出会いと過去の話
レムスタンのギルドで私達はチーム募集をかけた。国の中心であるレムスタンにはつわものが多くいる。
応募要項は女性であるだけ年齢、生物、職種は問わない。これを見たギルドの職員は笑っていた。元入りたいパーティー上位にいたやつがついに誰でも良いと言い出した。落ちたと見下す笑いだった。
次いでではあるがいくつか依頼を受けてきた。資金はまだ余裕はあっても無限にあるわけではない。
森の中での依頼中空気が変わった。空が紫色になった。空は切り裂かれたようにワープフォールのような黒い線が現れた。魔物が次々と黒い線から飛び出してくる。ゴブリンにオーク、ウルフ、ワイバーン、などの低級魔物が森や街、村に遠慮なく降り注ぐ。唖然としている隙きに先が見えないほど囲まれている。
こんな事今まで一度もない。
「リオン本気の氷魔法で全員いける」
「いけるけどアルスが死ぬ」
「ならやってもいいよ」
「了解」
リオンは氷の魔女と言われるほど氷の魔法の才を持っている。彼女の特質する点はもう一つある。ユニーク魔法と呼ばれるリオンだけができる魔法があること
「フレイム」
剣の舞で身体能力を向上させ体を温める。これでも体は凍るだろうが凍れば死ぬわけではない。すぐに魔法をかけてもらえば生きられる
「神なる氷の中で眠れ絶対零度」
寒気を感じれば最後もうその時には全身凍っている。それが絶対零度。私も凍った。意識はまだある。
リオンが炎魔法を無詠唱で唱えて氷が溶ける。絶対零度の唯一の弱点はすぐには死なないこと。体が完全停止するためその弱点も機能してない。リオンがたち眩む。
「大丈夫か」
「さすがに森全体を凍らせたからね倒れそうだよ」
「この近くに村がある私はそっちに向かうリオンはここで休んでも良いぞ」
「そうさせて」
森を抜けた先にあるのは依頼をしていたおばあさんが住む村があったはずだ。あの村には冒険者がいない。
急がなければ。全力で走る。村にはやはり魔物がいた。手遅れかと思ったがそこには一人の青年が弓と剣を使って駆け回っていた。魔物を倒すことを優先するのではなく村人を守り避難させることを重視しているからだろう。
「協力するぞ」
「ん⁉頼む」
このレベルの魔物達なら倒すことは余裕だ。やるべきは素早く倒すこと。魔法よりも一回で斬ることだ。
防具を脱ぎすせて剣で急所を狙う。ゴブリンとオークは首を狙い飛んでいる魔物には空気を切って飛ばすエアースラッシュで羽を斬る。きりがないな。
「避難が終わった」
「あと二十くらいだな」
男は弓に矢を三本ずつ引いて放つ。三本ともそれぞれの魔物に見事に命中。腕は相当あるようだな。
弓をここまで極めるものは少ない。冒険者だと仲間に選ばれにくいうえに戦闘で当てるのがむずい。
このレベルは見たことがない。貴族ならここまでやる人もいるかもしれないがここにいるはずもないか。
ほとんどこの人のおかげでこの魔物たちを早く倒せた。
「君の剣の腕前すごいね。助かったよ」
「いやあなたの弓の腕前は冒険者じゃ異常だよ」
一瞬目を大きく開いた男は弓を握って応える。
「弓は一人じゃ何もできないよ。人を守りながらならきれいに急所を狙えない。さっきだって君がいなきゃなんにもできなかったよ。守ることもね」
「私はそう思わない。君なら私がいなくても守れてはいたさ。君にはそのくらいの実力は必ずある。君の手や腕を見ればわかるが才能だけではない。努力を積んできた体をしている。もっと自信を持ったほうが良い。できれば仲間を増やしたほうが良い」
男は沈黙した。静かに何かを噛み締めて
「ありがとう君のパーティーに入れてくれないか」
「すまない。それは君のためにもできないよ他の仲間もいるからね」
「そうかそれは残念だよ。そういえば自己紹介をしていなかったね。僕の名前はホルス」
名字がないということは貴族ではないのか
「ホルスか良い名前だ。私の名前はアルス・ルーカスよろしく」
「じゃあ避難させた人たちをここに呼び戻しにいこう」
避難場所はここから少しだけ離れたところだった。突然の出来事に怯える村人の中で長老らしきおばあさんが出てきた。
「ありがとう。本当にありがとうあなたはアルスさんですね依頼を受けてくださった」
「はい」
そう言って私達の手を握りしめた。私達はおばさんが手を話すまで静かに待ち続けた。その後はむらまで一緒に戻り今日はここで過ごしていいとのことだった。リオンならいずれ来るから心配ない。それにそらは依然として紫色だ。時間もわからないしもう一度魔物が現れるかもしれない。今日はここにいよう。
「アルス少し話をしないか」
「ホルスか、構わないぞ」
気づけば空の色はいつもどおりに星と月が顔を出していた。結局今日のあれはなんだったんだろうか
ホルスは外に出るときも弓を背中にかけていた。
「ごめんな今日あったばかりなのに」
「いいさそれでどうしたんだ」
「君の話を聞きたくて」
「私のか?」
「君がどんなふうに過ごしてきたのか」
私の過去か……初対面の男に話すことなのかわからないが口を開けばすんなりと出てきた。
私の幼少期はルシアに作法と経営の勉強をさせられていた。そこで社会を学んだ。世の中は男だけが活躍して貴族の女は良いところに嫁げるように気品を保ち美しく気に入られなければいけない。最初は受け入れていたし、おかしいなんて思わなかった。でも一五歳のときにお父様がパーティーに連れて行ってくれた。そこで一人の女性を見た。周りからは煙たがれていたけど凛々しくてそんな事気にしてないように堂々如くてかっこよかった。私はこの人に憧れた女王を目指している。そこで初めて疑問を持った。どうしてこんなにもすごい人が煙たがれて活躍できないのか。だから私は考え方を変えた。英雄になろう。そうしたらきっと世の中変わるはずだから。そこからすぐに試験学校に入った。女性の人数は一割ぐらいだった。驚いたのは男だけではなく女にも嫌われたことだった。だけどリオンと出会い親友になって夢を共有した。二人で剣と魔法どちらも最強になろうとそしていずれは英雄になろうと。教員たちも最初は正しく評価してくれなかった。それなら圧倒的な結果を出そうと毎日朝から夜遅くまで練習して認めざる負えなくした。今は失敗して追われる身だけどまだ諦めていない。自分たちが英雄になることは諦めたけれど
そんな話をアルス・ルーカスとわからないように変えて話した。
「君はすごいね。本当に僕なんて逃げてばっかだよ」
ホルスもまた口を開いた。
「僕には尊敬している姉がいてとにかくかっこいいんだ。それで家業は姉のほうが向いているから任せたいと話したんだ。姉はやる気があったんだけどね親が認めなかったよ。他の人も僕にやらせようって家業の勉強をさせられてそれが嫌になってね逃げ出したんだ。だっておかしいだろ僕よりも向いていてやる気があるのに女だからそれだけで諦めさせるなんて」
「それは姉が可哀想だな。がんばているのに認められないで弟ばかり見られる」
「そうだろ」
「ホルスでもな君の家が何をしているのかわからないがその悔しさを抱いているのは姉だよ。弟はなれる権利があるのに頑張っていないなんて姉を安心させることも大きな一歩だぞ。君が思ったように姉に弟に任せたいと思ってもらえるように。それに君が家業を継げば君の姉を良い場所を与えることもできるんじゃないか。そうでなくても逃げたところで周りは変わらない。向き合い方を考えてみたらどうだ」
「……君は僕の姉みたいだよ。そうだね僕も向き合ってみるよありがとうアルス君も英雄になれると良いね」
「もちろんだ」
朝が来るまで話したり、狩りをしたり、弓を教えてもらったり、近くのお店で買い物をした。夜でもやっていてよかった。ご飯を食べて朝が明けてからは街を練り歩いた。時間が経つのはあっという間でもう昼過ぎになっていた。
「今日はありがとう君のおかげで何かが変わったよ楽しかった」
「私もだよ……」
「これよかったらもらってくれないか」
「ネックレス?どうして」
「そこで見つけてねアルスに似合うと思って」
「返すものが……そうだこれを変わりにあげるよ」
「ペン?どうしたんだこれ」
「私の家は一〇歳の時に特注で作ってもらうんだ」
「良いのかい大切なものだろ」
「少しではあったけど君はもう大切な人だ。私も君のおかげで頑張ろうと思えたありがとう」
別れがどうしても惜しくてお互いに離れられない。そんな時に遠くリオンので声がした
「アルスーやっと見つけた」
「仲間が来たみたい」
「そうぽいね……じゃあさようならきっといつか会えるよ」
「そうだね」
ホルスが背中を向けて遠くへ行ってしまう。自然と伸びた手は届かずに空を切った。リオンの声もきこえないまま