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一人の鳥が羽ばたく世界  作者: 夜ノ血月
四神編
8/16

8話 龍と竜巻

「ハァ、ハァ......遅れて悪い。ちょっと色々あってな......」


 朱雀神社の石段を上りっきった翔琉阿とるあが膝に手を突き、俯きながら言った。息は荒く、急いで来たのが見てとれる。


「遅いわよ翔琉阿。部活でも長引いたの?」


 千影ちかげが翔琉阿に聞いた。今この場には空羽からばねと千影、それに見慣れない一人の少年がいた。少年は少し青みがたった黒髪と真っ青な瞳、半袖短パンの恰好で背中にリュックを背負っており別段不思議なところは無い。


「いや、まあ、色々あってな。えっとそいつが陽人はるとだっけ?」

「あ、はい。初めまして翔琉阿さん。僕の名前は青龍せいりゅう陽人はるとです」


 翔琉阿の言葉に反応してこちらに寄ってきて陽人と名乗った少年は言った。昨日、空羽から陽人と会うことは知らされており、そこで陽人については軽く聞いてある。

 年は12でまだ小学生。四神ししんである青龍の操者そうじゃになる予定だったがある理由でなっておらず、操者になる修行もしていないらしい。翔琉阿はその理由を空羽から聞いておらず、その理由が気になり今に至る。


「答えたくたくないなら良いんだけど陽人は何で操者じゃ無いんだ?」


 翔琉阿が思った疑問をそのまま聞いた。


「えっと、それは僕が“神童しんどう”だからです」


 陽人は当たり前かの様に言った。


「......神童?」


 翔琉阿は聞き慣れない言葉だったため聞き返した。


「神気は神それぞれの力のこと。で、神童はそれを持って生まれてくる子供のことよ。神の子とか呼ばれたりして、神童は何かしらの能力を一つ持っているわ」


 千影が説明した。


「ん? 神童と操者に何の関係があるんだ?」


「そいえばあんたにはそこら辺のことは説明してなかったわね。私より陽人の方が詳しいから陽人、説明しといてくれない?」


「わかりました」


 陽人は元気よく答えた。


「あ。その前に立ち話も何だし座ろうぜ」

「じゃ、私は少し空羽さんに稽古つけてもらうから」


 千影は空羽の方に行き、神器を使って九尾を出した空羽と実践練習をしている。翔琉阿と陽人は本殿の階段に腰を掛けた。


「神童と操者の関係について知りたいんでしすよね」

「ああ。説明してくれると助かる」

「まず、僕の能力について軽く説明しますと、人でも何でも丁度四神市と同じ位の範囲内で、それと何かしら関係のある“何か”を探すことが出来ます」

「関係のある何かを探す?」

「はい。例えば翔琉阿さんの所持品という繋がりから翔琉阿さんの制服やスマホを探すことが出来ます。さらには、操者という繋がりから朱雀すざくの神気の在処ありかなども探すことも出来ます。この能力を僕は“えんうらない”と呼んでいます。ちょっと今やってみますね」


 そう言うと陽人は立ち上がり目を大きく開いた。すると陽人の真っ青な瞳がさらに青く光りだした。


「......僕が探せる範囲にある朱雀の神気はここ朱雀神社全体、翔琉阿さんの体の中にありますね」


 陽人は翔琉阿の方を見て言った。目は普通に戻っていった。


「神気の場所も解るのか」

「はい。では操者と神童に関係についてですが、まず神童が操者になるのは不可能です」

「それはなんでだ?」


 翔琉阿は今までの話を聞いて神童が操者になれないことはある程度予想できていた。だが、その理由まではいくら考えても解らなかった。


「普通、異なる二つの神気が接触すると神気暴走を起こす可能性がとても高くなります。なので既に神気が体内にある神童は操者になれませんし、同じ原理で操者も他の神の神器を持つことが出来ません」

「......なるほどな」

「それに、僕は操者になれませんけど最近は空羽さんに修行してもらって式神使いになれました。けど、それで皆さんの役に立てるのでしょうか?」

「陽斗はきっと今でも千影やじいちゃんの役に立ってると思うぞ」


 翔琉阿が言い終わると、すぐさま空羽のポケットにあるガラケーが鳴る。空羽はそれをポケットから取り出して耳に当てる。


「わしじゃ......ふむ......わかった。すぐ行こう」


 そう言うとガラケーを閉じてポケットにしまう。


「誰からだったんですか?」


 千影が空羽に聞いた。


「ちょいと“神器協会じんぎきょうかい)”に呼ばれてな。しばらく陽人を頼んだぞ」


 空羽はそう言うとこの場を後にした。


「神器協会って?」


 空羽の話を聞いていた翔琉阿が千影に聞いた。


「そうね。ついでにそれについても説明しとこうかしら」

「じゃあまずその神器協会てのを教えてくれないか」

「正確には日本神器管理協会にほんじんぎかんりきょうかい。日本には私たちみたいに操者が沢山いて、その操者や誰かが神器で悪さがされない様に見はったり、時々招集とかして管理してる団体のことね。でも、私達は中国の四神の操者の家計で四神家って呼ばれてるんだけど神器協会とはあまり仲が良くないわ。こっちが中国の神の操者だからかあっちが一方的に敵対視してて、嫌がらせで空羽さんをよく日本中のあらゆる神関連の事件に駆り出したりしてるわ……ここまでで解らないことはある?」


 一通り説明を終えた千影が翔琉阿に確認をとった。


「......大体解った。でも操者が悪さをするのは解るんだが神器で悪さ何かされるのか? 神器って使わない時は具現化を解いてただの神気にして体内に入ってるだろ」

「普通はそうよ。でも操者ていう神気の(うつわ)に入りきらない程の強い神気はずっと神器として具現化したままになるのよ。確か、風神と雷神の神器がずっと具現化されたままで神器協会の本部に保管されてるわ」

「でも風神雷神は最近、神気暴走起こしてただろ。風神雷神の操者は何してるんだよ」

「神気暴走は強すぎる神器から漏れた神気が自然に溜まって起きたのよ。それに今、風神と雷神の操者は十年前から行方不明よ」

「行方不明って何かあったのか?」

「これは四神家にとってもお重要なことだから良く聞いて。まず、操者の名前は風神が俵屋風太たわらやふうた、雷神が宗達雷斗そうたつらいと。この二人は玄武家に仕えていて十年前、玄武家と共に姿を消したわ。」


「姿を消した? ......玄武家が?」


 ここに来る前に玄武げんぶ冬花とうかに会ったことを思い出し、不思議に思い、聞き返した。


「そうよ。何でかは解らないけど良くないことをしてるのは確かだわ」

「じゃなくて、げ......ん?」


 翔琉阿が話していると急に空が曇り、風が強くなり始めた。だが、何か違和感を感じる。ただ天気が悪くなっただけなのだが、まるで嵐の前の静けさの様な違和感がする。


「翔琉阿。これはまずいことになったわ」


 空を見上げてばつが悪そうに千影が言った。


「まずいって?」

「今から嵐になるわ」


 千影の言葉の意味が一瞬解らなかったが、すぐにその意味を理解した。


「あれは──」


 ここ、朱雀神社から少し離れた場所に風の渦が現れた。それは次第に成長していき、それと同時にぽつぽつと雨が降り始め、風も強くなってきた。遂に天にまで届くと厚い雲がここら一体を覆い、まだ昼下がりだと言うのに薄暗くなってしまった。雨も強くなり、視界が悪くなる。強風が吹き荒れ、朱雀神社にある木々が根っこから吹き飛ばされてしまいそうだ。


「──竜巻か? あれがもし神気暴走が原因でも俺達が止めたのはつい最近だぞ」


 翔琉阿は目の前の光景に理解が追いつかず、早口で言った。


「原因は解らないわ。けど、ひとまずあそこに行くしかないわよ」

「......そうだな」

「ちょっと待ってください! 僕も行きます!」


 翔琉阿と千影がこの嵐の中、竜巻へと向かおうとすると陽人はるとが声を荒げた。


「さすがに危険だ。陽斗は安全な場所に居る方が良い」

「いや、そうでも無いわ。陽斗も式神使いではあるんだし、何より陽斗が行きたいなら行かせた方が良い経験になると思うわ」

「あの、絶対に足手まといにはなりません」


 横殴りの雨で濡れながも陽斗は懇願するように言った。


「......来るのは良いが危ないと思ったらすぐ逃げろよ」

「はい!」


 陽斗は嬉しそうに言った。


「じゃ、私達でさっさと解決しましょうか」

「そうだな」


 翔琉阿は一歩踏み込み、竜巻を見据える。


「さあ、始まりだ」


 少翔琉阿は少し口角を上げ、呟いた。





 ―五分前―


 誰もいないはずの神ヶ丘高校の下駄箱に一つの人影があった。


「あーもう、課題忘れるとか昨日の俺しっかりしてくれよな、と」


 何やら愚痴をこぼし、ノートを片手に持ちながら智樹(ともき)が靴を履き替えていた。すると突然強風が吹いた。


 すると、突如にどこからともなく背の高い初老の男性と、少年位の背しかないもう一人の男性も同じ位の歳に見える男性が、智樹がいる下駄箱からそう遠くない校門への道に現れた。その光景に驚いた智樹は直ぐに下駄箱に背中をつけ身を隠した。


雷斗(らいと)よ、これからやることは解っているな?」

「もちろんだ風太(ふうた)。あの朱雀と白虎の操者を(おび)き出して俺ら二人で殺るん──」

「ちょっと待て。何かこの近くにいないか?」

「っ!......」


 少し離れているが聞こえてくる会話に耳を傾けていると、風太と呼ばれた長身の男性が雷人と呼ばれた男性の言葉を遮り、辺りを見回しだした。智樹はばれないように必死に息を止め、下駄箱に隠れる。


 あいつら誰だ? ここの先生にあんな奴らいないし、それに朱雀と白虎ってまさか翔琉阿と千影さんに何か関係があるのか? それに殺すって……とにかく早くどっか行ってくれ!


 智樹は心の中で懇願するように叫んだ。


「気のせいじゃないか? 俺は何もいないと思うが」

「ふむ。確かに私の勘違いのようだな」


 そう言うと二人は何か話しながら校庭の中央へ向かっていった。


「はあ、はあ......たく、何なんだよあいつらは......」


 二人が離れたのを確認し、智樹は深呼吸をする。


『おい、何やらお困りのようだな』


 不意にどこからかこちらを嘲笑うかの様な陽気な声が聞こえた。智樹は驚いたがこの声に聞き覚えがあった。


「青龍......か? ていうかどこからだ?」


 今日の部活終わりに寝てしまった時、夢に出てきた存在を思い出した。


『良く俺様のことを覚えてたな。俺様は今お前の脳内に直接話しかけてる』

「お前がいるってことはこれは何か悪い夢だ、きっとまた翔琉阿が起こしてくれる筈だ」


 藁にもすがる思いで智樹は早口で呟いた。


『残念。これは夢何かじゃねえ。れっきとした現実だぜ』

「嘘だな。お前がどんな奴なのかは知らないけどこんなことがあってたまるか」

『智樹、今お前がどうにかしねえとあの二人組、何かやばいことをするつもりだぜ』


 青龍がそう言うと空が急に曇り出した。


『ほら、もたもたしてると手遅れになるぜ』

「手遅れつったて、そもそも俺は何も出来ないぞ」


 ありえないことが起き続け、智樹は動揺してしまう。


『前に言ったろ。お前には俺様の力を使いこなせる見込みがあるってな』

「お前の力って……?」

『御託は良いからお前にもし、未来も何も解らない暗闇の中でも自分を信じて一歩を踏み出す勇気があるなら、もしあいつらからお友達を守りたいんだったら俺様の力を使いな』

「翔琉阿......」


 先程の二人組の会話が引っ掛かり、不安になってくる。


『お前はどうする? ここであいつらがどっか行ってくれるのをひたすら願って待つのか、お前自身でこの暗闇の中を進み続けるのか。お前が選べよ。智樹』


 顔は見えないがきっととてつもなく嫌な笑みを浮かべながら青龍は言った。青龍が言い終わったタイミングで小さい竜巻ができ、こちらを吞み込もうと成長していく。


「......俺は戦うぜ青龍。さっさと力貸せよ」


 覚悟を決め智樹は重々しい雰囲気で言った。すると雷が鳴り、風は吹き荒れ、大粒の雨が降る。


『気にいったぜ。俺様は自然を司る神、青龍』


 青龍がそう言うと竜巻が智樹を呑み込んだ。

8話「龍と竜巻」読んでくださりありがとうございます!

 今回は新キャラの青龍陽斗とか諸々の説明多めの回になりました。今回に出た設定は後々大事になるので今回出せて良かったです。

 全く関係ないですが、最近台風が凄いのをニュースで見て「これ風神雷神の神気暴走じゃんw」て1人で笑ってましたw

 出来れば感想、評価もくださると嬉しいです(*´∀`*)

 次回は戦闘パートにして10月中に投稿する予定です!

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