3話 過去と決意
翔琉阿と千影は朱雀神社から帰路につく。
「そう言えばどういう原理で俺は朱雀の神界に行けたんだ?」
隣を歩く千影に言った。
「神界に行くには条件があって、一つが神の存在を信じること。もう一つがその神の神気に触れること。この二つを満たせば神界に行けるわ」
「それだとおかしくないか?俺は別に神気に触れた覚えは無いし今朝の夢で朱雀の神界に行ったけどあの時は神とか信じてないぞ」
腑に落ちない翔琉阿は怪訝そうに言った。
『それは我が答えよう』
何処からか重厚感のある声が聞こえた。
「え、この声って朱雀だよな。でも何処から言ってるんだ?」
声の正体がわかった翔琉阿がはっとした様に訊いた。
『然り。我は今、汝の纏っている神器の神気を通じて汝らに直接語りかけている』
朱雀がそのまま話を続けた。
「あれ、そう言えばこのパーカーてか神器ってのはどうやってしまうんだ?」
先程とは違い、炎の神気は纏っていない神器を見て不安そうに言った。
「あんたの神器は服みたいだからそれを脱ぐことを意識すれば神気の具現化が解けて体中を回るようになると思うわ」
千影が翔琉阿が着ている神器を指差して言った。
「......こんな感じか」
その場で立ち止まり目を閉じ今千影に言われたことを意識する。すると、朱色のパーカーの表面が焦げ落ち紅色のパーカーへと戻った。
「あんたって飲み込みが早いわよね」
千影がぼそっと呟いた。
「あれ、なんか体が軽く感じる」
石段を下りきった翔琉阿はその場で軽く跳ねながら言った。
「体内の神気の影響で身体能力が上がるのよ。神器を出してるときはそうでもないけどしまってるときはその影響がさらに大きくなるわ」
「へえ、そうなのか」
『では話を戻そう。汝が今朝、我が神界に来れたのは我が汝に神気を流し、それを通じて我が神界に呼んだからである』
朱雀が脱線していた話を戻し、変わらない重々しい声音で言った。
「つまりどういうことだ?」
「あんたに流れた神気が朱雀との繋がりになってそれを通じて神界に行けたの。で、その神気を感じとって私があんたに接触したって訳」
千影が補足する。
「神気を感じ取って来たにしては早すぎないか? 俺が朱雀と会う夢を見たのは今朝のことだぞ」
「あんたが夢を見たのは今朝だけどあんたが夢を見るまでに神気を送ってたらしいわよ。白虎が気づいて教えてくれたわ」
「やっぱ朱雀ってあの白虎とかもいる中国の四神なのか......」
翔琉阿は千影の言葉を聞き、少し驚いた様子で言葉を返した。まだまだ現実味の無いことばかりだがそれと同時に本などでしか聞かない存在との接触は翔琉阿の心を動かした。
『汝よ、浮かれる気持ちもわかるがまずは汝が操者となった顛末の続きを話してもよいか?』
「ああ悪い、それで神気が流れてってのは?」
「私の神器にある白虎の神気に触れて神気が体に通る感覚を掴んだことで朱雀を祀ってるこの神社に溜まった神気があんたに流れたこととあんたが私の言葉を信じて神の存在を信じたことで神界に行けたの」
「因みに千影が持ってる白虎の神器って俺に刺したあのナイフなのか?」
「あれは白虎の力を使って作り出した神気が籠ったナイフで白虎の神器はこれよ」
そう言い千影が右手を上げると眩く光り、右手の中指に中に三つの白金色の爪痕がある金色の宝石があしらわれている指輪がある。
「この指輪が白虎の神器で神気を纏った金属を生み出す能力があるの」
「なるほど。あ、俺はここ右だから。また明日な」
曲がり角に当たった翔琉阿は右側を指し言った。
「また明日。あ、そうそう、今日の事はあんたのお父さんにも言っておいてね」
千影はそう言い残し直進し翔硫阿とは別方向に進んだ。
翔琉阿は千影の言葉を怪訝に思いつつ帰る。
「神界の中で朱雀は守り神と邪神とか言ってたけど朱雀はどっちなんだ?」
ふと疑問に思い夜中の静寂に話し掛ける。
『ふむ、今となってはあまり関係の無いことだが我は守り神であり、ここ四神市と中国の南方を守護している』
「そういや中国の神様が日本にいるんだ?」
よくよく考えるとおかしな事だ。中国にいるはずの朱雀がなんで日本にいるんだ? ......
『我がまだ中国の南方だけを統治していた頃、我が神器の操者になり、空を飛びたいと言う日本人の女性が来たのだ。だが神器はそんな簡単に渡せる物では無いため最初は断ったのだがその日本人は諦めず我が下へ来たためその覚悟を認め、我が神器を日本人に渡したのだ。それが今まで引き継がれ、我は今もこうして日本に居るという訳だ』
朱雀は懐かしそうに言った。
「もしかして俺も神器使うと空飛べるのか?」
翔硫阿は目を輝かせて訊いた。
『然り。だが神器の扱いを誤れば飛べない、もしくは上空から落ちるだろう』
朱雀が諭す様に言った。
「神器の扱い方はいつか千影に教えて貰おうかな」
翔琉阿を期待に胸を膨らませて言った。談笑していると家に着いた。家には明かりが点いており、誰か帰っているようだ。
父さん帰ってきてたのか、外に出ること連絡すれば良かったな。
「ただいま。ちょっと出掛けてた」
扉を開ける。物音はせずリビングだけ明かりが点いている。
「父さん、今日の飯何?」
リビングに入ると猛が顔を下げて食卓に着いていた。食卓には夜食が用意してあった。
「どうしたんだよ父さん? 早く飯食おう」
食卓に着きながら猛の様子がおかしい事に気付き尋ねる。
「僕は翔琉阿に神に関わって欲しく無かったんだよ」
猛が顔を下げたまま悲しそうに言った。
「何言ってるんだよ父さん」
意味が解らず聞き返す。
「翔琉阿、お前も操者になったんだろ」
「......!」
「今まで言ってなかったが杏は......操者になったせいで死んだんだ」
「え......」
初耳だ。母さんは体が弱くて俺を産んだ後すぐに病気で死んだって父さんが言ってたけど......
「母さんが病気で死んだって父さんが......」
余りの衝撃で理解が追い付かない。
「あれは翔琉阿が神と関わら無いようについた嘘だ」
「母さんは神気に耐えられなかったてことか?」
「違う。あれは今から十四年前のまだ冬の寒さが残る春の酷い嵐の日のことだ。あの日は白虎、玄武、青龍の操者と杏は朱雀の操者として一緒に行き、この四人で嵐の原因である風神と雷神の神気暴走を止めるため、嵐の中心に向かった。杏達の活躍で神気暴走を止めることは出来たが杏と玄武の操者が神気暴走に巻き込まれて命を落としたんだ」
猛が哀愁に満ちた様子で言った。
「神気暴走?」
「翔琉阿も操者になったから知ってると思ったんだが......」
思いもよらない事を聞かれて言葉が詰まる。
「神気は神の力の事なのはわかるだろ。それでその神気をコントロールしきれないと神気が所構わず暴れるんだ。この現象を神気暴走と言うんだ」
猛は落ち着きを少し取り戻しいつも通りの声音で言った。
「父さんは本当に心配性だな。母さんの事は良くわかっよ」
「だったら操者なんてやめて──」
「それは出来ない」
必死の形相で止める猛の言葉を遮り切り捨てるように言った。
「母さんが操者になったせいで死んだのは解った。でも、だから操者にならないのは違うと思う」
真剣な様子で目の前のおどおどしている猛に言った。
「杏だって翔琉阿には操者にならないで普通に生きて欲しいと思ってるからさ」
「俺は操者になったんだ。それを母さんの死因だからと言って避けたら、最期まで操者としての責任を果たそうとした母さんに面目が立たない。俺は操者になる覚悟を決めたんだ」
「本当に良く杏に似たな。杏には翔琉阿を産んだら操者を辞めるように言ったけど今の翔琉阿みたいに頑なに操者を続けたよ」
懐かしそうに優しく微笑んだ。
「父さん、俺は操者になるって決めたんだ」
「解ったよ。でも絶対に死なないでくれ。もう家族を失うのは嫌だからな」
「もちろん。元々死ぬ気なんて無いけど死なないように頑張るよ」
「よし。早くご飯食べて寝て、明日も頑張るぞ」
先程までの気が気でない様子とは打って変わり張り切った様子で言い、二人は少し冷めてしまった夕食を食べ始めた。
最後の猛と翔琉阿の親子での会話シーンは深夜に書いたのでものすっごく腹が空きました(^-^)
次回はいよいよ神器を使った戦闘シーンをやる予定なのでどうぞお楽しみに!