第18話 ラッキースケベ?
10年余り前になりますが、国内の55マイルのウルトラマラソンに出場した時の事です。いつものように、ゆっくりスタートして後方をマイペースで走ります。かなりきついレースですが、その中でも序盤は上り坂が多く中盤は下り坂が多く、終盤は比較的平坦なコースです。
序盤の途中から20代半ばの元気な女性とエイドステーションで度々顔を合わせ、ミニ会話を交わすようになりました。概ね上りでは自分がややリードし、下りで追いつかれるというパターンの繰り返しでした。下りの多くなった中盤では徐々に引き離され、やがて追いつけなくなりました。
その上かなり脚にきたとみえ、楽なはずの終盤には脚が動かなくなりました。何度か立ち止りながらも、ようやくゴールの1マイル手前の石段が見えてきた時は安堵したものでした。
右手を支えにしながら500段ほどの石段を上り切ったあとは、平静を装いながら姿勢を正してゴールに向かいます。それなりの拍手を受けながら、最後は両手を横に広げてゴールしました。
上位入賞したランナーのようにガッツポーズをする事はありません。超長距離を完走した自分に対するささやかなご褒美ポーズです。
ところがこの後、本物のご褒美が有りました。ゴールの時、途中までシーソーレースを展開していた女性ランナーの姿が眼に入りました。どうやら自分より少し前にゴールしたようです。ゴール後、応援の友達らしい女性数人と談笑しているようでした。ゴールした流れのまま歩いている自分を見つけ、急ぎ足で歩いてきた彼女にいきなりハグをされました。
えっ⁉
疲労もあり突然のことで何が起こったのかよく分からなかったのですがすぐに、レース中に知り合った好感の持てるオッサンにお互いの完走を讃え合い、握手よりハグを選択したのであろう。なんと明るい元気な子だ。そう思いましたが、少し時間が経ってから気が付きました。
あのゴールのポーズを勘違いしたのであろうと。きっとあのポーズを『ハグしよう』ととったのであろう。それにしても、底抜けに明るい子だ。