第19話 恐らく史上最低の上司
四半世紀も以前の事だから、もう話しても問題ないであろう。
今までにこれほど仕事をしない上司はお目にかかった事がない。朝は数分間の朝礼の挨拶で始まる。午前中は3時間半、資料に目を通すフリか考え込むフリをする。この間にしょっちゅう休憩室にタバコを吸いに行ったりコーヒーを飲みに行く。午前中はこれだけで終わる。
午後からは一人の女子職員の担当している手書きの仕事の一部を横取りして時間を潰す。終わればタバコとコーヒーの時間である。それから又次の手書きである。これをひたすら定時まで繰り返す。その手書きの仕事は忙しいわけではない。一人で十分こなせる量である。
同じサポートするフリして時間を潰すなら、他の多くの女子職員の担当しているデータエントリーおよびマッチングで遊んでいてもらった方が職場としては多少なりとも助かるのであるが、コンピューターには全く触れない。デジタル系は全くの苦手のようだ。
本人も自分が技術力も指導力もない事をよく自覚している。故に部下たちに頼りない人間だとバカにされていることもよく分かっている。当然のように部下たちからはフロアや廊下で顔を合わせても挨拶一つして貰えない。
この職場では毎月一度部長会議が有り、数日後その内容を各部長が夫々の部署での幹部会で報告する事になっている。この上司も名前だけとは言え部長である。幹部会で報告するのであるが、内容が全く要領を得ない。毎回必ず彼のお友達でもあり彼を部長にした上司がフォローしているが、まるで内容が違う。毎月これの繰り返しである。
一度そのお友達でもある上司が休んだ事があった。その時、その部長は事も有ろうに、『私は説明はできません。が、これを読んだら誰でも解ります』と言って、議事録のコピーを配って終了した。読んだら解るのであれば、自分が読んで理解して説明すれば良いはずだが。自分以外の人間なら誰でも解るという意味か。全くプライドの欠片もない。
普段は自分を部長にしてくれたお友達上司の顔色を窺い、何とか形だけでも報告していたのであるが、そのお友達が居ないともっと楽なごまかし方をするようだ。
世の中には、こんな人間も居るのです。