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3 沢田忠孝という男 未定2024/11/12 01:48

 11月23日【速報】「路面で社と人が衝突」 岐阜県岐阜市公園近くの40代男性と路面電車が衝突 上下線で一時運転見合わせ




 JR支社によりますと23日午後22時頃、運転士から「人身事故が発生した」と報告があり、その後、JRから警察に「列車と人が衝突した」と通報がありました。




 運転士の話では、ぶつかったのは車などではなく人だったということです。




 警察によりますと衝突したのは男性と判明、午後23時過ぎに搬送先の病院で死亡が確認されました。男性の身元は判明しており、沢田忠孝とわかっている。 警察がさらに詳しい身元や事故の詳しい原因を調べてます。




 さて、沢田忠孝についての人柄を深く堀りさげてみましょう。




                            記者:柴田 和義しばた かずよし




ーーーーーーー






 俺、沢田 忠孝さわだ ただたか決して褒められる人ではない。




 順風満帆とはいかなくとも妻と出会い2人でそれなりに幸せな生活を送っていた。しかし、10年代の親しい友人の借金の肩代わりをし、友人は逃亡。首が回らなくなり借金取りに追われる日々。俺は家族、会社に迷惑をかけまいと距離を置き、家族とは離婚、会社は自ら辞表を出し退職。




 それでいい、苦しむのは俺一人でいい。




 もう一度、家族と会い、社会復帰を目指し日雇いのバイトを週6日少ない休みにほんの少しの贅沢(ぜいたく)と休息を送る日々。




 そんな中一人の女性と出会った。名前は明美 美音あけみ みおん。彼女は仕事の帰りに俺の住み着く公園に足を運び話をする仲になっていた。




 彼女は俺の話の何が面白いのか多い日で週4日、話を聞いてくれる。そんな彼女に同じような話をしているうちに自分の夢はより強固なものとなっていった。




 そんな日々を過ごすうちに、真っ暗だった俺の人生に小さな…小さな光が差した。




「沢田、おまえはよく働く男だ! そんなおまえの話を友人に話したら、ぜひ、うちの工場に来てくれって話があってな!」




「お、俺がですか?」




「ああ、こっちとしておまえみたい働き者を手放すのは惜しいが。 こんな雇用形態で縛っちゃいけねぇって気持ちが俺にはある。 ……奥さんにまた会うんだろう。 悪い話じゃない、どうだ?」




 身を震わせるほど嬉しかった。 俺はすぐさま二つ返事で承諾した。




 もう少しだ、もう少しでまた…




 夢があと少しで現実に。 全身から力が湧いてくる。




 うぬぼれるな、まだ(かな)ってない




 湧きあがった力にそのまま俺は仕事に戻る。




 その日の夜だっただろうか。いつもの公園で体を縮めながら夜をすごしていると、明美が公園へと近づいていた。




「明美ちゃん、お疲れさま」




 思わず声をかけてしまった。彼女は俺の境遇を知っている。共感し一緒に喜んでくれると思ったのだ。予想はあたり、彼女は俺の話を聞いて「応援しています」っと言ってくれた。40代にもなって子供のようにはしゃいでしまった。彼女はどこか羨ましいそうな顔をしながら「失礼します」っと言って去っていった。




 それか、明美ちゃんとの会う回数は減っていった。週に多くて二回くらいだろう。




ーーーーーーー






 12月23日…そう時刻は22時くらいだったと思う。




「沢田さん!」




 明美ちゃんが大きく肩で息をし顔を真っ赤にして、俺のもとへやってきた


「おぉお、どうしたんだ明美ちゃん」


 唐突なことで心臓の鼓動が一気に跳ね上がる。いつもの落ち着いた感じの明美ちゃんとは正反対の姿からは想像がつかない姿に頭が真っ白になった。


「ご家族が、家族がいまあなたを探してます!」


 はぁ?……は!


 言葉の意味を理解するのに少し時間がかかったが、すぐに理解できた。


 家族が? うれしい、うれしいうれしいうれしい! 体から力が湧いてくる。あの時と一緒だ、夢が現実に近づいてくる苦しい、苦しい日雇いの親方から社会復帰の話を受けたあの時と。


「どかだ! どこで探してるんだ!」


「この道をまっすぐ行って踏切を通過した先の最初の曲がり角を右です!」


 俺はすぐさま駆け出した。


 11月の寒さは俺の思いとは裏腹に冷え切っていた。前へ進もうとする脚はすぐに悲鳴を上げた。


 関係ない、形は違えど、みっともない身なりだけど、関係ない。 一目会おう。そして伝えるんだ、あと少しだっと。また、一からだが始めようと。


「はぁ、はぁ、はぁ、ははは」


 笑みがこぼれる。


 踏切まであとほんの数メートル。


カンカンカンカン!


 神様は意地悪だ。 侵入防止の棒が下がってきたのだ。 俺はどうしようもないやさしさが売りだ。 でも、今日だけは、今日だけは少し…ほんの少し自分に優しくてもいいだろう。

 このまま走り続ければギリギリ間に合う。


「今…今、行くぞ……京子」


 閉まり始める棒に身を投げ出す、光が俺を照らす、少し恐怖を覚え頭が冷静になったが、電車は思いのほか距離がある。 いける。











「あぶない! 下がって沢田さん!」


 その声を()()()()()()()俺は、踏切のど真ん中で足が止まってしまった。

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