奴隷の首輪
「お姉ちゃん達これ本当にマイが食べていいの」
マイが起きてから近くの食堂に入った。街がひどい損害を受けても営業をしないとお金は集まらないからと被害が少ない店はお店を開いていた。メニューを見てお子様ランチセットというのがあったのでそれを注文したのだが気に入ってもらえてよかった。目をキラキラとさせてフォークを握るマイの動きが止まる。
「どうしたの」
心配そうにリオンが聞く。
「だってこんなの食べたことなかったから、お母さんに食べさせてあげたかったな」
「マイは今何歳?」
「10歳」
「私は誰かのお母さんになったことはないし、私の母様は物心つく前に亡くなっちゃったからわからないけど多分親は自分の子供が喜んでる姿が見たいんじゃないかな」
「そうかな」
「そうだよマイのお母さんは優しいでしょ?」
「うん!」
マイは吹っ切れたように音を立ててご飯を口に入れる。食べきったら口の周りはソースやご飯がついていてそれを私とリオンが取ってあげる。
「食べ終わったし、ギルド行こう」
「何をしに行くの」
「マイの首輪取れる人を探そうと思って」
「これ取れるの?」
「聞いてみないとわからないかな」
ギルドに行くと掲示板は依頼書で埋め尽くされていた。人探しから建物の修復どれもあの紫色のワープフォールのせいだろう。冒険者はそこから報酬のいいものを見極めて、受付に持っていく。それにしても多くの人が亡くなっている。今レムスタンで掲示されてるだけでも死者千人、行方不明者二百人、重軽傷者5千人。果たして全国でどれくらいの人が死んでしまったのか。
「冒険者の皆さん紫色のワープフォールの原因が判明しました。魔王です。魔王が本格的に目覚めた結果魔物が活発になり、魔王が各地に送り込んだようです」
周囲がピリつく。魔王はかつての騎士が呪って生まれた存在。魔王が覚醒すれば、冒険者の需要が高まる。
強い者からしたら稼ぎどころ弱い者からしたら死のリスクが増える。勇者はすでに誕生している以上不安になる必要はないのかもしれない。だけど、討伐が長引けば今回のようなことが増えてレムスタン自体が壊滅の危機に陥ることだろう。
「魔王って何?」
マイは魔王を知らないらしくピンときていないみたい。
「可哀想な災厄の人間だよ」
近くにいた冒険者がそう答える。可哀想か……魔王に対してそんな事を言う人は少ない。生まれた瞬間は私達と同じ人間。それがいつどんなときかもわからずに魔王になる。親はどんな風に思うのか突然魔王となった子供を見て
「なら救ってあげないとね」
「え?」
「だってお姉ちゃんはマイを助けてくれたでしょ」
考えたことがなかった。魔王を救うことなんて。本来は討伐すべき対象そのことに疑問なんて思わなかった。これが固定概念を持つ大人と子供の差かと急に老いを感じた。
「魔王だからって殺されちゃうのは可愛そうだもん」
「そうだな苦しんでるやつは救ってあげないとな」
私が一番思っていた事じゃないか。女だからと認められずに一度の過ちで死にかけた。魔王だってきっとそうだ。魔王になっただけで命を狙われて性格が変わってしまうのに
「でも先にマイをちゃんと救わないとね」
「え?もうマイは十分」
「まだ首輪だって友達だって子供の当然の権利をあげられてないから」
ギルド嬢に聞いた。
「奴隷の首輪はどうやったら解除できる」
「私はあまり詳しくないので奴隷商を紹介しましょう」
場所と名前を教えてもらい向かった。
そこは街からあのリオンが凍らせた森だった。氷は溶けていたがここにそんな場所があるのか
森をしばらく散策すると気が不自然に曲がり家ができている場所があった。
「すまない。ハダルはいるか」
「私がハダルですよ。何用でお客様」
家から出てきたのは白いハッド帽子に赤と黄色の白衣に丸メガネの男がぬるぬると出てきた。
そして見定めるかのように私達を見て、頷く。
「そこの奴隷を売りに来たのですね。最強冒険者さん」
「いや、この首輪を外してほしい」
「なるほど少し見せてもらっても」
ぬるりとマイの近くに来て首輪に触れる。これは、これはとクスクスと笑いながら離れる
「この首輪の契約をしたのは私ですね」
「なら取れるか」
「無理ですね。私は確かに奴隷の首輪をつけましたが契約したのは商人です。その方が死んでいれば私でもこの首輪を取ることは可能ですがどうやら生きているようですね」
商人は生きているのかならば探さないといけないな。この契約を解除してもらわなければ
ハダルはまだクスクスと笑っている。気味の悪い男だ。
「それは諦めたほうがいいですよ。契約主が生きているのならレムスタンの法律上あなたはその商人の所有物です。私がつけたその首輪には命令を強制できるので商人が本気で探せば簡単に見つかります。あなたは所有物を奪った強盗罪ですよ。これ以上評判を下げたくないならこの奴隷は置いていくことをおすすめしますぞ」
「それはできない。マイを商人に引き渡すことはな」
「そうですか」
突如首輪が紫色に光りだす。マイは電気を浴びたように痺れだし叫んだ。
「何をした!」
「私は何も商人が呼びかけたのでしょう。ねぇ私に預けたほうが良いでしょ」
「アルスこのままじゃマイが死んじゃう」
「私に預ければこの痛みからは解消させられますよ」
私は結局ハダルに預けた。商人に位置情報を送っているようだ。預り金がぼったくりなほど高かったがマイの苦しそうな姿を見ていられなかった。私達は商人が来るまで待つことにした。中に案内されると檻に閉じ込められた魔物や廃人となった者がいた。
「カオスだな」
「アルスさんこちらの奴隷を買いませんか」
そう言って見せられたのは大量の獣人奴隷だった。
「この前の一件で獣人が大量に持ち込まれまして私の管理に余るのですよこのままじゃ死んでしまいます」
このやり手が……私は獣人たちを開放することにした。




