表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

割り箸の袋に入っているつまようじ

作者: 宮野ひの

 コンビニで弁当を買った。唐揚げと煮物が入っていて、茶色を占める割合が高い。ご飯の上には梅干しが乗せてあり、ゴマが愉快に散っている。申し訳ない程度に野菜も入っているが、油ぎっている。みずみずしさが消えているから、きっと唐揚げが悪い影響を与えたのだろう。


 割り箸の袋を開けると「あっ」と声が出た。つまようじが入っていて、素早くスライドしたからだ。一瞬のことだった。


 つまようじが手元から離れて地面に落ちて、哀しい音を立てた。流れるように拾おうとしたら、つまようじの先っぽが手を刺した。痛い。痛いのに、血が出ることはない。


 今すぐ、ふーふーすれば、そのまま使えるだろう。だけど、そこまでして使いたいとは思わない。


 割り箸の袋に入っているつまようじは、いつ見ても影が薄い。「僕は割り箸を引き立てる存在です」と全身が主張しているようにさえ感じる。


 つまようじが主役になる場面は、いつだって、ご飯を食べ終わった後だ。スポットライトが当たるのが数分遅れる大器晩成型。


 こんなふうに、ぼやぼやしていると、唐揚げが見知らぬ鳥から奪われてしまう。海が近いわけではない。だけど、鳥は人が油断したところを狙ってくると知っていた。


 野生では、ぼやぼやしている生き物は、食べ物にありつけないと相場が決まっている。


 とりあえずと割り箸を割る。パキンと心地よい音がしたのに、左右非対称の歪な形になった。


 一つは先が尖っていて、もう一つは、木の面積が十分なほどついていた。半分こできるアイスを、失敗して割ったような気まずさがあった。


 この割り箸を使って弁当は無理なく食べられる。だけど食べにくそうだ。


 尖った割り箸と、つまようじ。見た目が似ているように感じる。運命という言葉は、人との巡り合わせよりも、ここで使うことが正しいようにも感じられた。


 大人だから、ハキハキした声で「いただきます」とは言えなかった。その代わりに心の中で言う。言いにくいことは、何でも心の中で言えば良い。


 今思いついたように背筋を伸ばしたら、もうつまようじのことは頭から消えていた。唐揚げは塩辛くてとても美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ