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第6話  襲撃者との攻防

手配中の黒魔導士、グレゴリー・ロドリゲスに襲撃を受けたノアとラヴィーネ。呆れた様子のノアと、標的を見誤るグレゴリー。はたして、二人の勝敗は…?

いい度胸じゃねえの、クソ餓鬼。いいぜ、ちったぁ遊んでやるよ」


「はてさて、遊ばれるのはどちらだろうねえ? いや、”弄ばれる”と言った方がいいか」


「随分と生意気だなぁ? 立場分かってんのか?」


「ああ、分かっているとも。私が、俺が狩人(ハンター)で、お前が獲物(おもちゃ)だ」


 瞬間、再度銃声が響く。先程と違って一回で、フリントロック式ではないようだった。 


 ノアの目に映る黒魔導士が引き金に指をかけてから殆どズレがなかった。おそらくパーカッション式だろう。まだ珍しい方式だ。


「本当にいい度胸だぜ、てめえ」


 グレゴリーは()()()()紅い液体を垂らすノアを嗤いながら、グレゴリーは青いマスケット弾を再装填する。


「……驚いたな。魔技弾頭(まぎだんとう)……どこで手に入れた? 製法は失われたと聞いているが」


 何が面白いのか、グレゴリーは笑いつつノアの問いに答える。それも心底嬉しそうに。


「ははは! ()()()んだよ! 俺特製の魔技弾頭だ! お前らはいつもバカみたいに聞き返してくる! 面白くてたまらねえよ!」


 ノアはグレゴリーの返答に納得し、癒しの魔法と()()()()()()を唱える。


「《癒せ》、《蝕みは去ね》。……まあ、納得だな。かすっただけで魔法毒が体内に入るなんて、聞いた事もない。見事な発想だな。俺が気付かなければ会話や簡単な動きで時間を稼ぐつもりだったんだろう? かませ犬を思わせておいて、とんだ狂犬だな?」


「……それに気付いたのはてめえで3人目だ。ガキ、お前こそ見事なもんだ。認識を改めるぜ。お前は”敵”だ。侮っていい雑魚じゃねえ」


「これまた驚いた。随分と素直なんだな?」


 ノアの疑問はもっともだ。だが、この男は既に傲慢さで敗北を喫している。それも()()だ。裏の世界で生きていくなら、時に傲慢さや仕事のプライドすらも放る必要がある事を、グレゴリー・ロドリゲスは既に学んでいたのだ。


「もう負けるのは御免だ。事実、毒を見破った二人は脅威だった。チンピラでも学ぶんだよ」


「自虐か何かか? まあいいが。それじゃ、三人目からの熱い歓迎をプレゼントしてやるよ!」


 ノアは言い切ると同時に懐に隠し持っていた拳銃を引き抜くと同時に発砲した。一発の銃声が響き、グレゴリーはギリギリで回避に成功する。二人の”脅威”との交戦が、彼に勘を与えたのだ。


「あっぶねえ……。いきなりぶっ放してくるとはどういう了見だ?」


「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」


「!? てめえ! なんだそりゃ!?」


「見ての通り、ただの銃だ。多少改造してはいるがな」


 グレゴリーが驚愕したのは、ノアが持っている銃が異常だったからだ。トリガーガードの先端部分を起点に()()()いる。銃身の内部が露出し、ノアはそこから直接弾を装填していた。それもただのマスケット弾ではない。


 おそらく雷管を取り付けたものだろう。少し細長いものだった。ノアは弾を込めると銃身を元に戻——


「ッ!」


 ——せなかった。動揺し、眺めていただけのグレゴリーもその危険度を理解したのだ。半ば無意識でノアを銃撃した。だが、殺せなかった。何故なら——


「多少の衝撃はあるが、問題ないな。していてよかったボディアーマー。危機管理能力は大事だねえ」


 ——ノアはボディアーマーを着ていたのだ。そう、鎧ではなく、ボディアーマーである。グレゴリーには素材や製法などは分からない。しかし、明確な脅威である事は理解できる。このような状況では、おそらく鎧よりも硬い防具だろう。


 見知らぬ武器、防具……。グレゴリーは捨て石にされたのかと思いつつ、目の前の狩人から逃れる事を第一に思考を切り替える。こいつはダメだ。このままやり合えば確実に殺される。せめてクライアントに文句の一つでも言わねば死にきれない。


「クソが。ここまでなんて聞いてねえぞ……」


 ノアは無表情に、そして無防備に話す。その傍らで、空気になっているラヴィーネが縮こまって木に向かって「なんか私蚊帳の外ですし、暇なんでお話でもしましょうよ」とか言ってるが無視する。今はそれどころではないのだ。


「当然だと思うぞ? 俺はあくまで”寝たきり勇者”だからな。少なくとも()()()()()()()。確かに一部の連中は()()()()()が、世間の風潮を踏まえて話さないのが暗黙の了解だ。知らされないのも無理はない」


「……そうか、そういう事かよ。上手く乗せられたわけか。野郎、道理であんな警告をしたわけだ」


「ほう、いい事を聞いたな。クライアント(依頼人)がいるとはね。で、誰だ?」


「言うわけねえだろ。これでも仕事なんだからな? 信用なくなるだろうがよ」


「ひっ捕らえて拷問でもいいんだぞ? ああ、心配はいらない。どれだけやったら壊れるか……加減は承知している」


「むしろ心配しかねえよバカなのか? 馬に蹴られて死ねぇ!」


 グレゴリーは言い切る前に銃をノアの足に照準、発砲する。何が悲しくてこんな怪物と戦わなくてはならないのか……。世界はやはり理不尽である。


「あっぶねえなあおい!! 歩けなくなったら責任取るんだろうな!?」


「取るわけねえだろがボケ! そのまま通称通り永遠に寝てろ!!」


「言ったな? お前今禁句言ったぞ? 必ず顔面に拳叩き込んでやるから覚えとけ?」


 ノアの額に青筋がぴきぴきと浮かび上がる。それなのに、表情はむしろ穏やかだ。……お怒りでいらっしゃる。傍らでラヴィーネが「やっぱりそう思いますよね? 酷いですよねあの二人……」とか言ってても、顔が死んでいたとしても気にしない。


 例えグレゴリーが視線を向けて「……うわぁ」とか言ってても気にしない。今は戦闘中なのだ。武器を持たないラヴィーネはほっとくべきなのだ。別の意味でもほっとくべきなのだ……。


「おい、どうすんだあれ」


「知らん」


「雑なんだよお前」


「うっせえわ。いいんだよこれで!」


「いいけどさ。もう帰っていい?」


「ダメに決まっとろうが。情報吐いてから天に叩き落してやる」


「天に落とすとか何する気だこいつ……」


「ちょっと上に落ちるだけだ」


「理解できねえ」


 グレゴリーにはノアの言っている事が理解できない。こいつは何を言っているんだ? 意味が分からないし、理解してはならない事だけは理解できる。


 なんなんだこいつは? 本当に人間か? 人間の皮を被った悪魔じゃないのか? グレゴリーはそんな事を思ったが、どこからか「頼むからそいつと一緒にすんな」という声が聞こえてきた気がする。


 何者だろうか? いや、そんな事はどうだっていいんだ。目の前の狂人と比べれば、重要な事じゃない。ただ、やるべき事はある。


 せめてそれだけはやる。あれが広まれば、脅威そのものなのだから。やらねばならない。


「まあいい。やるべき事は分かった!《霧よここに》、《拡散せよ》」


 グレゴリーは魔法を唱える。するとどこからか霧が辺り一帯を包み出し、数十秒ほどで森は霧の中となった。これではグレゴリーを補足できない。


「……ふーむ? そうか。厄介だな……始末に負えるかどうかも分からん。出だしが狂ったな……いや、それか?」


『何をごちゃごちゃと言ってやがる?』『お前の相手はこの俺だぞ?』『意識を逸らす暇があるのか?』


「……残響か? 声を重ねるとは、器用な男だな! ……なら、おそらくは……」


 そう、ノアの言う通りだ。辺りにはグレゴリーの声が響き、そして重なっている。位置を特定する事は難しいだろう。だが、ノアは何を思ったのか、自身の銃を天に向けて発砲した。


 ……パァン!


「なるほど、把握した」


 ノアの発砲による銃声は、顔の直ぐそばで発砲したにも関わらず10秒ほど遅れて聞こえた。声が重なる仕組みはそういう事だろうと、再び弾を込めながら周囲を警戒する。


『もう仕組みに気付いたか』『結構頑張って編み出したんだがねえ』


「いやはや、本当に器用な男だ。これでは攻撃できないね」


『そのまま見逃してくれてもいいんだぜ?』『これ以上は危険すぎるからな』『さっさと帰りてえわ』


「……ならば、逃げ切って見せろ。《収束せよ》、《その姿を変えよ》」


 ノアが詠唱をすると、辺りに漂っていた霧が一か所に集まり、そして水となる。空中から放り出された水は地面に落ち、パシャリと音を立てながら水たまりを作る。更に、ノアから見て前方の木にグレゴリーの姿はあった。


「よお、グレゴリー」


「ははは……冗談じゃねえぜ……」


 ノアは銃を構え、グレゴリーもまた構える。この状況だけを見れば、優位に立っているのはグレゴリーだ。銃を持ち、高所にいる。それだけでアドバンテージとなる実力と銃をグレゴリーは持っている。


 だが、グレゴリーは知った。知ってしまった。クライアント(依頼人)から聞かされていた通りの実力では決してなかった。あの警告をよく聞いておくべきだったのだ。こいつは、ノア・ガルシアは寝たきり勇者などという雑魚ではない。


 怪物だ。侮っていい相手ではない。何をするにせよ、一度退くべきだ。この、緩い雰囲気が自分を油断させていた事を痛感させられる。


「……やっぱり、あんたはダメだ」


「何がだ?」


「俺じゃあんたに勝てねえ」


「そりゃそうだ。彼我戦力の差を計算できるのは冷静な証。優秀だと評価しておこう」


「そいつはどうも。だが、これでお別れだ」


「あ?」


「っ!」


 グレゴリーは一瞬でノアの持っている銃に照準を定めて発砲、破壊した。粉々とまではいかないが、これではもう修理さえ不可能だろう。グレゴリーはそれを確認して直ぐにその姿を消した。木々の中に身を隠し、移動したのだ。


「やはり優秀……いや、有能と言うべきか? あの状況で、あの咄嗟の判断ができるとは……あまり侮れん奴だ」


 ノアは呟き、散らばったパーツやらをかき集める。ここに残すわけにはいかないのだ。


 が……思い出す。そういえば、ラヴィーネが何やら不可思議な事をしていたような……。そう思ってラヴィーネに視線を向け、そして直ぐに逸らした。


 ……見てはいけないものを見てしまった。ノアの心境はそれだけだけである。何か見えてはいけない存在と会話している。普通に怖い。……置いていくべきだろうか?


 まあ、流石にそんな事はしない。だが、意を決して話しかけるべきだろう。ノアは少しばかり身を引きながらラヴィーネに話しかける。


「……あー、ラヴィーネ?」


「……ですよね。分かりま……んえ? どうしました?」


「いやどうしたも何も、終わったぞ?」


「……そうですか。終わってしまいましたか」


「残念そうに見えるが?」


「気のせいです。さあ、行きましょうか」


「……ああ、そうだな」


 ノアとラヴィーネの二人は再び歩き出す。今度はアクシデントもなく、静かに帰れそうだ。しばらく歩いた時、ラヴィーネが口を開いた。


「先程」


「ん?」


「先程、グレゴリーに銃を破壊されましたよね?」


「ああ、そうだな。何か気になる事があったのか?」


「はい。あんな銃を始めて見ました。虎の子と推測します。しかし、そんな虎の子が壊されたにしては……随分と冷静に見えるものでして」


「そういう事か。半分正解だよ。確かにあれは虎の子と言ってもいい。だが、あれはあくまで試作品なんだ。壊されたところで予備があるし、データ集めが目的だったから問題はない」


「試作品……あれがですか?」


「そうだとも。以前、師匠と作った物さ。我が師は元気にしてるかね……」


「……」


「どうした?」


「いえ、ご主人様の師ともなれば、どれ程の狂人かと気になったものでして」


「ああ、そういう事ね。狂ってるぜぇ? 正真正銘のマッドサイエンティストさ。仮にも弟子である俺をモルモットにしようとか企みやがるからな」


「……相当ですね」


「だろう?」


 ノアは自身の師を思い出していた。自分とは方向性が違うが、間違いなく狂人である。|マッドサイエンティスト《狂気の学者》の名に恥じない程度には、狂っているだろう。


 この世界は頭がおかしい連中が沢山いる。10年に一度は必ずと言っていいほど確実に、世界の常識をひっくり返すようなマッドサイエンティストが世間に出てくる。


 その多くは排斥されるが、やはりと言うべきか、地下に潜ったり、貴族や王家に取り入った者もいる。ノアの師もその一人なのだ。


「あの人は頭が良すぎて地下に潜るしかなかったんだよな~。あれらの発想はこの世界、この時代にゃ早すぎたんだ」


「それだけの人物と、一体どこで…?」


「……まあ、”運”……かねえ? あるいは仕組まれた偶然とでも言おうか」


 ノアは立ち止まり、空を見上げた。中々に綺麗な三日月である。しかし、ノアにはその三日月が、自分を含めたこのヴァナームの全てを嗤っているように見えていた。


 —―まるで、口が裂けたような、歪んだ笑みをそこに見出したのである。

      グレゴリー・ロドリゲス  男。23歳。5ft 160ld


魔技弾頭制作技術の復活、独占。また魔技弾頭による16件の殺人事件、及び

27人の死者によりグレゴリー・ロドリゲスを第2級黒魔導士に認定。


王家及びミズガール王国軍の威光においてこの者を全国指名手配する。拘束または

殺害した者に対し2万ドルの褒賞金が支払われる。



聖歴3209年8月21日

国王”フィリップ・ミズガール”及び王国軍中将”フレデリック・アッシュワース”


—―ミズガール王国王家発行『全国指名手配書』より



「いや、そんな事はどうだっていいんだ。目の前の狂人と比べれば、重要な事じゃない。」 某アトリーム語録より


更新速度が滞りまくっております。困った……。

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