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一人の鳥が羽ばたく世界  作者: 夜ノ血月
四神編
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5話 嵐の残り香

 木々には水滴が垂れ、道端の水溜まりはまだ太陽が上りきっていない真っ青な空を写す。今朝に竜巻が起こったにしては倒れている木や電柱は見えず、道路に水たまりが少しあるぐらいでどうやら想像していたよりも被害は少ないようだ。そんないつもと変わらない街並みを見ながら少し気だるそうに、それでいて達成感に満ち溢れた様子で翔琉阿は学校に向かっていた。


「おーい」


 誰かと思い声のした方を見やると向かいの道路から千影がこちらに手を振っていた。信号機がタイミングよく青になり千影は横断歩道をすぐに渡って翔琉阿の隣を歩き始めた。


「おはよう、と言ってもついさっきまで俺らで竜巻と格闘してたところだけど」

「おはよう翔琉阿、本当にあれは死ぬかと思ったわよ。時間が無くて全然寝れなかったし」


 翔琉阿達は風神(ふうじん)雷神(らいじん)の神気暴走を止めた後すぐに解散し、ほんの少しだけ休息をとったのだがそれだけでは流石にあの激闘の疲れを癒すことはできず二人とも意識を強く持たなければふと倒れてしまいそうな体を無理矢理動かしている。


「そういえば俺流れで操者(そうじゃ)になったから解らないんだけど普段あんなやばいのを対処するのが仕事なのか?」

「そうね......神様が関連した事件を解決することが操者の大まかな仕事だからまああれも仕事の一部ね。でも私だって操者になってから少し経つけどあの竜巻ほど強力なのは初めてよ」

「初めてって千影はどのくらい操者やってるんだ? 口ぶり的に結構長そうだけど」

「物心ついた頃から修行はしていたけど白虎が中々認めてくれなくて私が中学に上がった頃にやっと操者になったわ」

「え、操者になるのって修行とか必要なのか?」

「神気を動かす感覚や、体力が無いと操者はできないわよ」

「俺修行なんてしたこと無いけど」

「あんたは朱雀家の血があって、修行をしなくても神器をすぐ扱えたのよ」

「生まれも影響するのか......」

「そうよ。だけど一般人でも急に操者になる人がたまにいるわ」

 

 だらだらと話していると二人は学校に着いた。しかし校門を抜けた所で翔琉阿は誰かに見られているような不思議な感覚を感じた。誰かからの視線を感じる程の何かを起こしたつもりもないため一旦状況を確認しようとふと周りを見るといつもなら勢いよく背中に突っ込んで来る智樹(ともき)が不自然に距離をとってこちらをじろじろと見ながら後ろを歩いていた。それは一見人混みに紛れ込めているようにも見えるが見られている側からするとかなり怪しい。


「どうしたの?」


 後ろを訝しげに見ていた翔琉阿に千影が不思議そうに尋ねた。


「いや......何でもない」


 少しぎこちない返事ではあったが翔琉阿の視線に気づいた智樹が慌てたように人混みに隠れていったため視線を前に戻した。


「千影、ちょっとやること思い出したから先に教室に行っといてくれ」


 翔琉阿は下駄箱で靴を履き替えながら対象が止まってしまったせいで動けずもどかしそうにこちらを見ている智樹の方を一瞥し一旦千影に離れて貰うよう誘導した。


「手伝おっか?」

「いや、一人で出来るから気にしなくていい」

「そ、じゃあ先に行ってるから」


 千影は少し怪訝そうな様子で言い、その場を後にした。すると、件の智樹はその瞬間に翔琉阿に一気に近づいてきた。


「よ! 翔琉阿」

「よ! じゃねえよ。なんで俺の後ろついてたんだよ」

「いやいや今回ばかりはお前のせいだぞ」


 こうも平然と返されてはこちらに原因があるかもしれないと思い記憶の隅から隅までを思い出すが全く検討がつかない。


「......わからん。なんでだ?」

「そりゃお前、何で白虎(びゃっこ)さんと一緒に登校してきてるんだよ」

「そういうことか」


 たしかに智樹の動揺も今なら解る。昨日転校してきたばかり、しかも名乗ってもいないのに翔琉阿の名前を知っていたという中々に怪しいやつと一日経つと普通に話しながら登校してきている。智樹の心境は理解できるが昨日あったことを智樹に言えるわけもなく翔琉阿はどうにかしてはぐらかすしか無い。


「別にお前が思ってるようなことは何もないぞ」

「嘘だー実は二人は生き別れの兄妹だが白虎さんしかそのことを知らず、昔の写真と名前だけを頼りに兄を探していたら昨日遂に感動の再開、そして喜ぶ気持ちを抑えつつも放課後に翔琉阿を誘いそして二人の関係は......」

「無えよ」

「えー嘘だあ......あ! あれか、白虎さんはお前の許嫁──」

「寝言は寝て言え」

「はい」


 妄想が意味の解らない方向に向かっている智樹の声を遮り翔琉阿は片っ端から否定していく。


「そんな馬鹿みたいなこと言ってないで早く教室行くぞ」


 智樹はブツブツ言いながら靴を履き替え、二人は教室に向かった。


「ていうか昨日、神社に行ったんだろ。本当に何も無かったのかよ」

「......何も無かった」


 返答に困ってしまい少し返すのが遅れてしまった。


「ふーん。そ......」

「本当に何も無いぞ」


 変な誤解をかけられるのは困るためすかさず否定したがそれが吉と出るか凶と出るか。


「......解ってるよ。ちょっとからかっただけだって」


 笑いながら言っているが妙な()があった。


 二人の間にしばらく無言が続き、そのまま教室に着いた。少し気まずいと思いながらも二人とも自分達の席に行こうと千影の後ろを過ぎた瞬間一瞬だけ千影がこちらに視線を向けたように感じた。


「昨日の夜にさ、急に天気悪くなったじゃん。俺、雷で起きちゃってあんま眠れなかったんだよ」


 ひりつく空気を和ませるいつもの軽い口調で智樹が言ってきた。


「俺も雷で起きて、何事かと急いで窓見たな」


 智樹の様子を見てほっとし、翔琉阿もいつもの調子で返した。


 二人は席に着き、あれこれ話しているとチャイムが鳴り、担任の(とおる)が教室に入って来た。


「今日はホームルームが終わったらすぐ下校だ。部活も無いぞ」


 入ってくるや否やそう告げると透は出席をとろうと出席簿を取り出そうとするが、教室内がすこしざわつく。


「えーっと、職員会議で昨夜の竜巻が十四年前の竜巻と状況が似てて被害がまだ細かくは確認できてなくて危険だから念のため下校することになったぞ」


 透の一言で教室はさらにざわめき昨夜の竜巻や急にできた暇をどう埋めるか友達と話し合ったりしている。しかし翔琉阿はそんなことよりも十四年前の竜巻という言葉が引っ掛かる。母親である(あんず)の死の原因である風神雷神の神気暴走。当時がどれ程の規模だったのかは計り知れないが母親と同じく神気暴走を止めようと踏み出せたことが自分が操者になったことを実感させた。


「翔琉阿どうした? 体調でも悪いのか?」


 気付くと周りは静かになり、透が出席を取っていた。


「は、はい。大丈夫です」


 慌てて言ったために舌がもつれ、少しぎこちなくなってしまった。


「そうか。次は.....」


 翔琉阿は窓の外の真っ青の空を見て考えにふけっていく。今思えば自信の母親がどのような人だったのか、操者としてどのようなことをしてきたのか翔琉阿は殆ど知らずに今まで生きてきた。操者という秘密が無くなった今、再度杏について(たける)に聞いてみるのも良いかもしれない。


「キーンコーンカーンコーン」


 いつの間にかホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、意識が現実に引き戻される。


「これで今日は帰りだが、週末遊び過ぎずに勉強もしろよ」


 そう言い残し透は教室を後にした。他の生徒達も帰る準備をしたり、空いた予定をどうするか話し合っている者もいる。


「翔琉阿、俺達も帰ろうぜ」

「そうだな」


 二人は席を立ち、他の生徒達同様、教室を後にした。


「翔琉阿はこの後予定とかあるのか?」

「特には無いけど遊ぶよりも勉強が先だな。お前も遊んでばっかじゃなく勉強もちゃんとしろよ」


 翔琉阿は不真面目な智樹の考えを見透かしたように言った。


「何言ってるんだよ。明日土曜なのに今日も遊んだら日曜にはもう遊び疲れてヘトヘトになるだろ」

「そこかよ」


 予想外の返答に思わずツッコんでしまった。


「つうかお前、土曜日は部活あるだろ。遊んでばっかだと腕が(なま)るぞ」

「はいはい。解ってるよ」

「絶対解ってないだろ」


 いい加減な返事をした智樹を思い切り睨んだ。


「また明日な!」


 智樹は気まずくなったかその場から逃げていった。


「待っ......また明日」


 翔琉阿も学校を後にし、帰路に着いた。すると千影が追い付いてきて翔琉阿の横を歩く。


「あの智樹ってやつ、あんたの知り合い?」

「そうだけど、あいつがどうしたんだ?」

「智樹には操者になれる素質があるわ」

「え?」


 予想外の返答にすっとんきょうな声が出てしまった。


「マジで? あいつが?」

「間違いないわ」

「いや、でもどうやってそんなの解るんだ?」


 少し頭を冷静にさせるために千影(ちかげ)に聞いた。


「あいつが私の後ろを通った時に私の体内にある白虎の神気が反応したの。けど智樹は操者では無いわ」

「操者の素質があるってなんか問題が起きたりは......」

「あいつが下手に神と関わらなければ問題は無いわ」

「そうか......」


 千影の言葉を聞いてほっとする。


「あんたもこれを聞いたからってあいつに対応を変えると不自然に思われるから気を付けなさいよ」

「わかった。気を付けとく」

「あ、私こっちだから」


 交差点に着いた所で千影が右側を指差して言った。


「じゃあな」


 翔琉阿は赤の前方の信号で止まった。千影は小走りで青の右方(うほう)の信号を渡っていった。しばらく経ち翔琉阿も青になった信号を渡り、暫く歩いて家に着いた。


「ただいま」


 そう言って扉を開けて靴を脱ごうと視線を下に向けると見慣れない下駄が一足あった。それも相当使われていたのか鼻緒(はなお)がボロボロだ。


「翔琉阿か。久しぶりよのう」


 リビングから翔琉阿を越える長身の着ている胴着越しにも鍛えられた体が良くわかる白髪の男性が出てきた。


「じいちゃん!」

書いた内容が1話と非常に似てしまいました。本当に申し訳ない。次の6話は三週間以内に出す予定です!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 修正点です 「鼻緒がボロボロだ。」 の所が 「鼻緒ががボロボロだ。」 になってます [一言] いつも見させてもらってます。 これからも頑張ってください!
2022/05/09 08:40 ライラック・アスチルベ
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