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勇者たちの歩み

僕の名前はルビン。勇者だ。魔王の戦線布告によってレムスタンは多くの命が失われた。

だから、仲間とともに占領地帯となったカーネル連合国に向かっている。この地はレムスタンの国以外によって構成された独立国の集まりで全国統一を目指すレムスタンにとっては目の敵であった場所だ。そんな国が覚醒した魔王たちによってたった一夜にして滅ぼされたと聞きつけた。それが本当なら魔王の力は予想していた実力を超えている。

僕らのパーティーメンバーは全員で四人。幼き頃から槍の神童と呼ばれているアレン・ラスクに物理型魔法の発見と実用化をさせたマロニエ、薬の知識と豪快な射撃で遠距離そして近距離からも攻撃する脳筋弓使いのアサミ・バーバラと僕の男二人女二人だ。それぞれ色々な思いを持って勇者に志願した。


「カネール連合国が崩壊されたってほんとうなのか?」

「どーやろなーでも、いくらなんでも全域ってことはないやろ」

「あると思うですよ。あの空間歪形レムスタンよりもカーネル連合国の方に多く出現したらしいですから」

「行ってみればわかるよ」


空間歪形(くうかんいびつなり)の名称はマロエニがつけたものだ。文字通り空間が裂けて歪むからと言っていた。マロエニは物理型魔法の権威でもあるから発信力が強い。すぐに呼び名が根付くだろう。カーネル連合国の領土に行くには海を渡らなければいけなかった。マロエニが船は嫌だと頑なに譲らなかったためマロエニが物理型魔法で作り出した大きな発射装置に全員で掴んで海を渡ることになった。


「こんなことに物理型魔法を使うなよバカ!こっちのほうが怖いわ!」

「ねぇこれ途中で落ちないよね!結構距離あるやろ」

「心配しすぎです。大丈夫なはず……です」


物理型魔法とはないものを生み出す魔法だ。生命を生み出すことはできない。普通の魔法と違うのは属性を扱うかどうかだ。物理型魔法は主に剣や弓などの武器を生成してそれを操って攻撃する。その一方魔法は元にある武器に属性合わせて戦ったり、火や氷などのエネルギーを放って攻撃する。物理型魔法の利点は生成するのに体内にある魔法を使うためのエネルギー源であるマナを大量に使う代わりに一度作れば操ることにはマナをほとんど消費しないことだ。そうはいっても何十キロも海をこれで渡るのは不安だ。絶対に嫌だ。


「しっかり掴んでくださいね」

「ちょっ待って!!!」


パチンコは勢いよく飛んでいきそれぞれの重さが均等ではないため横に回転しながら進んでいく。水面ギリギリをまっすぐ進んでいくせいで海の表面を風がきって水しぶきが降りかかる。結局ついたときには僕とアレンは吐いた。みんなずぶ濡れになった。


「もっと角度をつけるべきでした」

「帰りは船な」

「そうやね」

「そうしよう絶対に」

「えー」


国の最端にいるといってもこの国には魔王がいる。気を引き締めないと。僕らは勇者だから。

回復したところで村を探した。この辺なら助かっている人もいるかも知れない。最端よりも都市部をねらうだろうから。しばらく歩くと家が立っているのが見えた。見た感じ建物が崩壊している様子もない。


「やっぱり全域を一夜で殲滅させるなんてむりだったな」

「住んでいる人に一応聞いてみよう」


家が建てられているとはいえ数軒しかなく村とも呼べないものだった。家をノックしても呼びかけても反応がない。こんな場所に人はやっぱりいないのか。いや、畑もたがやかされている。この場から少し離れると人影を見つけた。近くに川が流れてるようだ。


「お、いるじゃん」


アレンが走って声をかける。


「おじさんちょっと、、、」

「離れろ!」

「え?」

「ウガあああ」


アサミが男の頭に矢を放つ。男は頭を撃ち抜かれた状態でアレンの腕を力強く握る。その握力は人間のものじゃない。男の肌を見てそれはもう人間ではないと確信した。体は紫色で肌は爛れている。血の色は黄色で撃ち抜かれた頭から流れ続けている。


「身体強化、筋力増量、素早さ増進、自己修復能力増量」


とっさに仲間と自分にバフをかける。アレンはバフ効果によって男よりも力が強くなりすぐさま引き離して距離を取る。その瞬間にアサミとマロエニが弓を全身に打ち込む。男は地面に倒れ動かなくなった。異臭を急速に放つ。木々が揺れて男が倒れたところにあった草木は腐敗した。匂いが充満したかと思うと複数の足音がこちらに向かって走ってくる。姿が見えた。それはこの男と同じ姿をしたものたちだった。子供に女もいる。僕らはそれぞれに背中を任せ武器を抜いて戦う。普通の人間なら死ぬ傷を負わせても死なない。力も素早さも常人は超えていたがバフ効果で対応できた。また匂いが漂うと僕らは武器をしまってさっきの家に勝手に逃げ込む。


「どうなってんだ」

「あれを見てください」


マロエニが指さしたところには写真が飾られていた。きっとここに住んでいた人の写真だ。そしてさっきの紫色の人達だ。気味の悪さと心のもどかしさの一方頭は冷静に物事を処理して結論を出す。


「人間を魔物にしたのか」

「合理的ですね。これなら味方を増やしながら支配できます」

「なんなんだよそれ人を魔物にするとか」

「仲間が欲しかったのかな」

「仲間とも思ってないだろこんなの駒でも増やして遊んでるに違いない」

「アレンにはわからんやろな。仲間がいない気持ち」


アサミはどこか遠くを見つめてこういった。魔王ちゅうやつも元は人間やろ。一番最初に騎士の呪いにかかって魔王に変えられた可哀想な子供。魔物いうても話ができるわけでもなく味方であっても仲間でない集まりやと思う。そんな元は子供の人間が同じだった人間の幸せそうな姿を見たら仲間になりたいと思うのが普通やろな。もしくは妬みか嫉妬。そんな感情抱いたとしたら人を魔物にしたくなるやろなと思ってな。


アサミは薬剤関係の名家の生まれ。アサミは優秀だったが性格がバーバラ家とは合わなかった。気品や威厳を大切にするがゆえにアサミは嫌われていた。それに長男がアサミを超える吸収力と立ち振舞をしていたせいでいらないもの扱い。愛情を注いでもらったことは一度もないと本人が言っていた。ずっと寂しさを抱えて生きてきたから強くあろうとしている。だから仲間が欲しくて冒険者になったと言っていたアサミにとってもしかしたら魔王に自分を重ねたのだろう。


「だからって許して良いことじゃねえよ。こんなこと」


それ以上誰かがこの話をすることはなかった。強烈な匂いは体や服に染み込んでしまったみたいだったから僕らは水浴びをして替えの服を着て眠りについた。

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