきれいに見える。

いつぶりの日の光だろう…?

とても眩しくて目を開けづらいこの状況…"バケモノ"が私をどこかへ連れて行く途中きっと村を助けに来た人の攻撃にまきこまれたってところなのかな…

……本当に…災難…

不意にザザーっとまるで大きな滝の音が聞こえる事に気づいた。

近くにあるのだろうか、とても眠たいのに滝の音が煩い。

耳を塞ぎたいけど力が入らない、まるで車輪のない荷車の様にいくら力を入れても手は動かない。

段々と視界の外側が暗くなってくる。

(ああ…きっとこれで楽になれる…)

目を開け続けるのも難しいほどに瞼が重い…そんな中で自分の死を自覚した私は心は驚くほど穏やかだった。

この眠気に身を委ねればもう2度とここに戻ってくることもない早く眠りたい…

異様な程時間の流れを遅く感じるこの空間で、眠気があるものの急に瞼が軽くなる。ついつい目を開いてしまうが、私の視界は、中心にお皿のような大きさの丸い空間しか見えない。

その小ささ視界の外側は完全な暗闇。

その小さな空間で私が最後に見たもの…それは、"バケモノ"の今まで髪に隠れて見えなかった耳につく鱗のイヤーカフだった。



【第三者視点:討伐隊】


「しまった!アイツ女の人掴んでやがった」

「まずい、当たってしまった…」

誤って人間に攻撃を当ててしまい冒険者達が慌てる。

その中でも比較的冷静だった一人は

「速やかに討伐してあの人を救おう」

言うが早いが人命優先の為に討伐する方向に切り替えた2つのパーティーはそれをれの役割をこなす為、オークを中心に迅速に持ち場につく前回2体のオークを退けた戦法でこの1体を相手する。

前回2体同時だったから今回は1体だけだと油断はしない。


オークの攻撃はその1発1発が人間にとっては致命傷となる。

対オーク戦に置いて、タンクという役割の存在は不要。

そもそもオークの攻撃を受けようと思ってはいけないのだ。

オークの攻撃を受け止めるという事は、急な坂道を下る馬車に対し、盾を持つとは言え己の体で受け止める様なもの、受けた時点で体が吹き飛ぶか、欠損するほどの衝撃を受けることになる。

彼らはレンジャー型の冒険者が遠距離攻撃で攪乱し、その隙をついた戦士型の冒険者が急所目掛けて刺突。

斬撃の場合だと、傷が浅くなる個体もいるが、刺突だと斬撃よりも容易にオークの肌を貫く事が可能だ。

その刺突で視界を奪い、動脈を傷つけることに成功すれば、後はオークが力尽きるまで全力で攻撃から逃げ切ればいい。

もちろん隙をついた攻撃は止めない。

対オークに限らない、大型の魔物を相手にする時の彼らの必勝戦法とでも言おう。

もう一つのPTもほぼ同じような陣形で挟み撃ち。

パーティー同士で連携を取り合うつもりはない。

正面から、背後からただ自分たちの戦い方をする。

回り込む様な行動が不要になる為、結果としてはパーティー同士での連携とななるだろう。

彼らが女性の存在を考慮しつつもオークを観察し、動くタイミングを見計らっていると突然、耳を塞ぐ程の絶叫をオークが発した。

その瞬間彼らの動きが止まる…体が動かない。

姿勢を低くしていた者の一部は思わすずその場に座り込む。

「…あ、脚が動かねぇ…」

力を入れている感覚はあるのにその先が動かない。

動力は生きているのに伝達する力が故障しているかの様な、歯車のない時計の様な…



【とある生存者視点】


突然の状況に皆が混乱する中、不意に視界が一面灰色になっている事に気づいた。

さっきまで近くにいた筈の仲間の姿が見えない。

確認できるのは目の前にいるオークだけ。

俺の視界からだとオークは背中を向けていたが、その姿から視線が外せなかった。

凄まじい怒気と威圧感を感じ、まるで目の前に火柱でも立っているかのような錯覚を覚える程、肌の表面がヒリヒリする。

これは?

オークはゆっくり動き出す…俺のいる位置から少しずつ離れていく…。

そして立ち止まると地面を殴った。

オークの手首が見えない程度に、殴られた地面は抉れる。

その位置から更に方向を変え、ゆっくり歩きだすと、次は木を殴りつけた。

殴られた木はその強靭な力に成す統べなくへし折られ、針山の様な白い幹と皮の様な薄い何かが辛うじて、折れた先から繋がっている。

次に向きを変えたとき、オークに抱えられた女性の姿を確認できた。

今見える範囲だと少なくとも3本は矢が刺さっている様に見える。

血を浴びてしまっているのだろうか、髪と袖の部分が不気味な赤黒い色をしている。

そして俺の方に向き直る…そこにあったのは凄まじい形相で憤怒に駆られたオークの顔。

しかしその状態を、まるで演劇でも鑑賞しているかの様な…不思議だけど見入る様な感覚で集中し、オークを見ていた。

ドス…ドス…と足跡がどんどん大きくなる。

自分との距離は4メートル程だろうか?

その巨体を見上げる。

恐ろしい光景の筈なのに、まるでシアターでも見ている様な不思議な感覚。

その距離で一旦立ち止まったオークは、更に方向を変えて地面にあった大きな岩を砕いた。

砕けた石礫が顔に当たると、ヌルっとした感触が肌を覆う。

するとさっきまで灰色だった世界は色を取り戻し、すぐに視界に飛んできたのはパーティーメンバーの無惨な亡骸と、目の前には、顔の半分が抉れたリーダーの生首だった。



【第三者視点:討伐隊】


「ーっ!!」

声にならない絶叫をあげる冒険者。

その冒険者を次の標的にしたオークはゆっくりと彼に近づく。

オークの正面にいたパーティーは全滅。

生存者は自分を含めて2人、

1人は同じパーティーの仲間でさっきまで自分が見ていた光景を見ているのか、まるで虚空を見る様な表情でオークを見ていた。

早く動かなければならないのに、体が動かない……。

頭の奥で、死がすぐそこまで迫っているのを、今までにないほどはっきりと、彼は感じ取っていた。

それでも…仲間の姿が彼の脳裏に浮かぶ。

彼自身冒険者として、幾度となく死線を越えてきたつもりだった。

けれど、こうして本物の死と向き合ってみれば、これまでの自信なんて脆く儚いものだと痛感していた。

(俺は、もう……ここまでかもしれない……

それでも…彼は諦めなかった。

せめて、残ったあいつだけは生き延びさせる。

声は出せる。

上半身だけでも動かせる。

彼は確約された死の運命を受け入れながらも、その命運が尽きる前に動き出した。

「早く戻ってこいっ!逃げろ!」

彼は必死に虚空を見つめる仲間に呼びかけながらも、上半身の力だけで這いながら仲間から離れ少しでも時間を稼ぐ選択をした。

オークは凄まじい形相で一歩一歩近づいてくる。

とうとう逃げられない距離にまで近づいてきたオークを見た彼は最後に思った。

(せめて…こいつが弱者を甚振る事に愉悦を感じる嗜虐心でもあれば…俺の死に価値があれば…)と

オークは彼の元に到達すると、無慈悲にその上半身目掛けて渾身の拳を振り下ろしその生涯を終わらせた。


彼の肉塊が周囲に飛び散り、その肉塊にぶつかった最後の冒険者はようやく意識を取り戻した。

彼もまた、声にならない絶叫を上げるが、その声に音はなかった。

今までにない速さで心臓が鼓動する。

色のない世界に囚われていた時間、ずっと息を止めていたのかとすら思う程、肺が空気を求める。

荒い息は収まる様子がないが、彼は仲間の亡骸を目の前にし、あの"灰色の世界"で見た光景と現実のこの状況をすり合わせ、冷静にここで起こった事を整理し、早くこの場から逃げて状況を、このオークの危険性を伝えなければと判断した。

しかし…彼は動くことができなかった。

彼も殺された仲間と同じ症状に陥っていた。

オークが彼の方に振り向く。

次の標的が自分であると認識した彼は、野営用のナイフを手にすると、意を決し自分の足に刺した。

(動け!動いてくれ!!)

その願いが届いたのか、下半身の感覚が戻る。

しかもナイフを突き刺した足に痛みはない。

(動ける!)

そう認識した彼はすぐさまその場所を離れた。

当然オークは彼を追ってくる。

すると彼は元の場所を起点に時計周りに一周して一時的にオークを撒くと、再び殺された仲間の元に戻ってきた。

強烈な血の臭いが漂う中、彼はパーティーメンバーと判別できるその仲間だったものから冒険者のタグを取ると、その亡骸をそっと抱きしめた。

オークの近づく気配を感じると彼は再びこの場を離れる。

彼はそのまま脳内にマッピングされた最寄りの水場を目指す。

水場に着くや否や、すぐさま中に入るとそのまま沈んでいった。


ほどなくして彼を追ってきたオークが水場に到着する。

オークは迷うことなく彼の痕跡を辿っていた筈だったが、行き着いた先は彼の血塗られた服が脱ぎ捨てられた木の上だった。



【第三者視点:拠点】


無事拠点に戻ることができた冒険者はすぐさま赤いオークの情報を伝えた。

そこには崩れた山の調査に向かっていた冒険者も帰還しており、提供された情報をまとめた結果オークの群れは無くなり、赤いのを含め弱ったオークが残り数体いる結論にいたる。

山の崩落はオークの巣が倒壊。

崩落地の周辺には赤と緑のオークの死体が散乱していた。

さらに、付近で再びオークが目撃され、拠点に残っていたパーティーが無事に討伐できていた。

その数なんと5体。

赤色が2体と緑色が3体、しかもオーク達が争っており、目撃された時点で既に大きな怪我を負っていた。

オーク同士が争い双方が大きな負傷を抱えている。

この情報がなければ拠点の冒険者は討伐に向かう事はなかっただろう

希望的観測だが、女性の証言と崩落現場からオーク同士が争った結果なのだろうという判断。

ここにイレギュラー的な存在があるとすれば、逃げ帰ってきた冒険者が報告した赤いオーク。

このオークも傷を負っているものの2つのパーティーを全滅させた。

おそらく変異種か…話を聞く限り、この個体は軍が対処する上で、凡人には越えられない壁、祝福(ギフト)を授かり人知を超えた力を持つB級、A級冒険者の助力を求める程、準備しすぎるくらいがよいだろう。


彼らが今後の方針を相談する中、本当に都合良く、この地の温泉を目当てにきた現状を知らないA級とB級のペアの冒険者パーティーが訪れた。

温泉はついでで、彼らの勘がここにネームドに指定されるような強い魔物が存在する、…様な気がするから訪れたというもの。

彼らは、難しい事を考えるのを嫌い、ただ己が力で積極的にネームドやユニークの魔物を討伐する"プレイヤー"と呼ばれる人達の一種だ。

協会への報告は決まって事後報告。

訪れた理由も言葉での説明は難しいが、自分たちが来た方角、国境沿いを指し、そこからただこの方角に向かえばそいつがいる、そんな気がしたと。

その勘が外れることはないらしい。

拠点の冒険者たちにとってまさに天啓を受けたような感覚だっただろう。

しかし、この冒険者は次に自分の勘でもわからないことがあるという。

「この辺にいるのは間違いないと思うんだけど、なんかフワッと消えちゃうんだよねぇ…存在そのものが消えてるっていうのかな?」

この辺を村出身の冒険者達もくまなく調査していたのに今まで見つからなかったオークが突然見つかり、更には倒壊後の巣まで今になって発見された奇妙な感覚。

言っていることはわからないけど、今までの曖昧な現状がその表現にピッタリはまる。

「でもこの程度の気配だったら多分トロールよりちょっと弱いくらいだろうから、ちょっと物足りないし私一人でやってみたいな?いいっしょ?」

そう相棒に話しかける冒険者はB級冒険者らしい。

人知を超えた力を持つ冒険者の余裕…まるでこれからの戦いを楽しむかのような発言に、頼もしさを感じるとともに、やるせなさともどかしさがこみ上げる。

村の出身者達は口に出さずとも皆思う事は同じだった

"どうしてもっと早くここに来てくれなかったのか"

「言っとくけど、ここがこうなったのは私たちのせいだなんて思わないでよ?私たちがここに向かうって決めたのは、つい昨日の事なんだから。」

まるで心の声を直接聞いたかのような言葉に驚き拠点の冒険者は息を飲む。

「とにかく…今は"消えてる"みたいだから現れるまでここで休んでるよ。温泉がないのはちょっと残念だけど…。そうだなぁー…仇を討ちたいなら今この場で臨時パーティーでも組む?」

その言葉に、赤いオークから命辛々逃れてきた冒険者と村出身の冒険者の目の色が変わる…

「…うわぁ、なんか私的にはこれから倒すやつよりもここにいる人たちの方がなんか怖いなぁ…あ!言い忘れてたけど前衛は私一人でいいからサポーターでよろしく」

ここに、B級冒険者と怨嗟に駆られた冒険者達の臨時パーティーが結成された。



【遠い昔】


霧の濃い森の中、迷子の少女を見つけた少年はその帰り道、ふと不思議に思って少女に尋ねる。

「そういやどうやってこんな遠いところまで来たの?」

少女は少年の胸に顔を埋めたまま、泣いた後のカラカラ声でゆっくり喋る

「…ん-とね…友達と…一緒に来たの」

「え?シア以外にも誰かいたの?なんて子?」

「…ん-と…知らない子」

少女と遊ぶ年代の子は村の中でも限られている。

あの村ではみんな顔見知り、知らない子なんていない…

少女のその発言に、少年は少し思う事はあったが…

「そっかぁ…その子と何してたの?」

「えっとね、怪我してたからよしよししてあげたの、そしたらその子元気になってね、何か言ってたけどシアわかんなかった」

少女の声に少し明るさが戻る。

感謝されている、幼心にそう感じ取って本人も嬉しくなったのだろう。

「へー、シアはその子を元気にしてあげたんだね」

「うん!そのあと一緒に手をつないで歩いてたんだけどね、やっぱり怪我で動けなくなっちゃたからずっとよしよししてたよ」

少女の声のトーンが少し下がる。

当時の不安な状況を思い出したのだろう。

「そっかぁ、やっぱりシアはやさしいね」

少年は少女を褒めながら少女を抱えつつ、器用に頭を撫でてその行動を褒める。

「うん、シアがいるから大丈夫だよって何度も言ってあげたよ、…でもわかんないけど…シアだけになっちゃったの…」

「そっかぁ…シアもがんばってたんだね」

少女を家に連れ帰り、その日最後の挨拶を済ませる途中、少年は少女の小さな変化に気づく

「あれ?シア、耳飾りなくしちゃった?明日お兄ちゃんが探してこようか?」

光を当てると鏡面の様に反射し、角度によって反射する色が変わる不思議な鱗の耳飾り

少女の一番の宝物だ。

そう聞かれた少女は確かめる様に耳飾りをつけていた耳に触れるが、慌てる様子もなく

「あの耳飾りは森で会った友達にあげたの、だから大丈夫だよ」

満面の笑みで少女は答えた。

「……そっかぁ…その友達と…また会えるといいね」

「うん!」


FIN

お疲れ様です。ここまで読んでくれてありがとう。


元々はオークは旦那さんでセシリアが吹っ切れて受け入れるよくわかんないハピエンにしたかったけど

なんか都合良すぎたのでハピエンに持っていく要素を全部彼女の思い込みにして絶望したけど実は…みたいなビタエン目指しました。

ちょっと説明的すぎる箇所とかいろいろ自覚してますが何分初めてなのでどこを取捨選択すればいいかわからない


小説初めて書いてみましたけど…書いてるうちはいろいろ詰まるのに、仕事中は色々降ってきて捗るのは人間のバグなんじゃないですかね?

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