奴隷の獣人
リオンと合流してレムスタンに戻ると街は甚大な被害を受けていた。建物は半壊していたり、血を流しながら倒れている人、騎士が救助活動に回っている。魔物は倒したみたいだが騎士の数が少なすぎる。ここは王都だというのに。
「多分私達に多くの騎士を使ったからだよ」
「それもあるが、、、貴族たちの方に回しているからだな。王城はともかく貴族の領土もほとんど被害がない。逆に裕福な人達が少ないところは大きく被害がでているな」
「私達はそっちを助けよう」
路地裏を抜けた先に住む人達は見ていられなかった。獣人と思われる子どもたちを庇うように親が血を流して死んでおり、奴隷である彼女達を入れていたであろう鉄格子は炎を受けたのか茶色に変色され中は何人かの焼死体が黒く残り、シミになっていた。商人は逃げたのかこの場にはいなかった。
「生きているやつはいるか!」
「誰かーお母さんが……お母さんが」
泣きながら助けを求める声が壁を反響して聞こえる。駆けつけると建物が崩れたのか下敷きになる獣人の大人となんとかどけようと力を振り絞るその子供らしき姿が見られた。リオンが魔法でレンガの塊を持ち上げる。獣人を運び出そうとするとその体の下半身は潰れていた。もう、今にでも死にそうだ。これはもう魔法でも治せない。
「お母さん!ヤダ、ヤダ死なないで!!!」
獣人の子供が親に寄り添う
「お姉ちゃん魔法使えるんでしょ、、、治してよ!私にできることなら何でもするから……おね、がい……」
「マイ……手を握ってくれる、、、」
「おかあさんおかあさん」
「あなたを一人にしちゃうダメな親でごめんね」
「お母さんはダメな親なんかじゃないよ。私大好きだもん。お母さんが作る蒸かし芋も温かい手も笑顔も全部大好き」
「ありがとう、、、マイ」
獣人は泣く子どもの流れる涙に触れて力なく腕を落とした。泣き崩れる獣人の子供は親の亡骸から離れることはなかった。回復魔法はその人の体力を奪う。死にかけの人に使えば死を招くだからリオンは何もできない
私もどうしてやることもできない。ただ、その子を見守った。よく見ると彼女は首に鉄の首輪がはめられていた。奴隷なんだろう。露出された腕は紫色になっている。病気だ。リオンも気づいたのか近づく。
「ねえその病気治してもいいかな」
「治せるの?」
その問いにはトゲがあった。母親は治せなかったのに私のは治せるのかとやり場のない気持ちをぶつけることしかできない小さな子ども。泣くことに疲れながらも親から離れたくないから腕を掴むその姿に私達は何も言えなくなる。
「いじわるいっちゃダメだよね。ごめんなさいお姉ちゃん助けようとしてくれたのに」
ずっと泣いていた子どもは私達の想像よりも大人だった。悲しくてしかたないだろうに。
「治すね」
リオンは子供の肌に触れて魔法を唱える。みるみるうちに肌の色は元の肌色に戻っていく。ただ、その色はとても健康的とは言えない青白さがあった。
「お母さんを埋めてあげないと」
「私達も手伝うよ」
まだ子どもだ。親を見ればまた涙が溢れていた。嗚咽を我慢して枯れない水を亡き母の頬にこぼしている。
「ごめんねお姉ちゃん達……まだ動けそうにないよ、、、」
「いくらでも待つよ」
彼女が次に動けたのはもう日が沈んだ頃だった。もう大丈夫と言って立ち上がり、私が用意した布と棒で作った簡易担架で丘まで運ぶ。リオンが魔法を使って埋めるための穴を掘ろうとしたが彼女が止めて一人で掘り出した。私にできることはこんなことしかないからと一生懸命掘ってお母さんを埋葬した。彼女は手を合わせながら眠ってしまった疲れ切ってしまったんだろう。私達は宿屋を借りて三人で寝た。朝になったらたくさん美味しいものを食べさせよう。私達にできることは何でもやろう。救えなかった母親の代わりに