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一人の鳥が羽ばたく世界  作者: 夜ノ血月
四神編
12/16

12話 優しさと幸運

「全く、お前らはほんとに無茶するわい」

「......悪かったよじいちゃん」

「......すいません空羽からばねさん」


 神ヶ丘高校で俵屋たわらや風太ふうた宗達そうたつ雷斗らいとが起こした事件から翌日、少し沈みつつある太陽に照らされている朱雀神社で空羽が険しい顔で、目の前でバツが悪そうに正座させられている四人に向けて言った。


翔琉阿(とるあ)のじいちゃんこえぇ」

「──何か言ったかのう?」

「何も言ってないす」

「あ、あの時は空羽さんがいなくて僕たちでどうにかしなくちゃってなったんです......」


 横で委縮している智樹とは対照的に陽人はるとは訴えかけるように言った。


「まあ、勝手に危ないことをして死にかけはしたが......お前らが無事で本当によかったわい」


 口元を緩め、優しい表情で空羽は言った。


「ほれ、すぐに立って修行じゃ修行。まだまだお前らは弱いんだからのう」

「今俺たちが弱いって言ったのかじいちゃん?」

「ちょっと翔琉阿!?」


 立ち上がりながら翔硫阿は不敵な笑みを浮かべて言った。その言葉に立ち上がろうした千影ちかげは驚きを隠せず顔だけをすぐさま向けて言った。


「何馬鹿なこと言ってるんじゃ。今のわしに勝てないくせに、もっと力をつけんと万亀ばんきには勝てん、ぞ......」


 空羽がまた呆れた様子で言ったが一瞬、声がつまった。


「なんだと......ん? 万亀って誰だよ?」

「......! そういえば風のやつもそんなこと言ってたぜ」


 反射で答えた翔琉阿だが空羽の違和感に気づき、すかさず聞き返した。智樹も同じく万亀という言葉に反応し昨日の俵屋の発言を思い出した。陽人と千影もなにやら気まずそうにしている。


「お前らは知らかったのう......あいつはお前らの歳くらいからの仲で、現在行方不明の玄武家、その現当主じゃ」

「玄武家......あ!」


 翔琉阿は玄武家という単語を聞いて何やら考えていると突然声を出した。


「どうしたんじゃ翔琉阿?」

「......昨日、ここに向かってくる途中、スーツを着たやつらに追われてる玄武げんぶ冬花とうかに会った 」


 翔琉阿が昨日のことをそのまま言った。それを聞き、一同は翔琉阿に視線を向けた。


「......! あんたそれ早く言いなさいよ! 冬花は今どこにいるのよ?」


 千影が驚きを隠せず口早に言った。


「いや、会ったすぐ後に風神の神術でどこかに連れ去られた」

「まじかよ、じゃあ何も手掛かりねえじゃん」

「ていうかお前この状況解ってるのか?」


 残念だる智樹に翔琉阿は素朴な疑問を投げかけた。


「大体解るぜ。あれだろ、冬花って子を見つけたけど風のやつが何かしてやばいんだろ」


 智樹は少し胸を張り、自慢げに答えた。


「あの、それって......」

「全然わかってないじゃない!」


 陽人はるとが先を言うのをためらっていると千影がすかさずその先を呆れ気味に怒鳴った。


「細かいことはあとで翔琉阿に聞くんじゃな」

「え、俺──」

「とにかく万亀のやつが何をしようとしてるのかいち早く探るのが大事じゃな......」

「そうですね」


 千影が頷いて言った。


「じゃが、お前らに今必要なのは休養じゃ」

「わかっ、え? 前みたいに修行すんじゃねえのか?」

「それも大事じゃが昨日の今日じゃ。お前らも疲れているじょろう」

「じゃあ今日は解散か?」

「いや今日は鍋じゃ。ほれ」


 翔琉阿に手を出させ、その手のひらの上に空羽が五千円札を渡した。


「これは?」

「これで鍋の材料を買ってきてくれ。今日は全員で鍋じゃ。頼んだぞ」


 そう言うと空羽は朱雀神社から立ち去ろうとする。


「全員?」

「ここにいる全員に決まってるじゃろ。七時にはわしも猛の家に行くからそれまでに頼んだぞ」


 呆気にとられている翔琉阿達を置いて空羽は石段を下りていき立ち去って行った。


「鍋か......何の鍋食う?」


 智樹は呑気に何を食べるか思案しだした。


「ったく取り合えず買い出しに行くか」

「そうね。お金渡されたんだし行くしかないわね」

「はい......」


 翔琉阿達は渡された五千円を握って鍋の材料の渋々買い出しに向かった。智樹に今までのことを説明しながら歩くこと十分、スーパーについた。


「よし、取り合えず野菜と肉買って帰るぞ」


 翔琉阿がかごを持ち他の三人はその周りで材料を探しながらスーパーの中をほっつき歩いていた。


「あ、あれって」


 智樹が日用品コーナーの一角を指差して言った。


「どうした?」


 翔琉阿が顔を向けると動物の柄をしたハンカチやスリッパが大量に置いてあった。


「ん? あれがどうしたんだよ?」

「いやあ、智咲ちさきが犬柄のスリッパ買って来いって言ったから......」

「言ったからなんだよ」


 智樹は急に話を止め、それを不自然に思った翔琉阿だがすぐに理由が解った。


「千影さんって動物とか好きなの?」

「え? ......あ。べ、別に好きってわけじゃないわよ。ただちょっと興味があっただけよ」


 智樹の横にいた千影がそれは目を輝かせて見ていたので智樹はおちょくるように聞いた。すると、早口で必死に言い訳をした。


「でもこの前、朱雀神社で猫と楽しそうに遊んでましたよね」


 陽人が面白そうだと思い話に混ざってきた。


「あ、あれはて、ていうか智樹。あんたさっき智咲とか言ってたけど誰よ?」

「二個下の妹だよ。でもあいつ俺のこと顎で使ってくるから可愛くねえんだよな」

「そう、大変ね」


 綺麗に話変えたな......


 翔琉阿がそう思いながら千影を見ているとこちらに気づき翔琉阿を睨んで威嚇した。


「買うならさっさと篭に入れろよ」

「あいよ」


 智樹はつぶらな瞳の耳の先が折られている茶色い犬が施されているスリッパを篭に入れた。


「えーと、次は豆腐だな」


 翔琉阿達は日用品コーナーを後にし、鍋の食材を買いにまたスーパー内を歩き始めた。すると翔琉阿の背後から篭に何かが篭を持っていた翔琉阿がやっと気づく程の静けさと速度で入れられた。それは猫の肉球がたくさんプリントされたハンカチだった。


 これ絶対千影だよな......


 正体が解った翔琉阿が後ろを振り向こうとした瞬間凄まじい殺気を背後から感じ翔琉阿はそのまま何事もなかったかのように買い物を続けた。


「こちらお釣りです」

「はい」

「ありがとうございました」


 翔琉阿は会計を済ませレジを後にした。


「ほい、これスリッパ」

「サンキュー翔琉阿」


 翔琉阿は篭から買ったものをレジ袋に移す途中でスリッパを智樹に渡した。


「じゃ、帰るか」


 翔琉阿達は半分ほど沈んだ夕日に照らされながら帰路についた。


「ほい千影」

「あ、ありがとう」


 持ってるレジ袋からハンカチを取り出して翔琉阿は言った。その後は適当に話しながら歩くこと数十分、朱雀家宅に着いた。


「ただいま」


 翔琉阿が扉を開けたが返事は無く、たけるは帰っていないようだ。


「じゃあ今から作るか」


 翔琉阿達は家に入ると翔琉阿主体で早速夜食作りを始めた。


「お前ら帰ったぞ」


 午後七時、空羽が帰ってきた。


「おかえりじいちゃん。鍋作ったから早くあがって」


 翔琉阿が玄関まで行き空羽を出迎えた。


「おお、確かに良い匂いがするな。じゃあ早速食うかのう」


 空羽は下駄を脱ぎ、そのまま翔琉阿と食卓についた。既に他の三人は食卓についている。


「「「「「いただきます」」」」」


 五人は手を合わせて同時に言い、肉や野菜がふんだんに入った鍋を食べ始めた。


「結局冬花もとい玄武家について何も情報はありませんね」

「わしも気になって色々と調査しに行ったが何も無かったわい」

「玄武家の調査に行ってたんですね」


 鍋を食べながら玄武家のことについて話し始めた。


「なあ、陽人の“縁占い”で玄武家の居場所解らないのか?」

「いえ、僕が“縁占い”を使えるようになったのはつい最近で、探せるのは五年以内の繋がりでしか無理なんですよ。行方不明になってから時間が経ちすぎててもう繋がりはありません」

「......そうか」


 翔琉阿は悔しそうに言い、考えを巡らせる。


 五年以内か、前に玄武冬花を俺の繋がりで探そうとしたけど繋がりが薄くて上手く探せなかったしな......なんかあったけなあ、冬花との繋がり......


「ていうか千影さん、猫のハンカチ買ってたっしょ」

「え? て、あんた見てたの! 何黙ってるのよ!」


 何気ない至って普通の会話、しかし翔琉阿は何かとっかかりを感じる。


 猫のハンカチ......ハンカチ?


「......あった」

「どうしたの?」


 翔琉阿の呟きに千影が反応した。


「思い出した。“縁占い”で冬花を探せる繋がりが一つだけある」

「それほんと!?」

「ああ、俺は冬花にハンカチを渡した」


 風神の神術“(かぜ)(がく)れ”で消えたのは玄武冬花だけではなく、彼女に涙を拭かせるために貸した翔琉阿のハンカチも一緒であった。

12話「優しさと幸運」を読んでいただきありがとうございます!

もう鍋が食べたくなる季節なので私の代わりに翔琉阿達に食べさせました! 食いたい……


評価や感想をくれると創作活動の励みになりますので是非!気に入ってくれましたらお願いします!

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