1話
「ここは何処だ……」
どこまでも続く草原、空には三つの月と二つの太陽。
「俺はどうしてこんな所に……」
つい先ほどまで学校で授業を受けていたはず。
「これは?」
空中に浮かぶ数々のアイコンの様な物。
「うわっ」
つい触ってしまった。
大宮 玲
種族 異世界人
時間 527069時間
レベル 1
経験値 0/10
職業
称号
加護 時の女神クロノア
体力2.56
筋力1.96
速さ2.71
魔力2.12
スキル
料理 LV6
全言語理解 LV10
固有スキル
時間使用 LV1
時間強奪 LV1
時間譲渡 LV1
「なんだよ、これ。まるでゲームじゃないか……」
この手の小説はよく読んでいたし、アニメも見ていた。夢かとも思って頬をつねるがちゃんと痛い。
「異世界転移……」
その事実は俺の精神を酷くすり減らした。家族も友人もいない世界にただ一人連れてこられた。いや、待てもしかしたら同じ教室にいた生徒や先生も連れてこられているかもしれない。必死にそう思い精神を安定させる。
「そうだ、まずは街に行って情報を集めないと……」
そう、なにをするにもまずはこの世界の事を知らなくては。ステータスのようなものがある以上モンスターなどの存在がいる可能性が高いし、街に行けば他の転移者もいるかもしれない。
「このアイコン地図っぽいけど」
俺の視界に浮かぶ数多のアイコンの一つにスマホの地図アプリのようなものを見つけたので押してみる。
「この辺一帯が細かく表示されるのか。これだけで十分チートじゃんか」
近くの街はアルフィア王国、ヒィトゥルク辺境伯領の領都、ヒィトゥルクか。名称まで知れるのは便利だな。
「よし、まずはヒィトゥルクを目指すか!」
どうやら歩いて20キロらしいから5時間も有れば着くだろう。というか今って何時だ?そもそもこの世界の時間ってどんな表し方なんだろうか。
「これがそれっぽいな」
俺はアイコンの中から時計のマークを探して押してみる。
星刻暦 269年 11の月 風の日 11時22分
時計アプリを見るとどうやらカレンダーアプリでもあるようで日付も教えてくれた。この世界では一年を12か月で繰り返し火の日、水の日、風の日、土の火で繰り返しているらしい。土の日が休みの日のようだ。なぜ休みとわかったかは文字の色が赤かったからだ。
「夜までには街に着きたいところだけど、食料も無ければ水も無い、さてどうしたものか……」
今の俺にできることは……スキル。そうださっき見たステータスのようなものにスキルがあった。あの時は動揺しててしっかりと確認出来なかったし街の方角に歩きながら確認してみよう。
『料理』LV6
プロの料理人よりも上手く料理をする事ができる。
『全言語理解』LV10
全ての言語の読み書き会話を完璧にできる。
『時間使用』LV1
ステータスの表示されている時間(寿命)を使用する事でステータスの上昇、スキルの創造、アイテムの創造、時の女神クロノアの権能を使用できる。
『時間強奪』LV1
倒した魔物が絶命する瞬間まで保有していた時間を100分の1奪う。
『時間譲渡』LV1
他者に時間(寿命)を譲渡できる。但し、譲渡した時間の10倍の時間が減少する。
「は?」
何だよこれ……ガチモンのチートじゃんか。料理はまぁ凄いけど置いておくとして『全言語理解』も充分なチートだし、固有スキルに関しては。
「要するに魔物さえ倒せば不老な訳だし、他の人にも寿命を分けられる。その上寿命を使用する事で様々な恩恵を得られる」
それに何で俺時の女神さまに加護もらってるんだ?これが一番訳がわからない。まぁあって困るものでは無いだろうし良いか、会う機会があるとお礼をしよう。
「取り敢えず水さえあれば街にたどり着けるはず、なら!」
時間使用の能力で水を作るスキルを創れば解決な訳だ。でも待てよスキルってどうやって使うんだ?
《それにはこの私が答えてやろう!》
「なんだ!?声が直接頭の中に!?」
《私の名は時の女神クロノア!今は訳あってお前の身体に住まわせてもらっている!害は無いから安心しろ!》
「神様?!」
《そう!わたしはこの世界で最も尊ばれている神、クロノアだ!》
やけに幼い声だな……まあ良いか。
「何で神様が俺の中に?」
《今は話すことができないが……お前のレベルが上がれば話す事ができる!それまで待て!それと私は幼なくなどない!》
「はあ……」
神様は人の心まで読めるらしい。もう訳がわからない。
《そんな事は良いとしてスキルの使い方を知りたいのだろう!》
「そうだった……余りの衝撃で色々忘れるところだった……」
クロノア様いわく、スキルとは想像の力らしくそのスキルを使っている自分を強くイメージするのが重要らしい。
《時間使用のスキルは世界に願いを伝え、その代償として自らの寿命を世界に吸われるというイメージだ!》
なんて怖いイメージなんだろうか……でも水無しで5時間歩くのは流石に厳しい。
俺は水を自在に創り出し操る能力を世界に強請る。その瞬間にわかには信じ難いが何となくその力を得るには1万時間の寿命が必要という事がわかった。1年とちょっとか。まぁ良いだろう。
「時間使用……」
身体の奥底から何かが吸い上げらる。それが終わると代わりにステータス画面に一つのスキルが追加されていた。
『水魔法・異』LV1
異世界人が創り出した水魔法。既存の水魔法とは根本的な構造から異なり少ない魔力でより強力な魔法を放てる。
《ほう、さすがは異世界人。とんでも無いことを平然とやってのける》
「とんでも無いこと?」
《そうだ!水魔法とはこの世界が誕生した瞬間から存在する概念!四大魔法の一つであり、魔法の基本中の基本だその水魔法を全くの別物として創り出すなど普通はできない》
そうなのか……俺はただ自分の思う水魔法を世界に強請っただけなんだけどな。
《よし!これで水の問題は解決した!あとは街に向かうだけだ、そこで冒険者にでもなって名声をあげ私の信徒であると公言しろ!そうすれば私の神格は更に高まる!》
「クロノア様はこの世界で最も尊ばれているんじゃ?」
《その通り!だが……今は訳あって神格を維持するので精一杯なのだ……これ以上はお前のレベルが上がらないと話せないがとにかく頼む……》
なんだか深い事情がありそうだ。まぁ俺にスキルの使い方を教えてくれたり悪い神様では無さそうだし力になってあげようか。まぁまず名声をあげられるかわからないけども。
「取り敢えず街に向かって走りますかって……」
今思えば時間使用で転移魔法のようなものを作れば一瞬で解決できるのではないだろうか。
《…………》
「クロノア様?」
《その手があったかぁ……こんなんだからわたしはあの時もあんなミスを……》
「いや、水魔法はこれからきっと役に立ちますから!それにクロノア様は俺が水の問題を解決したがってたからスキルの使い方を教えてくれた訳でまぁ確かに最初から転移魔法を作れって言ってくれても良かったかもしれな……」
《グスン…………》
「あっすみません!口が滑って!だから泣かないでください!」
《こんなんだから私わぁぁぁぁ!!うわぁぁぁん!!!》
こんなドタバタな感じで俺の異世界生活は幕を開けた。