真玉のルビー
「ミカル海ついたな」
「一ヶ月もかかったちゃったね」
この星の面積の約七割を占めるレムスタンの南側であるソルド州に位置するミカル海のある街は林業や農業が盛んな街で冒険者はほとんどおらずギルドも小さい。ただ、冒険者や騎士を目指さない人たちからの人気は高く、レムスタンの都市であるライムに次ぐ人口を誇っている。海があるのに漁業が盛んではないのは凶悪な魔物が多く魚や貝は食い尽くされてほとんど生息していないため漁師がいないのだ。
この街にはミカル海を除いて強い魔物もいないからここに来るのは私もリオンも初めてだ。
「じゃあ早速ギルドで手続き済ませて向かおう」
「いや、今日はやめておこう。さっき来る途中で見たが波が荒い」
「どうするの」
「この街に来ることも滅多にないだろうし、宿を取ってから美味しいものでも食べながら散策しようよ」
「いいね!それここの野菜美味しいって有名だもんね」
「野菜は遠慮しようかな」
「ダメだよ。アルスは肉と魚しか食べないんだから」
人口の多いこの街は栄えているがほのぼのとしている。皆が裕福なのも理由の一つでこれ以上発展する必要を感じておらず、命の危険だってそうない。幸福度でいうならこの街が一番良い。
「ここはほんとにいいね」
「そうとも言えない」
「え?」
「他の街のことを考えてないんだよ。豊かな資源と資金で安く輸出してるから他の街の品が全然売れない今まで旅してきたところの野菜や木材ほとんどここので取れたものだったの知らない」
「そんなところ見ないよ」
「それにここの商品は信用値が高いだから貴族もここのを買う。他の街は溜まったものじゃないだろうな」
「なるほど…そんな問題が」
だから他の街の人達はこっちで働きたがる人が多い。でもそんな簡単に移住できないのが現実としてある。
他の州に人がいなくなればそこを収める領主が税収を集めることができないから禁じていたり、ここの土地にはすでに住める土地がほとんどない。発展を望んでいないから畑や森を削って土地を広げるつもりもなさそうだからこの街に移住したければここに住んでいる人と結婚するしかないだろうな
「ご飯食べたらどこ行く」
「観光地ではないからな。森で狩りでもしてみるのもあり」
「いいねそれじゃあ弓を買ってどっちが多く狩れるか勝負しよ」
野菜をふんだんに使ったスープと野菜炒めなどを食べてから荷物を置きに宿に戻る。
簡単な狩りだし防具はいらないだろう。ここ一ヶ月間は馬車に揺られているだけだったしいい運動になりそうだ。ギルドに断りを入れてから森へと向かう。
「やる気満々だね」
「魔術師には負けないよ」
「飛び道具の扱いは私の方が成績良かったの忘れた」
「狩りは動きがあるからね。ただ的に当てるのとは違うよリオン」
「争うのは数で良いね」
「もちろん時間は一時間それ以外はルールはなし行くぞ」
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「どれだけ狩った」
「うさぎ10匹シカ3匹」
「へー結構狩ったじゃんでも私の勝ちだねうさぎ7匹シカ4匹狼1匹イノシシ3匹」
「なんでそんなでかい動物をこんな弓で仕留められるの」
「それはこれも使ったからだよ」
「剣使うのはズルだよ。私だって魔法使えばこの辺の動物狩りつくせるもん」
「私確認したよ数と時間以外のルールはなしだって」
「そんなー」
その日は明日に備えて早く眠ることにした。ミカル海の洞窟は一度海の中に入らないと行けないから体力を使う。それに防具は最低限になる。リオンの魔法で濡れないようにしたりはできるが泳ぐのに防具は重すぎる。朝起きると朝食を食べてから海に行く最終準備をする。ギルドに行って依頼内容を伝えルートを決める
無作為に行けば下手をすれば死ぬ。ルートを決め終わるとミカル海に行き準備運動と魔法をかける。空気の供給と水に濡れない魔法をかけて泳ぐ。海水内は透き通っていてきれいではあるがそのせいで余計に怖さがある。下を見れば赤く光る瞳がこちらを見据えている。なるべく刺激しないように泳いで洞窟までつく。
「とりあえず予定通りだね」
「問題はこのあとだよ」
暗く先の見えない洞窟からは覇気がただよっている。中を歩くと一本道でその間生物を見ることはなかった。ここの主が殺したのか強くて誰も寄り付かないのかわからないが好都合ではある。洞窟を進むと青い光が見える。そこは大きく広がっている。地面が大きく揺れるのを感じると上からここの主であろう魔物が飛んで降りる。前身青く目は白い蛇のような体にドラゴンような顔。体からはムカデのような足がいくつもはえている。
「キモいね…」
「でも強い」
「名前とりあえずムカデオオトカゲでいい?」
「良いよそれで」
アイコンタクトを送って動き出す。腰から剣を引いて大回りに動く。こんな魔物見たことない。ムカデオオトカゲが動く。私に向かって大きなを揺らしながら。足は使わないのかよと心でこぼした時にはもう懐に入られていた。自由に動く足がアルスの胴体を横から殴る。アルスはガードできないまま壁で受け身を取る。
胴体からは血が出ていた。内出血じゃない?刹那、視界が揺れる。毒!体内から血液が口へと戻ってくる。
「大丈夫⁉」
リオンがで回復魔法をかける。同時に毒消しをしながら。彼女は魔術師としては最強クラスである。回復魔法以外は無詠唱で使える。それを見たムカデオオトカゲはリオンに向かって走る。リオンは魔法で地面を液状にしてムカデオオトカゲを足止めして炎魔法を打ち込む。
「カエンホウシャ」
ムカデオオトカゲは口から水魔法を吐き出すして打ち消す。今度は液状にした地面を先端を鋭利にして硬め突き刺す。
「シザーロック」
悲鳴を上げるムカデオオトカゲ。その背後からアルスが走り込んで剣を振るう。光に包まれた剣は切り裂いた皮膚から爆発していく。
「ランスロット」
ムカデオオトカゲは激しく動いて岩が刺さったままリオンに向かって走る。
「避けろリオン」
その叫びも虚しくリオンが避けるよりもはやく衝突されてしまう。気持ち悪い本数の足がいきなり伸びる。そのままアルスに向かって襲いかかる。触れたら毒でやられる。なら全部ぶった斬るしかない。足を開いて剣を握り目を閉じる。ムカデオオトカゲの足が一メートル圏内に入った瞬間に目を開いて剣を振るう。目に斬撃が映るよりも疾く次々に斬れていく。
「奥義……疾雷の歪み」
全ての足を斬ると高く飛び上がり落下の勢いをのせて胴体を断ち切る。反動によって腕から血が吹き出す。
剣が手から離れる。ムカデオオトカゲは死んでいない。まるで尻尾のトカゲ切りをしたかのように逃げようとする。まだ生きているのか……今の私では追いつくスピードも息の根を断つ腕力も残っていない。
「任せなよアルス……エンバーポレイション」
逃げていたムカデオオトカゲの動きがパタリと止まったかと思うともがき苦しみ出す。体から水分が蒸発して干からびていく。
「あのくらい弱ってたらこんくらい余裕よ」
「リオンは体を鍛えないからさっきみたいなの避けられないんだよ」
「可愛くないこと言ってるとヒール使わないよ」
「頼むよ。さすがに体が動かない」
「ヒール」
体の傷がふさがっていく。しかし、この世の回復魔法はさほど便利ではない。回復はできても血液は戻らなし、回復魔法をかけられた人間の体力を使ってしまうからだ。体力がある私でもさっきみたいに毒をもらって大きな怪我を負えば余計に体力を失う。
「ねえ見て」
リオンの指差す方向には赤く輝くルビーの原石があった。あたりを見渡してもその一点にしかなく20センチ程しかない。ただ、今まで見た中で一番キレイと言える代物だった。それを取ってギルドに戻り報告を済ませて馬車に乗る。ここから一ヶ月かかってしまうので休む暇がない。私達はゆっくりと馬車に揺れてマリンさんのいるギルドへと戻るのであった。




