終わった日常 壱
「失礼します」
職員室についた俺はそのまま中に入った……確か烏丸先生の机は右の奥だったはずだ、そちらに目を向けると同じく入ってきた俺を見つけた烏丸先生と目が合う、それから先生は席を立ち俺のもとに歩いてきた。
ただその様子からはあまり怒気は感じられない、考えすぎだったか?
「来ましたね、では違う部屋に移動しましょうか、今の時間だと、、、文芸部の部室が開いてるはずだから、そこで少しお話ししましょう」
……確かに顧問なのだから部活がやっているかどうかは把握しているのだろうけど、当たり前のように活動していない部活ってどうなのか?心の中の有紗に問いかける。
ふと前を歩く烏丸先生を見ると、姿勢をピンと伸ばした格好でリズムよく歩いている、背は流石に170㎝はないだろうけど、それ近くはありそうだ、ヒールも相まって女性の中ではかなり高い部類に思える……いや思わず見惚れそうになったけど、これからこの人に怒られるかもしれないんだ、心しておかないと。
「では入ってください、えーじゃあこちらの椅子にどうぞ」
「はいありがとうございます、失礼します」
平静を装ってはいるけど内心冷や汗で一杯だ、そんな様子が見え見えだったのか先生は少し笑いながら
「そこまで緊張しなくてもいいですよ……というか私ってやっぱりそんなに怖く見えますか?」
「いやぁまあそうですね、先週の有紗に対するあれなんて見ちゃうとどうしても……」
「あれは彼女が全面的に悪いので私は悪くありません、ただちょっと言いすぎたかもしれないね、最近は部活もやってなかったからあんまり顔を合わす機会もなかったし……彼女落ち込んでた?」
「いや、そんなに落ち込むようなやつじゃないんで大丈夫ですよ、事実今日だって……いやなんでもないですほんとに忘れてください」
あ、やば、察しのいい先生のことだから気付かれるかもしれん、南無三。
「……なんとなくわかってしまったのだけれど……まあいいでしょう、先週の鶴式さんに対して言い過ぎた謝罪として今回は見逃しましょう、ただ次は許さないからね?彼女にも通告しといて」
怖い怖い、今回助かったことは素直にラッキーだけど、油断も隙も無い、これから本題だというのに気を引き締めねば。
それから先生はプライベートな質問になるから嫌だったらちゃんとそう言ってと前置きした上で
「今回呼び出した理由だけど……嬉野君あなた今現在誰かとお付き合いしていますか?」
……え?俺が付き合っているかって、それを答えるのは構わないけどなんでそんなことをこの先生が?
「いえ特に付き合って居る人はいないですけど……」
「そうわかったわ、ちなみに夢ヶ島さんとはそういう関係になったりしないの?」
「は?夢ヶ島?いやそれこそありえないでしょう、あの夢ヶ島ですよ、どうやっても俺とは釣り合うと思えません」
「んーそれは賛否があるから何とも言えないけど……そうなのね関係は把握しました」
そんな先生の返答を聞いているうちに腹が立っている自分がいることに気が付いた、あまり要領を得ない会話を続ける烏丸先生に煮え切らない思いをしているし、いくら構わないといっても、自分のプライベート
を軽々しく話したくない気持ちだって存在するのは確かだ。
「というか何の話なんですか、まさか下世話な話をするためだけに呼び出したわけではないでしょう」
「あーそうね、ごめんなさい、本当に話していいかどうかちょっと悩んでいたの、でも決心がつきました」
そういうと先生は語りだす。
「彼女……夢ヶ島陽彩さんのことなんだけど、彼女昔からいろんな人に付き纏われて悩んでいるのよ、あの彼女の見た目に不埒なことを考えている輩っていうのはどこにもいてね……大抵は手を出されたりすることは無いし、最悪警察に相談すると諦めるっていうのが今までだったらしいんだけど……実は彼女それが原因で中学校から高校に上がるときに住んでいるところから引っ越してこの学校にまで来たの」
ただね、と先生は続ける
「その時引っ越しする原因となったのが同じ中学校の同級生で、かなりしつこく彼女に付き纏っていたみたいなの、ただ表向きはただの同じクラスメイトだし、周りも軽く注意するぐらいしかできなかったらしいの……そういう経緯があってね、彼から逃げるようにこちらへ来たの」
……衝撃的な事実が多すぎてかなり頭が混乱している、いやまああの見た目なら少しぐらいそういうことはあるだろうとか適当に思っていた部分はあったけど、まさかそこまでのものだったとは……
ただ待てよその話を何故俺にした?こんな重要な話をしているのだから当然何か意図があってのことだろう。
「嬉野君の考えている通り、もちろんお話ししたからには頼みたいことがあります、それは彼女を守る手伝いをしてほしいのです」
……そんなことではないかと薄々感じてはいた、一介の高校生でしかない俺に何ができるのかという思いはあったが、まあ頼られて悪い気はしない、ただそれとは別にしてどうしても納得できない部分はある。
「一応先生が言いたいことはわかりました、まだいろいろと整理できていない部分はありますが……特に、何故今俺を頼ろうとしているのか、それとそれを引き受けてしまうと俺の身がかなり危険になるのではないですか?流石にそこまでのリスクを負う気はないのですが」
「それは勿論承知しています、危険が全くないと言えば嘘になりますので躊躇する気持ちはわかります、いまここで返事をしてくれとは言いません、考えてはもらえませんか?」
「考慮はしますけど……そもそもなぜ俺なのですか?正直に言って選ばれる理由が全く思い当たりません」
「あーそうね、確かにそう思うのも無理ないか……一応理由はあるんだけどね、それを私の口から言うのは……ごめんね嬉野君、ここから先は今は言えません」
「……そこがわからないと引き受ける気にはならないのですけど」
少し不信感を抱きながらそう返す。
「なので夢ヶ島さんと二人でお話ししてもらってもいいかな?彼女にも言いたいことがあると思うし、嬉野君だって直接聞いたほうが納得できるでしょう?……入って来ていいわよ」
「失礼します」
先生が呼びかけると、いつから待機していたのか夢ヶ島が部屋の中に入ってきた。
どうも、ロースです。
お読みいただいてありがとうございます、後最初にお詫びを、六時までの投稿に間に合いませんでした、申し訳ございません、その分と言ってはなんですがいつもより文字数は多めなので、楽しんでもらえれば幸いです。
もうほぼこの小説の主題にかかってきているので、タイトルで期待して読んでくださっている人はもう少しだけ辛抱ください、出来る限り早く投稿したい思います、話が分かりにくい箇所がもしあれば感想などでご指摘くださいよろしくお願いします。