10話 少年達の決意
「“火鳥弾”!」
翔琉阿が叫ぶと人間サイズの炎の鳥が左手から放たれ、それは俵屋と宗達めがけて一直線に飛んで行った。
「馬鹿がよお! “穿つ雷撃”」
宗達が翔琉阿と同じタイミングで、両手に持つ桴を腰の周りを浮いている和太鼓に四回打った後、最後に一回右手を思いっきり振り落とし打ち付け、ドンッという音と共に叩いた和太鼓から五対の雷撃が走った。
“火鳥弾”と四対の“穿つ雷撃”が真正面からぶつかった。片方は火花を散らし、もう片方は眩く光りどちらとも消滅した。さらに“火鳥弾”にぶつからなかった一対の“穿つ雷撃”が腕を伸ばしたままの翔琉阿へ迫っていった。
「“断ちきる風刃”......」
追い打ちをかけるように俵屋が持っている袋の口を翔琉阿に向け低い声で静かに言った。すると“穿つ雷撃”のあとを追うように袋から風の刃が四対出てきた。四対の“断ちきる風刃”は弧を描くような軌道で翔琉阿達の下へ向かって行った。
「“創鉄像”!」
“煙々羅”の上にいる千影の右手が光り、横側と前方を守る二枚の分厚い鉄の壁と、前方を守る他の壁よりも少し高い一枚の壁が現れた。横側の壁に二対だけ“断ちきる風刃”が当たり、もう一回“断ちきる風刃”が当たれば簡単に切断されてしまいそうな深い切り傷が出来た。“穿つ雷撃”は前方の壁に吸い付くように当たり壁には少し焦げた跡ができた。だが、防がれるのを読んでいたのかもう二対の“断ちきる風刃”は壁のさらに上を通るように軌道を変え、翔琉阿へ向かって行った。
「青龍!」
智樹が声を荒げた。すると七本の太い枝が翔琉阿達を囲うように編まれていき、籠のような形になった。“断ちきる風神”と“穿つ雷撃”はそれに当たり少しの衝撃と共に消滅した。青龍の神器には少しの切り傷が出来ただけだ。するすると枝は解かれていき智樹の足元に十センチメートル程伸びている。
全員の判断が一瞬でも遅れていたら命の危険があっただろう攻防を凌ぎきった翔琉阿達だが俵屋達の手数の多さのせいで攻め手に欠ける。
「まずいな。このまま同じことをやってもあいつらを倒せそうに無いぞ......」
翔琉阿は苦渋の表情で俵屋達には聞こえないように小声で言った。
「あいつらを倒す前に俺らが先にやられるぞ」
智樹も翔琉阿と同じように言った。
「......僕に良い案があります。みなさん“煙々羅”の上に乗ってください」
翔琉阿と智樹の後ろ、千影の横にいる少し頭を下げ思案顔の陽人が顔を上げて真剣な表情で言った。
「あ、あと......あの」
リュックを下ろして中を探りながら智樹に顔を向けて話していた陽人だが、急に言葉が詰まった。
「ん? あぁ! 林田智樹だ。気軽に智樹って呼んでくれ」
陽人の言いたいことを瞬時に読み取り、優しい表情で名乗った。
「えと僕の名前は青龍陽人です。あの智樹さんこれを──」
陽人がそう言うとリュックの中から古そうな紺色の巻物を取り出した。
「何こそこそ話してんだあ? 来ねえならこっちから行くぜえ! “穿つ雷撃”!」
翔琉阿達の出方を窺っていたが遂に待ちきれず、宗達は声を荒げて和太鼓を四回叩いた。和太鼓から四対の“穿つ雷撃”が現れ、翔琉阿達それぞれに一対の“穿つ雷撃”が向かって行った。
「“断ちきる風刃”......」
またもや俵屋が宗達とほぼ同じタイミングで静かに言い、四対の“断ちきる風刃”が“穿つ雷撃”のあとを追うように全く同じ軌道でまっすぐ飛んできた。
「お二人早く!」
陽人が声を荒げて“煙々羅”の上へ来るよう促した。陽人達がいるのは二メートル程の柵の先であり一応よじ登って越えることは出来るだろうが敵の目の前でそんな隙は晒せない。
「“創鉄像”! あんた達早く!」
既に“煙々羅”の上に乗っている千影は智樹と翔琉阿をサポートするためさらに鉄の壁を二枚先程“穿つ雷撃”を防いだ壁の横に出したのと、柵を超えるための踏み台も二つ出した。
合計八対の猛攻を完全に守りきることは出来ないだろうが時間稼ぎにはなるはずだ。
「──上手くいきすぎてないか?」
翔琉阿は違和感を感じつぶやいた。一旦足を止め俵屋達へ振り返り壁と壁の間から何かおかしいことが無いかこちらへ向かってくる“穿つ雷撃”と“断ちきる風刃”とその奥にいる二人を睨みつけた。
「どうした翔琉阿?」
急に立ち止まった翔琉阿を怪訝に思い、智樹も振り返り足を止めた。
このまま行けば陽人の良い案てのが上手く決まるかもしれない......けどあいつらがそう簡単にこっちの思い通りにさせてくれるのか? いや......確実に何かしてくるはずだ......
翔琉阿が思いを巡らせていると、不意に“穿つ雷撃”の軌道が真下へ変わった。僅かだが壁の奥にいる宗達の口角が上がっているように見えた。
「やっぱりな」
翔琉阿は確信めいた様子で言った。
そのすぐあと“穿つ雷撃”は鉄の壁には当たらず翔琉阿と智樹が立っている屋上に当たり、激しい衝撃と共にコンクリートを砕き、鉄の壁の周りが崩れていった。崩れたことで足場が不安定になり柵も鉄の壁も傾き、全員の姿が無防備な状態で晒されてしまった。
さらに全員に“断ちきる風刃”が一対ずつ目前まで迫ってきている。
「うお! 何だ!?」
智樹は揺れに足を取られて今にも倒れそうになっていた。
「“炎翼”!」
何か仕掛けてくることを読んでいた翔琉阿はすかさず“炎翼”をはためかせ真横にいる智樹の方へ飛んだ。凄まじい速度で飛翔し、あたふたしている智樹の左腕を掴み、“断ちきる風刃”を避けた。俵屋達から距離を取るように位置取りし、そのまま空中で留まった。
「っぶねえ......翔琉阿まじサンキュー」
智樹は安堵したように真上で翼をはためかせている翔琉阿に言った。
「......智樹、悪いニュースがある。もう......腕が限界だ」
切羽詰まった様子で翔琉阿が言った。
「おい! もうちょっと頑張れ弓道部! お前と違って俺は飛べないんだぞ!」
命の危機を感じ、智樹も切羽詰まった様子で返答した。
「そう言っても、まだ“炎翼”に慣れてねえし、そもそも弓なんて、矢合わせても精々一キロだろ!」
息も絶え絶えになりながら翔琉阿は必死に反論した。
「てか、千影さん達はどうなった?」
智樹がそう言うと二人とも先程までいた場所に顔を向けた。
「智樹さん!──」
不意に陽人の声がした。先程の“断ちきる風刃”を避けきり、“煙々羅”に乗りながら千影と一緒に翔琉阿達に寄ってきた。陽人の右手には先程リュックから取り出した紺色の巻物が握られていた。
「──これを!」
ある程度こちらに寄ってきたところで“煙々羅”から立ち上がり、巻物を智樹へ投げた。
「おめえら隙だらけだぜえ!“穿つ雷撃”」
屋上にいる宗達が和太鼓を鳴らし、一対の“穿つ雷撃”を飛ばしてきた。ジグザグと空を駆け、巻物へと向かってきた。だが、狙いを見誤ったのか巻物と智樹の手の間を通り過ぎただけで巻物は傷ついていない。だが、手を伸ばそうとした智樹は“穿つ雷撃”に当たるのを避けようとしたため巻物がそのまま落ちそうだ。
「え、おっと、と、あ......」
なんとか右手を必死に伸ばし巻物を取ろうと腕を振った。巻物は指の先に当たり、上に弾くことが出来たがしばらく持ち堪えたたところで、上手く掴めず願いも虚しく巻物は落下していった。
『全く、世話が焼けるぜ』
陽気な声が脳内に響いた。すると智樹の制服の中から一本の枝が伸びていき、巻物に巻き付いた。枝はするすると縮んでいき智樹の手元へ巻物を出した。
「青龍サンキュー。つうかこ──」
「いいから早くそれを開いて書いてある文章を詠め!」
もう腕が限界の翔琉阿が声を荒げて智樹を急かした。
「おお、解った......脈動する様、龍の如く──」
巻物を開き、智樹はそれに書かれている文章を一文字一文字しっかりと詠んでいく。さらに神歌を読んでいる最中に制服の中に入っている枝が突然動き出し校舎の方に吸い寄せられるように向かって行った。
「もう、無理」
遂に翔琉阿の腕が限界になり智樹が神歌を読み切るよりも先に手を放してしまった。
「うわああ! そ、その名を“龍動木”!」
「──ガッシャアアン!」
智樹がそう言うと校舎の壁から口を開けている横向き龍の頭の形をした大木が爆音と共に生えてきた。さらにそれは智樹へ向かって行き、智樹を優に呑み込める程に大きく開いた口を閉じ、嚙みついた。
「あああ! ......あれ? 助かったのか?」
木製の龍に噛まれた智樹だが痛みは無く逆にストッパーとなり落ちるのを防いでくれている。
「悪い智樹、大丈夫か?」
龍の頭の上に降り、智樹に手を差し伸べながら翔琉阿は心配そうに言った。
「何か助かったけどこれなんだ?」
翔琉阿の手を掴み、龍の頭の上に登りながら智樹は言った。
「これはお前がさっきの巻物に書いてあった文章、まあ神歌て言うんだがそれを詠んで智樹が想像したイメージ。それがこの木で出来た龍、“龍動木”。でこのイメージを神術って言うんだ」
「へー成程なー」
翔琉阿の話を聞いて智樹は解ったような解ってないような曖昧な返事をした。
『二人とも早くそこから退いた方がいいぜ』
青龍がそう言うと不意に“龍動木”が揺れだした。
『こんな規模の神術なら神気を大量に使う。そう長くは持たないぜ』
「あんた達すぐ“煙々羅”に乗って!」
「お二人大丈夫ですか?」
タイミングよく“煙々羅”に乗っている千影たちが“龍動木”のすぐ近くに来ていた。翔琉阿と智樹は“煙々羅”に飛び乗り“煙々羅”は校舎から離れる。“龍動木”は翔琉阿達が飛び乗った後すぐに木が解かれて校舎の中にいき、壁には大きな穴だけが残った。
まず投稿遅れてすみません!
そして読んでくださったみなさん本当にありがとうございます!
11話は今日の21:30に出す予定なので是非そちらも読んでくださると嬉しいです!
感想、いいねなどくださるとありがたいです!