2話 信じる者は救われる
翔硫阿は何が起こったのか理解出来なかった。千影がナイフで翔硫阿を刺したかと思ったら先程の寂れた朱雀神社ではなく今朝の夢で見た鳥籠の炎の中にいた。だがそんなことよりも翔硫阿の目の前にいる朱雀と名乗っていた巨大な炎でできた朱色の鳥の存在が翔硫阿の頭をより混乱させた。
「お前はその、本当に神様なのか? それにここは何処だ?」
まだ状況が読めない翔琉阿がここに彼を呼びだした張本人に訊いた。
「然り。先程も言ったが我は朱雀。炎を司る神だ。ここは我が神界である」
朱雀は今朝の夢の時と同じ、重厚感のある声で言った。
「神界?」
聞き慣れない単語が出てきたので意味を訊いた。
「神界とは神それぞれが持つテリトリーのようなものだ」
「何でそんな大事な所に俺を呼んだんだ?」
神に呼ばれる筋合いなんて思い当たらない翔琉阿は素朴な疑問を投げ掛けた。
「汝は操者を知っているか?」
朱雀が尋ねた。
「いや、それにまだ神とか、実感が湧かないというか......」
知らないことだらけなので、半分考えるのを諦めて言った。
「そうか。では、汝に少し前の話をしよう」
この世界ができる前、三柱の神がいた。彼らはそれぞれ破壊、創造、維持を司っていた。ある日、創造を司る神はこの世界を創造した。維持を司る神はこの世界を維持した。破壊を司る神はこの世界を破壊していった。この神達の力が均衡を取っているため今の世界がある。
三柱の神がこの世界を作った後、他の神々も現れ、各々が大陸を作りそこに文明を作った。神々は自らの文明を発展させるため、神器という神の力を人間に与えた。神それぞれの権能、それを神気と言いさらにその神気が集まり具現化した物、それを神器と言う。神器を扱う人間を操者と言い、同じ神から授かった神器でも操者によって形状や微細に神気の形を変え、最も操者に合った神器の形や能力へとなる。神器を手にした人間達は操者を中心に急速に文明を成長させた。
だが、良いことばかりでは無かった。神の中でも特に争いに長けた神気を持つ神が神器を使わせ、他の文明を襲い始めた。他の文明を襲わせる神のことを忌み嫌い邪神と呼んだ。邪神のせいで争いがそこらじゅうで起こりその状態が長く続いたため、邪神以外の神器に変化が起きた。争いに長けていない神も神器を争いにも使えるように人間にそれぞれの加護を与えた。神器だけでは無く人間に加護を与えた神のことを守り神と呼んだ。
現在では守り神と邪神の争いは殆どなくその名も殆ど形骸化しているがわずかながら争いを望む邪神は存在している。
「昔から神と人間には関わりがあって......神器を操るやつらのことを操者って呼ぶんだよな?」
「然り」
「てことは俺がここに呼ばれた理由は俺をお前の操者にするためだろ」
朱雀の話を聞き、ここに呼ばれた理由が理解出来た翔琉阿は自信が有る様子で確かめる。
「然り。だが、これだけは心に留めておいて欲しい。操者になるという事は力を得る代わりに死の危険も伴うという事でもあると」
朱雀が重々しい雰囲気で言った。
「他の操者と争うことになるんだから勿論そんなことは解ってるつもりだ。それに、俺に任さられた役目だって言うならどんな事だろうとやってやるよ」
そんなことは承知だからさっさと要件を済ませようと余裕たっぷりで言った。
「汝よ、危険とはそれだけでは無い。神器とは神気が具現化した物。つまり、我が神気を受け止める力量が汝に無ければ汝は神器を手に取った瞬間、神気に身が持たず汝の想像出来ぬ程の苦痛と共に死に至る。それを踏まえた上でも汝は操者となる覚悟があるか?」
油断すればその場で気絶してしまいそうな程の圧を放ちながら言った。
苦痛と共に死ぬから何だ。操者になれれば関係ない。でも、もし本当に耐えれなかったら......
翔琉阿は朱雀の言葉に少したじろいでしまった。
「汝の覚悟はそこまでか。我の下に汝の意思で、来たのでは無いのか」
翔琉阿がたじろいだのを感じ取り先程とは比べ物になら無い程の圧を放ち、活を入れる様に言った。
「フッ、俺は自分の意思でここに来たんだ。今さら無理です。なんて言って帰るわけ無いだろ。おい、朱雀。覚悟は決まってる」
翔硫阿は少し口角を上げ、不敵な笑みを浮かべて言った。
「......汝に我が神器を授けよう」
朱雀はどこか安心した様子で言った。
その瞬間、目に写るのは周りが炎に包まれた空間では無く、少し寂れている神社と目の前には千影がいた。気づけば朱雀神社へと戻っていた。
この事を世界が認識するより早く翔琉阿の体に燃え盛る炎が纏わりついてくる。
「っ翔琉阿! 落ち着けば神気には吞まれないわ!」
千影が現状を即座に理解し、翔琉阿に呼び掛ける。
熱い、意識が持たない。これが神気、神の力か。クソっ抑えきれない。
神気の勢いは止まらず翔琉阿を蝕む。
「神気は焦ると制せない! 神気の具現化した形を想像して!」
事態が治まらない事を危惧して翔琉阿へ必死に呼び掛けた。
神気を具現化して神器にする。落ち着け、考えろ、熱さなんて気にするな。チッ駄目だ。体が熱すぎて集中出来ない。なんだこの纏まりついてくる炎は! ......纏わりついてくる。いや、この炎は......
翔琉阿が何かを思い付く。その瞬間神気の勢いが増す。
「翔琉阿!」
千影が叫んだ。だが、千影が心配している事とは裏腹に不意に神気の勢いは収まり消えた。次第に嫌な汗が流れてくる。
「翔琉阿......大丈夫?」
千影は恐る恐る倒れこむ近づいた。
その回答の代わりに翔琉阿は不敵に笑った。すると、翔琉阿が着ているパーカーの表面が焦げて燃え落ち、烈火の如く燃える神気が翔琉阿の上半身を覆った。瞬間、炎は徐々に形を作っていき神気を纏った朱色のパーカーへと変化した。
「神気を制することができた。俺は生きてる......!」
翔琉阿は後ろに倒れて大の字になり、嬉しさ半分、疲れ半分の満足げな笑顔で言った。
「その様子だとあんたも操者になれたのね」
千影は半泣き顔だがプライドが邪魔しているのか、少し上から目線で言った。
「千影、ありがとな」
翔琉阿が何とも無い風に千影に顔を見て言った。
「え、な、何急にあんた言ってるの、バカなの?」
千影は少し顔を赤らめ、捲し立てて言った。
「いや、お前がいなかったら神気を制せないまま死んでた。お前が神器の形を想像しろって言ってたろ」
翔琉阿は真っ暗の夜空を向いて言った。
「確かに言ったけど......それがどうしたの?」
何を言いたいのかよく読めない千影が訝しげに言った。
「あれのおかげで気付けたんだよ。神器って操者に適した形に変わるらしいだろ。てことはあの炎も神器に関係してると思ったんだよ。それであの炎、ただ俺を燃やしてるんだと思ってたんだけど実際は違くて俺があの神気を纏っていることに気付けたんだよ。本当に言われなかったら気付けなかったよ。だからありがとな」
翔硫阿はただただ嬉しそうに微笑んだ。
「たまたま噛み合っただけ、偶然よ」
千影はそっぽを向いて照れくさそうに言った。
「取り敢えずあんたは操者の一人になった。その自覚を持つこと。これだけは覚えておいて」
千影は真剣な口調で言った。
「わかった。改めてこれからよろしくな、千影」
翔琉阿は体を起こし、左手を差し出しながら笑顔で言った。
「こっちこそよろしく」
千影は差し出された手を握り、笑顔で答えた。
暗闇の中に大柄な人影が一つあった。
「朱雀の操者が現れたか。俵屋、宗達」
人がいない暗闇に静謐に低く力強い声音で言った。
「「はっ」」
先程まで人がいなかったはずの暗闇に人影が二つ現れた。
「お前らで朱雀の操者を始末しろ」
大柄な人影が言った。
「「御意」」
そう言い残し二つの人影がどこかへ消えた。
「絶対に逃がさんぞ。借りを返して貰うまではな」
不適な笑みを浮かべ、影は闇に消えていった。
読んで下さった皆さんありがとうございます!
今回は前話より短くなりましたが、作品として書きたいことを書けたので自分的には大大大満足です!
一応邪神と守り神の違いは加護を操者に与えるか与えないかの違いです。
邪神は一般人+つええ神器
守り神はちょい強化一般人+ちょい強い神器
て感じです!
感想、作品の評価など大歓迎です!(むしろしてくれ、モチベに繋がる)ではではまた次のお話を楽しみに待っていてください(^-^)