4話 越えなければいけない試練
「ピシャーンッ! ......」
暗闇の静寂が広がる部屋に、けたたましい音が響く。まだ意識が朦朧とする。瞬間、窓から光が入り視界が真っ白になる。余りの眩しさに目が開けられず暫くして目が開くようになり視界が色を戻す。何事かと思い窓に駆け寄った。
「えっ......」
信じられない光景に声が漏れる。
稲妻が空を走り風が窓を叩き音をたて、雲が空を覆い暗闇がより深まる。更には天をも突き抜けそうな程に大きく、荒々しく吹く風を纏いながら動く黒い竜巻があった。
寝る前までは雲一つ無かった筈だし、今この時間にあんな大きい竜巻が起こるなんて聞いた覚えが無い。
静寂を打ち破る様に机に置いてあるスマホが震える。手に取り画面を見ると千影からの着信が来ていた。
「千影、今何が起きてる?」
まだ動揺しており早口になりながら言った。
「一旦落ち着いて聞いて欲しい。まず、今起きてることははっきり言ってかなりまずくて最悪ここ一帯が消し飛ぶわ」
「......! 一帯が消し飛ぶって何が起きてるんだ?」
「十四年前みたいに風神と雷神の神気暴走が起きてるの。ひとまず私は朱雀神社に行くから後であんたも来て。詳しい話は後でするから」
千影はそれだけ言うと通話が切れた。立ち尽くしたまま窓の方を見ると外は雨雲と暗闇が広がっていた。
千影は朱雀神社に行くって言っていたな。ひとまず俺も行こう......
翔硫阿は手早く出かける用意をし、階段を降りた。
「翔硫阿。ちょっと待ってくれ」
一階にある物置部屋の方から猛の声が聞こえる。翔硫阿は何事かと思い物置部屋に向かう。
「どうしたんだ父さん?」
物置部屋を覗くと、猛が古そうな赤い巻物を握っていた。
「これを見てくれ」
そう言い猛は巻物を開き翔硫阿に渡す。
「......これは?」
巻物を一瞥すると少し黄ばんだ古そうな紙の中央に文章が書かれていた。
「この巻物は朱雀の操者に代々受け継がれている物でこれに書いていることを読むことで神器の真の力を引き出す事ができるんんだ」
「真の力?」
「翔琉阿は神器を何に使うかは知っているか?」
「確か空を飛ぶことが出来るのは知ってる」
朱雀神社からの帰りで朱雀と話したことを思い出す。
「今翔琉阿が言ったことも実際に出来て、それは神気を操り、具現化し、形を変えることで出来るんだ」
「神気を操る?」
「今の翔琉阿は神気が暴走しない様に体の内に留めてるだけなんだけど神気の形を変え、制御された神気を体外に出す。これを神術と言って、これこそが神器の真の力なんだ」
「てことはこの巻物にはその神術の方法が載ってるのか?」
翔琉阿は巻物に視線を戻す。
「いや、正確には違う。神術は神気の形のイメージをする必要がある。そして、その神気のイメージを潜在的に思い浮かばせる歌がこの巻物にあり、その歌の事を神歌と言うんだ。早速詠んでみてくれ」
猛が中央の文字を指して促す。
「炎の鳥が羽ばたき燃ゆる──」
丁寧にその文字一つ一つの意味を噛みしめながら口ずさんでいく。
「その名を“火鳥弾”」
一呼吸空けて最後の一行を詠んだ。
「熱っ!......」
すると巻物を握っている左手が急に熱くなり反射的に手を開き巻物を落としてしまう。
「これは......」
すると着ていたパーカーが燃え落ち、神器の朱色のパーカーへとなり、手のひらを見ると炎の玉が浮かんでいた。
「それは翔琉阿が神歌を詠んでイメージした神気の形だ」
「これが朱雀の神術......“火鳥弾”。これで俺も戦えるんだな」
炎の玉を見つめながら興味深そうに言った。
「神術を使えばあの竜巻を止めれるかもしれない。けど、神術は万能じゃない、これだけは覚えておいてくれ」
猛は心配そうに言った。
「もちろん解ってるよ。行ってくる」
翔琉阿がそう言いながら右手を閉じると“火鳥弾”は消えた。
「絶対に帰るんだぞ」
猛からの言葉を背に翔琉阿は外にある竜巻を目指し、家を出る。外は激しい雨と街灯が付いておらず視界が極端に悪い。竜巻の風切り音がそこらじゅうに響いているが、家の屋根に届きそうな大木が風で傾く位に風が強いのにいつも通りに立つことができ、違和感を感じる。
『翼を持つ我の操者となった汝は我が神気の恩恵で風への耐性がついており、この嵐の中でも難なくいられる』
翔琉阿の頭に直接朱雀が語り掛けた。
その言葉を聞いて納得した翔琉阿はこの嵐の中でもはっきりと捉えることが出来る漆黒の竜巻へと駆ける。
「朱雀、神気暴走した神気ってこの後どうなるんだ?」
『神気の性質としてより強い神気に惹かれるというのがあり、神気暴走状態の今ではさらにその性質が強くなる。他の神気に接触すればより制御が困難となり、先程白虎の操者が話した様な事が起こるだろう』
「強い神気って操者とかか?」
『然り。だが、あの竜巻と匹敵する程の神気があるのは......』
「朱雀神社か!」
はっとしたように翔琉阿が言った。
竜巻を見ると雷鳴と共に少しずつ動いているが何かを目指しているかのように一直線に動いていた。
だから千影は朱雀神社に来いって言ったのか。急がないとまずいことになるな。
焦燥感に駆られながら竜巻が今向かっている朱雀神社へと走っていると鳥居の前に、小柄な人影を見つけた。
「千影! 大じょ──」
「避けて!雷が!」
千影が叫んだ。声に反応して周りに視線を向けると一対の雷が翔琉阿目掛けてジグザグと動きながらに向かってきていた。
咄嗟に右手を雷へと突きだし、雷を睨む。すると手のひらに火球が現れた。
「“火鳥弾”」
雷を凝視して叫んだ。この声に呼応するように火球が現れ、人間大の炎の鳥へと変化し、雷に向かって行った。だが、一直線に飛んでいった“火鳥弾”が雷に当たる直前、雷は三対に分裂し、避けた。“火鳥弾”は雷に当たらずそのまま空へと飛んでいき、三対となった雷が勢いを落とさないまま翔琉阿へと再度向かってきた。
「っ!......」
避けられた! まずい......このままだと当たる......
予想外の事態に顔が青くなる。だが、そんなことなど露知らず三対の雷は翔琉阿の目前に迫ってくる。
「“創鉄造”」
神社の方から甲高い声が聞こえた。
瞬間、目の前にあった雷が直角に曲がって千影のいる方へと向かって行った。雷を目で追うと先程まではなかった金属で出来た先端が尖った十メートル位の銀で出来たと思しき柱の先端に引き寄せられていた。そのままの勢いで雷が衝撃音と共に直撃するが、柱はびくともせず傷一つ無く、雷は消えていた。
「あんた大丈夫?」
千影が心配そうに立ち尽くしている翔琉阿に駆け寄って来た。
「俺は大丈夫。千影は?」
「私も大丈夫よ」
。
「なあ千影。今の雷は雷神の神術なのか?」
「うーん......あれは神術と言うよりも神気が強すぎて具現化したと言ったほうが正しいわね」
腕を組んでどう言い表すか悩んだ様子を見せ、むず痒そうに言った。
「神術とは何が違うんだ?」
首を傾げて困惑したように言った。
「雷神の雷を司る権能その物で、さらに神気暴走してるから神気が制御出来ない程強くなってるの。神術の制御して具現化させたのとは逆に純粋な強力な神気が具現化したのがあの雷。そして日本の近くで起きる台風は風神雷神の神気暴走なのよ」
「へえ意外と神って身近なんだな」
「そう──」
「ピッシャーンッ!」
地面が揺れる程の雷鳴が轟いた。何事かと竜巻を見ると先程よりも大きく、より速くなっており、雨風も強くなってきていた。
「竜巻が大きくなってるわ。このままだと後、十分もしない内に朱雀神社にぶつかるわ。急がないと」
「でもあれをどうやって止めるんだ? 俺の“火鳥弾”でもあんな大きな竜巻、止められないぞ」
翔琉阿達は何か方法が無いかと必死に考える。竜巻は翔琉阿達の事など気にせず今なおこちらへ迫ってきている。
「いや......一つだけ方法があるわ」
神妙な面持ちで千影が言った。
翔琉阿は固唾を飲んで静かに千影の次の言葉を待つ。
「神気暴走した神気には核となる神気の塊が必ずあるの。それを神術か何かで相殺すればあれを止めることができる。けど私の神器にそんな力は無いし、あの風のバリアをそもそも抜けれないわ」
「じゃあどうするんだよ?」
急かすように翔琉阿が言った。
「私が無理なんだからあんたがやるしかないでしょ」
きょとんとした様子でさも当然かのように言った。
「あの風と雷の中、核の場所も明確には解らないのにか!?」
「十四年前と同じなら核は台風の目にあるはず。雷は私に任せて」
食いぎみに千影が言った。
「......上手く行けば神気暴走が止まるんだな」
「多分、けどこれ以外に方法が無いわ......」
少し心配そうに千影が言った。
「やるしかない......か。俺が核に行くまでのサポートはお前に任せたぞ」
「もちろんよ」
語気を強く自信満々に返した。
安心したように翔琉阿は前方を向き、千影もそれにつられて前方を向く。それを合図に二人は走りだして行った。話していた間に竜巻は進んで来ており、ここからの距離はそこまで遠くない。
「核までどうやって行くんだ?」
走りながら隣を走る少女に問う。
「竜巻の上昇気流を利用して──」
目の前から雷が二対来たことに気付き会話を中断し、右腕を少し上げた。
「──“創鉄造”」
人差し指位の大きさの針が右手の指の間に二本現れ、それを二対の雷それぞれに投げた。針は雷に当たり、雷はバチッという音を出し消滅した。
「!......さすがだな」
「雷は私に任せてって言ったでしょ」
少し呆気にとられる翔琉阿に挑発ぎみに言った。
「ああ。任せたぞ」
負けじと言葉を返し、雷を防ぎながら竜巻へと向かった。
「はぁ......はぁ......私はここまでね。後はあんたに頼んだわよ」
あれから千影はかれこれ二十対以上の雷を捌きながら走り続け、竜巻のすぐ近くのところで息が上がり住居の塀にもたれかかって座り込んだ。
「ここからは俺でどうにかする。また後でな」
千影から視線を外し目前へと迫った竜巻へと歩みを進める。
「ちょっと待って」
まだ息が上がっているが駆け足でこちらに寄って手の甲を上に右手をこちらに向けた。
「手、出して」
千影は急かすように言い、翔琉阿は言われたまま手を出した。
「“創鉄造”」
広げられた手に五本の鉄製の釘を落とした。
「今はこれぐらいしか作れないけど無いよりましでしょ。危ない時に雷に投げれば防げるから」
「ありがとうな」
「別に、私はこれ位しか出来ないんだからその、気にしなくていいわよ」
言葉をまくし立ててすぐにそっぽを向いた。
「フゥー」
竜巻の風を利用して核に俺の“”火鳥弾“”を打ち込む。俺は千影に任されたんだ。やってやる......
「さぁ、始まりだ」
不適な笑みを浮かべ、竜巻に一心不乱に飛び込んだ。
竜巻の風に乗ると外を周りながら上へ上へと向かう。だが順調に行く筈もなく雷が前後左右に加え下からの五対が来た。
辛うじて雷に反応し金属針を雷に投げる。
あまりに場所が悪く前後から来る雷に当てることが出来ず翔琉阿に向かってきた。すると風に乗って下の方から二本、金属針が上って来た。その金属針に雷が当たり翔琉阿には当たらなかった。
今のは千影がやったのか? ......
下を見ると風に吹きとばされる千影が見えた。
かなり無茶してるな。けど、このまま行けば雲の上から無防備な核を狙うことができる! ......
雷から身を守る術が無い翔琉阿はこのまま順調に事が進むことを願いながら風に身を任せていると最悪の事態が起こった。
風が強くなってきた......このままだと吹き飛ばされる......
竜巻の回転が急に速くなり、耐えられず飛ばされそうになる。竜巻が朱雀神社にぶつかるまでもう一分も残っておらず状況はどんどん悪化していく。
まずい。これはもう耐えられない......!
まだ耐えていた翔琉阿だが遂に耐えきれず空中へと吹きとばされた。さらに雷が三対、無防備な翔琉阿へと向かってきた。
この状況を切り抜ける方法を必死に探すが、それよりも速く雷は翔琉阿の目前まで迫ってきた。
『汝よ、神歌とは汝自らが詠むものである。この状況、汝はどのような詩を詠む?』
俺が神歌を詠む? この状況を打開出来そうな神歌......一か八かやるしかない。
「朱き翼が空を駆ける──」
一文字一文字慎重に詠む。すると翔琉阿の背中に二対の小さな炎が出てきた。
「その名を“炎翼”!」
上を見て叫んだ。すると肩甲骨の辺りに炎が激しく燃え上がり二対の鳥の翼のような形へとなった。
翔琉阿は“炎翼”をはためかせて凄まじい速度で上昇した。雷は直角に曲がって翔琉阿を追うが翔琉阿の方が僅かだが速い。
翔琉阿はそのままの勢いで雲を突き抜けた。雲の上は静かで所々黄色く光っている雲が見える。翔琉阿は雲を見下ろし、核目掛けて炎で出来た翼を畳み急降下した。
すると真下の雲から一対の雷が飛び出してきた。
「遅い」
冷めた声音で言い、体を右に傾け雷を避けた。さらに速度を早めて雲を突き抜けた。
あそこだけ神気が極端に強い。あれが核か。
核に近づくにつれ来る雷が増えるが、“炎翼”を使った翔琉阿は全てを間一髪で避ける。背後に雷が三対あり速度を緩めることは許されない。
「これで終わりだ──」
核まであと二十メートル程まで近づいた。すると速度を少し緩め、右手を前に突き出した。すると右手に火球が現れた。この状態では翔琉阿よりも雷の方が速く、すぐ背後まで雷が迫って来る。
「“火鳥弾”!」
核目掛けて“火鳥弾”を飛ばした。炎の鳥が核めがけて飛んで行った。すると翔琉阿へと向かってい雷達は、核を守る様に“火鳥弾”へと目標を変えて向かっていた。複数の雷が“火鳥弾”に当たるが、“火鳥弾”はそれらをはねのけていく。すると“火鳥弾”にはねのけられた雷が一対、次は翔琉阿を狙おうと方向を変えジグザグと空を走っていく。
「ッダアァァン! ......」
爆音が鳴り響いた。瞬間、翔琉阿めがけて空を走っていた雷は全て消えた。どうやら雷が翔琉阿に当たるよりも早く“”火鳥弾“”が核に当たり神気暴走を止めたようだ。残り少ない神気を辺りに飛ばし、竜巻は霧散した。
「危なかった......」
翔琉阿は安堵したように空中で竜巻の核があった場所を見下ろす。
空は徐々に雲が晴れていき朝日が上ってきていた。
「翔琉阿!」
千影がかなりの速さで走ってきていた。それに気づいた翔琉阿は地上にゆっくりと降りていく。
「千影、体は大丈夫なのか?」
地面に足をつけ“炎翼”を解き、笑顔の千影に訊いた。
「ちょっと無理しすぎたわね。でも全然大丈夫よ。普通に歩いてここまで来れたし」
「そうか。それは良かった」
「それにしてもあんたあの竜巻止めたんでしょ。凄いじゃない」
「俺一人だと止めれなかった。二人で協力したおかげだな」
「そ、そうね」
千影は翔琉阿から目線を少し外し、早口で言った。
楽しそうに話す二人を建物の影から見ている二つの影があった。
「神気暴走では殺せなかったか」
「やはり、私達で直接やるしかないか」
「そうだな」
二つの影はどこかへ消えていった。
「今あそこに誰かいなかったか?」
「そう?私は気付かなかたけど」
「俺の気のせいかもな。ひとまず神気暴走止めたし、帰るか」
「そうね」
「また学校でな」
「うん。後で」
二人は昇る朝日に照らされて帰路についた。
リアルでバタバタしていて更新が遅れてしまいました。m(_ _)m
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