3話
「うぅ…………」
《起きたか、玲》
「クロノア様?ここは?」
見慣れない白い天井に装飾の凝った豪奢な部屋。だけど生活感のある部屋にどこか安心感を覚える。
《ヒィトゥルク辺境伯の屋敷だ、強力な魔法使いという事で丁寧に扱われている》
「強力な魔法使い?」
《覚えていないのか?自らの時間をほとんど使用して使った大魔法を……あんなものを見れば魔法使いではなくても魔力量の異常さに気がつくぞ》
そうだった。死にそうになって、二亜のためにも死ねないと思ったら自然と体が動いて……今思えば寿命をほとんど使うなんて何やってるんだ俺は。
《まぁ安心しろ。寿命の問題ならしばらくは大丈夫だ》
クロノア様に言われてステータスを見るとその言葉の通りだった。
大宮 玲
種族 異世界人
時間 8762000時間
レベル 80
経験値 1296/250000
職業
称号 竜殺し
加護 時の女神クロノア
体力10.52
筋力10.69
速さ12.58
魔力13.49
スキル
料理 LV6
全言語理解 LV10
固有スキル
時間使用 LV3
時間強奪 LV3
時間譲渡 LV3
水魔法・異 LV1
時空間魔法・異 LV3
「これだけ時間があれば安心ですね!」
《馬鹿者!ステータスの異常さにも目を向けぬか!》
「ステータス?上がってはいますけど……」
《良いか?この世界でステータスが全て10を超えると言う事は人類最高クラスの力を得るという事だ。もちろん人外と呼ばれる国1番の猛者どもは平気で20を超えてくるが……アイツらは別だ。普通は8でもあれば街で1番強い。10にたどり着くものなどそうそういないという事だ》
「え?」
《あのドラゴンは成竜だった。普通なら一国の騎士団。1000人規模の人数で倒すものだ。それを一人で倒したら経験値はもちろん独り占め。未だかつてそんな事をしたのはさっき話した人外のやつらだけだ》
「はぁ……」
そんな話をされて呆けていると部屋のドアがノックされる。反射的にはいと答えてしまった。
「ご機嫌はいかがかな?偉大な魔法使い殿」
部屋に入ってきたのはとても高貴なオーラを発する金髪のおじさんだ。
「すみません……ドラゴンを倒した辺りまでは覚えているんですがそれ以降は気を失っていたので状況が掴めず」
「それもしょうがない事だろう。報告にはこの世のものとは思えないレベルの大魔法を行使したとある。それだけの魔法ならいくら偉大な魔法使いと言えど魔力切れを起こすだろう」
「そう言っていただけると助かります」
「おおっと、自己紹介が遅れていたな。私はヒィトゥルク辺境伯領、領主。グリンセル・アルカ・ヒィトゥルクだ」
「大宮 玲と言います」
「オオミヤ?ずいぶん変わった名前だな」
「あぁ玲が名前で大宮が家名です」
《馬鹿者……》
え?
「異世界人……だと……」
「なっ…………」
何故ばれた……クロノア様も馬鹿者とか言うし俺なにかまずい事したか……
「嘘を吐いている様子もない……本物か」
「あ、あの……」
「当初の予定では君を我が家の筆頭魔法使いとして迎え入れるつもりだった。報告書の通りならこれほどの逸材は逃すわけにはいかないと」
そんな風に思われていたのか……今ならまだしもあの時の俺は時間使用で一時的にステータスを上げていただけなのに。
「だが、異世界人と言うのなら話は別だ。我が家の筆頭魔法使いで収まるはずもない。」
なっ……せっかく貴族様と知り合いになれてその上良さげな待遇で就職?できそうな感じだったのに。そうすれば情報も集めやすくなって、ニ亜の事だって……
「何で俺が異世界人だと?」
「この世界に家名と名前が逆の者はいない、だが、過去に同じような発言をしたものが数人観測されており、その全てが神の意思によって異なる世界から招かれた者達だったんだよ」
「それは、俺より前にも異世界人がこの世界に来てたって事ですか?」
俺の他にも異世界人がいるなら二亜もこの世界に来ている可能性が高い。だったら何としても辺境伯様の協力を得て二亜を見つけ出す。
「そう、今までに観測された異世界人は11人。その全てが一国の主人になっている」
「なっ!?」
「今代のアルフィア国王も元は異世界からの来訪者だ。前国王の末の娘であるシャーリー様を娶り、数々の武功を上げ国王となった」
俺と同じ境遇の人たちがみんな国王?そんなことがあって良いのか……
「オオミヤ レイ。君に聞こう、君はこの世界で何を成そうとしている?」
「俺は、妹を……この世界に来ているかも知れない妹を探したい!」
「ほう、異世界人は皆この質問をすると自らの醜い欲に従った発言をするとの情報があるが、君はあくまでも妹を探したいと」
「この世界に来ている確証は無い、けど可能性が少しでもあるなら俺はそれに縋りたい。そうしないと心が壊れてしまいそうだから……」
《玲、お前はそこまで……》
多分クロノア様は全てを知っている。草原を歩いている時にも他に異世界人が来ていないか聞いたがレベルが上がるまでは答えられないの一点張りだった。今のレベルなら答えてもらえる可能性もあるがこの口ぶりを見るにまだ足りなさそうだ。
「この世界にいるかも分からない妹のために君は何をかけられる?」
「全て……」
「何故そこまで?」
「何となくアイツはこの世界に来てるって分かるんです。小さな頃から俺たちは互いの存在を意識し続けてきた。それこそどんなに遠くに居ても……」
そう、俺と二亜は昔から待ち合わせずとも連絡を取らずとも何処かでばったり出くわす事が多かった。その度に笑い合って互いにこう言うんだ。
「「俺たち(私たち)何処に居ても一緒だねって」」