いじめられた雪女
雪女が好きです。
村がありました。
冬に吹雪が続くと、村人は雪女の仕業だと口々にいい、吹雪が収まるのをじっと待ち続けました。
ある日、吹雪が収まり晴れ間が見えると、村人はここぞとばかりに外へと出ました。
雪かき、買い物、仕事、それぞれが思い思いの用事を済ませようと急ぎました。
「雪女だ!」
山のふもとに若い声が響きました。
白い、服とも呼べぬような布を纏った女が、一人、うずくまっておりました。
若い衆がよってたかって雪女をなじり、そして石を投げました。結構痛めの石です。
「よさないか!」
それを見た青年が一人、声を上げて雪女のそばへ駆け寄りました。怪我は無いかと雪女の顔を見ると、顔からは血が僅かに出ておりました。
「この吹雪でじいさまの家が潰れたんじゃ! その雪女は生かしてはおけぬ!」
若者が一人、怒りを叫びました。
「しかしこの者に仕返しをしたところで、同じ事ではなかろうか!? 憎しみで憎しみは消せぬ!」
青年は、若い衆をなだめようと試みました。
雪女を殺めてしまっては、雪女の一族の怒りを買うと思ったのです。
「いや、そいつは生かしては帰さぬ」
若者が石を構えました。
「……だから、だからあの時お前を見逃すべきじゃなかったのじゃ」
若者の目に涙が見えました。
石が手からこぼれ落ち、雪の中に埋まりました。
「…………」
「皆の者、すまぬ。この雪女は先日村に迷い込み、オラの家に来たんだ。オラは迷った。だが、オラにはこの雪女を殺すことが出来なかった……一目で好きになってしまったからだ!」
「……あんた」
「決めた。オラは村を出てお前と暮らす!」
「あんた!」
若者と雪女が手を取り合い、強く抱き合いました。
そして一礼して村を出て行きました。
青年は思いました。
主人公お前だったかんかい……と。
青年は考えました。
普通なら、俺に石がぶつかって『人間どもめ!』的なパターンじゃないのかい……と。
青年は、二人が消えていった道の先に向かって石を投げました。それも結構痛めの石を。