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2040  作者: みしま
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第二話 父と子

「エイト、10年ぶりだな。今はもう26才か。」


 豊かな毛髪、真っ白で濃い髭、どこをどう見ても父の姿だ。変わったことと言えば、シワが深くなり、黒い毛も交じっていた髭が真っ白になっていたことくらいだ。


「お父さん、、、」


 エイトはホログラムに話しかけた。


「先に行っておくが、、、このホログラムは旧式だからそちらからの声は、こちらには届かない。」


 エイトのリアクションを予想したかのように父は付け加えた。その先読みの鋭さに、エイトは10年前の父のことを鮮明に思い出した。ホログラムの父はエイトの戸惑いや、思考の整理に要する時間を考慮しているかのように、たっぷりの間をとって話を続けた。


「まずはこのような形での再会となったこと、本当に申し訳なく思う。そしてもう1つ、これからのこと、お前のミライのことも、先に謝らせてもらう、、、、、、本当にすまない。」


 そう言う父は昔と同じ、優しい目でエイトを見つめた。そのまなざしにエイトはこみ上げる涙が抑えられなかった。その様子を見ているかのように、父は更に優しいまなざしで話を続けた。


「本来であれば、お前の意思で、どちらの道に進むのかを選んでもらうべきところだが、、、」


 そう前置きをすると、それまでの優しい表情からは一変し、厳しく哀しそうな、そして何か差し迫ったような表情になった。それほどまでに真剣な表情の父を見るのは初めてだった。


「今から言う場所にお前ひとりで来てくれ。

『大阪府吹田市山手南18』

今から3時間後だ。」


 3時間後?今からだと愛媛から大阪まで移動する手段は限られている。何より明日も決断代行屋の仕事があった。しかもミトでは少し荷が重い相手だった。どうしようかと悩むエイトを見透かすように父は続けた。


「大丈夫だ、仕事はミトに全て任せれば良い。お前が思う以上にミトは成長している。」


 まるで近くでミトの様子を見てきたかのように話す父に違和感を覚えた。そもそもこの奇妙なデバイスがどうやって自分の部屋に運び込まれたのか、何より死んだはずの父が、10年を経た姿で目の前に映し出されていること、その全てが違和感だらけだった。混乱するエイトの様子を見ているかのように父は続けた。


「詳しい話は3時間後にする。ミトは俺のことは知らない。だが、母さんは俺のことも知っている。安心しろ、あとのことは母さんがうまくやってくれる。」


 完全に父のペースだ。だが、母親が共犯ということでエイトは色々なことに合点がいった。先ほどの母アイミの様子、父がミトのことを知っていること、奇妙なデバイスが自分の部屋にあること。だが、最大の謎である、なぜ父が生きていたのか、ということはわからないままだった。


「とにかく、今は考えるな、動け。3時間後、待ってるぞ。移動手段はこちらで用意してある。今から二宮神社の境内に向かいなさい。」


 そう言うとホログラムの映像は名残なく、あっさりと消えてしまった。頭の中はぐちゃぐちゃだった。10年ぶりの父の姿、何より父が生きていたこと、それを母も知っていたこと、突然の指示、、、先ほどまでの穏やかな時間が嘘のような急展開に、気持ちは全くついていけなかった。どうして自分のことや家族のことは第七感で見えないのか、恨めしい限りだった。それでも一つだけはっきりしていたことがあった。心から尊敬していた父が生きていて、その父が切迫した表情で、自分の何かを必要としている、何よりも父に会いたい、その気持ちが膨れ上がっているということだ。


 パンパンッ!


 エイトは自分の頬を力強く両手で叩いた。悩んでいても仕方がない。気持ちを強引に切り替え、手早く外出用の服に着替えた。何を持っていくか悩んだが、取り急ぎ最低限の指輪型の通信デバイスだけで行くことにした。それさえあれば電子決済で何でも買えるし、何でも調べることも出来るし十分だと思った。ふとデスクの奇妙なデバイスに目が奪われた。まだ父の温かみが残っているような気がしてならなかった。気づけばエイトはそれを手にとっていた。


「これも持っていくか、、、」


 そう言いながら部屋を出たエイトは持っていたデバイスを空に放り投げるほど、両手を振り上げて驚いた。


 目の前に母アイミが立っていたからだ。


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