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一人の鳥が羽ばたく世界  作者: 夜ノ血月
四神編
13/16

13話 邂逅

「......うむ......そうか」

「神器協会はなんて?」

「行くことを伝えたが風神雷神の神器を俵屋と宗達に盗られたことの対処で忙しいらしく協会からの協力は早くて三日後だそうじゃ。まあこれは仕方ないことじゃからのう、わしらも協会に合わせると言っておいたわい」


 夕飯を終え、智樹ともきが持ってきた中身が綺麗に食べられた鍋と食器を洗っている翔琉阿とるあが日本神器協会との電話を終えた空羽からばねに聞いた。


「三日後ですか......それまでにあいつらが何もしないなんてありえるんですかね?」


 先日の俵屋たわらや宗達そうたつが神ヶ丘高校で起こしたことを想起し千影が不安そうに訊いた。


「一応僕の“縁占い”でハンカチの場所はわかりますけど......」


 陽人も千影と同じように今置かれている状況に悩んでいた。翔琉阿が冬花とうかに渡した唯一の手掛かりであるハンカチ


「......いや、逆に今すぐ行くべきじゃないか」


 全ての食器を片付け終わった翔硫阿が顔を上げて呟いた。


「それはどういうこと?」


 千影ちかげが顔を上げて翔硫阿に訊き返した。


「今までの俺達はあいつらの行動に対して毎回後手に回ってた。だけど今回は違う、あいつらに勘付かれる前に俺達が攻めることができる。これはチャンスだ」


 翔硫阿は語気を強め訴えかけるように言った。


「翔硫阿よ、軽率な行動は控えた方がいいぞ。確かに今なら万亀に先手を取れるかもしれん。じゃが、敵は万亀一人とは限らない。それに三日後には協力が来る。先手を取れるからこそわしらもより万全の状態で臨むべきじゃ」

「......たしかに」


 空羽が諭すように言った。実際、空羽の言ったことは異論など出るはずがない至極当然のことで翔硫阿はつまらなさそうに相槌を打つしかできない。


「もちろん、わしも早く万亀のとこへ行きたい気持ちは同じじゃ」

「なら──」

「じゃから、わしらで今から万亀のとこに殴り込みに行くぞ」

「俺は早、え? じいちゃん今なんて言った?」


 全く予想していなかった返しをされ翔硫阿は戸惑ってしまった。


「今言ったろう。今から万亀のところへ行くぞ」

「じいさん、さっき待った方が良いとか言ってなかったか?」


 食器運びを終えリビングにでテレビを見ていた智樹ともきも空羽の言葉の突拍子の無さに驚き話に混じってきた。


「普通なら三日後に行くのが定石じゃろう」

「私はその方が良いと思いますけど......」

「僕も同じです」


 千影と陽人はるとが遠慮がちに言った。


「それが今は状況が少し違う。万亀のところの二人が神器を盗ったことなんじゃが、そもそもあそこは神器を持ってない人間だけで盗れるほど警備は甘くない」

「神器協会の誰かが神器を渡す手助けをした?」


 千影が少し動揺しながら空羽に訊き返した。


「わしもその可能性が高いと思える。となると三日など待っていてはまた万亀の協力者が神器協会内で何か良からぬことをしてくるやもしれん。それに協力者はこの三日という時間を稼ぐことを考え神器を盗んだのやもしれぬ。となれば今から万亀ばんきのところに行くことこそ最も事件解決に近づくという訳じゃ」

「それは良いけどじいちゃん。千影と陽人は大丈夫だと思うけど智樹はこのまま行ったら親とか心配しないか? つうか明日学校あるし......」

「確かに! サンキュー翔琉阿! ちょっと母ちゃんに電話してくる」

「学校も誰かさんが校舎とか校庭にでかい穴開けたから一か月間は休みらしいわよ。さっき学校からメール来てたわ」

「誰かさんって、俺より風と雷のおっさんたちの方が派手にやってたろ」

「あんたもやったのは認めるのね」

「それはあれだろ、その......」


 智樹は反論しようと頭を動かすが泣かなか千影も揚げ足取りが上手くその後の言葉が続かない。


「全くお前らは......智樹よ、親には翔琉阿の家に泊まるとでも言っておけ。すぐには帰れないじょろうからのう」


 呆れた様子で空羽は言い、智樹に親に連絡をとるよう促した。


「了解っす」


 智樹はそそくさと携帯を耳に当てリビングから出ていった。


「陽人。今のうちに“縁占い”で玄武の居場所を探してくれんか」

「わかりました。“縁占い”」


 陽人はそういうと彼の青い瞳はさらに青を強調させるように輝きしばらく辺りを軽く見回すと顔の動きを止め、ある一点を凝視した。


「ハンカチの場所がわかりました。そこは──」

「ふー。結構言われたけど何とかOK出た」

「玄武神社です」

「ん? え?」


 陽人が続きを言うのとほぼ同時に電話を終えた智樹が扉を開けてリビングに入ってきた。智樹以外は陽人の言ったことを理解し、視線を陽人に向け驚愕の表情を浮かべるが、智樹だけ聞き逃してしまい状況が呑み込めていない。


「ん? そんな鳩に豆鉄砲貰ったみたいな顔してどうした?」

「鳩に貰ってどうすんだよ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔だろ」

「そうそうそれだ。で、何かあったのか?」


 いまいち締まらない気の抜けた様子で智樹は翔琉阿に訊いた。


「俺が冬花とうかに渡したハンカチ、どうやらあれが玄武神社にあるらしい」

「てことは玄武の本拠地は、その玄武神社にあるのか?」


 智樹も驚いた様子で翔琉阿に訊いた。


「おかしいのう。万亀が失踪した時に玄武神社は神器協会が徹底的に調べた。神器協会が何かしたとしてもその後わしも行ったがそれらしいものは一切なかったわい」

「とにかく場所が解ったなら行ってみる価値はあると思います。そこ以外に玄武家の手掛かりは何もありませんし」


 目の色が通常の明るい真っ青な瞳に戻った陽人が提案した。


「そうじゃな。ではお前ら気を引き締めて行くぞ」


 空羽が真剣な表情で言い、すぐさま玄関に向かっていった。


「あ、あの行くって。もしかして徒歩でですか?」

「もちろんじゃ」


 千影の疑問にさも当然かのように空羽は返答した。


「ほれ。突っ立ってないで早くいくぞ」


 下駄を履き終えた空羽がそう言うと玄関の扉を開けた。すると、同じタイミングで白色のワゴン車が家の駐車場に駐車をしているところであった。


「お。父さん帰ってきた」


 空羽の後ろから靴を履いた翔琉阿がワゴン車を見て言った。


「猛が帰って来たなら話は早いぞ」


 空羽はそうつぶやくと開けた扉から星の良く見える月が昇っている夜中にしては少し明るい外に出ていった。しばらくすると千影達も玄関かた外に出てきた。


「父さん。おかえり」


 停めた車から降りてきた鞄を持ち、眼鏡をかけたスーツ姿のたけるに翔琉阿は軽く声を掛けた。


「ただいま。お義父とうさん、こんな時間にどうしたんですか?」

「ちょっとお前の車を借りたいんじゃが、良いか?」

「いいですけどどこか行くんですか?」

「ちょっと玄武神社に用があってな」

「......気をつけてくださいね」


 鞄から車の鍵を取り出し猛は空羽に手渡した。


「みんな。ちゃんと帰ってくるんだよ」


 翔琉阿達の横を抜けて家に入ろうとした猛が視線を子供達一人一人に向けて微笑んで言った。


「「「「はい!」」」」

「いってらっしゃい」


 猛は子供たちの言葉を聞くと満足したように家に入り扉を閉めた。


「お前たち乗り込め。すぐ出発するぞ」


 空羽に促され翔琉阿達はワゴン車に乗りこんだ。運転席に空羽が座り、その一個後ろの二席に千影と陽人。さらにもう一個後ろの二席に翔琉阿と智樹が座り、全員シートベルトをつけ今すぐ出発できる体制になっていた。そのことを空羽は確認すると車を走らせた。玄武神社までは車でおよそ三十分程だ。


「なんか流れでここまで来たのもあるけど......智樹は別に神とかそういうのに関わらなくてもいいはずだし、何で俺達と一緒に来たんだ?」


 翔琉阿が不意につぶやいた。実際半分巻き込む形でここまで来させてしまったことに翔琉阿は少し負い目を感じていた。


「なに言ってんだよ。親友が困ってんだから助けるのは当たり前だろ」

「そう言ったって──」

「だから俺が困ってるときは助けてくれよっ」


 智樹は右側に座っている翔琉阿を握りこぶしで小突こづいた。


「ああ。その時は任せろ」


 翔琉阿も智樹と同様に少し照れ臭そうに握りこぶしで軽く小突いた


「お前ら、着いたぞ」


 車に揺られること数十分、翔琉阿達は玄武神社に到着した。四神市は十時のような形をしておりそのほぼ北端にあるのがここ玄武神社だ。


「なんか、ぼろいな」


 玄武神社にある駐車場に車を停め、智樹が降りて開口一番に呟いた。


 智樹が言った通り赤の塗装が少し剝げて木材の茶色がところどころ見えるぼろそうな鳥居と、その奥に緑の葉をつけた木が脇にある小枝や落ち葉が落ち、苔が生えている石段がそこから見えた。


「うむ。昔は手入れをする者がいたが玄武家が失踪していなくなってしまってな。どこも人手不足じゃから最近は全く手をつけられておらん」


 車から降りた空羽は鳥居の方へ歩きながら言った。


「えっと、ハンカチはどうやらこの石段を上った先にあるようです」


 真っ青な瞳を光らせて陽人が言った。


「石段を上った先ってことは飛んだ方が早そうだし、陽人を連れて先に探してくる」


 翔琉阿がそう言うと着ている紅色のパーカーの表面が焦げ落ち、朱色のパーカーへと変化した。


「わしらで万亀が何をしようとしているのかを聞き出し、それを止めなければならない。いいかここからは命が関わってくる。十分に気を付けるんじゃぞ」


「解ってる。じゃ、先に行ってくる。“炎翼”」


 翔琉阿は陽人の腕を掴んだ。


「大丈夫ですよね?」


 翔琉阿の背中から鳥の翼のような形をした炎が出現し、“炎翼”をはためかせると翔琉阿と腕を掴まれた陽人が急上昇し、ものの数秒で石段を通り越し、本殿が目の前にある参道に降りた。


「陽人でも意外と運ぶのギリギリだったな。ここが玄武神社か、ハンカチはどこだ?」


 翔琉阿は陽人の手を放し、灯りは月の光だけでほのぐらく、静謐な境内けいだいの中を見渡す。


「ええと......ん?」

「どうした?」

「いえ、玄武の神気が多くてちょっと場所の特定が難しくて......」


 陽人は光っている真っ青な瞳で本殿を睨みながらそう言った。


「本殿の中にあるのか?」

「いや、本殿の近くにあるのは間違いないですが中かどうかは......」

「じゃあ俺が本殿の中見てくるから場所わかったら言ってくれ」

「それってかなり罰当たりじゃないですか?」

「玄武家とのいざこざを直しに来たんだ。その“玄武”から感謝はされど罰当たりだとなることはないだろ」


 翔琉阿はそう言うと本殿に近づいて行った。本殿は全体が漆黒の木材で出来ており、月に照らさているそれはとても不気味に思えるが、この静謐な空間にはその存在感が逆にあっている。


「お邪魔しま......」


 翔琉阿が賽銭箱のすぐ後ろにある格子戸をあけようと手をかけたところで足元に何か落ちていることに気がついた。翔琉阿は屈んでそれを手に取った。


「......! 陽人、ハンカチあったぞ」


 賽銭箱のすぐ近くに落ちていたそれを拾うと探していた四角い白い布に赤い糸で半分より少し下側に一本、直線の刺繍ししゅうがあるハンカチだった。


「ほんとですか?」


 陽人が瞳をいつも通りに戻し、驚いたように言った。


「ああ。ん?」


 顔を上げようとしたところで翔琉阿は賽銭箱に貼られた不思議な模様が描かれたお札のようなものを見つけた。その紙は玄武神社が最近手入れされていなかったわりには新しく、模様も線と六角形が合わさった奇妙なものだ。


「なんだこれ?」



 翔琉阿がお札をとろうとした瞬間、翔琉阿の目の前の光景が変わった。先程までの月明かりに照らされた神社ではなく、薄暗いコンクリートに囲まれた部屋だった。


「思ったより早かったな。朱雀の操者そうじゃ


 不意に低く力強い声が聞こえた。


「......お前は誰だ」

「私の名か、知っていると思ったが......まあいい、私は玄武(げんぶ)万亀(ばんき)。玄武家の現当主であり、玄武の操者だ」


 薄暗い部屋の中で高価そうな真っ黒の椅子に座っているその状態ですら体格の良さが解るその大柄な体、鋭く睨み付けるような漆黒の瞳としわのある顔、黒く整った刈り上げの男は眼光で威圧感を放ちながらそう言った。

 今回は「一人の鳥が羽ばたく世界」13話「邂逅」を読んでいただきありがとうございます!

 ついに翔琉阿の前に姿を現した玄武万亀。次回は彼との戦闘回です!


次回の投稿日は2月であること以外は未定です!

是非評価や感想もいただけると幸いです!


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